16 / 42
2の6
しおりを挟む
放課後、高篠先輩を迎えるとあって聡介は、物理講義室へ急いだ。泉は、新聞同好会に一度だけ顔を出してから来ると言っていたが急いでいる様子だったし、高篠先輩が来るよりも先に、物理講義室に来られるはずである。
渡り廊下を通って物理講義室に着けば、結泉部長が先に来ていた。三年生の教室は四階で一年生のそれは二階、してここ物理講義室も二階である。距離は、聡介の教室からの方がずっと近いはずであるのに、この人は、だいたいいつも一番乗りで部室にいる。はて、ホームルームに出席していないのだろうか。あるいはよほど早くにホームルームが終わるのか。
「稲富君、今日も早いわね」
教卓の所にノートパソコンを用意しながら言って、ニコリとする結泉部長。
「夏純を撮るんだって聞いたけど?」
耳が早い、と一瞬驚いたが、思えばこの部長と高篠先輩のクラスは同じだった。
「新聞同好会の友人が、生徒会長を目玉に企画を通したいそうで、その手伝いです」
「そんなこと言って、それだけじゃないんでしょ?」
言って、いたずらっぽく笑う。「夏純、喜んでたわよ」
少々面映ゆく感じて、聡介は肩をすくめた。
「まあ、高篠先輩の悩みが少しでも解消されれば、と思っているのも事実ですよ」
「ありがとう、ね」
優しい眼をしてふわりと微笑んだ。「夏純、人前だとあの性格だから、どうしても高嶺の花に見えちゃうのよね。絶対に損してたと思うし、可愛いあの子の写真をみんなに見てもらえることは、きっといい機会だと思うのよ」
聡介は頷いた。
「そのためにも、どんな写真を撮るか考えないといけませんね」
結泉部長は頷いて、しかし愁眉を集めた。
「問題は、新聞同好会の子がどんな写真を望むのか、だけど……どうなの?」
「井上さんなら、たぶん心配いらないですよ。『図書室の妖精』に喰い付いてましたし、本を読んでいる高篠先輩を撮れば、それだけで生徒会長に対する印象が変わりますよ」
苦笑しつつ結泉部長は頷いて、しかし首を捻る。
「あの子、恋愛小説を読んでいることを隠したがっていたけど、大丈夫なの?」
「一応、許可は取っていますけど」
直前になって「やっぱり恥ずかしいからダメ」なんて言いかねない気もする。聡介はため息をついた。
「まあ、いざとなったら説得するしかないです。そうでないと俺が撮りたい写真を撮れなくなりますし」
ふと扉の開く音がして、振り返る。結泉部長の妹である結奈と、涼太郎、それと小学生もかくやといった小柄で童顔の、胸はそこそこあるからそれで辛うじて同年代だと判別できる女の子は、大橋園子である。
「今朝の話の続きをするだろうと思って、園子も連れてきたぜ」
得意そうに言うが、園子は美術部だ。断りもなく連れてきたのではあるまいな。
「園ちゃん、美術部の先輩には?」
すると園子は苦笑して、
「一応、クラスに美術部の子がいるから伝言をお願いしてあるよ。だから、たぶん心配いらないかな」
「工藤君ってたまに強引よね」
そう言った結奈は呆れたように笑っている。
それからすぐに、泉が慌てた様子で部室に入ってくる。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったかも!」
「大丈夫だよ、まだだから」
「あれ、園ちゃん? なんで?」
言って、すぐに思い至ったらしく呆れた顔をする。「工藤君、園ちゃんが押しに弱いのを分かっていて、ちょっと強引に連れてきたでしょ?」
「ひ、人聞き悪いこと言うなよ」
肩をすくめる涼太郎。「ほら、新聞同好会のためにも、一人でも多く、三組の人に話を聞けた方がいいだろう。そうだろう、聡介?」
聡介が肩をすくめるだけに留めると、涼太郎は天を仰いだ。
「なんとか言ってくれ、親友」
聡介はため息をつく。
「強引なのはよくないな」
「俺の味方は、園子だけだ」
涼太郎はうなだれた。して、そこに松本がやってくる。
「お、ずいぶんと賑やかじゃないか。じゃ、さっそく」
「ちょっと、松本後輩。その口ぶりだと、普段が賑やかでない、って言ってるふうに聞こえるんだけど」
結泉部長は不服そうに言っているが、まあ、事実である。晴れた日は、部員の大半が外に写真を撮りに行っているか各部活動の写真を撮って回っているし、雨の日は何人か休む。彼等曰く「外が撮りたい」らしい。撮れないのであれば休む、と。ここが賑やかな日などほとんどない。
「す、すんません」
「まあ、事実だけど、さ」
頭を下げた松本に満足したのか、結泉部長は苦笑しつつ肩をすくめていた。彼女は、妹の彼氏である松本を、こう見えていたく気に入っている。
結泉部長は室内の面々を見回して、
「とりあえず今日の活動は、一年三組の黒板について、ってことでいいの?」
と。泉が遠慮がちに手を上げる。
「あの、生徒会長がみえてからでいいので、写真ページ多めの雑誌についてお話ししたいんですけど、かまいませんか?」
結泉部長はにっこりと笑って頷いた。
「わたしはむしろその話がしたいから、歓迎するわよ」
泉は、ほっと胸を撫で下ろしている。彼女は基本的に部外者であるから、結泉部長との接点がほとんど無く、話をしたことも数える程しかない。緊張しているらしい。
ちなみに園子も部外者ではあるが、彼女は涼太郎に連れられて何度か写真部に顔を出しているため結泉部長とは顔見知りである。まあ、園子は存外に物怖じしない性格なので、初対面でも普通に話していたのだが。
「情報を確実に共有したいから、夏純に聞いたことをまず話そうかと思うんだけど、いいかしら?」
夏純って誰だ、といった塩梅で涼太郎が首を捻っていたから、「生徒会長だよ」と園子に小突かれていた。
「黒板が消されているのは、一年三組。前方の黒板はホームルームの後に消されるから、不思議なのは後方の黒板が消されていること。消しているのはうちのクラスの春日亜紗奈。一年三組に妹の明乃ちゃんがいて、この子が先月の終り頃に痴漢にあって以来、亜紗奈は怯える妹さんのために、彼女の部活が終わるまで一年三組の教室で待ってる」
「疑問なんすけど、なんで一年三組? 待つなら三年生の教室でもよさそうに思うんすけど」
松本の言葉に、結泉部長は少し首を捻って、
「いくら兄妹でも一年生だと、三年生の教室には入りにくいでしょ? 受験勉強で教室に残っている生徒もいるし」
なるほどと頷いている松本。一呼吸ほどの間があって、結泉部長が続ける。
「亜紗奈はほぼ毎日一年三組で妹さんを待っているけど、黒板が消されるのは週に二回だけで、月曜日と水曜日の放課後。だから一年三組の生徒が消されている黒板を目にするのは火曜日と木曜日ということになるわね。ただし、明乃ちゃんだけは月曜日と水曜日に綺麗になった黒板を見ている、と」
結奈と園子が頷いているのをちらと見て、満足したふうに笑顔を見せた。
「明乃ちゃんが亜紗奈に、どうして黒板を綺麗にしたのかを尋ねれば、『だって気になるし迷惑でしょ』と返ってきた。要するに、落書きがあると気が散って授業に集中できない、って言いたかったのかしらね。溺愛する妹さんのためなら、それくらいしてもおかしくは無いわね」
姉に溺愛されている結奈は、恥ずかしそうに俯いては赤くなっている。「そんなのお姉ちゃんだけだよ」なんて小さな抗議の声が聞こえた。
「お昼に稲富君と夏純達がいくつか仮説を立てて検証したそうね。
予習と復習を黒板に書いてしているのかも、って考えてみたそうだけど、これは違うわよね。ノートに書いた方が見返せるもの。受験生なんだし、そうでなくても黒板に書いて満足するなんてことは、しない方がいいし普通はしないわ。
他にも、一年三組の教室で、一年生の勉強を見てあげていたんじゃないか、とも考えたらしいけど、これは有り得そうだけどやっぱり無いわ。たしかに亜紗奈は面倒見がいいから、教室に残って熱心に勉強をしている子がいれば、間違いなく声をかけたでしょうし教えるでしょうけど、板書をしながら教えるなら、教室前方の黒板を使うわ。後ろを使うには黒板の落書きを消さなきゃいけない云々以前に、机の向きが前を向いているんだから、前の黒板を使った方が教えられる方も板書が見やすいもの。
面倒見のいい優しい亜紗奈が、わざわざ意地悪をして後ろの黒板を使うなんて意味が分かんないわ。だから、これを理由に後ろの黒板を消したなんてことはあり得ない。と、まあこんなところね」
結泉部長の意見も含まれているものの、聡介が高篠先輩達と話したことが、なかなかにまとまっていたように思う。結泉部長の意見も、補説的というか、仮説を否定する論拠をより確実にしてくれているように思う。
「今の話で、わたしの認識が間違っている所とか、あるいは気になる所、ってあったかしら?」
聡介はかぶりを振る。一年三組である結奈と園子を見れば、園子が口を開くところだった。
「気になるところ、と言うわけではないですけど、一年生に勉強を教えているという事実はあるみたいですよ。クラスの何人かが、明乃ちゃんのお姉さんに勉強を見てもらった、って話してました」
「亜紗奈、教えるの上手いから慕われてるでしょ?」
園子は頷いて、
「明乃ちゃんのお姉さんを目当てに、最近は教室にしばらく残っていく子もいるくらいです。下心のありそうな男の子もいますけど」
苦笑した園子を見て、結泉部長はさもありなん、と納得したふうに頷いた。
「亜紗奈、前髪で表情が隠れちゃってるから損してるけど、髪を上げれば可愛い顔立ちが分かるし、間近で勉強を教えてもらっていれば、優しくて賢くて綺麗なお姉さんに惚れる子がいてもそれは仕方がないんじゃないかしら」
「そうかもしれませんね」
言いつつも、園子はやはりどこか呆れたふうな様子である。先輩が真剣に勉強を教えてくれているのに不純な動機でいる彼らを、園子は「仕方のない人たちだこと」だなんて思っているのかもしれない。
「あ、そうだ。勉強を見てもらってる子に訊けば、どうして消してるかも分かるんじゃないの?」
そう言った結泉部長に、結奈がかぶりを振る。
「クラスの子達、新聞同好会が調べてる、って知って面白がってるのかなんなのか、皆して示し合わせたみたいに、詳しくは話してくれなくって」
「マッチーが、謎だなんだなんて言いながら号外にする、って息巻いて一度だけ取材に来たからだよね、あれは。謎を謎のままにしておきたい、って一体感というか雰囲気があったよね」
呆れたふうに言いながらも、園子は微笑んでいて、彼女自身そんなクラスの在りようを面白がっていそうだ。
「本当に、皆仲が良いよね」
悪いことではないのだろうが、結奈はため息をついていた。「検討に戻りましょ」
渡り廊下を通って物理講義室に着けば、結泉部長が先に来ていた。三年生の教室は四階で一年生のそれは二階、してここ物理講義室も二階である。距離は、聡介の教室からの方がずっと近いはずであるのに、この人は、だいたいいつも一番乗りで部室にいる。はて、ホームルームに出席していないのだろうか。あるいはよほど早くにホームルームが終わるのか。
「稲富君、今日も早いわね」
教卓の所にノートパソコンを用意しながら言って、ニコリとする結泉部長。
「夏純を撮るんだって聞いたけど?」
耳が早い、と一瞬驚いたが、思えばこの部長と高篠先輩のクラスは同じだった。
「新聞同好会の友人が、生徒会長を目玉に企画を通したいそうで、その手伝いです」
「そんなこと言って、それだけじゃないんでしょ?」
言って、いたずらっぽく笑う。「夏純、喜んでたわよ」
少々面映ゆく感じて、聡介は肩をすくめた。
「まあ、高篠先輩の悩みが少しでも解消されれば、と思っているのも事実ですよ」
「ありがとう、ね」
優しい眼をしてふわりと微笑んだ。「夏純、人前だとあの性格だから、どうしても高嶺の花に見えちゃうのよね。絶対に損してたと思うし、可愛いあの子の写真をみんなに見てもらえることは、きっといい機会だと思うのよ」
聡介は頷いた。
「そのためにも、どんな写真を撮るか考えないといけませんね」
結泉部長は頷いて、しかし愁眉を集めた。
「問題は、新聞同好会の子がどんな写真を望むのか、だけど……どうなの?」
「井上さんなら、たぶん心配いらないですよ。『図書室の妖精』に喰い付いてましたし、本を読んでいる高篠先輩を撮れば、それだけで生徒会長に対する印象が変わりますよ」
苦笑しつつ結泉部長は頷いて、しかし首を捻る。
「あの子、恋愛小説を読んでいることを隠したがっていたけど、大丈夫なの?」
「一応、許可は取っていますけど」
直前になって「やっぱり恥ずかしいからダメ」なんて言いかねない気もする。聡介はため息をついた。
「まあ、いざとなったら説得するしかないです。そうでないと俺が撮りたい写真を撮れなくなりますし」
ふと扉の開く音がして、振り返る。結泉部長の妹である結奈と、涼太郎、それと小学生もかくやといった小柄で童顔の、胸はそこそこあるからそれで辛うじて同年代だと判別できる女の子は、大橋園子である。
「今朝の話の続きをするだろうと思って、園子も連れてきたぜ」
得意そうに言うが、園子は美術部だ。断りもなく連れてきたのではあるまいな。
「園ちゃん、美術部の先輩には?」
すると園子は苦笑して、
「一応、クラスに美術部の子がいるから伝言をお願いしてあるよ。だから、たぶん心配いらないかな」
「工藤君ってたまに強引よね」
そう言った結奈は呆れたように笑っている。
それからすぐに、泉が慌てた様子で部室に入ってくる。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったかも!」
「大丈夫だよ、まだだから」
「あれ、園ちゃん? なんで?」
言って、すぐに思い至ったらしく呆れた顔をする。「工藤君、園ちゃんが押しに弱いのを分かっていて、ちょっと強引に連れてきたでしょ?」
「ひ、人聞き悪いこと言うなよ」
肩をすくめる涼太郎。「ほら、新聞同好会のためにも、一人でも多く、三組の人に話を聞けた方がいいだろう。そうだろう、聡介?」
聡介が肩をすくめるだけに留めると、涼太郎は天を仰いだ。
「なんとか言ってくれ、親友」
聡介はため息をつく。
「強引なのはよくないな」
「俺の味方は、園子だけだ」
涼太郎はうなだれた。して、そこに松本がやってくる。
「お、ずいぶんと賑やかじゃないか。じゃ、さっそく」
「ちょっと、松本後輩。その口ぶりだと、普段が賑やかでない、って言ってるふうに聞こえるんだけど」
結泉部長は不服そうに言っているが、まあ、事実である。晴れた日は、部員の大半が外に写真を撮りに行っているか各部活動の写真を撮って回っているし、雨の日は何人か休む。彼等曰く「外が撮りたい」らしい。撮れないのであれば休む、と。ここが賑やかな日などほとんどない。
「す、すんません」
「まあ、事実だけど、さ」
頭を下げた松本に満足したのか、結泉部長は苦笑しつつ肩をすくめていた。彼女は、妹の彼氏である松本を、こう見えていたく気に入っている。
結泉部長は室内の面々を見回して、
「とりあえず今日の活動は、一年三組の黒板について、ってことでいいの?」
と。泉が遠慮がちに手を上げる。
「あの、生徒会長がみえてからでいいので、写真ページ多めの雑誌についてお話ししたいんですけど、かまいませんか?」
結泉部長はにっこりと笑って頷いた。
「わたしはむしろその話がしたいから、歓迎するわよ」
泉は、ほっと胸を撫で下ろしている。彼女は基本的に部外者であるから、結泉部長との接点がほとんど無く、話をしたことも数える程しかない。緊張しているらしい。
ちなみに園子も部外者ではあるが、彼女は涼太郎に連れられて何度か写真部に顔を出しているため結泉部長とは顔見知りである。まあ、園子は存外に物怖じしない性格なので、初対面でも普通に話していたのだが。
「情報を確実に共有したいから、夏純に聞いたことをまず話そうかと思うんだけど、いいかしら?」
夏純って誰だ、といった塩梅で涼太郎が首を捻っていたから、「生徒会長だよ」と園子に小突かれていた。
「黒板が消されているのは、一年三組。前方の黒板はホームルームの後に消されるから、不思議なのは後方の黒板が消されていること。消しているのはうちのクラスの春日亜紗奈。一年三組に妹の明乃ちゃんがいて、この子が先月の終り頃に痴漢にあって以来、亜紗奈は怯える妹さんのために、彼女の部活が終わるまで一年三組の教室で待ってる」
「疑問なんすけど、なんで一年三組? 待つなら三年生の教室でもよさそうに思うんすけど」
松本の言葉に、結泉部長は少し首を捻って、
「いくら兄妹でも一年生だと、三年生の教室には入りにくいでしょ? 受験勉強で教室に残っている生徒もいるし」
なるほどと頷いている松本。一呼吸ほどの間があって、結泉部長が続ける。
「亜紗奈はほぼ毎日一年三組で妹さんを待っているけど、黒板が消されるのは週に二回だけで、月曜日と水曜日の放課後。だから一年三組の生徒が消されている黒板を目にするのは火曜日と木曜日ということになるわね。ただし、明乃ちゃんだけは月曜日と水曜日に綺麗になった黒板を見ている、と」
結奈と園子が頷いているのをちらと見て、満足したふうに笑顔を見せた。
「明乃ちゃんが亜紗奈に、どうして黒板を綺麗にしたのかを尋ねれば、『だって気になるし迷惑でしょ』と返ってきた。要するに、落書きがあると気が散って授業に集中できない、って言いたかったのかしらね。溺愛する妹さんのためなら、それくらいしてもおかしくは無いわね」
姉に溺愛されている結奈は、恥ずかしそうに俯いては赤くなっている。「そんなのお姉ちゃんだけだよ」なんて小さな抗議の声が聞こえた。
「お昼に稲富君と夏純達がいくつか仮説を立てて検証したそうね。
予習と復習を黒板に書いてしているのかも、って考えてみたそうだけど、これは違うわよね。ノートに書いた方が見返せるもの。受験生なんだし、そうでなくても黒板に書いて満足するなんてことは、しない方がいいし普通はしないわ。
他にも、一年三組の教室で、一年生の勉強を見てあげていたんじゃないか、とも考えたらしいけど、これは有り得そうだけどやっぱり無いわ。たしかに亜紗奈は面倒見がいいから、教室に残って熱心に勉強をしている子がいれば、間違いなく声をかけたでしょうし教えるでしょうけど、板書をしながら教えるなら、教室前方の黒板を使うわ。後ろを使うには黒板の落書きを消さなきゃいけない云々以前に、机の向きが前を向いているんだから、前の黒板を使った方が教えられる方も板書が見やすいもの。
面倒見のいい優しい亜紗奈が、わざわざ意地悪をして後ろの黒板を使うなんて意味が分かんないわ。だから、これを理由に後ろの黒板を消したなんてことはあり得ない。と、まあこんなところね」
結泉部長の意見も含まれているものの、聡介が高篠先輩達と話したことが、なかなかにまとまっていたように思う。結泉部長の意見も、補説的というか、仮説を否定する論拠をより確実にしてくれているように思う。
「今の話で、わたしの認識が間違っている所とか、あるいは気になる所、ってあったかしら?」
聡介はかぶりを振る。一年三組である結奈と園子を見れば、園子が口を開くところだった。
「気になるところ、と言うわけではないですけど、一年生に勉強を教えているという事実はあるみたいですよ。クラスの何人かが、明乃ちゃんのお姉さんに勉強を見てもらった、って話してました」
「亜紗奈、教えるの上手いから慕われてるでしょ?」
園子は頷いて、
「明乃ちゃんのお姉さんを目当てに、最近は教室にしばらく残っていく子もいるくらいです。下心のありそうな男の子もいますけど」
苦笑した園子を見て、結泉部長はさもありなん、と納得したふうに頷いた。
「亜紗奈、前髪で表情が隠れちゃってるから損してるけど、髪を上げれば可愛い顔立ちが分かるし、間近で勉強を教えてもらっていれば、優しくて賢くて綺麗なお姉さんに惚れる子がいてもそれは仕方がないんじゃないかしら」
「そうかもしれませんね」
言いつつも、園子はやはりどこか呆れたふうな様子である。先輩が真剣に勉強を教えてくれているのに不純な動機でいる彼らを、園子は「仕方のない人たちだこと」だなんて思っているのかもしれない。
「あ、そうだ。勉強を見てもらってる子に訊けば、どうして消してるかも分かるんじゃないの?」
そう言った結泉部長に、結奈がかぶりを振る。
「クラスの子達、新聞同好会が調べてる、って知って面白がってるのかなんなのか、皆して示し合わせたみたいに、詳しくは話してくれなくって」
「マッチーが、謎だなんだなんて言いながら号外にする、って息巻いて一度だけ取材に来たからだよね、あれは。謎を謎のままにしておきたい、って一体感というか雰囲気があったよね」
呆れたふうに言いながらも、園子は微笑んでいて、彼女自身そんなクラスの在りようを面白がっていそうだ。
「本当に、皆仲が良いよね」
悪いことではないのだろうが、結奈はため息をついていた。「検討に戻りましょ」
0
あなたにおすすめの小説
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】
白山 乃愛
ミステリー
「ねえ、タクヤくん。私、嘘なんてついてないよ?」
巨額の負債を背負った論理的な青年・タクヤと、彼を盲目的に愛する純真な恋人・アイリ。
二人の元に届いたのは、優勝賞金10億円を賭けた『マリアージュ・ゲーム』への招待状だった。
ルールは至ってシンプル。「パートナーを信じ抜くこと」。
しかし、その実態は、囚人のジレンマ、不完全情報ゲーム、相互不信を極限まで煽る、悪魔的な心理戦だった。
毒入りの食事、見えない裏切り者「ジョーカー」の存在、そしてアイリが時折見せる、機械のように冷徹な表情……。
彼女は本当に、僕が愛した「聖女」なのか?
それとも、僕を破滅させるために送り込まれた「魔女」なのか?
――信じるか、裏切るか。それとも、裏切ったふりをして愛を守るか。
互いの思考を読み合い、論理(アルゴリズム)の裏をかき続ける二人。
全ての嘘が暴かれた時、そこに残るのは絶望か、それとも世界一美しい愛か。
予測不能の展開と、涙腺を崩壊させるラスト。
文学的筆致で描く、新時代のサスペンス・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる