親友

響藍

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それでも俺らは親友で

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「会社で自分はゲイだと公言したやつがいた。俺はそいつが嫌いだ。だってキモいじゃないか。だけど俺はただキモいだけで嫌いだなんて言ってるじゃない。あいつの態度が気にくわない。最近世間の目がLGBTだっけ?そういうやつらの味方になってきてるのはわかる。だからといってそういうことを公言する理由がわからない。仲間を引き寄せたいのか?今までの苦労に同情して欲しいのか?みんなと自分にうそをついているのが嫌?知るかそんなモン。言われたみんなはどう接すればいいんだよ。普通の男は好きになられたら困るからあいつに対する対応は悪くなるし、女は好きな男に近づくために利用するに違いない。言わない方がいいだろきっと。いいことなしだよ。もしかしたらみんなから理解されて順風満帆な生活ができるかもしれない。恋人ができるかもしれない。でもそんなにうまく行くモンなのか?もちろんそういうのが理解出来ない人もいる。関わりたくないって言う人までいる。現に俺だってあんま理解したくないさ。だって好きになったって両思いになったって子供が作れるわけではないし、俺みたいに理解出来ない人が減るわけでもない。だからといって恋愛対象を変えられるわけでもなくなんか可哀想だなって思うんだけどやっぱり結局は他人事だし相手の気持ちはわかんないしどうしていいかわかんないしキモいし。辛いじゃないか。なんで公言したんだ。なんで公言できたんだ。そんなの俺が惨めになるだけじゃないか。みんなの目を気にして、誰も信じられなくて、ただただ怖くて、距離を置いて、作り笑いして。結局は他人事なんだよ。俺はあいつのようにはなれない。だからあいつが嫌いなんだ。だから自分が嫌いなんだ。そして今まで騙してきた友に今更こんな話をしている。同情を誘ってるのさ。酔った勢いじゃなきゃ言えないくせに。ほんと、惨め。」
高校時代の友達と飲みに行った。そこで親友である夏樹なつきの放った言葉はあまりに衝撃的だった。知らなかったのだ。夏樹とは中学の時からの仲であったのにもかかわらず知らなかったのだ。気づいてやれなかったのだ。
「俺、本当にお前の親友なのか?夏樹が苦しんでるとも知らずに色々言ってしまった俺はお前の親友でいいのか?」
その問いに答えは返ってこない。夏樹は既に酔いつぶれて寝ていた。
「俺、夏樹のことなんでも知ってると思ってた。あん時教えてくれたお前のタイプ、あれ嘘だったのか。酔うとこんなに喋ることだって知らなかったし。今思うと知らないことだらけなんだな。俺はお前の一番の親友だなんて言ったけど本当ばからしいよな。」
やはり返事はない。和人かずとはやるせない気持ちを抱えながら夏樹を背負い、家まで送ることにした。いつかの思い出よりはるかに重いと感じるのはただ夏樹が成長したからなのかこの気持ちのせいなのかはわからなかった。ふいに夏樹の実家しか知らないことに気づいた和人は自分の家に運ぶことにした。夜の街は騒がしくその分和人を惨めにさせた。

うるさい蝉の目覚ましで起きた夏樹はそれを止めることができない苛立ちとともに起き上がった。ひどい頭痛を感じ細めた目であたりを見渡すと知らない部屋と料理を作っている和人が目に入った。
 「起きたか。もう昼だぞ。運ぶの大変だったんだから感謝しろよ?」
そう笑う。昨日のことはほとんど覚えてない。記憶なくすまで酔ったのは初めてだ。
「ごめん。なんか久し振りに和人に会って楽しくてつい飲み過ぎてしまったみたいだ。」
そこはありがとうだろと笑いながら持ってきたスパゲッティは俺の好きなミートソースだった。
「「いただきます」」
フォークを取り食べようとすると、和人がおもむろに喋り出した。
「昨日のこと、覚えているか?」
時が止まったようだった。こんなこと普通聞かない。何かあったからこその質問だ。問題なのは何をしてしまったのか。もしくは何を言ってしまったのか。
「いや、全然覚えてないんだ。もしかして何かしてしまったか?それなら謝るよ。」
「めっちゃ愚痴ってたよwこれでもかってくらい。酔うとお前めっちゃ喋るのな!」
そこまで楽しそうにしていたのに急に俯いて何かを呟いたようだった。
「おい、どうした?具合悪いか?」
そんな和人を心配し顔を近づけて顔を覗くと
「わっ!!ははっ!おどいたろ?」
「おわぁっ!?あっ、やべっ…!」
俺は驚いて飛び退いた拍子に机もひっくり返してしまい頭からスパゲッティまみれになってしまった。
「ごめん。せっかく作ってくれたのに。」
「いいよ、それ俺のせいでもあるし。それに…ぷっ!夏樹の髪の毛スパゲッティになってるし服もミートソースだらけでめっちゃ面白いからオッケー!」
言い終わるとまた笑い出した。そんな和人を見ていると自分まで楽しくなってきた。
「おい!そんな笑ってっと、スパゲッティなげるぞ?ほれ!」
俺は頭に着いたスパゲッティをつまんで和人に投げた。うおっ!やめろ!汚い!と笑いながら逃げる和人を追いかけてしばらく遊んだ。



「お前が調子に乗ってスパゲッティ投げまくるから部屋中スパゲッティまみれになっちまったじゃないか!お前が片付けろよ!まあ、でもその前に風呂、入ろうぜ?」
俺と和人はお互いの格好を見てきったねー!とかこれ新品だったのにー!とか言って笑った。
「風呂一緒に入ろうぜ!」
「おう!…え?」
和人の誘いに二つ返事で承諾してしまい、後悔しながらもまあいっかと一緒に入ることにした。学生の頃もよく一緒に入ってたし、大丈夫だろう。
「…だと思ってたんだけどなぁ。」
単なるアパートに大人二人が余裕で入れるほどの大きい風呂はないということに二人とも服を脱いだ後気づいたのだった。
「じゃあ俺和人が出るまで待ってるよ。」
「いや、俺実は夏樹と腹割って話したいことがあるんだ。今までだって悩みとか全部風呂で話してたじゃん。その方が話しやすいんだけど、どう?」
「…わかった。」
腹割って話す事ってなんだろう。つい最悪のケースを想定してしまう。



「俺は夏樹の親友だよな!?」
なぜか真面目な顔をした和人が肩を強く掴み質問してきた。
「え?当たり前じゃん?どした?そんなん今更だろ。」
「じゃあなんで今まで隠してたんだよ!」
「な、なにをだよ…」
少し拗ねたように和人が目をそらす。
「お前が一番わかってるくせに…」
やはり最悪のケースだった。もうバレているんだし、打ちあけよう。
「うっ。……俺が…ゲイってことか?」
「そうだよ!なんで黙ってたんだよ!俺、お前のために何人の女の子紹介したと思ってんの!?お前の好みのタイプ嘘だったのかよ!お前がゲイだって知ってればそんなことしなかったのに!迷惑だったろ。興味もないやつ紹介されてさ、紹介した側は満足気味なの。今思い返しても申し訳ないわ。」
「えっ。」
思ってもない返しについ声が出てしまった。
でも、和人らしい返答に少し気分が和らいだ。
「俺、和人と親友になれて本当によかった!」
「なに言ってんだ。こんなとこでそれ言ったって感動なんかしねーよ!」
風呂場だってことをすっかり忘れていたことに気づき、2人して笑った。風呂場だということもあり、笑い声はよく響いていた。
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