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性的な目で見られた時だけ相手の心の声が聞こえる私は、社内でストイックだと人気の後輩に今日も脳内で好き勝手××されています。

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沢渡さわたり先輩、データ送っときました」

 クールでストイックでイケメン。
 今、私の目の前に居るこの男の事を、社内ではみんな口を揃えてそう言う。

「ありがとう」
「……他、なんかあれば手伝いますけど」
「あとはもうこれで終わりだから大丈夫だよ。ありがと」

 私はモニターに視線を戻して、キーボードを叩く。うす、と自分のデスクに戻って行った彼をチラッと視界に入れて、ふぅっとため息をつく。

「はぁ~……久我くが君、ホントかっこいいよね」
「………………」

 隣の席の同僚、由香が椅子を寄せて小声で話しかけてきた。

 久我くが和明かずあき
 一昨年、大学を卒業し、新卒で入社したイケメン。
 社内では彼を狙っている女の子が多く、これまで社内外問わず、何度か彼にアタックをしている女性社員を見てきた。が、全員、ことごとく散っていた。
 背が小さくロリ顔で社内一可愛いと言われている、あの木崎さんですら彼のハートを射止めることは出来ず、無残に敗北する姿を目の当たりにした同部署一同は、ある一つの可能性を考えた。

 どんなタイプの女にアタックされようとも、全く靡かない久我君は──もしかして、ゲイなのではないか?──と。

「あ~~、でも惜しいなぁ。ゲイじゃなかったら一回くらい」
「……久我くんはゲイじゃないと思いますよ」

 久我と、ワンチャンだかワンナイトだかを狙っているらしい由香。彼女のボヤキを聞きながら、その噂がさも本当の事かのように話す彼女に、愛想笑いをしながら一応否定してあげておく。

「え~~、なんでよ?だって彼女の影も全然ないし……。不能でもない限り、マジでゲイ以外考えられないんだけど」
「…………」

 そんな事はない。
 彼は、不能でも、ましてやゲイでもない。
 久我は、あの男は……あの顔とクールな態度で、社内で多くの人からストイックな人間だと思われているが。

 芽衣はスッとディスプレイの隙間から、少し離れた彼の席、書類を片手にキーボードを打っている久我を見る。

《あ──、やっぱ乳デケェよな。誘ってんのかあのエロ女》

「…………」

 あいつの内心は、大体いっっっつもこんな感じだ!!
 ムッツリなんだ!しかも、ちょっと上から目線でかなりS気味というか……

《乳首もデカイのかな》

「…………ッ」

(っっ本当、最低!!!)

 全然ストイックでクールなんかじゃないから!あの男!!
 脳内、めちゃくちゃ!下品だから!!!

 芽衣は、脳内に直接流れ込んでくるこの下品な言葉に反応しないよう、カタカタとキーボードを叩きながら、由香の話も右から左へ聞き流していた。



   ◇ ◇ ◇



 あれは、もう何年も前。
 私がまだ多感な学生の時の事だ。

《うわ、スカートパンツに食い込んでる!》

 !?

 私、沢渡さわたり芽衣めいは学校からの帰り道に、突然、頭に響くような男の声を聞いた。
 振り返って後ろを確認すると、私のスカートの裾はパンツに引っかかっていて、お尻がむき出しの状態になっていた。

 傍にいた男が、ふっと顔を逸らしてそそくさと去って行く。

「…………っ」

 初めは訳が分からなかったが、そんな事が何度か続き、おそらくあの時の言葉は、近くを通り過ぎて行ったあの男の声だったんだと理解した。



────そう、

 私は何故か突然、自分が性的に見られている時にだけ、その相手の心の声が聞こえるようになっていたのだ。



   ◇ ◇ ◇



 初めてこの体質を理解してから、受け入れるまで、実は結構な時間が掛かった。なんせ思春期、多感な時期だ。しかし、それも何年か経てば自然と慣れてきて……今では完全に順応している。我ながら、なかなか図太い性格をしていて助かったと思う。

「先輩」
《あ、リップ塗ってる》

 昼休み明け。デスクに戻る途中、久我に呼び止められた。

《咥えさせて、奥まで押し込んで飲ませてぇな》

「……なに?」
(ナニを?)

 このクールな表情からは想像できない程の、ドゲスな言葉を脳に直接浴びせかけられながらも、平然を装って対応する。

「明日の飲み、19時半からに変更だそうです。」
《顔射でもいいな》

「そう、分かった。ありがとう」
(ふざけんなバカ)

「俺車なんで、よかったら送りますよ」
《カーセックス》

「由香と一緒に行くから大丈夫だよ、ありがと」
(うるせぇ)

「そすか、分かりました」
《助手席に乗せて座席倒して、ネクタイで両手まとめて縛って、後部座席に固定して、赤信号で止まるたびに手マンでイカせて……》

(長…………ッ運転中は危ないだろうが!絶対にやめろ!)

 スッと何食わぬ顔で自分のデスクに戻っていった久我。しかし、彼の脳内では、今も尚あられもない姿の芽衣が手酷い仕打ちを受け、喘がされている。

 背もたれが倒された助手席で、ネクタイで縛られて両手の自由の利かない芽衣のシャツをたくし上げ、淫猥な笑みを浮かべている久我。曝されている芽衣のむっちりとした乳房を、左手で撫でるようにまさぐられ、たまに強弱をつけて先端の実を指の間に挟むようにして握られる。

『ここ触られただけで、だらだらに濡らしてんじゃねぇよ』
『んや、やだ……っンあっ』
『……チッ、シートに染み出来てんじゃん』
『んぁっ、だって……』
『あぁ、もうベトベト……後で舐めて綺麗にしろよ』

 車を停めた久我が身を乗り出し、シートを汚した愛液が溢れる芽衣の蜜壷へ、中指と人差し指を重ねて差し込む。ぐぷっと音を立てて久我の指を飲み込んだ芽衣のそこは、すでにぐずぐずになっており中で指が動かされるび、グチュグチュと卑猥な音が車内に響く。

『んぁっ、やっあぁっ、んっ、あ』
『また溢れてきたぞ』
『っふ、あっあん……あぁっ』
『ッハ、喜んでんじゃねぇか、変態。』


「…………」

 彼の脳内は、今日も絶好調だ。

 前までは言葉だけだったのに、最近では彼の脳内で作られたイメージまで流れ込んでくるようになった。それも割と鮮明に。

(変態はお前だ!)

 芽衣は作成していた資料の最後の一文を打ち終えると、中指で力強くENTERを叩いた。






────ある日は、仕事中にバックでガン掘りされ。


『……あっ、だ、だめっ』
『っは、何がダメ?ここ、ぐちゃぐちゃいってるけど?』
『う、んっん』

 資料室の奥。部長に頼まれた資料を取るため、上段へと手を伸ばしていた芽衣は、いつの間にか室内に入ってきていた久我に、後ろから羽交い締めにされている。たくし上げられたスカートを「自分で持ってろ」と命令され、乱暴に下げられたストッキングと下着のせいで、久我の腰の動きに合せて体を揺さぶられている芽衣は、足がもつれそうになるのを資料棚に額をつけて支え、小さく喘いで堪えている。やがて、腰を掴んでいた久我の手が、芽衣の体を這うように上がってきた。

『乳首もこんな尖ってる』
『イッ……んっうぅっ』

 シャツの中に手を潜り込ませた久我に、ブラを上部にずらされる。乳房を持ち上げるようにやわやわと揉まれた後、指先で硬くなった乳首を転がされる。

『ほら、我慢しないと狭間部長に渡す資料、全部べたべたになっちゃうよ』
『っやぁ……ぁんんーっ!』

 床に置かれた資料を跨ぐように立たされ、パチュンパチュンと水音を立てながら腰を打ち付けられて、抑えきれなくなった芽衣が声を上げる。すぐさま後ろから回された久我に手で口を塞がれ、芽衣の艶声はくぐもった声に変わる。

『もうちょっと声抑えないと、誰か様子見に来ちゃうかもね』
『ふ、……んっ、んぁっんんっ』
『ふはっ、中締まった。誰かに見られるの、想像しちゃった?』

 芽衣の左耳の傍で、久我の笑った声が聞こえ、ビクリと体を揺らす。

『あっ……も、もうっ、やめ』
『中に出してくださいって、言ったらッやめてあげる』
『……っ』

 そんなこと言いたくない、と目をぎゅっと瞑って首を振る芽衣。久我はゆっくりと愛液をまとわせた熱棒をギリギリまで引き抜くと、バチュンッと音がなるほど一気に芽衣の最奥まで打ち込む。ガツガツともっともっと奥へと押し込むような抽挿を繰り返しながら、久我は笑って問いかけてくる。

『ッやめたく、ないの?ずっとッ俺に、こうやってっ突かれてたい?』
『あっ、んっあっく、……ッな、中に──……』



「あ、ありましたね資料」
「……うん」
「じゃ、戻りましょう」
「………………うん」

 芽衣は手に持った書類を抱え、涼しい顔をして資料室を出る久我の後ろをついて資料室を後にした。






────またある日は、会議中に手マンで限界まで焦らされ。


 グチュグチュと、小さく卑猥な音が閉ざされた室内に響いた。

『オイ、誰だぁガム噛んでる奴』
『……っ』

 電気を消され、暗くなった会議室。前方にあるスクリーンに映し出された映像を見ながら行われている企画会議。このプロジェクトのメンバーとして、久我と芽衣は一番後ろの席に並んで座っている。

『沢渡さん、大丈夫か?なんか体調悪そうに見えるけど』
『……っは、いえ……大丈夫です。すみません』
『そうか。無理はするなよ』
『……っは、い』

 心配してくれた部長に申し訳ない、と芽衣はニコリと笑って答えた後、すぐ手元の資料に目を落とす。

『はぁ、すんごいドロドロ。床まで垂れてるんじゃない?』
『…………ッ』

 すぐ隣に座っている久我が、資料を覗き込むふりをして顔を近づけて囁く。彼の手は芽衣のスカートの中に入れられており、ショーツの隙間から濡れそぼった肉壷に、久我の指が挿入されている。会議が始まってから、部長が新商品についての説明をしてくれている間中ずっと、うにうにと内壁を押すように擦りつけられたり、指を増やされ膣内で開いたり閉じたり、と悪戯をされ続けていた。

『あ──もう指ふやけちゃった』

 ジュボッと指を抜き出した久我は、どろどろの愛液をまとわせたそれを、資料を指すふりをして芽衣の目の前に見せつけた。

『口、開けて』
『く、久我くん……も、う……ッ」
『早く舐めて綺麗にしてほしいんだけど』

 決定的な刺激をわざと与えられないまま、時間をかけて焦らされて蕩けた芽衣の秘部から、こぷ……とさらに愛液が溢れたのを感じる。

『……ん、ぅ』
『はは、エロ……こんな場所で後輩の指そんな風に咥えて、恥ずかしくないの?』

 口元が見られないように資料で隠しながら、自分が濡らしてしまった指に舌を這わせて咥え込む芽衣を見て、久我は厭らしく笑って嘲弄した。



「お疲れ様ー」
「お疲れー」

 次々と会議室を後にする社員の中、芽衣のすぐ隣で座っていた久我も立ち上がり、退席するのを確認する。

「…………っく」

 今回のはちょっと、久我の攻め口調に刺さるものがあった芽衣は、悔しさでグッと拳を握り締めた。






────そして、今日は。


『うっ、ンンッアッ』
『あぁ、ホラ。もっと奥まで咥えて』
『んんんっごっ』

 今、久我の脳内では、頭を掴まれた芽衣が欲望のままに腰を動かされ、喉奥にそり立った奴の熱棒を何度も押し付けられている。

『あ──……気持ちい』
『んんっ、っは、んっ』


 昼休み。急に天ぷらが食べたくなった芽衣は、会社を出て近くの大衆食堂へと向かった。注文した天ぷらうどんが届き、いただきますと手を合わせる。パキッと綺麗に割れた割り箸を開き、丼からあふれ出そうなほど大きな海老天を食べようと口を開いたその時、丁度店内に入ってきた久我と目が合った。無言でこちらを凝視され、案の定、脳内でフェラをさせられ、喉奥まで突っ込まれてる凶悪なイメージを流し込まれた。

「…………」
「先輩も今日はここだったんですね」
「……うん。急に天ぷらが食べたくなって」

 脳内でドキツイ陵辱物語を展開しておきながら、久我は涼しい顔で話しかけてくる。丁度昼時という事もあり、店内はお客でいっぱいであったため、流れるように久我と相席にさせられてしまった。目の前に座りながら、メニューを見ている久我。サッと手をあげ注文をしているが、その間もヤツの脳内で私は3回イかされている。届いた肉うどんを啜りながらも、脳内で私をさらなる高みへと導いてくれている久我。
 ふざけんなよ、お前のせいで食欲が失せるだろ!

 今までなら、ここでただ黙って耐えていた。
 泣き寝入りしていた。
 だが、しかし! 

 今日の私は違う!

 ズズッとうどんをすすり、丼の残りを一気に胃に流し込む。

《すげぇ……俺にもこんな風にバキュームフェラしてくんねぇかな》

 途中、ブフォッと吹き出してしまいそうになるのを堪え、なんとか完食した芽衣は、席を立ってレジの近くへと向かう。

「……?」
「おばちゃん~!これ一つください!」
「はいよーっ」

 レジ横にあるアイスボックスの中から、昔懐かしの真ん中で半分に折れる、ポッキンアイス手に取った芽衣。

《は?なんであえてソレ選ぶ?やっぱ誘ってんのか?》
(誘ってねーよ!)

 脳内に直接問い掛けてきた久我に、同じく脳内で激しく否定する。本人には届かないのだが……。
 おばちゃんからお釣りを受け取った芽衣は、さっと久我が座っている席へ戻る。

「あ、よかった。久我くんも、もうご飯食べ終わったんだね」
「え、……はい」

 アイスを買いに行っている間に完食していた久我の前で、アイスの棒を指先を意識して優しく握る。

「……」

 そして、ぎゅっと思い切り力を込めて、ボキッ!と二つに割ってやった。

「はいっ」
「!……ッンぐ」

 二つになったアイスの片割れを、有無を言わさず久我の口にねじ込む。

「懐かしくてつい買っちゃった、半分あげるね」
「………」

 ポッキンアイスを咥えながら、呆然とこちらを見ていた久我を置いて、先に店を出た。そういえばその間、不思議と奴の妄想は見えなかった。




   ◇ ◇ ◇




 夜、予定されていた同部署メンバーでの飲み会が行われた。

「お~~飲んでるか~~?沢渡~~」
「飲んでますよ……もう」

 顔を真っ赤にして肩に手を回して絡んでくる先輩を、やんわりと押し返しながらデザートのバニラアイスを頂く。すると、トンッと背中が何かにぶつかった。

「……!」
「あ、すんません」

 おそらく、お手洗いにでも行くつもりで席を立ったのだろう。芽衣の後ろにある引き戸に手をかけている久我と目が合った。

《……唇の端、白いの垂れてる。クソエロ……、あ──今突っ込んだら口の中冷えてそう》

「…………。」

 聞こえてきた久我の心の声。
 ススス、と控えめな音を立て引き戸を閉めて出ていった久我。奴が遠ざかれば、自然とあの下品な声も聞こえなくなる。

 もうやだ!!何で私だけ毎日、こんな恥辱を受けなきゃいけないんだ!!なんでこんな卑猥な心の声だけ聞こえるんだ!!どうせなら思いのまま、心の声が聞こえる範囲が操れればよかった!!そうしたら、なんか上手いこと利用して生きれたかもしれないのに!発情してる男の心の声だけ聞こえたって、しょうがないじゃん!

「んも──ッ!」
「うわっどうしたどうした?沢渡荒れてんのかぁ?まぁ飲め飲め~~!」

 隣に座っている、完全に出来上がっている先輩に勧められるまま、芽衣は酒を煽った。




   ◇ ◇ ◇




「じゃあ悪いけど久我君、沢渡ちゃんよろしくね」
「はい、大丈夫です」


 飲み会もお開きになり、皆各々帰路へとつく中、芽衣は勧められるままアルコールを大量に摂取し、べろべろに酔っぱらっていた。芽衣はこれまでの飲酒は自分自身でセーブできていたのだが、最近の久我の妄想に、思わぬ興味と意識を持っていかれている自分が許せなくて、胸の奥でムカムカした気持ちと、もう何もかも忘れたい気持ちが溢れ出た末、セーブができず今このような現状になっていた。
 ふらふらとした足取りで店の玄関まで歩いていると、ふっと横から現れた久我に腕を掴まれ支えられた。

「先輩、今日は沢山飲んでましたね」
「……ック……でない」
「んん?」

 しゃっくりを上げながら、飲んでない、と否定したものの、その怪しい足取りと回っていない呂律が、すべてを物語っている。

「あちゃ~~沢渡ちゃんこんな酔ってんの久しぶりだな」
「……そーなんですか?」

 後ろからひょこっと現れた部長が、へろへろの芽衣を見て珍しそうに声をあげた。久我が部長と向き合って何かを話しているが、ふわふわとしてきた頭では、あまりうまく思考を処理できなくなった芽衣は、その重く感じてきた頭を腕を持って支えてくれている久我に預けた。

「…………」
「はは、こりゃだめだな。久我君、沢渡ちゃんと家の方向近かったよね?よかったら送ってやってくんない?」
「……いいすけど」

 久我の腕に頭を預けている芽衣は、瞼を下ろし、もう今すぐにでも寝落ちてしまいそうだ。

「久我君どんな女の子にも興味なさそうだし、君になら安心してうちのかわいい沢渡ちゃん預けられるわ」
「……なんすか、ソレ」

 わっはは、と上機嫌に笑いながらそう言った部長の一言で、芽衣は自宅へと送ってもらうため、今まさに久我の車に乗せらたところである。

「ちょっと失礼しますね」
「…………」

 久我が覆いかぶさるように窓側にあるシートベルトを掴み、引き伸ばしてカチャッとしめてくれた。

「う」
「吐かないでくださいね」
「……かない」

 その時ふわりと漂ってきた久我の匂いに、思わず声を漏らしてしまったのだが、どうやら久我にはシートベルトの圧迫で声が出たのだと思われたらしい。
 エンジンがかけられ、ミラーを確認した久我は、車を発進させる。中央にあるボタンをカチカチっと押す久我の中指を見ながら、芽衣は脳内に流れ込んでくるいつものドキツイ陵辱映像に、ボンヤリと意識を向けた。


 チャンネルが変わり、車内に流れ始めたのは深夜のラジオ。
 そのパーソナリティの声を聴きながら、赤信号で止まるたびに濡れて蕩けた芽衣の蜜壷に指を入れる久我。

『っは……相変わらずすぐ濡れるな』
『……んっや』
『嫌じゃねぇだろ』

 グチュグチュと音を立てながら指を出し入れされ、芽衣は両手で口を塞ぐ。


 こいつの脳内は自動AV生成機か?
 よくもまぁ毎日毎日色んなパターンで私を犯す妄想が繰り広げられるな……。今の会社より、AV業界行った方がよくない?

「……なに?」
「……んーん」
「っはは、まだ酔ってんの?かわいい」

 どんな顔してこんな妄想をしてるんだ、と顔を向ければ、いつもの涼しい顔をした久我に「かわいい」と言われ、ドクンと胸が高鳴った。

 かわいい……なんて、そんな事、普通に言われたことなかった。
 いつも脳内ですぐ、ぐちゃぐちゃにしてやるとか、卑猥に罵りながら気持ちいいことばっかりしようとしてくるから……。


 大通りを抜け、芽衣が住むマンションが見えてきた。車を停めた久我が「着きましたよ」と芽衣に呼び掛ける。未だ酒が抜けず、トロンとした様子の芽衣を見てははっと笑った久我は、車をおりて外から助手席の扉を開ける。

「沢渡さん、酔っちゃうといつもと結構違うね」

 シートベルトを外した久我が、芽衣の手を自分の首に回させる。身を引いた彼の力に導かれるように車から降りた芽衣は、久我に寄り添われながらエレベーターに乗り込む。

「何階?」
「……ろっかい」

 芽衣の代わりにボタンを押してくれた久我。どうやら彼はこのまま部屋まで送ってくれるようだ。

 ……いや、ちょっと、これはまずくないか……?

 今更ながら、徐々に芽衣の頭が覚めてくる。
 日ごろ、毎日、どこにいても、四六時中、頭の中で自分を好き勝手に犯している男に腰を支えられながら、自宅へと向かっている。
 考えられる様々なパターンは、今自動的に脳内に送り込まれている。この男、こんなにかっこいい爽やか顔をキメておきながら、脳内は酷く爛れている。車内で3回。エレベーターで2回。階段を使ったパターンで3回。何の回数かは、もう言わなくても分かっているだろう。

 そして、この後受信するだろうイメージはおそらく……うう……

 そんな苦悩など知るはずもなく、二人はあっという間に芽衣の部屋の前にたどり着いてしまった。もたもたとした動作で鍵を取り出し、ガチャリと開錠する。
 扉を開けた瞬間、横にいる久我がゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。

 ひ……っ。

「はぁ……沢渡さん、靴脱げる?」
「……?」

 玄関に入ってすぐ、サッと足元に屈んだ久我は、私の手を取って自分の肩を掴ませた。目の前でしゃがんで、靴を脱がしてくれる久我のつむじを、じっと上から眺める。

 ……あれ?急に心の声が聞こえなくなった。

《手コキ……じゃなくて、上着だけ脱がしてから、ベッドに寝かして──……あ──そのままショーツずり下ろして突っ込んでガンガンに突きてぇ》

 あ、聞こえた。

 なんだろう。今一瞬、いつものこの下品な声が聞こえない事に、逆に不安を感じてしまった。

《酔ってるし、今ヤッても明日には忘れてたりしねーかな》

 忘れないわ。かなりデカめに容量とって脳に刻み込まれるわ。犯罪だわ。

《──まぁ、でもこんな簡単に家にいれるなんて、全然意識されてねぇな……好きなのは俺だけかよ》

「えっ」
「……ン?」

 思わず声が出た。

 す、好き?今、好きって言った?
 久我、私の事……好きだったの?
 ただの性欲の捌け口として妄想されてただけじゃなくて?

「沢渡さん?」
「…………ッ」

《はぁ、何その顔。酒で火照ってるからか。目ぇトロンとしてる……芽衣かわいい。ぐちゃぐちゃにしたい、泣かしたい。抱きしめたい。》

 な、なんで名前……ッ

 ジワジワと顔に熱が灯って熱いのは、お酒のせいだけじゃない。

「……沢渡さん」
「わッ」
「⁉……痛ッ」

 久我に名前を呼ばれ、ビクッと体が反応してしまった。その勢いで、足がもつれ、そのまま久我を下敷きにして倒れ込む。支えようと手を伸ばしてくれていたらしい久我は、ゴンッと音を立てて後頭部を床に打ち付けた。

「ンむ……」
「あっ」

 芽衣の胸が、ちょうど久我の顔に圧し掛かって押し潰している。

「…………っ!」

 再びビクンッと芽衣は体を揺らした。
 脳内に、同時に3通りの犯され方が流れ込んできたからだ。

 この状態で強引にストッキングを破かれ、ショーツをずらしてガツガツと突き上げるように腰を振る久我。
 両腕で体をガッと掴んで反転させられて、膝が頭の横につくくらいに折り曲げられて、挿入部分を見せつけるように上から熱棒を打ち込む久我。
 腕を引かれて壁を背に立たされ、片足を持ち上げられながら、壁に押し付けるようにして自らの熱も埋め込む久我。

 こ……こいつ、脳内の処理能力どうなって……。

「んっ………」

 胸に押し潰されている久我の顔。呼吸をするために開いた口から、彼の息の温かさがシャツを通して伝わってくる。思わず声を漏らして身じろぐ。

「……っは」
「!」

 途端、ガシッと久我の両手で腰を掴まれた。

(やばい!今流れ込んできたどれかの体位で犯される!)

 反射的にそう思って固まった芽衣。しかし、久我は大きな手で優しく芽衣を押し上げると、自らの体勢も整えながら向き合う形で座らせた。

「ふっ沢渡さん、酔いすぎ。」
「……?」
「危ないんで、早くベッド行って寝た方がいいすよ」

 …………なんで?

 今、彼の脳内では、服を破る勢いで身にまとうものを中途半端に奪われた芽衣が、鷲掴まれた胸を久我の力のまま好きに動かされ、甘い鳴き声をあげている。いつの間にか蕩けきった秘部には、熱く反り立った久我の男根が埋められ、もうドロドロになったそこをガンガン突っ込んで攻める映像が流れている。
 でも、現実の久我は、それを微塵も感じさせない紳士な態度をとってる。


 こんなんだから皆、久我の事をストイックでかっこいいって言うんだ。


「久我くんは、私の事……好きなの?」
「え……?」

 心の声が、ピタリとやんだ。
 俯きながら言った芽衣が顔を上げると、こちらを見て固まっている久我の顔。

「なんで……」
「……なんとなく」

 どこか、ショックを受けているような、信じられないと言ったような、動揺している表情をしている久我に、芽衣は胸の奥が疼いた。

(いつも涼しい顔で、脳内で人を好き勝手陵辱してるくせに。)

「沢渡さ……んッ」
「……っは、……ン」

 気付いたら、久我の両肩に手を置き、唇を押し付けていた。
 目を見開いて驚いた表情をしている久我を見て、気分がよくなったんだと思う。唇を薄く開いて、角度を変えてもう少し強く押し付ければ、口内にぬるりとした熱い舌を差し込まれた。

「んっ……っはぁ、ん」
「っはぁ……沢渡さん」

 ぴちゃ、と二人の間から漏れる水音が、静かな室内に響く。服の上から、そっと這わされた久我の手が、芽衣の胸をやわやわと揉む。

「ンッ……」

 体が、熱い。

 きっとこれは、お酒のせいだ。






   ◇ ◇ ◇






 ギシギシ、とベッドの軋む音とシーツの擦れる音と共に、互いの荒い呼吸が室内に響いている。

「はぁ……っ、知らなかった。」
《中キッツ……、すげぇぎゅうぎゅう締め付けてくる》

「あっ、……んんっな、なに」

「沢渡さん、しっかりして見えるのに、こんな風にッ誰とでも寝る人だったんだ」
《久しぶり、なのか?》

「んっ……ち、違う」

 指で慣らされた後、先走りで先端が濡れている久我の熱棒を秘部にあてがわれ、そのままヌプッとゆっくりと挿入されている。ミチミチと奥へと入り込んでくる感覚に、芽衣は背中を反らせて甘い吐息を漏らす。





 玄関先でどれくらい貪り合ったのだろう。息を吸いこむため唇を離した芽衣を見上げた久我は、少し頬を赤くさせて苦しそうに眉間にしわを寄せていた。イラついたような、余裕がないような様子の久我に抱きかかえられ、ベッドまで移動した。

 あ……下着干したままだ。

 荒々しい脳内とは対照的に、優しくベッドに降ろされた芽衣は、部屋の端に昨日干した洗濯物がある事を思い出した。

「なに考えてるの?」
「…………下着、干したまんまだって」
「……ふ、」

 芽衣の上に跨った久我は、脱いだシャツを雑に床に放りながら、問い掛けてきた。思ってたことをそのまま口にしてしまい、言った後にハッとした芽衣の表情を見て、久我は艶っぽく笑った。






「んっ……あっ、んんっ」
「俺、ちょっとショックです」

 挿れたばかりで、まだ馴染んでいない芽衣の膣内を押し広げるように、ゆっくりとしたストロークで久我が腰を振る。

「でも、これからは」
《他の奴となんて気が起きないほどッ》

「ンッ、あぁっ……」

「俺だけ見ててっ貰えるように……ック」
《足腰立たなくして》

 芽衣の頭の両サイドに手をついた久我は、まるで己の熱い男棒の形を教え込むように、さっきよりも強い力で深く腰を打ち付ける。

「頑張りッますね」
《抱き潰してやるッ》

「……~~ッ」

 パチュンッパチュンと音が鳴り始め、久我の男棒が奥へと押し込まれるたび、芽衣の口からは自分の声とは思えない、艶声が漏れ出る。

 そ、外面と中身が違いすぎる……!!!

 でも、それは言葉だけじゃなくて。
 脳内には、いつも通り酷い言葉を浴びせられながら、えげつない腰の動きで芽衣を高め、貪るイメージが流れ込んできている。
 だが実際の久我は、芽衣の反応を見て「大丈夫?痛くない?」「気持ちいい?」と探りながら、一つ一つ確認するように優しく問い掛けてくる。
 脳内では変態的に芽衣を虐めながら、現実はかなり気遣った久我の態度に、頭が混乱する。

 なに、この感覚……!

「はぁ……ッ沢渡さんここ、気持ちいいんだ」
「んっ……ぁあ!」

 何度も繰り返された抽挿で、芽衣が感じる場所を見つけた久我が、ズンッと強い力でそこを狙って腰を打つ。

《うわ……入れた瞬間、ぐぽって溢れた》

「ひっ、んっんぁ……あっ」
「…………っは」

《めちゃくちゃ濡れてすげぇ気持ちよさそうだし……淫乱かよ》

「ち、違……っ」
「えぇ……?っでも、気持ちっ良さそうッだけど?」

 トントン、と先ほどの場所を弱い力でゆるやかに突かれる。

「はぁっ……んっ、ん、そこっ」

《えっろ……あ──中に出してぇ》

「あっ、あ……中、だ……ダメっ」
「ん?……ッここ?」

 久我の心の声が聞こえている芽衣は、中出しはだめと声をあげる。だが、それが彼に伝わるはずもなく、久我は芽衣が感じる場所を何度も、今度はブチュブチュと結合部から愛液を溢れ出させる速度で打ち続ける。

「うあっ……んっんぁっ」 

 ビクビクッと胎内を震わせながら、自分の中を支配している久我の熱棒を締め付ける。

「っはぁ、イッたんだ……沢渡さん、かわいい」
《あ──俺も出そう》

「イ、イク……なら、外に……ッ」
「……!」

 芽衣の声を聞いた久我は、のしっと、互いの胸をピタリと密着させるように覆いかぶさってきた。顔の横に両肘をついて、まるで頭全部を抱えるような体勢で唇が触れそうな程、顔を近づけられる。

「大丈夫、ちゃんとゴムつけてるから」
「……ッ」

《だから一番奥で出してやる》

「……ッふ、あぁっ……んあぁっんんっ」

 その体勢のまま、短いストロークでガツガツと揺さぶるように腰を振られ、我慢できない声が漏れ、口を塞がれた。入れられた舌で上顎をチロチロと弄られ、くすぐったさと気持ちよさでおかしくなりそうだ。久我のリズムに合わせて、ベッドも悲鳴を上げているかのように軋む音を出す。

《……っはぁ、すっげぇ気持ちい》

「んっ、んんっ、むっん」
「…………ッは」

《……ずっとッこの中に居たい》

 上半身を起こし、さっきよりも強い律動を送ってきた久我に、膝裏を掴んで持ち上げられ、肩につくほど折り曲げられる。

「あっあぁ、んっ……ああぁっ」
「………っは──」

 あ、これ、さっきの久我の妄想と同じ……と思った瞬間、ドクドクと芽衣の最奥に彼が熱を吐き出したのが分かった。しばらく、上から押さえつけて熱棒を埋め込むように、体を密着させていた久我。その途中、ビクビクと再び中を締め付けながら絶頂を向かえた芽衣が、ぼんやりと久我を見上げる。

《……芽衣》

「……ッ」

 社内でよく見る澄ました顔でもなく、彼の脳内で見せられる意地の悪い淫猥な表情でもない、ふっと微笑んでいる久我を前に、芽衣は思わずキュンとしてしまった。




   ◇ ◇ ◇




「……おはよ」
「…………おはよう、ございます」

 翌朝、目が覚めたらジッとこちらを見つめる久我の顔が真ん前にあり、軽く動揺した芽衣が、ぎこちなく口にした言葉。少し間をおいて挨拶を返され、瞬きをした後、ゆっくりと身を起こす。

 あの後も、力なく倒れ込むほど抱き合った二人は、シャワーを浴びる気力もないまま、ベッドに沈み込むようにして眠った。ふと床に視線を向ければ、ぐちゃぐちゃに脱ぎ捨てられた互いの服と使用済みのコンドームが散らばっている、おびただしい光景が目に入った。

 うわ…………。

 こいつ、最初は確かに手を出す気配がなかったはずだが、ちゃっかりゴムを用意していたのか……。

「…………?」
「シャ、ワー……先、浴びてくる」
「はい」

 のそり、とベッドから抜け出し、後ろは振り返らずにそそくさと脱衣所へ向かう。ノズルを捻り、シャ──ッと勢いよく出たお湯を頭からかぶる。

 明日から……ッいや、もうこの後、脱衣所を出てから、どんな顔で久我に接すればいいんだ…………ッ!!

 なんとかぼんやりと寝ぼけたフリをして、ここまで逃げ込んできたけど、勢いでヤってしまった事実は、なにも変わらない……!!

 芽衣は壁に両手をつき、悶々と考える。

「…………ッ!」

 その時、芽衣の脳裏に、風呂場でシャワーヘッドを秘部に押し当てられながら厭らしい言葉を投げられ攻められている自分の映像が飛び込んできた。

 あいつ!昨日あんなにしたのに、朝から元気すぎないか⁉

「んんんん~~~~~ッ」


「?」

 風呂場から、シャワーの音に交じって聞こえてくる芽衣のうめき声に、久我は軽く首を傾けていた。

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