パンダはクマにローリエを

秋月。

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パンダはクマにローリエを

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⚫キャラクター紹介

・男
歳は25歳。一児の父。
明るく振舞っているが、実際は無口。
大柄だが優しく、クマの様だと言われている。
・女
歳は23歳。一児の母。
前半は戸惑っているが、実際は明るい。
パンダの様な人気者の一面を持つ。

パンダはクマにローリエを
配役表 1:1:0
・男♂・・・
・女♀・・・

⚠台本として利用する際の規約⚠
https://writening.net/page?nJG7kt
作者ツイッター@autummoonshiroでも確認出来ます。


──────以下本編──────


大きな木の前に、二人の男女が立っている。
傍らには大きな箱が置かれている。

女:ん・・・ここは?

男:あー、やっと目が覚めた?

女:え?

男:さ、行くよ!

女:え、え!?
女:行くってどこに・・・!?

男:君の行きたい所なら何処でも!
男:さ、この箱に入って

女:(M)男に強く手を引かれた。
女:(M)何故か、顔が認識出来ない
女:(M)でも、この声は・・・


男が指差す先には電話ボックスの様な箱が置かれている。

女:大きな箱・・・


男:箱ぉ?
男:いいや、これはテレポーターだ

女:て、テレポーター!?

男:そうだよ
男:ちゃんと切符は持った?

女:き、切符!?

男:も~忘れたの?
男:切符もなしにテレポーターに乗るなんて、キセルで捕まっちゃうぞ?

女:テレポートするのにキセルとかあるの!?

男:当たり前だろ~、ちゃんとした交通機関なんだからさ

女:ええっ!?

男:いいや、早く入って!
男:少し狭いけど

女:ちょ、ちょっと、引っ張らないで

男:はい、俺の切符をあげる
男:ポケットにいれるよ?

女:あ、ありがとう・・・

男:何処に行きたい?

女:へ?

男:これはテレポーターだ
男:行きたい場所になら何処にだって行けるよ?
男:君は何処に行きたい?

女:え、えっと、そんな事よりここは・・・

男:はーやーくー!
男:行きたい場所を言って!

女:行きたい場所・・・

男:時間も場所も関係ない、このテレポーターでどこでも行けるんだ!

女:じゃあ、月に行ってみたい!

男:よしわかった
男:行きたい場所を強く想像して~・・・

女:へ・・・きゃあ!

男:ジャンプ!!!


男は女の手を引きながらその場で高く跳んだ。
女も男に引かれるがままにジャンプした。

男:よっと
男:大丈夫?

女:だ、大丈夫・・・
女:ここは?

男:ん~、月じゃなさそうだね?
男:とりあえず出てみよっか!

女:う、うん・・・

二人、箱の中から出る。

女:・・・お花畑だね

男:ああ、花が咲いてるね
男:どうしてこんな所へ?

女:へ!?
女:どうしてって私に言われても

男:行きたい場所を強く想像してって言っただろ?
男:君がここに行きたいと願ったはずだ

女:私が・・・
女:ねぇ、それよりも貴方は誰なの?

男:(被せるように)
男:この花の名前はなんて言うのかな?
男:君は知ってる?

女:これは月見草

男:やっぱり、知ってるんだね

女:薄みがかったピンクがすごく綺麗ね

男:ああ、ほんとに綺麗だ

女:月見草の花言葉はーーー

男:知ってる

女:そうなんだ
女:なんて言うの?

男:ん?
男:うーん・・・君も知ってるだろ?

女:教えてくれないの?

男:そんなことより、なんで月見草なんだよ!
男:君は月に行きたかったんだろ?

女:・・・なんでだろうね

男:んーーー、よし!
男:もう一回テレポーターに乗ろう!

女:折角綺麗な月見草が見れるのに、もう行っちゃうの?

男:君は月に行きたかったんだろ?

女:それは、そうだけど・・・

男:じゃあ、次へ行こう!
男:さ、箱に入って!


男は女の手を引いて箱の中に入る。

女:行きたい所を思い浮かべるのよね?

男:そ、強く想像するんだ
男:月は失敗しちゃったから、他の場所にしようか

女:うん

男:何処かある?

女:それじゃあ、また動物園に行きたい

男:また?

女:数日前にパンダを見に行ったばかりなの

男:そうなんだね
男:・・・楽しかった?


若干の沈黙。

女:初めて家族で出かけたの
女:若いうちに結婚して、すぐに娘も出来て、遊ぶ時間も碌に作ってあげれなくて・・・
女:毎日、静かに家で遊んでる子だったの

男:ある日お父さんがその子に「お母さんは昔パンダみたいに人気者だった」と教えた

女:そうなの!
女:そしたら、パンダを見に行きたいって言い出してね
女:・・・楽しかった、って聞いたわね?

男:うん

女:私の人生で、一番楽しい時間だったわ

男:それは何より!
男:よし、動物園のことを考えてー?

女:分かった

男:じゃあ、もう一個切符をあげよう


男は切符を女の手に渡す。

女:えっ・・・これ・・・

男:さーー!(遮るように)
男:準備は良い?

女:うん、動物園の事を考えてる

男:よし、じゃあ、ジャンプ!


男が指を鳴らし、二人で同時に跳んだ。
男は喋りながら箱を開ける。

男:さて、今度はー・・・?

女:ここは・・・。

男:また花の前だね?

女:これは黄色い、虎模様の、百合

男:そうだね
男:この花はーーー

女:チグリジア!
女:とても綺麗・・・!!

男:すごく綺麗だけど・・・動物園じゃない
男:また違う所に来ちゃった

女:・・・そうね

男:動物って話したから、虎を想像したとか?

女:それで、虎模様のチグリジアの前?

男:じゃない?

女:かもしれない、ふふ

男:お、やっと笑ったね

女:え?

男:君に笑って欲しくてテレポーターで逢いに来たんだ
男:ずーっと、物憂げな表情をしてた

女:・・・ありがとう

男:勝手にやってるんだ、感謝は要らない

女:そう・・・?

男:そうだよ!
男:さぁ、今度こそ行きたい場所をちゃんと思い描いて?
男:本当は植物園に行きたかったりするんじゃないだろうね?

女:どうでしょうね

男:次の場所は?

女:・・・秘密

男:・・・分かった!
男:行けば分かるしね
男:さ、また箱に入って!

女:うん

男:よし、ジャンプ!(指を鳴らす)


二人は箱の中でジャンプをする。

男:さ、着いたよ
男:ここは・・・?

女:・・・植物園

男:やっぱりね
男:これは?

女:白くて綺麗な花びらに、緑の葉

男:そうだね

女:これは艶やかに咲き誇る真っ白なアザレア

男:アザレア?

女:うん、とても綺麗な花でしょ?

男:・・・君は、花が見たかったの?

女:ううん、花を見せたかったの
女:貴方に

男:俺に?

女:私はね、アザレアなの

男:君がアザレア?

女:ふふふ


女は満面の笑みで男を見つめる

男:ふふ、なるほどね

女:貴方はこの意味が分かるでしょ?

男:どうしてそう思うの?

女:貴方の絵本にはいつも素敵な花が描いてあるから
女:それにアザレアは私たちの思い出の花だもの

男:・・・気付いてたのか

女:貴方が切符と言って渡してくれたの、葉っぱだわ
女:仄かに甘い香りがする、軽く襞を打つ様な葉
女:これは月桂樹の葉でしょ?

男:・・・そうだよ

女:貴方は、本当に花が好きね

男:これに関しては、ギリシア神話が好きとも言えるかな

女:素直じゃないのね

男:君こそ、チグリジアを1回挟んだじゃないか

女:試したくなっちゃって

男:試す?

女:チグリジアにどんな反応を示すかな、って

男:胸を突き刺すような事をする

女:ごめんなさい


僅かな沈黙。

男:答えは、月桂樹だよ

女:・・・そう


女は満面の笑みでそう答えた。

男:でも、もう、君の傍には居られない

女:何があったの?

男:交通事故だ

女:・・・・・・。

男:君は今、病院で眠っている
男:多分、もう目覚めない

女:そっかー・・・
女:ワープなんて、おかしいと思った

男:君みたいに明るく振る舞って見たかったんだ

女:可愛いな~、もう

男:な、撫でるなよ!
男:もう、いい歳なんだから!

女:年齢なんか関係ないよ
女:私は貴方が好きなんだから

男:好きなのと子供扱いも関係ないだろ・・・

女:もう最後なんだからさ

男:・・・・・・。

女:貴方は勘違いしてる
女:私はもう死んでるんだよ
女:夢を見てるのは、貴方なの

男:君は・・・ホントに強いな

女:別にそんな事ないよ
女:貴方には、貴方の強さがある
女:私達は別の人間なんだから、別の良さがあるのよ

男:君って奴は・・・

女:ね、あの子の事よろしくね?

男:俺に何が出来るか・・・

女:何もしなくても良いよ
女:あの子もまた、別の人間だから
女:あの子にはあの子の強さがある

男:ずっと遊びたかったろうに、この間までそんな事一度も言わなかったな

女:そう
女:あの子は、ちゃんと生きてる
女:我慢強くて、大人の世界が見えてる
女:その上で、本当に言いたいことはちゃんと言える

男:うん、その通りだ

女:大丈夫よ
女:でもね?

男:うん?

女:あの子は、私達が大好きだからそれが出来るの
女:別れは急に訪れてしまう
女:貴方は、あの子の元から、急に居なくならないでね

男:・・・ああ、分かったよ


また若干の沈黙

女:ねぇ
女:私はアザレアだよ
女:意味、分かるんだよね?

男:・・・勿論
男:俺は花のスケッチをするのに毎日植物園に通ってた
男:そして、植物園に併設されたカフェで君は働いていた
男:懐かしいな

女:毎日スケッチブック抱えて来るんだもん、笑っちゃう
女:私が初めて話しかけた時の事、覚えてる?


6年ほど前。
カフェの中。

女:また花のスケッチを書いてるんですかー?

男:へ?
男:ええ・・・

女:わー、すごい上手!
女:これ、アザレアですよね?

男:あ、えっと、描いてるだけで、花に詳しい訳じゃ・・・

女:アザレアの花言葉知ってますか?

男:花言葉?

女:貴方が描いた白いアザレア、花言葉は「あなたに愛されて幸せ」って言うんですよ

男:へぇ・・・
男:そんな花言葉が・・・

女:すごく素敵ですよね!
女:あー、こんな事言える日が来るのかなぁ・・・

男:来ると、良いですね

女:ふふ、来ます、絶対!


現在に戻る。

男:あの後、花言葉について少し調べる様になってね
男:俺は月桂樹の葉を君に贈ろう

女:アポロンは月桂樹を貰う側よ?

男:ああ、だから・・・

女:ほーーーんと、不器用なんだから
女:手を出して

男:ああ

女:私は貴方に、この月桂樹の葉を渡します
女:私はアポロンを超えるけどね

男:・・・ああ、俺もだ
男:ありがとう

女:私はこの人生が、バッドエンドとは思わない
女:でも、貴方やあの子を残して逝くのが、ハッピーエンドとも言いたくない
女:貴方が絵本の終わり方を毎回悩むのが、私は本当に大好きだった
女:結末なんて、簡単に決められるものじゃないから
女:・・・私は貴方に愛されて、あの子に愛されて、貴方達を愛して、本当に幸せだった
女:それだけは、ハッキリ言える
女:ありがとう


女は最高の満面の笑みを浮かべる

男:私は死ぬまで変わりません
男:これは永遠の愛を誓うものだ
男:俺達は、それを超える

女:そんなこと言ってると、いつか化けてあの子の所に行っちゃうかも

男:その時は、優しく撫でてやってくれ

女:何それー

男:君が撫でてくれるのが、俺は好きなんだよ

女:ふふ、そっか!
女:・・・そっか

男:あの子も、きっと同じだから

女:そうね
女:いつかそんなことになったら、必ずしてあげる!
女:じゃあ、そろそろいくね

男:・・・ああ

女:私は幸せだよ
女:月から見守ってるからな!

男:ああ!


男はうっすらと涙を浮かべながら、病室で目を覚ました。
腰掛けた椅子、その前には一つのベッド。
そこには笑顔のまま、二度と目覚めない彼女が眠っていた。
手にしたローリエを、強く握りしめた。



   fin.
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