彼女の心は止まっている。ー春ー

秋月。

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彼女の心は止まっている。ー春ー

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⚫キャラクター紹介
・駿河明仁(するが あきひと)
普通の高校に通う、普通の高校1年生。
渚との出会いをきっかけに、大きく生活が変わっていく事に。

・冬瀬渚(ふゆせ なぎさ)
容姿端麗で世界一の大富豪を父に持つ、住む世界が違う転校生。
ある目的を秘めてこの街に引っ越してくる。

・遠野・S・歩美(とおの・すぷりんぐ・あゆみ)
渚と一緒にやって来た高身長ハーフ転校生。
渚に仕えてメイドをやっているが、それには理由がある様子。

・城ヶ崎未捺(じょうがさき みなつ)
どこかマイペースな、明仁の幼馴染で同級生。
明仁に気がある様子だが、誰にも気づかれていない。

彼女の心は止まっている。
配役表 1:3:0
・明仁♂・・・
・渚♀・・・
・歩美♀・・・
・未捺♀・・・

⚠台本として利用する際の規約⚠
https://writening.net/page?nJG7kt
作者X(@autummoonshiro)でも確認出来ます。


──────本編──────



とある高校の教室で朝のホームルームが始まる。
教師が入ってくると、後ろに女生徒がついてくる。


明仁:全国の学生が新たな出会いに胸を膨らませる春。
明仁:新しい学校、新しいクラス、色んな出会いがあることだろう。
明仁:そんな出会いも落ち着き出して2ヶ月経とうという6月。
明仁:さて、君達のクラスに転校生が来たことはあるだろうか?
明仁:転校生に出会う確率ってのはかなり低いはずだ。
明仁:しかも6月なんて微妙な時期にやってくる転校生なんてメッタに居ない。
明仁:少なくとも、俺の経験ではそう。
明仁:まだたったの15年しか生きてないけどさ。
明仁:そう、そんな人生15年目の春、つまり高校1年生になったばかりの俺のクラスに、初めての転校生がやってきた。
明仁:しかも美少女だった!
明仁:とんでもなく美少女だった!!
明仁:風になびくさらっさらのロングヘア。
明仁:はっきりと存在を主張してくる双丘。
明仁:なのに引き締まったボディに嫋やかな腰つき。
明仁:何度でも言う・・・とんでもない美少女だった!!!


渚:「1-Cの皆さん初めまして、冬瀬渚(ふゆせ なぎさ)と言います。今朝から家の建設が始まって、放課後には正式にこの街に越してくる予定です。分からないことばかりですがよろしくお願いします!」


明仁:ん?今の自己紹介なんか変じゃなかった?
明仁:ってそんなことより、声も可愛いって最高かよ!
明仁:なんていうか、最高かよ!!


渚:「えっと、私の席は───」

明仁:「俺の隣のスペース空いてます!」

渚:「では、そちらに致しますね」


明仁:先生も「それでいい」と言ってくれた。
明仁:ぐっじょぶ先生!
明仁:あの先生(かっこ、まだ進級したばかりなので印象が薄くて名前も覚えてない。かっことじ) には今度マカロンでも送ってあげよう、心の中で。


渚:「隣ですね。改めてよろしくお願いします。えっと───」

明仁:「明仁(あきひと)。駿河明仁(するが あきひと)だ!よろしくな」

渚:「明仁君ですね、よろしくお願いします」

明仁:ぐっっっっはぁ・・・!!
明仁:か、可愛すぎる・・・!
明仁:笑顔眩しすぎか??
明仁:こんな美少女に名前呼んでもらえるの、俺!?
明仁:アルカイックスマイルのモナ・リザも思わず歯を見せてにやけちまうぞこんなの!
明仁:16年目にして始まったかも。
明仁:ただのパンピーとして歩んできた俺の線香花火よりも弱い光だった人生に、太陽よりも眩しい笑顔が差し込んできたんだ!!
明仁:俺の人生、始まったーーー!!!


渚:彼女の心は止まっている。(タイトルコール)


放課後。
公園のベンチに明仁は座っている。


明仁:「終わった・・・。」
明仁:俺は絶望に打ちひしがれながら、実家の前にある公園のベンチに座っていた。
明仁:ロダンの考える人か?ってくらいじーっと固まって座っていた。
明仁:やー、待て待て、言い直そう。
明仁:正確には実家『だった』場所の前にある公園だ。
明仁:まず、君達には俺の本日のウルトラスーパーハッピーライフを聞いてもらおう
明仁:はい、どうぞ。
明仁:・・・何こっち見てんだよ。
明仁:・・・早く行けって!
明仁:一瞬でも幸せだったあの頃を自慢させろーーー!!!


時間は遡り学校。
渚の自己紹介が済んだ直後に戻る。


歩美「失礼します」


明仁:渚ちゃんが席に座るともう1人廊下から教室に入ってきた。
明仁:え、この時期に転校生2人もくる!?
明仁:転校生自体がレアだと思うのに・・・

歩美:「遠野(とおの)・S(スプリング)・歩美(あゆみ)だ。お嬢様と同じく今日からこの街に越してくることになった。」

明仁:えらく粗暴な態度で、後から入ってきたもう一人の転校生が言った。
明仁:さっき微笑んでくれたモナ・リザも一瞬でしかめっ面になったことだろう。
明仁:・・・って、スカートはいてるし髪は長いし女の子、なんだよな?
明仁:俺と同じくらい身長あるんじゃ・・・でっけぇ・・・

渚:「ちょっと、お嬢様はやめてってば!」

歩美:「失礼いたしました。お嬢様」」

渚:「なおってない!」

歩美:「すみません・・・えっと」

渚:「呼び捨てでいいわよ」

歩美:「かしこまりました、渚」

明仁:ふむふむなるほど、どうやらこの転校生二人は知り合いらしい。
明仁:って・・・オジョウサマって言った?
明仁:え、いま、オジョウサマって言った!?

歩美:「自己紹介は特にない。仲良くとかもしてくれなくて良い。おい、お前」

歩美はそれだけ言うと明仁の前に立った。

明仁:オジョウサマって言ったら、お嬢様か?
明仁:っていうとあの「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」とかいうあの?
明仁:って、いやー待て待て、この例えはお嬢様っていうよりお貴族様だな?

歩美:「おい、聞いてるのか?」

明仁:「へ!?俺!?」

歩美:「お前に決まってるだろう。私はお嬢様の隣に座る事になっている。席を開けてくれ」

明仁:「・・・はぁ!?」
明仁:せっかく掴んだ最高の席の配置、そう簡単に譲ってたまるか!!

歩美:「何度も言わせるな。私はお嬢様の隣に座ることになっているんだ、席を移動してくれ」

明仁:「どうしてそんな事───」

歩美:「私はお嬢様のボディガードをしている。常にお嬢様の側にいる決まりだ」

渚:「あーゆーみ!学校には学校の決まりがあるから、それに従って」

歩美:「しかしお嬢様、それでは───」

渚:「呼び捨てにしてくれなきゃもう口聞かないから。明仁君にも迷惑をかけないで」

歩美:「お、お嬢様!?そ、そんな、口を聞かないだなんて・・・お嬢様と一生お話しが出来ない・・・?つまりお嬢様の声が私に向けられる事がなくなる・・・?そんな・・・え、どうして、え、え・・・」

明仁:「え、えーと・・・」

未捺:「めんどくさいなぁ。アキが私の隣に来て、その隣に冬瀬さん、その奥に遠野さん。はい決定~」

明仁:ひどくうろたえる遠野さんを無視して、急に話を仕切り出したのは幼馴染みの未捺。
明仁:小学校からの同級生で、とにかくマイペースな奴だ。
明仁:今回はそのマイペースに助けられたかも・・・しかも
明仁:「ナイス提案、そうしよう!」

未捺:「はい、早く移動して~」

明仁:「分かったよ」

渚:「ありがとうございます・・・」

歩美:「お嬢様が・・・お嬢様が・・・」

渚:「歩美!」

歩美:「は!申し訳ありません!」

渚:「もう・・・明仁君と逆隣の席に机運んで?」

歩美:「かしこまりました」

渚:「同級生として振舞って欲しいのに・・・(小声)」

歩美:「何でしょうか?」

渚:「あ、ううん、なんでもないの。授業もあるし早くしましょ」

明仁:「未捺(みなつ)、ありがとうな 」

未捺:「なんか長くなりそうだったからさ~」

明仁:「確かに」

未捺:「私は授業の邪魔にならないならなんでもいいからさ~」

明仁:「適当だなぁ・・・」

未捺:「そんな事ないよぉ、興味無いだけ」

明仁:「それを適当って言ってるんだよ!」

未捺:「え~、テレるなぁ」

明仁:「褒めてない!」

渚:「ふふっ」

明仁:「へ?」

渚:「あ、ごめんなさい。仲良しなんだなぁって」

明仁:「ああ、小学校からの幼馴染みなんだ」

未捺:「城ヶ崎 未捺(じょうがさき みなつ)だよー、よろしく~」

渚:「今日からよろしくお願いします」

未捺:「こちらこそ!」


明仁:っていうのが今朝の一連の出来事。
明仁:渚ちゃんという最高の女神と、遠野っていう最悪にイヤーーーな奴と同時に知り合うことになった。
明仁:とはいえ、未捺のおかげでなんとか渚ちゃんの隣っていうベストポジションを維持することは出来た!
明仁:運命の女神もまだまだ微笑んでるぜ、渚ちゃんには負けるけど。


チャイムがなり、時間は一限目の開始時刻まで進む。


明仁:そんなこんなで一限目。
明仁:転校生っていうのはきっと教科書とかもまだ準備出来てないハズだ。
明仁:隣の席の俺が見せてあげるのは当然のこと・・・よし

明仁:「あのさー渚ちゃん、良かった教科書───」

歩美:「お嬢様、教科書を先んじて用意しておきました。よろしければお使い下さい」

渚:「ありがとう歩美。でも、お嬢様も敬語もやめて」

歩美:「ま、まだ慣れてなくて、すみません、お嬢───」

渚:「なーぎーさ!」

歩美:「はい、渚」

未捺:「しばらくかかりそうだねー、あれ」

明仁:「どういう関係なんだろう?」

未捺:「知らないよ~、面白ければなんでもいい!」

明仁:「はぁ・・・」


明仁:相変わらず、未捺はなんか適当だ。
明仁:こうして、ちょっとした話すチャンスも掴むことが出来なかった。

チャイムがなり、時間はお昼ご飯へ進む

明仁:お昼ご飯も似たような感じ。

明仁:「渚ちゃーん、良かったらお昼───」

歩美:「おじょ・・・渚、お昼ご飯の用意があります。一度外へ行きましょう」

渚:「ん、分かったわ」

明仁:俺は真実の口みたいに空いたままになった口が塞がらなくなった。

未捺:「あはは、全然相手にされないじゃーん」

明仁:「うるせっ!俺は今真実の口になってるんだ!」

未捺:「なにそれ~」

明仁:「口が開いたまま銅像みたいにかたまってる」

未捺:「しょーもな。じゃあ今日は学食奢ってあげるよ~」

明仁:「え、まじ!?いくいく!!」

未捺:「あーでも、口が開いたままなら噛んだり出来ないからジュースでいいね」

明仁:「閉じまーす、簡単に閉じまーす!」

未捺:「嘘ついたの?手が抜けなくなるよ?」

明仁:「こういうのは冗談って言うんだよ!」

未捺:「はいはい、学食行くよ」

明仁:「ごっつぁんでーす!」


明仁:後々考えるとお嬢様って言ってたり、ご飯で外に行ってたり、色々おかしな所はあったんだけど、渚ちゃんの可愛さとか遠野へのイライラとかであまり深く考えたりしなかったんだ。


チャイムがなり、放課後になる。


明仁:そして放課後。
明仁:ついに冷静になる時が来る。

未捺:「バイトの面接あるからお先~」

明仁:それだけ言って未捺はすぐに帰った。
明仁:ホント、マイペースな奴だ。
明仁:俺はそれより、渚ちゃんと帰るんだ!

明仁:「ねぇ、渚ちゃ───」

歩美:「さ、帰りましょう渚」

明仁:うん、もう知ってた。
明仁:だが、ここで挫ける俺ではない!

明仁:「あの、良かったら俺も一緒に」

歩美:「はぁ?キサマは何を言ってるんだ」

明仁:「い、良いだろ!一緒に帰るくらい!」

渚:「ごめんなさい」

明仁:「ええっ!?ダメだった!?」

渚:「いえ、その・・・お迎えが来てるんです」

明仁:「お迎え?」

歩美:「校門の前に車が来ているだろう」


校門の前には乗用車数台分ほどの巨大なベンツが停まっている。


明仁:「校門のま・・・でっっっけぇベンツ!!!」

渚:「お父様がベンツが大好きで・・・あ、良かったら一緒に乗りますか?」

歩美:「いけません、お嬢様!そんな得体もしれない男を───」

渚:「明仁君よ。得体は知れてます」

歩美:「んぐ・・・!」

明仁:「え、えっと、渚ちゃんが良いなら是非!」

歩美:「キサマ・・・!!」

渚:「キサマなんていうのやめて!明仁君ってちゃんと呼びなさい」

歩美:「あ、あ゛き゛ひ゛と゛く゛ん゛・・・」

明仁:うん、めちゃくちゃ嫌そう。
明仁:般若みたいな形相でこっちを見てる。
明仁:見てる・・・?
明仁:いや、にらんでるなアレは。

渚:「せっかくお隣になったし、良かったら車の中でお話ししましょ?」

明仁:「うん!」

明仁:こうして俺は遠野の形相にも、地獄の怨嗟(えんさ)の様な声にも負けず、渚ちゃんと一緒に帰るというえんま大王も大喜びの権利を獲得した!
明仁:負けない、負けないぞ・・・怖いけど。


歩美:「どうぞ、お乗り下さいお嬢様」

渚:「むぅ・・・」

歩美:「もう学校は出ましたので」

渚:「はぁ・・・分かったわ。明仁君、乗って?」

明仁:「あ、ありがとう・・・。こんな大きな車、緊張しちゃうな」

明仁:それだけじゃないけど。


怒りをこらえて睨みつける歩美。


歩美:「ぐ、ぐぐぐ、、、」

明仁:ほんと、それだけじゃないけど!

渚:「えっと、明仁君はどの辺りに住んでるの?」

明仁:「ああ、えっと、四季公園って公園が近くにあるんだけど、越してきてすぐじゃ分からないかな?」

渚:「んー・・・」

歩美:「目印になるようなものは?」

明仁:「大きいタコの滑り台があるかな」

渚:「え、タコの・・・!」

歩美:「私たちの家もその近くだ」

明仁:「え、ほんとに!?席だけじゃなくて家も近くなんだ!」

渚:「ご近所さんなんですね」

明仁:「え、じゃあ、公園からどれくらい行ったとこ?」

歩美:「公園の目の前だ」

明仁:「へ?」

歩美:「公園の目の前だ」

明仁:「公園の・・・?」

渚:「公園の前なんです。道路を挟んだ目の前で、タコさんと向かい合うような位置です」

明仁:「ええええ!?」

歩美:「いきなり大きな声を出すな!」

渚:「どうしたんですか?」

明仁:「俺の家もそこだよ!同じアパートって事だ!」

渚:「アパートですか・・・?」

歩美:「私たちはアパート住まいではない。今朝方工事が始まって、お嬢様が帰る頃には家が建つ手筈になっている」

明仁:「あー、それ朝も言ってたよね?建設中みたいな」

渚:「そうなんです。どうしても、この四季町に住みたくて、お父様にわがままを言ってしまいました」

明仁:「でも、そんなすぐに家なんて───」

歩美:「それを可能にするのが『北条院』だ」

明仁:「北条院・・・?」

歩美:「『北条院』を知らないのか?」

渚:「お父様が少し有名なんです」

明仁:「え・・・まさか、北条院って、あの・・・?」

歩美:「渚お嬢様は世界一の大富豪であり、各業界に強いコネクション持つ北条院グループの会長『北条院権蔵(ほうじょういん ごんぞう)』氏の一人娘だ」

渚:「冬瀬というのは母方の苗字なんです」

明仁:「え、ええ、えええええええ!?!?」

歩美:「『北条院』に不可能はない。芸能界、金融界、政界、何処においても『北条院』グループの力は絶大だ」

明仁:す、すげぇ・・・
明仁:お嬢様って言ってるし何かあるのかもとは思ってたけど、ここまでとは・・・
明仁:俺、凄い人と知り合っちゃったのかも

歩美:「お前とは住む世界が違うんだ、分かったな」

渚:「ちょっと、何の話しよ!失礼な言い方やめてってば」

歩美:「申し訳ありません、お嬢様」

渚:「もう・・・あ、四季公園が見えてきました」

歩美:「この当たりでもういいだろう」

明仁:「うん・・・」
明仁:あまりの出来事に呆気に取られて、適当な返事をしてしまった。
明仁:軽い気持ちでアタックをしてたけど、遠野の言う通りかもしれない。
明仁:『住む世界が違う』
明仁:その言葉がすごく胸に突き刺さってしまった。


車が1度止まる。


明仁:「今日はありがとう。それじゃ・・・」

渚:「こちらこそ、また明日学校で」

歩美:「・・・・・・」

渚:「明仁君?大丈夫ですか?」

明仁:「へ、ああ、うん・・・。まあ明日ね」

明仁:俺はそれだけ言って、そそくさと車を降りた。
明仁:降りた途端、扉が閉まる音がした。
明仁:その音がひどく耳に残った。
明仁:渚ちゃんと俺の間に、扉が閉まったような、鍵をかけられたような。


とぼとぼと歩き出す明仁。


渚:「大丈夫かしら・・・なんか、うわの空だったような」

歩美:「大丈夫ですよ、お嬢様。彼は住む世界の違いを目の当たりにしてしまっただけです」

渚:「『住む世界が違う』かぁ・・・。同じ所に住んだら変わるのかしら・・・?」

ため息混じりに物憂げに言うとさらに小声でボソリと呟く。

渚:「また会えるかな、シュン君にも・・・」


明仁はそのまま公園を横切り、公園から家の方を見上げる。
そして、あることに気が付く。

明仁:「い、家がない!?どーなってるんだ!?」

明仁:俺の実家ことアパートがあった場所には遊園地か?ってくらい大きな屋敷が建っていた。
明仁:二人が言ってたのはこの事か・・・!!
明仁:朝家を出る時は工事も何もしてなかったのに、どうなってるんだよ!!

歩美:『北条院に不可能はない』

明仁:不可能はないって・・・なんでもありすぎるだろ!?
明仁:俺の家はどうなっちまったんだよ・・・。
明仁:そもそも母さんと父さんは何処に・・・?

歩美:『住む世界が違う』

明仁:ああ・・・ホントなんだ。
明仁:俺の常識なんか通用しない世界があるんだ・・・。
明仁:遠野のガードで話しかけられないし、格の違いも見せつけられるし、挙句の果てには家もない・・・。
明仁:「終わった・・・」
明仁:俺の新しい恋が・・・。
明仁:家もないし、両親もどうしてるか分かんないし、どうしたらいいんだ、これ?
明仁:冒頭でも言った通り、俺は公園のベンチに座って考え込んでしまった。
明仁:ロダンの考える人みたいにな。
明仁:色んな現実が雪崩のように一気に押し寄せてくる。
明仁:「はぁ・・・」

未捺:「あれ、アキじゃん。何してんの?」

明仁:「ああ・・・未捺の幻聴まで聞こえ始めてきた・・・奴はバイト中だ」

未捺:「勝手に幻聴にしないでよ。バイト中だよ?」

明仁:「へ?」
明仁:顔を上げるとそこには、メイド服を来た未捺が居た。
明仁:「・・・メイド?」

未捺:「そうそう、似合うでしょ~」

明仁:「どうして?」

未捺:「似合うことに理由がいりますか~?」

明仁:「いや、そうじゃなくて!どうしてメイド服?」

未捺:「メイドになったから」

明仁:「え、バイトってそういう?この辺にメイド喫茶なんてあったっけ?」

未捺:「ううん、本物のメイド」

明仁:「本物・・・?」

未捺:「そんなことより、何してるのって」

明仁:俺はここまでの出来事を簡単に説明した。

未捺「今朝の転校生がめちゃくちゃお金持ちのお嬢様で、しかも家に帰ったら自宅がいきなり豪邸になってて、両親が2人とも居なくなってた?へー、そうなんだ。楽しそうでいいね」

明仁:「絶対適当だろ・・・」

歩美:「未捺、何をしてる」


歩美が少し遠くから声をかけて近づいてくる。


明仁:「え、遠野までメイド服?」

歩美:「げ・・・お嬢様に寄り付く虫がこんな所で何をしてる」

未捺:「そうだよー、何してるの?」

明仁:「俺は、その、色々あって・・・。2人こそなんでメイド服来てこんな所に居るんだよ」

歩美:「さっきも説明しただろう、公園の前がお嬢様の家だと」

明仁:「ああ、渚ちゃんの家だろ?」

歩美:「お前・・・あんなに大きな屋敷にお嬢様が1人で暮らすとでも思ってるのか?私は住み込みだ」

明仁:「あ、なるほど・・・」

未捺:「ちなみに私も~」

明仁:「ああ、そうなんだ・・・って、ええ!?」

未捺:「ほらほら、歩美ちゃんと同じ格好でしょ~?」

明仁:「さっきの話聞いてた?」

未捺:「聞いてたよ?」

明仁:「今朝の転校生がめちゃくちゃお金持ちだったのは知ってたの?」

未捺:「まぁ、面接受けたからね」

明仁:「俺の家の場所知ってるよな?」

未捺:「渚ちゃんの家になってるね」

明仁:「父さんと母さんのことは?」

未捺:「それは流石に知らないよ~」

明仁:「Oh・・・。どんな気持ちで俺の話聞いてたんだよ」
明仁:まーた真実の口みたいに口が開いたままになるとこだったぜ。
明仁:外国人みたいなコテコテのリアクションはとっちまったけどな!

未捺:「え~、言ったじゃん。楽しそうでいいねって」

明仁:「楽しくねぇよ!!!」

歩美:「おい」

明仁:「何だよもう!」

歩美:「お前はここのアパートに住んでいたんだったな?」

明仁:「あ?そうだよ」

歩美:「なら、駿河という人を知らないか?」

明仁:「駿河ぁ?」

歩美:「駿河だ。アパートの住人には大体連絡が付いているんだが、駿河家の息子にだけまだ連絡が取れていなんだ」

明仁:「俺だよ」

歩美:「は?」

明仁:「俺だよ、俺!駿河明仁!」

歩美:「・・・そんな名前だったのか」

明仁:「覚えとけよ!!」

歩美:「自己紹介もされてないのに知るか。丁度良かった、お前の親から手紙を預かってる」

歩美はそう言うと手紙を取りだし、明仁に渡した。

明仁:「手紙って・・・。えーと『学校お疲れ様。貴方が出て直ぐに黒服のイケメンのお兄さん達が今すぐにこの家から立ち退いて欲しいってお金がパンパンに詰まったアタッシュケースをくれたから、立ち退くことにしました。お母さんとお父さんはこのまま世界旅行に行きます♥︎︎貴方の面倒は『北条院』って人が見てくれるそうなのでお任せしました。じゃ、行ってきまーす♥︎︎バイバイ』」


三人は呆気に取られ黙り込んでしまい、若干の沈黙が流れる。


明仁:「・・・え、軽っ!!!いくらなんでも軽すぎない!?」

未捺:「あはは、ホント楽しいお母さんだね~」

歩美:「なんというか、豪快だな」

明仁:「俺も連れてけよ!!」

未捺:『P.S 俺も連れてけよって言うかもしれないけど、せっかく高校入ったばかりなんだし明仁はちゃんと勉強頑張ってね♥︎︎』

明仁:「だぁぁぁっっ!!!先読みすんな!!!」

未捺:「あはははーおもしろーい!」

明仁:「笑えねぇよ!!」

歩美:「その手紙貸してくれ」

明仁:「ん、はいよ」

明仁は手紙を歩美に渡す。

歩美:「北条院が面倒を見る、か。という事らしいがどうする?」

明仁:「ど、どうするって・・・」

歩美:「来るか?お嬢様のお屋敷に」

明仁:「・・・そうするしかないだろ」

歩美:「そうか。ならついてこい」

明仁:「あんなに俺の事嫌がってたのに、屋敷に入れていいのかよ」

歩美:「明仁、君はたった今から客人になった。最低限の礼儀は尽くす」

明仁:「住む世界が違うんだろ?」

歩美:「それがどうかしたのか?」

明仁:「そんな底辺の人間を入れていいのかって言ってんだよ!」

歩美:「そんな言い方はしてないだろう!」

未捺:「めんどくさいなぁ。行くんでしょ、ほらほら」


未捺は向かい合って言い合う2人の背中を軽く押す。


明仁:「なっ!?」

歩美:「きゃっ!」

未捺:「面倒見るって書いてあるんだからもう決まってるんだよ。アキにも歩美ちゃんにも決定権はないの。言い合ってもしょうがないでしょ~」

明仁:「それは・・・」

歩美:「そうだな・・・。ありがとう、未捺」

未捺:「いえいえ~。さ、行きましょ」

明仁:「ああ」

明仁:こうして俺は母からの手紙と未捺にうながされて、北条院の御屋敷・・・というか、渚ちゃんの家に向かうことになった。
明仁:・・・が、待て。
明仁:その前に───

明仁:「きゃって可愛い声出した?」

歩美:「!?」

明仁:「出したよな?」

歩美:「う、うるさい、忘れろ!」

未捺:「ふふ、仲良いなぁ」


2人同時に返事をする。


明仁:「良くない!」

歩美:「良くない!」

明仁:そうこうしてる間に、屋敷の裏口に到着する。するとそこには───


渚が駆け寄ってきて、真っ先に歩美に近づく。


渚:「歩美!遅いから心配したのよ」

歩美:「は、申し訳ありませんお嬢様」

渚:「知り合いの使用人はじいやと貴女だけなんだから、不安にさせないでよ・・・」

歩美:「お、お嬢様!?そ、そんなにも私の事を頼りにしてくださっていたなんて・・・!ありがとうございます!」

渚:「あら、未捺も!メイド服すごく似合ってるわ!」

未捺:「ほんと~!?似合ってる?うれしいなぁ」

明仁:メイド服をひらひらさせて、未捺は本当に嬉しそうだ。
明仁:なんか、意外だな・・。。
明仁:メイド服も、それを似合うって言われて喜ぶのも。
明仁:付き合いは長いけど、俺の知らない未捺も居るんだな・・・。

渚:「さっきじいやから此処に住み込みで働くって聞いたけど本当かしら?」

未捺:「本当だよ~!あらためてよろしくね」

渚:「ええ、よろしくね!」

明仁:丁寧な対応に、純新無垢な笑顔、それにじいやってワード・・・。
明仁:お嬢様って感じだ。
明仁:本当に、『住む世界が違う』のかもしれない

渚:「それで、明仁君はどうして・・・?」

歩美:「お客人として迎えることになりました」

明仁:「あ、えっと、北条院にお世話になれって・・・」

渚:「北条院の・・・?」

歩美:「明仁、さっきの手紙をお嬢様にも」

明仁:「ああ、そうだな」


明仁は手紙を取り出すと渚に手渡す。
それをしっかりと読み込む渚。


渚:「なるほど・・・。お部屋は沢山余っていますからどこでも使ってください」

明仁「や、その、迷惑じゃあ───」

渚:「そんなこと一切ないです!むしろ、いきなり家を建ててしまってごめんなさい。巻き込んでしまう方のことなんて、考えた事がなかったから・・・」

明仁:本気で悲しそうな顔をしている。
明仁:なんて優しい子なんだろうか。
明仁:俺は・・・どうするのが正解なんだろう
明仁:黙って俯いてしまった。
明仁:こういうのを言葉が出ないって言うんだろうか。

未捺:「さっきも言ったけどさ~、もう決まってるんだから迷惑とか気にしても仕方ないじゃん。アキ、ここに泊まらなかったらアテあるの?」

明仁:「ない、けど・・・。だからって、そう簡単に───」

未捺:「めんどくさい」

明仁:「うぐ・・・」

未捺:「ウダウダ言わない。厚意は受ける。いいね?」

明仁:「ああ・・・」

渚:「明仁君」

明仁:「ん?」

渚:「今日から同じ屋根の下で暮らすんです、よろしくお願いしますね」

明仁:「な、なな、ななな、」

明仁:なんだってーーーーー!!!
明仁:冷静に考えればそうだよな!?
明仁:そういうことになるよな!?
明仁:親の事とか家がないとかで一杯になってて全然気づいてなかったーーー!!!
明仁:え、この、女神の様な笑顔を俺に向けてるスーーーーパーーーー美少女と、一緒に暮らすの!?
明仁:あーやば、やばやば、なんて返したらいいんだろう。
明仁:頭真っ白だわ、こういうのを言葉が出ないって言うんだろうな。
明仁:違うか、違うよな。
明仁:あー、何考えてんだよ俺、くだらねぇ事考えてんなよ

歩美:「よろしく、明仁」

未捺:「あ、じゃあ、私も改めてよろしくぅ~」

明仁:俺は精一杯の声と、精一杯のお辞儀をした。
明仁:いくら考えたって、結局これくらいしか出来ないんだよな・・・よし。

明仁:「あ、えっと・・・こちらこそ、よろしくお願いします!」

明仁:こうして俺の新生活が、本当に始まった。


若干の間の後に喋り出す。
場所は切り替わり、屋敷の中。


歩美:「1階はほとんど客間だと思ってくれ、2階に居住に必要な設備は揃ってる。明仁の部屋も2階だ。母親から荷物も預かっている」

明仁:「荷物?」

歩美:「明仁の部屋にあった物だろう。ダンボール2つ分だ。未捺、運ぶのを手伝ってくれ」

未捺:「はーい」

明仁「へ、いやいや、俺が運ぶよ」

歩美:「明仁は客人だ。気にする事はない」

明仁:「気にするよ!ダンボール2つって結構な量だろ?女の子に任せっきりには出来ないだろ」

歩美:「おん・・・!?」

明仁:「何だよ?」
明仁:遠野の方を見るとホントに人の顔か疑いたくなるくらい真っ赤な顔をしていた。
明仁:タコかなんかなのかこいつ・・・。

歩美:「い、今、わ、わた、私の事を、女の子っていったか!?」

明仁:「女の子だろう?」

歩美:「そ、そそ、そうか、そうだな、女の子だなぁ!?」

明仁:「おい、どうしたんだよ」

歩美:「い、いや、大丈夫だ。じゃ、じゃあ、荷物は明仁に任せよう」

明仁:「おう!」

歩美:「女の子、、、わたしが、、、女の子、、、」


ボソボソと繰り返す歩美。


未捺:「そしたら、どうします~?」

歩美:「とりあえず、すぐに頼むような仕事はないはずだ」

渚:「それなら、お風呂に入りませんか?明仁君も居るから、女の子で一緒に入っちゃいましょう」

歩美:「かしこまりました、お嬢様。それではそのようにさせて頂きま・・・は!?お待ち下さいお嬢様、それでは私はお嬢様と一緒にお風呂に入るということでございますか!?それはなんというか、その、あの、えっと、ご、ごごご、御一緒させて頂きまぶはっ(鼻血)」

渚:「え、歩美!?」

未捺:「忙しい人だなぁ~」


明仁 :顔を赤くして鼻血を出しながら倒れる歩美と、それを笑いながら受け流す未捺。
明仁:そしてそれに慌てる渚ちゃん。
明仁:なんていうかこの光景を見ていると、暫くは飽きない生活が送れそうだ。
明仁:もう少しすると暑くなり、アルカイックスマイルをしたモナリザも、ロダンの考える人もじんわりと汗をかき始めることだろう。
明仁:ま、俺は渚ちゃんと同じ家にいるってだけでもうドキドキしちゃって、体が暑くなってるんだけどさ。
明仁:そんな色々な期待と不安を胸に、春は暑さを増して、夏に変わっていくのであった。


続く。
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