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しおりを挟む灰色のコンクリートと、綺麗に色を揃えられた四角い石がみっちりと敷き詰めた歩道……
昇り始めた朝の光が、足を急ぐ人の波の合間から漏れて地面を照らす——
今日は雨じゃない……——
そんな風に始まる1日が、青葉は少し気に入っていた。
一流企業が集まる首都のビジネス街は、その景観は確かに美しく人工的な自然を上手く取り入れ、コンクリートの中に緑が映えるよう整えられている。
あくまでデザインされた人工的な自然だとしても、案外人はそこに癒しに感じるものだ。
青葉の新しいアルバイト先は、その人工的な緑と最先端の技術を取り入れられたビルの一つ、大手上場企業の自社ビル一階ので営業されるカフェにあった。
27歳 Ω アルバイト
それが、……安斎 青葉の全て。
この生活からなんとか脱したい……それは青葉の頭の中で常に思い浮かぶ、悩みで希望で足枷だった。
中心地から満員電車で1時間半程の場所にある狭くてカビ臭い古いアパートが青葉の生活拠点で、最近ではほぼ毎朝その小さな部屋の小さな折り畳み机の上で青葉は目を覚ます。
時折悲鳴を上げ、手をバタバタを動かし、汗をビッショリとかいて……。
舌を噛んでしまった事もある程だ。
荒い息を吐きながら起き上がると、体中がポキポキと音を出して節々に痛みが走る。
机に広げたノートも参考書も汗やら皺やらで随分と年季が入ったような物に見えてきた。
「やっぱり……布団で寝ないとダメか……」
そう独り言を呟いて、一向に進まないノートと参考書を閉じた。
仕事から戻り、資格取得の為に勉強をしようとしても、体は気づいたら寝落ちしている。年齢によって体力は格段に落ち始めている。
そして、青葉の見る夢は、決して青葉に心地の良い安眠をさせてはくれなかった。
昔の夢——
楽しかった、幸せな頃の思い出——
部活に友達に大好きな家族、そして……——
ピアノの音——
ああ、戻れたんだ——!
何も起きてない……あれこそが夢だったんだ……——!
そんなありもしない幻に青葉が笑みを浮かべていると、雨の匂いがほのかに鼻をつく……
見上げた空から降り落ちる雨と共に、そのまま青葉を真っ逆さまに突き落とすあの日の出来事が、追体験として鮮明に目前へ映し出される。
やっぱり、現実だ——
そう思って目を醒ませば、より生々しい絶望感に襲われて、暫く体は動けなくなった。
最近は、その繰り返しだ。
いくら嫌だと望んでも、寝ている間も安息は訪れなかい。
青葉の体が段々と硬直が解けて動くようになると、そのまま機械的に朝の支度に動き出す。
あのピアノの音が、一向に記憶から消えてくれない——
大好きで、胸がときめいて……——
大嫌いで息をするのも苦しく胸を締め上げる、あの曲を弾く、あの人の姿も……——
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