元贄は人であろうとすることをやめた

さきくさゆり

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2:現状把握と能力

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 八人は、先程の場所から移動して、かなり広い畳の部屋に連れてこられていた。
 まるで旅館の大部屋のような場所に八人が並んで正座し、女性はその前に一人で座っている。

 一応壁際に衛兵のような人が並んでいるがそんなに人数はいない。

 そこで女性が八人に現状を伝えていた。


 五百年前、世界は魔王の脅威にさらされていた。
 いくつもの国が地図から消滅していき、その手はデオパトラにまで伸びつつあった。
 だがデオパトラは他の国に比べて魔術に関する文献が豊富だったためか、ある魔術が発見された。

 それが異世界召喚魔術だ。

 デオパトラの皇族や魔術師達は、その術で七人の異世界人を召喚する。
 後に英雄と呼ばれるようになる七人と皇族、魔術師達は他の国と手を結び、十年かけてついに魔王を討伐した。

 それから七人の内、五人はデオパトラに残り、二人は異世界に帰還した。

 当初は帰れないはずだったが、十年間の研究によって帰還する機能があることが判明したためだ。

 五人はデオパトラに残って後に世界各地に散らばったと言われている。


 そして、この世界にまた脅威が迫っていた。

 その脅威の名前は魔神。
 魔神自体の名前はわかっていない。
 魔王には何故か名前が無かったから、おそらく魔神にも無いのではないかと思われている。

 ある日、なんの前触れもなく魔神は現れた。
 この国を滅ぼし、その後世界を滅ぼすことにした。と一方的に告げた魔神は、大規模な魔術陣を空に発動し、そこから大量の魔物を雨のようにデオパトラに落とした。
 国が半壊したところで、唐突に魔物を消した魔神は、また一方的にまた来る。と告げ城を後にした。

 もちろんデオパトラは世界中に助力を求めた。
 世界滅亡の危機だと。
 だが他国は無視した。
 理由簡単なことだ。
 要は邪魔だった。
 デオパトラは他国からはあまりよく思われておらず、これ幸いと切り捨てたのだった。

 そこで焦った第三皇女は、召喚魔術の使用許可を皇帝に直談判し、現在に至る。



「つまり、魔神を倒さないと、このままでは世界が滅ぶから、この国の五百年前の資料にあった、魔王軍を滅ぼした七人の英雄と同じような人物をを呼び出すために、異世界召喚を行った。そして俺達が召喚されたってことですね」
「はい、その通りです」
「でも、俺達は呼び出されても、魔王軍との戦いなんて知らないんだよねー」

 と言ったのは渚だ。

「そーそー。だって俺達の世界じゃ戦争なんてとっくの昔に終わってることだしさ」
「そうよ!大体あんた何者よ!」

 健吾と晴美が言うと、女性は姿勢を正す。

「申し遅れました。私の名前はユウナ・デオパトラ。この神国デオパトラの第三皇女です」

 そう言ってユウナは正座をしたまま奇麗なお辞儀をした。
 顔を上げると、話を続ける。

「お話を戻させていただきますが、おそらくそうではないかと考えておりました。文献に英雄の方々は平和な国から召喚されたと記されてましたので。ですが、前回の時には、召喚された異世界人には強力な固有能力と言うものが与えられたそうです」
「それってわかるの?」
「今から案内いたします『石版の間』で、わかります」
「あっそ」


 このように、渚達が率先してユウナから情報を聞き出している間に、蓮司達は小声で話し合っていた。

「ねぇ、どうするつもり?このままじゃまた殺し合いよ?」
「どうせ能力はすぐバレる。隠蔽も偽装もできないからな。とりあえず召喚されても力は剥奪も変更もされてないみたいだ」
「そのようね」

 咲良はさり気なく、ミナカの傷を治していく。

「それにミナカの能力がバレたらまた……。どうしたものかね」
「あの馬鹿共はやる気満々なようね」

 咲良が言う馬鹿共とは渚、健吾、晴美の三人だ。
 夕陽と朝陽はとにかく話だけは聞こうと必死ではあるが、あまり乗り気ではない。
 ただ、晴美が夕陽と朝陽を仲間に引き込もうとしているのか、事あるごとに二人に話を振っている。

「仕方ないよ。俺達も……あ、ミナカは違うか。ミナカ以外の奴らは異世界だーって舞い上がってたからね」
「……僕も最初はそうだったよ。能力を見るまではだけど」
「ミナカ……」

 すると、ユウナが立ち上がり、皆を連れて石版の間へ連れていくと言い出した。
 三人も仕方がないと諦め、覚悟を決める。


「ここが石版の間です」

 九人で入った部屋は夥しい数の調度品で飾り付けられていた。
 前回の時も中々豪華な部屋だったが、その時とは比べ物にならない。
 そして、部屋の真ん中に、仲間外れかのごとく質素な作りの台座の上に、広辞苑サイズの石版がポツリと置かれていた。

「この石版は、召喚魔術と共に発見された物です。では、どちらの手でも構いません。この石版に掌を当ててください」
「じゃあ俺からいくぜ」

 まずは渚が率先して掌を当てに行った。
 先程も蓮司が言っていたように、彼はそういったオタク趣味があり、異世界でチートを!と息巻いていた。

 石版に現れた文字。

『刃技 あらゆる刃技を取得することができる』

「なんだこれ」

 名前があまりにもしょぼく見える。

「刃技です!剣技、刀技はもちろん、聖剣、魔剣など刃物に関するあらゆる技を取得し扱うことができます!」
「チート能力か!よしっ!」

 喜ぶ渚とユウナ。
 そんな二人に当てられたか健吾と晴美も続く。

 健吾は『魔導 あらゆる魔法、魔術を取得することができる』
 晴美は『模倣 対象の何か一つを模倣することができる』

 そして、黙りこくっていた夕陽と朝陽に晴美が早くやるように促した。

「ほら夕陽に朝陽!次は二人の番!」
「う、うん……」

 チラッとミナカの方を見た夕陽は、すぐに石版の方を向き、手を合わせる。

『再生 対象を元に戻すことができる。対象には自分も含まれる』

「再生……初めて見ました。コレはつまり回復魔法のようなものでしょうか」
「わからないです。私達の世界ではこういうの無かったから」
「そう……ですよね……。申し訳ございません」

 そして、朝陽もしぶしぶといった風に手を当てる。

『奪取 対象から何か一つを奪い取ることができる』

「ふーん……」

 ユウナはやはり強力な能力です!と大喜びだが、朝陽は複雑そうな顔をして自分の掌を見ていた。

 全員強力な能力を手に入れ、喜ぶ渚達とユウナを見ていると、蓮司は自分もかつてはああだったのかと暗い気持ちになった。
 隣に咲良やミナカがいなければ怒鳴り散らしていたかもしれない。

「では、よろしくお願いします」

 ついに蓮司達の番になった。

「はぁ……行ってくる」

 ため息を一つついてから立ち上がって石版に向き合う。
 そして蓮司が手を合わせると、

『超能力 物理現象を捻じ曲げる力』
『破壊  対象を破壊する力』
『英雄の証』

「は?!」
「やっぱり……」
「どいういことですか?!二つ?!それに英雄の証だなんて……」

 蓮司はまたため息をついてから、ユウナの方に身体を向ける。

「俺とそっちにいる咲良、そしてミナカは、こっちの時間で五百年前、英雄として戦った八人の中の三人だ」
「はい?!あの七人の英雄の?!」

 すると健吾は顔をしかめる。

「七人じゃない、八人だ。さっきも思ったがお前達はミナカを壊すだけ壊しておいて、いなかったことにしてるんだな」
「……え?」
「蓮司さん、いいですよ。実際英雄なんかじゃなかったし、役立たずだったのも本当なんですから」

 仕方ないですよと苦笑いを浮かべるミナカ。

「どういうこと?!」

 叫んだのは夕陽だ。
 立ち上がって、ミナカに詰め寄る。

「ねえ!ミナカ!どういうことなの?!ミナカはここに来たことがあるの?!」

 ミナカは詰め寄る夕陽を押しのけて、石版の前に立つ。
 そして、いつの間にか右手には片手で収まるほどの携帯ナイフ。

「ミナカだめ!」

 何をする気か気づいた咲良が慌てて駆け寄るが、時既に遅く、左首に当てられたナイフは一瞬でソコを切り裂き、血が噴水のように吹き出る。
 そのままミナカは、目をひっくり返して後ろに倒れた。

 その場にいた中ですぐ動けたのは咲良と蓮司、そして意外なことに朝陽だった。

 駆け寄った咲良がミナカを治そうとしたが、それをミナカが手だけで制する。
 床には血の池のようなものが出来上がっており、跪いた蓮司達のスラックスやスカートを濡らしていく。

「ミナカさん?……うそ……いやぁあああああ!!!」

 そして、ミナカは絶命した。

「バカミナカ……」

 咲良が呟くと、蓮司が咲良の頬を引っ叩いた。

「……なぜやめた」
「ミナカが、身を持ってこいつらに教えようとしてるんだとわかったからよ……」
「……悪い。分かってはいるけど、我慢できなかった」
「いえ、殴ってくれてありがとう」

 朝陽は死んだミナカの横でそんな会話をしている二人を睨みつけた。

「先輩達、なんで冷静なんですか?ミナカさん、死んだんですよ?!」

 泣きながら咲良達を怒鳴りつける。
 すると咲良は朝陽の襟首を片手で掴んで、自身に引き付け、額を合わせた。
 少し強すぎたからか、その際額のぶつかる音が石版の間に響き渡る。

「は?冷静?巫山戯てるの?そんなわけ無いでしょうが……。あんたらが何も考えず、チートだ異世界だ言ってるから、ミナカが自分の能力でこの世界がどういうところか教えたのよ。あんな最低最悪の能力でよ?それで冷静?もう一度言うわ。巫山戯ないで」
「…………」

 無言で咲良を見つめ返す朝陽。
 何を言っているのかわかっていないという顔だ。

「咲良、そのくらいにしておけ。さっきも言ったが、俺達だって同じだったろ」
「……わかった」

 咲良が朝陽を突き放すと、血溜まりに朝陽は尻餅をついた。

 そんな朝陽に蓮司はミナカを見るように促した。

「朝陽ちゃんだっけ。ミナカを見てくれ」

 言われた通りにミナカを見つめる。

「は?」

 ミナカの首の傷が光っていた。
 よく見ると、傷が塞がっていくのがわかる。

 光が収まると、傷一つ無い奇麗な肌が。

 皆が見つめる中、ミナカは目を開け、上半身だけ起こす。

「こういうわけで、俺は先輩達と一緒に召喚された、あー……元贄です。能力は蘇生。死ねば復活する力」

 よろしく。と言ったミナカの顔は無表情で、咲良は泣き、蓮司は顔を顰める。
 渚や夕陽達はミナカを黙って見つめていた。
 その表情の意味することは、ミナカ達にしかわからない。
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