2 / 40
第ゼロ章
ぬりかべ五番勝負 前編
しおりを挟む
ここは妖怪たちが共同生活している百鬼夜荘、に通じる裏路地。
時刻は午後11時を過ぎた頃か。一人の男が歩いている。
長い髪を後ろでひっつめ糸のように細い目が特徴的だった。
半分くらい進んだ頃だろうか。
突然前へ進めなくなった。
「な、何だ? 」
前には何もない、にも関わらず丸で見えない壁があるかのようだ。左右に動いても手を上まで伸ばしても同じことだった。
「畜生、舐めやがって。この鎌鼬の修二様に喧嘩を売るつもりだな。面白れえ」
彼はそのまま四つん這いになると、
「ううううううううううううっ」
低く唸り全身に力を込めたかと思うと、突然飛び上がりグルリと身体を一回転させる。
ドロンッ
煙が立ち込めた中に現れたのは手の先が鎌のようになっている白いイタチだった。
「はああああああああああ」
イタチは己の鎌を見えない壁に突き立てる。
「ふんっ、どうだっ! 」
と、ふんぞり返るが。まるで生渇きのコールタールに鎌を突っ込んだような感じで手ごたえがない。それどころか、突き刺さった鎌がそのまま抜けないのだ。
「あ、あれ? ちょ、ちょっと。いや、何よこれ。困ったな。ちょ、ちょっとねえ。あの、何とかしてよねえ」
いくら彼が何を言っても反応がない。ただ、鎌は見えない壁に埋まったまま。
今までの余裕が恐怖に変わる。既に彼の言葉は涙声になっていた。
「わ、悪かったよ。離してくれよ。降参だ。降参」
そういった途端に鎌が抜けた。
「お、お、お助け~」
そう叫びながら、鎌池修二はイタチの姿のまま一目散に逃げだした。
後に残る者は誰もいないように見える。がそんなただの闇の中で声が響だけが響く。
それは妖怪ぬりかべのものだった。
「人の世で暮らす百鬼夜荘の住人とやらがどの程度のものか試してやろうと想ったが口程にもない」
彼の目的はただ一つ。道を通さないことだった。
「この調子で一人残らず追い返してやるわ。む、また誰か来たようだな」
暗闇の向こう、今度やってきたのは金髪碧眼の女性。
彼女はぬりかべの元にやってくるとそれ以上前に進めなくなる。
「おや? なんだいこりゃ。妙だね」
見た目とは似合わない様な口調で呟く。
そのまま両手でポンポンと当たりを叩く。
「なあ、あんた妖怪だろ。アタシは英国から来たもんだが、この国に馴染んで長いつもりさ。無駄な喧嘩はしたくない。通しちゃ貰えないもんかね」
穏やかに問いかけるが、
「………………」
返事はない。
「そうかい。どうしても通す気がないんだね。しゃあない、久々にやるかね」
言うと、「はあっ!」叫び声をあげて力をこめる。
するとザンッと音がして背中から大きい蝙蝠の様な翼が映えた。
「なに? そ、そんなのありか? 」
沈黙を守っていたぬりかべも思わず声を漏らした。
「じゃあね、これに懲りたら下らないイタズラするんじゃないよ」
いうと、彼女は天高く飛び上がった。
が、ぬりかべもそれで負けるつもりはない。いつもよりも高くかべを上まで広げていく。
「ぐっううううううううう」と女性が低く吠えるような声を上げ。
「うああああああああああ」ぬりかべが上げた地鳴りのような叫びが辺りに木霊した。
そのまま二人の根競べとなったがどちらも一歩も引く気配がない。
「ちっ、これじゃあ埒が開かないね~。仕方ない、つかれんだけどやるかね」
言うと一旦彼女は空中で身体を止める。
「な、なんだ? 降参か」
ぬりかべは勝ち誇ったように言ったが、
空中で止まった彼女の身体が突然薄くなっていく。そして辺りには霧が発生する。
「き、消えた? 」ぬりかべが驚きの声をあげるが、消えたわけではない。
彼女の名前はメアリークレイトソン。英国生まれのヴァンパイアハーフだ。
故に霧状に変化できるという吸血鬼の能力を使ったのである。
「じゃあ、通らせてもらうよ。日本の妖怪さん。国際問題にはしないどくれね~」
ははははははははは。
不気味な笑いを響かせて彼女は彼の身体を通り抜けていく。
「く、くそ。あんなのありか。卑怯もんが、だから西洋妖怪は嫌いなんだ」
ぶつくさぶつくさ。愚痴っていると路地の奥から大きな独り言が聞こえてきた。
また、誰か来たのだ。
「まったくあの学年主任の宮崎の奴、細かい事ぐだぐだいっちゃってさ。本当にむかついちゃうわ~」
どうも酔っぱらってるらしい。
「ふ、酔っ払いか。こりゃ大したことないな。楽勝楽勝」
闇に潜みながらぬりかべはほくそ笑む。
「メアリーも待っててくれればいいのに。友達がないわよね。あまりにむかついたから一人呑みしてきちゃった~」
そんなことをいいながら、ぬりかべのいる所までやってくる。
「ありゃ? なによ、これ。全然進まないじゃない。私、そこまで酔っぱらってんのかしら」
それから色々なことをわめきながら自分の目の前をパンパン叩く。
「なんで通れないのかしら。ちょっと、何これ? なんかのいたずら? 通しなさいよ」
わめいても何をしてもだめだった。その事にようやく気付いたらしい彼女。
「よ~し、じゃあ。無理にでも通ってやるからね~。ともしび一つ!」
言って胸の前に両手を垂らした。
すると、真っ暗だった路地裏に青白い光の人魂が浮かび上がる。
「いちまーい」
いうと、その前にお皿が一枚浮かび上がる。
「にまーい」
更にもう一枚お皿が浮かび上がる。
この要領で「さんまい」「しまい」「ごまい……」数えるたびに皿が増えていく。
彼女は更屋敷菊奈と名乗っているが、元は番長皿屋敷のお菊さんだ。
皿を数えることで怨念を積み上げていくことになる、そして、その最後に至った時、
「くま~い……やっぱり一枚たりない! 」
ガシャーン、ガチャン、ガシャーン、ガチャ、ガチャ……
皿が四散乱舞した。
いくつかは先ほどの鎌池修二が突き刺した鎌と同じように通じない。が、
四散し飛び散った皿の一つがぬりかべの下方部分を右から左に通り抜けた。
「………………」
あきなが気づくと辺りには何もない。
壁があるように勧めなかった道も普通に進めるようになっていた。
「あ、進めるわ。なんだったんだろ。ん~、飲みすぎたかな。気をつけなきゃね~」
呑気なことをいいいながらそのまま帰路へ付く。
時刻は午後11時を過ぎた頃か。一人の男が歩いている。
長い髪を後ろでひっつめ糸のように細い目が特徴的だった。
半分くらい進んだ頃だろうか。
突然前へ進めなくなった。
「な、何だ? 」
前には何もない、にも関わらず丸で見えない壁があるかのようだ。左右に動いても手を上まで伸ばしても同じことだった。
「畜生、舐めやがって。この鎌鼬の修二様に喧嘩を売るつもりだな。面白れえ」
彼はそのまま四つん這いになると、
「ううううううううううううっ」
低く唸り全身に力を込めたかと思うと、突然飛び上がりグルリと身体を一回転させる。
ドロンッ
煙が立ち込めた中に現れたのは手の先が鎌のようになっている白いイタチだった。
「はああああああああああ」
イタチは己の鎌を見えない壁に突き立てる。
「ふんっ、どうだっ! 」
と、ふんぞり返るが。まるで生渇きのコールタールに鎌を突っ込んだような感じで手ごたえがない。それどころか、突き刺さった鎌がそのまま抜けないのだ。
「あ、あれ? ちょ、ちょっと。いや、何よこれ。困ったな。ちょ、ちょっとねえ。あの、何とかしてよねえ」
いくら彼が何を言っても反応がない。ただ、鎌は見えない壁に埋まったまま。
今までの余裕が恐怖に変わる。既に彼の言葉は涙声になっていた。
「わ、悪かったよ。離してくれよ。降参だ。降参」
そういった途端に鎌が抜けた。
「お、お、お助け~」
そう叫びながら、鎌池修二はイタチの姿のまま一目散に逃げだした。
後に残る者は誰もいないように見える。がそんなただの闇の中で声が響だけが響く。
それは妖怪ぬりかべのものだった。
「人の世で暮らす百鬼夜荘の住人とやらがどの程度のものか試してやろうと想ったが口程にもない」
彼の目的はただ一つ。道を通さないことだった。
「この調子で一人残らず追い返してやるわ。む、また誰か来たようだな」
暗闇の向こう、今度やってきたのは金髪碧眼の女性。
彼女はぬりかべの元にやってくるとそれ以上前に進めなくなる。
「おや? なんだいこりゃ。妙だね」
見た目とは似合わない様な口調で呟く。
そのまま両手でポンポンと当たりを叩く。
「なあ、あんた妖怪だろ。アタシは英国から来たもんだが、この国に馴染んで長いつもりさ。無駄な喧嘩はしたくない。通しちゃ貰えないもんかね」
穏やかに問いかけるが、
「………………」
返事はない。
「そうかい。どうしても通す気がないんだね。しゃあない、久々にやるかね」
言うと、「はあっ!」叫び声をあげて力をこめる。
するとザンッと音がして背中から大きい蝙蝠の様な翼が映えた。
「なに? そ、そんなのありか? 」
沈黙を守っていたぬりかべも思わず声を漏らした。
「じゃあね、これに懲りたら下らないイタズラするんじゃないよ」
いうと、彼女は天高く飛び上がった。
が、ぬりかべもそれで負けるつもりはない。いつもよりも高くかべを上まで広げていく。
「ぐっううううううううう」と女性が低く吠えるような声を上げ。
「うああああああああああ」ぬりかべが上げた地鳴りのような叫びが辺りに木霊した。
そのまま二人の根競べとなったがどちらも一歩も引く気配がない。
「ちっ、これじゃあ埒が開かないね~。仕方ない、つかれんだけどやるかね」
言うと一旦彼女は空中で身体を止める。
「な、なんだ? 降参か」
ぬりかべは勝ち誇ったように言ったが、
空中で止まった彼女の身体が突然薄くなっていく。そして辺りには霧が発生する。
「き、消えた? 」ぬりかべが驚きの声をあげるが、消えたわけではない。
彼女の名前はメアリークレイトソン。英国生まれのヴァンパイアハーフだ。
故に霧状に変化できるという吸血鬼の能力を使ったのである。
「じゃあ、通らせてもらうよ。日本の妖怪さん。国際問題にはしないどくれね~」
ははははははははは。
不気味な笑いを響かせて彼女は彼の身体を通り抜けていく。
「く、くそ。あんなのありか。卑怯もんが、だから西洋妖怪は嫌いなんだ」
ぶつくさぶつくさ。愚痴っていると路地の奥から大きな独り言が聞こえてきた。
また、誰か来たのだ。
「まったくあの学年主任の宮崎の奴、細かい事ぐだぐだいっちゃってさ。本当にむかついちゃうわ~」
どうも酔っぱらってるらしい。
「ふ、酔っ払いか。こりゃ大したことないな。楽勝楽勝」
闇に潜みながらぬりかべはほくそ笑む。
「メアリーも待っててくれればいいのに。友達がないわよね。あまりにむかついたから一人呑みしてきちゃった~」
そんなことをいいながら、ぬりかべのいる所までやってくる。
「ありゃ? なによ、これ。全然進まないじゃない。私、そこまで酔っぱらってんのかしら」
それから色々なことをわめきながら自分の目の前をパンパン叩く。
「なんで通れないのかしら。ちょっと、何これ? なんかのいたずら? 通しなさいよ」
わめいても何をしてもだめだった。その事にようやく気付いたらしい彼女。
「よ~し、じゃあ。無理にでも通ってやるからね~。ともしび一つ!」
言って胸の前に両手を垂らした。
すると、真っ暗だった路地裏に青白い光の人魂が浮かび上がる。
「いちまーい」
いうと、その前にお皿が一枚浮かび上がる。
「にまーい」
更にもう一枚お皿が浮かび上がる。
この要領で「さんまい」「しまい」「ごまい……」数えるたびに皿が増えていく。
彼女は更屋敷菊奈と名乗っているが、元は番長皿屋敷のお菊さんだ。
皿を数えることで怨念を積み上げていくことになる、そして、その最後に至った時、
「くま~い……やっぱり一枚たりない! 」
ガシャーン、ガチャン、ガシャーン、ガチャ、ガチャ……
皿が四散乱舞した。
いくつかは先ほどの鎌池修二が突き刺した鎌と同じように通じない。が、
四散し飛び散った皿の一つがぬりかべの下方部分を右から左に通り抜けた。
「………………」
あきなが気づくと辺りには何もない。
壁があるように勧めなかった道も普通に進めるようになっていた。
「あ、進めるわ。なんだったんだろ。ん~、飲みすぎたかな。気をつけなきゃね~」
呑気なことをいいいながらそのまま帰路へ付く。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる