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浄め祓いの儀
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しおりを挟むそして約束の当日がやってきた。鎌池修二は部屋の扉を開けて中を覗きながら言った。
「中々良さそうな部屋ですな」
田村と山口の話し合いが行われた3日後の事である。コーポフラワーフォレスト204号室の前に修二を含めて4人の人影。
中でもその中に巫女装束を着用した美少女の姿が異彩を放っている。
「金鞠あゆみです。よろしくお願い致します」
「は、はあ……。よ、よろしくお願い致します。」
言われた山口は戸惑いの色を隠せない。
「あ、あの。鎌池さん。こちらの方で間違いないんでしょうか。」
「ええ。お伝えしていた通り金鞠多津乃の孫、金鞠あゆみ当人で間違いないですよ」
「そ、そうなんですか。私はてっきり男性だと想ってたんですが、女性だったんですね」
「いや、こいつ男ですよ」
「えっ? 」
山口は驚いてあゆみの方をみたまま一瞬固まってしまう。
こんな可愛い子が男の子のはず……。
対してあゆみは小首をかしげながら笑顔で見つめ返したが、実際は心臓バクバク状態だった。
百鬼夜荘で修二の部屋へ引っ張り込まれて言われた事は大意こんな内容だ。
「兄貴の知り合いで不動産屋やってる人が事故物件を抱えて困っている。お祓いをしてやってくれないか」まあ、間違いではない。
しかし、あゆみはすぐに『いいよ』とは返事ができなかった。
なぜかというと彼は悪霊退散のお祓いの経験がそもそもなかったのである。妖怪退治の経験はあるのだが、妖怪といわゆる霊との対し方は違う。
そもそも妖怪というのは、世の中の不思議な事、怪異現象に形を与えたものだ。いわば実体があるので的も絞りやすいし弱点があるものも多い。しかし霊はそうではないので厄介なのだ。
「なんだい、じゃあ、お前にはどうしようもないのかい? 」
「一応、婆ちゃんが残した資料の中にお祓いの方法があるんだよね。その手順通りにすれば何とかなるとは思うんだけど」
「何だ、驚かすなよ。それをやってみてくれよ」
「ん~。そもそも、困ってるのって康太兄ちゃんのお友達なんだよね? なんで話を持ってきたのが修ちゃんなのかな? 」
「そ、そりゃ。兄貴の店でたまたま話を聞いたからだよ。お前は隣の家に住んでるし、毎日のように顔あわせてるんだから、話がしやすいだろ」
「で、いくらで請け負ったのかな? 」
ギクリッ
それが言葉として出てきたように顔を強張らせながらも修二は言葉を返す。
「か、金なんて。僕は人助けが趣味みたいなもんなんだよ」
「修ちゃんがタダで請け負うとは想えないよ。本当のこといってくれなきゃ協力できないな」
彼が金に汚い事は長い付き合いの者なら周知の事。先日も金を貸してくれと拝み倒されたことは記憶に新しい。
「わかったよ。アテンド料込みで10万円。お前には半分の5万あげるからさ」
観念したように修二は首を振りながら答えた。しかしほぼ作業をするのはあゆみなのだから修二が半分持って行く事自体不公平じゃないだろうか。
いや、そもそもその言葉自体に嘘があった。実際の報酬は30万円だ。つまり5万円渡しても25万円が修二の懐に入る計算である。どこまでもセコイ男なのだ。
「別に僕自身がいくら貰えるかはどうでもいいんだけど」
「本当かい? じゃあ、オレが全部貰っていいのかな」
その言葉を半ば間に受けて修二はウキウキ声を上げるが。
「………………。行くのやめよっか? 」
あゆみの冷たい声に肝を冷やした。
調子に乗りすぎてはいけない。今は慎重にならねば。
「じょ、冗談だよ。へへへへっ。で、じゃあ何が問題なんだい?」
「報酬を貰う約束する以上、半端には出来ないよ。他の誰かに相談した方がいいかもね」
あゆみにもそうした相談に乗ってくれそうな者に当てがないわけではない。手伝ってもらった方がいいのではないか、そう想う。
が、修二としてはそれを認めるわけにはいかなかった。これ以上関わる者が増えれば分け前がドンドン減る。できれば参加者はあゆみだけに絞りたい。
「ちょ、ちょっと待ちなよ。大丈夫だって、自信を持ちなよ。お前だってもう高校生なんだ」
自分の持てる記憶を掘り起こし苦し紛れの説得工作を開始する。
「それがどうしたっていうのさ」
「全部自分で解決できたとなれば、お前はもう一人前ってことだよ」
「一人前か……」
金鞠あゆみは同年代と比べても小柄な体型をしている。中学一年生からほとんど背は伸びていない。下手すると小学生にも間違われかねない容姿をしていた。そして、その事に対して相当なコンプレックスがある。
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彼女は小学校入学前に百鬼夜荘に連れてこられ、多津乃と一緒に暮らしていた。隣に建っている金鞠家とも毎日のように行き来していた為あゆみとは家族同然の関係。
そんな彼女は同年代でありながら背が高く、自分と比べても相当に大人っぽい。
高校入学を控えてそんなひみかと自分が釣り合わないのではないかと、心が沈むことも度々だ。しかも、当のひみかはそんな気持ちを知ってか知らずか、彼の事を弟のように扱ってくる。
彼女からは「あゆみは弟みたいに可愛いね。本当の家族のように君の事は大好きだよ」というような事を言われることがある。好きだと言われるのは嬉しい。が反面、心から喜ぶことができないのだ。その「好き」は彼の期待する恋愛感情を伴うものとは思えない。彼女の本心が見えないのだ。
だから、彼からも恋愛感情を伴った「好き」を伝えるのに躊躇いながら今に至っている。
ひみかを見返したい。そして、自分を一人前の男として見て欲しい。
それはここ数年、ずっと彼が抱いていた想いだった。
「ああ、それに多津乃婆さんの教えをそのまま実践して事件を解決したら、ひみかも見直すかもしれないぜ」
彼女にとって多津乃は親代わりであり、心の底から慕っていた。だからあゆみが多津乃の技法を使ってお祓いをした上で成功したと聞けば喜んでくれるかもしれないという事だろう。
「ひ、ひみかって。べ、別に彼女がどう思うとかは関係ないけど……」
あゆみは目に見えて動揺しながらも満更じゃなさそうな顔をする。
修二はその様子を見て、説得が成功したことをほぼ確信した。
「隠すな隠すなって、へっへへへへへ。それに、やったことがないなら、試してみたいんじゃないのか? 多津乃婆さんのお祓い方法」
「それは、確かに経験を積むのに越したことはないからね」
確かに、今後のことを考えても経験は積んで悪い筈はない。
「よし。じゃあ、決まりだ。あちらさんにはオッケーって答えとくからな。じゃあ、ま、おやすみ~」
修二は言って、部屋へ引き入れた強引さと同じように、今度はあゆみを外へ突き出した。
「ちょ、ちょっと。修ちゃん……。はあ、しょうがないな」
それで決まりだった。
しかし、あゆみはもう一つ重要な事を忘れていた。
金鞠家は代々強大な霊能力を有している女性が生まれる家系だった。
男の子であるあゆみも全く無いわけではないが、普段の彼は多津乃には遠く及ばないものだった。
その上で亡くなる前に多津乃はあゆみが最大限の霊能力を引き出せる方法を伝授していた。
それが、女装をして儀式を行う事なのだ。
彼も思春期真っ盛りの男の子。恥ずかしいという感情はある。
事情を知る身内なら仕方がないが、それ以外の人にその姿を見せるのは抵抗があった。
これまでも妖怪と対峙する時、極力他に人とは合わないように気を付けていたのだ。
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そんな訳で問題の部屋前。山口に挨拶した時も余裕で笑みを浮かべているように見えながら、心の底では羞恥心と必死に戦っていたのである。
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