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第5話
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眠れない。体は疲れているのに目が冴えてしまって眠れない。眠れない原因は1つ。俺の心を掻き乱してたまらない男のせいだ。俺はこんなにも好きなのに、近づこうとするとするすると俺から離れていってしまう。
(鋼影が帰ってきてから寝不足の日が増えたな…)
嬉しいやらなんやら、微妙な気持ちになる。思わせぶりな態度だけ取っておいて、確信には触れてこない。言葉にもしない。そんな曖昧な関係がずっと続いている。明日は何か発展してほしい、そんなことを思いながら眠りについた。
日も昇り今日も晴々しい天気だ。だけど俺の心の内は曇り模様のままだ。なぜなら、今日は俺の后候補との会合を控えているからだ。牛車に乗り、后候補の元へ向かう。
「はぁ…だりぃ…」
ぽそりと呟いた声は外に漏れることなく、俺の周りを漂って消えた。
=====================
后候補との見合いが調整されて会うことになった今。俺は愛想笑いを顔に貼り付けていた。わざとらしく焚いた幻惑の香。明らかに俺に襲って欲しそうに笑う、暖簾越しの女。俺の好みではないんだろうけど、きっとこの女と俺は結納して生涯を終えるのだろう。そう思うと今こうやって好いた相手を思えることは幸せなんじゃないかと錯覚を起こしてしまう。俺はこの女に妻問う気もないし、きっと正式な場での結納となるんだろう。
この女との婚姻の前に鋼影とは想いの決着をつけたい。振られようと、振られまいとどっちかの答えがほしい。俺は弱いから、身のうちにこんな大きな想いを持ったまま誰かと婚姻関係なんて結べないし、子ももうけられない。とりあえず、この場を乗り切るべく相手に思いを伝える。
「今日はあなたを抱くことはありません。意向に沿えず申し訳ない…鋼影、行くぞ」
所要時間は四半刻にも満たなかったと思う。無駄足になってしまったかもしれないが、俺的には収穫が大きかった。そそくさと帰る俺に目を丸くする后候補とその下女たちだったが、俺は気にしない。どうせすぐ婚姻関係を結ぶ気は無いし、まぁいいだろう。
「親王様、良いのですか?」
「ああ、もう用は無い」
後ろから俺を呼び止める声がしたが、無視して帰る。今日のがきっかけで鋼影との距離が縮まればいいなと思う。でも鋼影との距離が縮まったとしてもあの后と結納は抗えないから、ちょっとだけでも夢みたいな時間を味わいたいと空想してみる。あの逞しい腕に包まれたら、あの双眸に見つめられたらどれだけ幸せなんだろうか。俺はこんなに近くにいるのに、こんなにも距離が遠い。鋼影に見初められる女が羨ましくてしょうがない。
俺はこんなに好きなのに、諦めなくちゃいけない。でも俺は親王だから親が作ってきた軌道に乗らなくてはいけない。同性愛などあってはいけない。どうしたらあの后と結納するまでに鋼影と一夜の夢を見れるだろうか。俺の初恋はこんな無惨に散るのか。
「辛いなぁ…」
(鋼影が帰ってきてから寝不足の日が増えたな…)
嬉しいやらなんやら、微妙な気持ちになる。思わせぶりな態度だけ取っておいて、確信には触れてこない。言葉にもしない。そんな曖昧な関係がずっと続いている。明日は何か発展してほしい、そんなことを思いながら眠りについた。
日も昇り今日も晴々しい天気だ。だけど俺の心の内は曇り模様のままだ。なぜなら、今日は俺の后候補との会合を控えているからだ。牛車に乗り、后候補の元へ向かう。
「はぁ…だりぃ…」
ぽそりと呟いた声は外に漏れることなく、俺の周りを漂って消えた。
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后候補との見合いが調整されて会うことになった今。俺は愛想笑いを顔に貼り付けていた。わざとらしく焚いた幻惑の香。明らかに俺に襲って欲しそうに笑う、暖簾越しの女。俺の好みではないんだろうけど、きっとこの女と俺は結納して生涯を終えるのだろう。そう思うと今こうやって好いた相手を思えることは幸せなんじゃないかと錯覚を起こしてしまう。俺はこの女に妻問う気もないし、きっと正式な場での結納となるんだろう。
この女との婚姻の前に鋼影とは想いの決着をつけたい。振られようと、振られまいとどっちかの答えがほしい。俺は弱いから、身のうちにこんな大きな想いを持ったまま誰かと婚姻関係なんて結べないし、子ももうけられない。とりあえず、この場を乗り切るべく相手に思いを伝える。
「今日はあなたを抱くことはありません。意向に沿えず申し訳ない…鋼影、行くぞ」
所要時間は四半刻にも満たなかったと思う。無駄足になってしまったかもしれないが、俺的には収穫が大きかった。そそくさと帰る俺に目を丸くする后候補とその下女たちだったが、俺は気にしない。どうせすぐ婚姻関係を結ぶ気は無いし、まぁいいだろう。
「親王様、良いのですか?」
「ああ、もう用は無い」
後ろから俺を呼び止める声がしたが、無視して帰る。今日のがきっかけで鋼影との距離が縮まればいいなと思う。でも鋼影との距離が縮まったとしてもあの后と結納は抗えないから、ちょっとだけでも夢みたいな時間を味わいたいと空想してみる。あの逞しい腕に包まれたら、あの双眸に見つめられたらどれだけ幸せなんだろうか。俺はこんなに近くにいるのに、こんなにも距離が遠い。鋼影に見初められる女が羨ましくてしょうがない。
俺はこんなに好きなのに、諦めなくちゃいけない。でも俺は親王だから親が作ってきた軌道に乗らなくてはいけない。同性愛などあってはいけない。どうしたらあの后と結納するまでに鋼影と一夜の夢を見れるだろうか。俺の初恋はこんな無惨に散るのか。
「辛いなぁ…」
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