とよとも

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24)テールランプに吸い込まれた

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俺が自分で単車を運転するようになったのは
中2の夏頃からだ。

単車を買うためにお金が必要だが
その資金もなんとかなった。


自分で単車を運転する様になるまでは
暴走族の先輩の単車の後ろに乗せてもらい
楽しんでいた。


俺が今でも鮮明に覚えている光景は…

ざっと20数台の集団の最後尾だった。

俺は隊列の最後尾の単車の後ろに乗っている。

真後ろにパトカーがサイレンを
鳴らしながらピッタリくっついて来た。

先輩はパトカーの存在を知りつつも
慌てる事もなく蛇行運転をする。

俺は心臓の鼓動が痛いぐらい焦っていた。

前を見ると20数台の単車が道路を
占領し走っている。

後ろを見ると、手が届きそうなぐらいの
距離にうるさいパトカー。

俺は先輩に大声で何度も
「真後ろパトカー!後ろにパトカー!」
単車から振り落とされそうな蛇行運転。
必死で単車につかまる。
後ろも気になる。

叫ぶ、しがみつく、後ろを見る。
俺はとても興奮していた。

すると先輩が「お~い、あんま、後ろを見るなょ~写真撮られるゾ~」

先輩は余裕だった。

俺はその言葉で少し落ち着き、そして前を見た。

前を走る20数台の単車のテールランプの輝きが
何とも表現出来ない美しさ。

俺は魂ごと、その光景に引き込まれてしまった。

その間たった数秒だと思うが、パトカーのサイレンの音、単車の音、その他の音全てが俺には聞こえなかった。

静寂と言うのかとても不思議な感覚だった。

魂が抜けたような。

言葉ではどう表現すれば良いかが今でもわからない。


我に返った俺はパトカーのサイレンやその他雑音は聞こえるものの
前を走る集団の光に釘付けになった。

俺が後ろに乗った経験がないままなら
この感覚を味わうことが無かったと思う。

当時はパトカーが近づいて来ることにもビビり
蛇行運転にもビビっていた。

まだまだ、純粋な心が残っていたのだと思う。

この時までは。
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