そのΩ売りました。オークションで。

塒 七巳

文字の大きさ
13 / 31

13

しおりを挟む
 
 
 
「…手術をしようと思ってます。もう2度と、ヒートが起きない体に…Ωを産む事もない様に…」
 
 瑞稀は大学の、東條の部屋に居た。
 
 向かい合って座る青白い顔の瑞稀から発せられた言葉に、東條は目を見開き、手で口を覆う。
 
 明らかに動揺する東條を前にしても、瑞稀はさしてどうとも思わない。

「それが瑞稀ちゃんの望みなら止めない…。僕に、それは…言えない…同じΩの大変さや苦しみは理解出来るからね。
 でも、君を必要として、君が必要に思う人が現れるかもしれない。取り返しのつかない事をして、後悔しないで欲しい。
 …僕の事も軽蔑する?」
 
 東條は優しく、瑞稀を労る様に言葉を掛けた。

「まさか…。先生を軽蔑する理由がありません。どちらかと言えば…大多数のΩは先生のような生き方に、憧れを持っています。希望を持てると思います…」
 
 瑞稀も、叶うなら…いや、そんな事は関係ない、と思い直す。瑞稀は東條とは違うのだから…

「僕が番に出会うまで…確かに過酷だったよ。いろんな意味でね。経済的にも、精神的にも…僕達に課せられた性質は残酷だけれど、僕は今後悔してない。
 1人じゃないから。
 だから、君に訪れる幸福を諦めないで欲しい。一年後…三年後、瑞稀ちゃんがどうなってるかは誰にも分からないよ」
 
 
 
 先生は、極々稀な、幸せに辿り着けたから…番を見つけて子供も居て…
 
 私の母は、子供を産まされて、飛び降りて呆気なく死んだのに…と、瑞稀は心の中で溢してしまう。
 
 そして私は、経済的に追い込まれて体をαに売った…
 
 
 東條は関係無いのに、卑屈な思いに蓋が出来ない。
 
 腹が立つ
 情けない
 逃げ出したい
 
 自分が心底嫌で吐き気がした。
 
 産まれて来なければ、もし自分がαなら…
 
 瑞稀は手のひらに血が滲むほど、ぐっと手を握りしめた。









「同じ学部にもΩの男の子が居るんだけど、凄く人気者なの。
 アメリカだと抑制剤の認可も下りてる範囲が凄く広くて、自分に合う抑制剤を飲んで上手く付き合ってるって感じかな。Ωの権利をはっきり主張するから、逆にαがなんか肩身狭いくらい…」
 
 美玲は久しぶりに会った恋人を前に、美味しい料理とお酒を楽しんでいる。
 
 大好きな恋人を前に、瑞稀の話は止まらない。
 
 時差を気にしながらも、オンラインで顔を見ながら話は出来たが、やはり直接会うと、美玲は喜びと興奮を抑えられなかった。
 
 最新の車で迎えに来た恋人は、美玲の好きな花を小さなブーケにして贈ってくれた。
 会いたかった、と言葉を添えて。
 
 
 そして行き先は雰囲気の良い、話題のレストランだ。
 いつも、こうしたサプライズを美玲の恋人は美玲に用意してくれる。
 
 勿論、美玲も用意していた誕生日プレゼントを恋人へ渡したが、今回も見事に先手を打たれてしまった。
 
 
 
 そして、コースの料理に運ばれてきたデザートの皿には、おかえり、とデコレーションをしてあった。
 お誕生日おめでとうと用意したかったのに…と美玲が言うと、気持ちだけで嬉しいよ、と恋人は優しく美玲に囁く。
 
 満面の笑みで美玲は恋人を見る。
 
 写真を撮って、動画も撮って、美玲はゆっくりと、幸せを噛み締めながらデザートを味わっていた。
 
 
「αは制御が出来ないからって、結構風当たりあるの。でも確かにって思う面もある…αはΩを怖がらせているし…
 今までΩが絡んだ悲劇的な事件とか事故って、結構討論の議題に上がるんだよね。勿論…αが加害者だから…。向こうではΩも一緒に法律や権利について話し合うグループにも大学で参加してて…」
 
 
 
 
 形の良い唇から、発される聞こえの良い言葉たち…
 皆、うっとりして聞くだろう。
 
 微笑みを浮かべながら、喬一は時折相槌を打ってそれを聞く。
 
 美玲が興奮して話すのを聞いているが、話の内容は半分程しか喬一の耳に入っていない。
 
 内容などさして興味は無い。
 だが、内容が内容だけに、少々耳が痛い。

 今、自分がΩを囲ってるなんて言えないな、と思いながら微笑み、喬一は話に頷く。
 
 
 喬一は誕生日プレゼントのΩを蹂躙して、最高の一時を待ち侘びている…
 
 あの匂いがすると、制御が出来ない。
 まるで飲み込みそうな程、ドロドロに溶け合ってしまいたいと思う。
 
 Ωと交わってしまったら、α相手では物足りなくなるかもしれない、とさえ喬一は思っていた。
 
 

 美玲の事は好きだ。
 喜ばせたいし、笑った顔を見たいと思う。
 
 自分と美玲が一緒に過ごす時間に満足している。
 美玲にも、自分の最高の一面を見せていたい。

 彼女が恋人であるという価値はかなり高い。
 
 α同士であれば、お互いにある程度のステイタスを求める。
 容姿、家柄、才能、能力…自分に合う最高級の物がいいと、どのαだって考えていることだろう。
 
 
 
 
 それなのに、時折酷く面倒になる時があった。
 
 
 
 なんで…
 今自分はあの飼い猫のことを考えるのか…

 あんなΩの…こないだまで野暮ったかった貧乏人を…
 
 調べてみて驚いた。
 
 瑞稀の父親は、喬一もよく知る大企業のお偉いさんで、父親とも何度か面識があるらしい。そして母親はΩで、その愛人だったとか…
 
 
 
「Ωって生きていくのが凄く困難だよね。産まれも複雑な人が多いし…私がもしΩだったら、耐えれる自信がない。
 でも才能豊かな人が、特性で潰されてしまうのは凄く勿体無いよね」
 
 
 今日は本当に饒舌だな…
 
 喬一は美玲の顔を見ながらそう思った。
 
 なんとも大層で、上辺っぽい言葉を、なんの疑いも無く、ただ純粋に言ってのける。

 αである自分が安全な場所に居るからこそ言えることだと、美玲に自覚があるのだろうか。
 
 そういうところも可愛い…
 純粋で、世間知らずで…
 
 箱入り娘だったのにアメリカの大学に行くとは思わなかったが、彼女の経歴には申し分無い肩書きがまた1つ加えられる。
 
 
 あの飼い猫とは大違いだ。
 
 無愛想で、表情も乏しく、真面目だが苦学生に変わりない野暮ったい女…
 その癖、ベットの中だとやけに素直で、それが喬一の感情を堪らなく刺激する。
 
 
 きっと、そうやって思う俺を見透かしてるから…
 だから…決して、懐かない。
 

 でも…あの飼い猫は、俺のもの。


 

「ごめん、今日はちょっと用があって泊まれないんだ。明日また迎えに行くから」
 喬一は帰りの車で美玲にそう言った。
 
 一瞬美玲が寂しそうな顔をしたので、喬一は美玲の手をギュッと握りしめる。
 2人、同じ指輪を嵌めた手が重なった。

「うん、大丈夫。いつもありがとう、喬一。そういえばパパが喬一と一緒にアメリカに遊びに行こうかなって言ってたよ。マンションにも空いてる部屋があるから、喬一もいつでも来てね」
 
 美玲の言葉に、喬一は笑みを浮かべて頷く。
 
 
 
 だが、喬一の頭の中は別の事を考えていた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

たとえ愛がなくても、あなたのそばにいられるのなら

魚谷
恋愛
ヴェルンハイム伯爵家の私生児ハイネは家の借金のため、両親によって資産家のエッケン侯爵の愛人になることを強いられようとしていた。 ハイネは耐えきれず家を飛び出し、幼馴染みで初恋のアーサーの元に向かい、彼に抱いてほしいと望んだ。 男性を知らないハイネは、エッケンとの結婚が避けられないのであれば、せめて想い人であるアーサーに初めてを捧げたかった。 アーサーは事情を知るや、ハイネに契約結婚を提案する。 伯爵家の借金を肩代わりする代わりに、自分と結婚し、跡継ぎを産め、と。 アーサーは多くの女性たちと浮名を流し、子どもの頃とは大きく違っていたが、今も想いを寄せる相手であることに変わりは無かった。ハイネはアーサーとの契約結婚を受け入れる。 ※他のサイトにも投稿しています

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...