僕、勇者サマの養い子になりました

髙城

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顔を歪めて自嘲気味に言われ、僕は驚いて目を見開いた。

そんな……
僕の方こそ夢みたいだって思ってるのに!

この世界に来て、シンラの森でアヤさんに見付けて貰った時からずっと、有り得ないくらい物凄く大事にされて、お腹いっぱいご飯も食べられて、小さな子供みたいに甘やかされて、初めて知る楽しい事もたくさん教えて貰えて……
それこそ本当に、毎日が夢のようだってずっと、そう…思っているのに。

眠る時や目が覚めた時、今の状態が全部夢だったらどうしようって、不安に押し潰されそうな気分になるんだけど、アヤさんと一緒に寝る時は驚きやら羞恥心やらでソレどころじゃなくなるから、本当は少し嬉しいって思ったのに。

伝えないと!
ちゃんと僕も同じ風に感じてるんだって、伝えないと!

焦る気持ちが先走って言葉に出来ず、口を開けても声が出なくて余計に焦っていると、アヤさんがそんな僕に気が付いて優しく頭を撫でてくれた。

「落ち着いて。ちゃんと待ってるから焦らなくても大丈夫だよ。きちんとした言葉にしなくてもいいから、ただの単語の羅列でいいから、思った事を取り敢えず声に出して私に教えて?」

僕は頷いてからゆっくり深呼吸をすると、躊躇いつつも口を開いた。

「…あやさん、ぼく、僕も、アヤさんと会えて、今が夢みたいだって、思って…て」
「うん」
「いっぱい優しくして貰えて、僕こそ、アヤさんと出会えて奇跡だって思ってるのに、夢…だったら、どうしようって。目が覚めたら全部夢で、アヤさんが居ない方が本当だったら……僕…」

想像して真っ青になると、震えながら僕はギュッと自分の身体を抱き締めた。

考えただけでも心臓が…痛い。
今の僕にはこの幸せな生活を知って、元の生活に戻れる自信なんて全くなかった。

でも、目が覚めたら病院のベッドで寝てるって可能性も、ゼロではない…と思う。
それでもし、万が一にも目が覚ました病院が…彼と同じだったりしたら……
あの人はすぐにでもやって来るに違いない。
そしたらきっと、退院後には恐ろしい事が起こるんだ。

そしたら…
そしたら……ッ

「イツキ!イツキ!!しっかりして!こら、ちゃんと息を吐いて!」

ガクガクとアヤさんに両肩を揺さぶられて、引き攣ったような呼吸をしていた自分に気が付いた。
でもフラッシュバックが酷くて言われた言葉が理解出来ず、僕は過呼吸の苦しさで胸を掻き毟った。

ーーー息、が、出来な……ッ

もう、苦し過ぎて訳が分からない。
遠くなる意識に身を任せようとして口を塞がれ、僕は僕を拘束する、ビクともしないものを押し退けようとして暴れまくった。

だけど、すぐに力尽きて弛緩すると、口を塞いでいたものと僕を拘束していたものが外され、涙と鼻水と汗でグチャグチャだった顔は蒸しタオルでキレイに拭かれてしまったのだった。

「イツキ………もう、平気?」

放心して視線の定まらない僕に、暫くしてからアヤさんが至近距離で尋ねると、僕はゆっくりとアヤさんに視線を合わせてコクンと頷いた。

まだ頭がぼんやりしてて身体も怠いけど、息は普通に出来るようになっていたから、さっきまでの自分を振り返ってみる。

と…………

アレ?

僕、さっき……


ナニで口を塞がれてた、の…かな?
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