そのΩ売りました。オークションで。

塒 七巳

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 瑞稀と喬一が視線を向けた先には、薫と、そして…美玲が立っていた。
 
 
 薫と瑞稀が歩く方向を、喬一はただじっと見つめる。
 
「喬一…?喬?」
 美玲は少し首を傾けて、心配そうにそう声を漏らす。
 
 
 
「喬一、顔色が悪いよ。大丈夫?」
 頬に添えられる美玲の手は暖かい。
 
 喬一を見上げる愛らしい目も、今の喬一には鬱陶しささえ覚える。
 
 誰にも今の自分は見られたく無い…
 
 1人にして欲しい…
 
 そう言うのが憚られるのは、美玲との関係が悪化してもメリットが無いからだ。
 
 大丈夫、自分は冷静だ…と喬一は僅かに安堵した。
 
 
 
「大丈夫。最近ちょっと忙しくて。わざわざこっち来なくても良かったのに…」
 喬一は口元に薄らと笑みを浮かべて、美玲の手に自分の手を重ねた。
 
「ごめんね。連絡取れなくて心配した」
 美玲は場所も構わず喬一をギュッと抱きしめた。
 
 人通りが少ないとはいえ、通らない訳では無い。

 美玲にしては大胆だな、と喬一も意表を突かれる。
 
 
 
 なぜ、何も感じないのだろう…
 腕を回して自分も悪かったと言うべきだ。なのに腕は重くて持ち上がらない。
 
 美玲を押し退けて、瑞稀を追いかけたい…
 
 だが追いかけて一体どうするのか喬一には思い浮かばなかった。
 近付いても、瑞稀はどんどん遠くなる。
 
 
 喬一は顔を上げて天井を見上げた。
 
 ただぼんやりと、動かない体と目の前の現実から逃れたいと思った。
 
 …逃れたい、…逃れたい、瑞稀から…
 それなのに、欲しくて堪らない…
 
 
 これが、渚の言う様な感情なら、自分は今正に溺れているのだろう。
 
 泣きたいほど苦しい。
 そして胸の痛みは治らない。
 
 
 今自分は、自分の恋人に抱き締められているのに…
 
 
 
 
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