宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【三話】貪食と喜悦。(2)

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「ちょ、ちょっと!」
「ん?」
「ん?じゃないわよ、ん?じゃ!」
「班長が来ないでどうすんだよ」
「いいの、私はお姉ちゃんだから。ねえ、二人とも?」

ねえ、と言われましても・・・。アイシャはお姉ちゃんによる謎理論を適当にあしらって、可視化した霊との意思疎通を開始した。

「ねえ幽霊さん。」
《・・・え、幽霊って・・・俺?》

幽霊さんは、明らかに自分を指している「幽霊」という言葉に困惑している様子だ。

「うん。」
《俺は・・・死んだのか・・・?》
「残念だけど、そうみたい」
《うーん・・・そうだと言われても、信じられねえな・・・。現に、意識もはっきりしてるし、なんなら嬢ちゃんと会話までしてる》

まあ、幽霊さんからしてみれば信じられなくても無理はないだろうな。

「やっぱり、信じられないよね」
《ああ》
「じゃあ・・・」

一瞬何かを考えた様子のアイシャ。
次の瞬間、持っていた剣で幽霊さんの首を叩き斬った⁈

《どわぁ⁈い、いきなり何すんだ‼》

幽霊さん、俺もそう思いました。

《急に剣なんか振り回しやがって、斬れたらどうする・・・あれ?》
「当てたのに斬れなかったし、痛くもなかったでしょ?つまり、そういうこと。」

ああ、彼に死を自覚させるために・・・。
もうちょっとこう、無かったのか・・・?

《なんて荒々しい嬢ちゃんだ・・・。まあ、お陰で確かに死んでるって自覚できたよ》
「それなら良かった。」

良くはないんじゃ・・・?

《そっか、死んだか・・・。》
「いきなりだけど」

そう、ここからが本題だ。

「記憶、見させてもらえない?」
《記憶って、俺のか?》
「うん」

先述の通り、アイシャはその能力により、
霊魂となった人物の記憶を見ることが出来る。
その旨を幽霊さんに伝える。

《ああ、俺にできることがあるなら協力させてくれ》

快く引き受けてくれた。

「そう、ありがとう。じゃあ失礼しまーす」



俺はガイスト。騎士団に所属している。
今日の任務はヴァルム地方で発生している
「家畜の数が日に日に減る現象」の原因調査だ。
原因と言っても、答えは分かっているようなものだ。
今までに何回か、別の地方でも同様の現象が起きている。そのいずれも、正体は居住区に入り込んだ小型の魔物による襲撃だった。どうせ今回もそんな感じだろう。

ただ、この仕事が来るのはすごく助かる。
内容が簡単な割には報酬が大きいからだ。
こればっかりなら良いんだがな。
おっと、やっぱり小型魔物のご登場だ。

やれやれ。魔特班の奴らほどではないにしろ、
相手がサルくらいじゃ気が抜けちまう。
さっさと討伐を済ませ、隊長に報告。

《先ほど、出現した魔物群の殲滅が完了しました。》
《ご苦労。引き続き調査を進めよう》
《了解。》
《・・・・・・ガイスト》
《はい》
《我々の使命は何だ。言ってみろ》
《魔物を倒し、民の命と笑顔を守ることです》
《そうだ。分かっているなら気を引き締めろ。今の貴様では己の命も守れぬぞ》
《申し訳ございません、以後気を付けます》

ちぇっ、いちいち気難しい人だ。
まあ、この仕事では上官に文句をつけていたらきりがない。さっさと終わらせて報酬を頂きたいね。
確か依頼主は食肉生産者だったか。期待しちゃうな。

元の位置に戻って歩いていると、俺の右側を歩いていた隊員が唐突に震えるような声で話しかけてきた。

《お、おい。見たか?》
《いや、見てない。何かあったのか?》

彼の手足は、ガタガタと震えている。
よほど恐ろしいものを見たのだろうか。

《や、やばい魔物が居たんだ。信じてくれ、ほ、本当なんだ、確かにこの眼で》
《疑っちゃいねえよ。とにかく、いったん落ち着けって。》

顔には汗がにじんでいる。
ただ事じゃないってことだけ理解した。

《あ、ああ。取り乱してすまない・・・。》
《それで、何を見たんだ?接触危惧種か?》

クモ型とか、トラ型とか。
魔特班の専売特許みたいな奴らがこんなところに?
まああり得ない話じゃないが・・・。
なんだか雲行きが怪しいな。

《い、いや。そんなんじゃない。そんな、生易しいもんじゃ》
《な、生易しい・・・?》

何を言っているのか分からなかった。
接触危惧種は現在確認されている魔物の中で、
最も危険なものとして分類されている。
一匹や二匹ならまだしも、それ以上居ようものなら間違いなく魔特班案件だ。
そんな接触危惧種を、彼は「生易しい」と表現した。

《いったい何を見たんだ?》
《それが分からないんだ・・・。とにかくあんな奴は見たことがない》
《見たことがない?》
《ああ・・・。》

まさか、新種の魔物か?

《そうか・・・。とにかく俺もそっちの方を探してみる。それと、隊長に報告だな》
《そ、そうだな》
今回派遣された調査班員は全部で十名。
ペアを組んで歩き、五つのペアが五角形の頂点になって
同一方向に進んでいる。
魔物に複数人で対応することと、
強力な魔物を囲うことの両立を目的とした配列だ。
俺たちは中列右側にる。
隊長は前列にいるため、報告に行くのは容易だ。
さっきの俺のようにな。

《じゃあ、隊長の所に行ってくる。》

《おう》
すっかり冷静さを取り戻した相方が前列へ向かった。
あ~あ、何だか簡単には終わりそうにないな・・・。
 
それから十分が経過しても。二十分が経過しても。
報告に行った相方は帰ってこない。
最初は用でも足しているのかと楽観視していたが、
さすがに遅すぎる。彼の身に何かあったのではないかと考え、隊長の方へ歩みだした。

その瞬間の出来事であった。

中列左のペアが赤色の信号を出した。
強力な魔物が出現した時に発せられる合図だ。
相方のことは気がかりだが、まずは信号を優先することに。
 
《あれ、おかしいな・・・》

信号を見て左に向かったはずだが、
中列左のペアが一人もいない。
何が起きているのか、俺には大体想像がついた。
さっき、相方が見たという魔物。
そいつの襲撃ではないだろうか。

《こりゃあまずいな・・・》

俺は急ぎ、隊長の所へ。
俺と同じく信号を見て下がってきていた隊長と、
そのペアのスタークさんに会った。
その道中でもやはり、中列左のやつらと遭遇することは無かった。

《隊長》
《どうした、ガイスト》
《私のペアが報告に行きませんでしたか?》
《お前のペアはクンペルだったな。いや、来ていないが》
《クンペル・・・》
《何かあったのか?》

隊長が険しい表情で俺に訊いた。

《はい。実は、三十分ほど前に未知の魔物を見たという報告をしに向かったのですが・・・》
《その報告は確かに受けていないな》
《それともう一つ。中列左から出された信号に関してですが》
《それは私も確認した。今向かっているところだが》
《居ないんです。左の二人とも》
《居ない?やられたのか?》
《分かりません》
《どういうことだ?》

険しい表情はさらに深刻なものへ。

《姿が見えないんです。まるで最初から居なかったみたいに》
《よく探したのか?》
《信号が出された場所付近は捜索しました。もしかしたら例の魔物に追われているのかもしれません》

隊長はあごに手をあてて、次にこう言った。

《よし。ここで一度止まり旗を立てる。スターク、お前はこの場所を死守しろ》
《はっ。》
《ガイスト。お前は私と来い。迷子の三人を探す。》
《はい》
《それからスターク。後列の四人に集合の信号を出し、この場所で待機させろ》
《了解しました。》
 
 そしてまた十分、二十分と時間が経過した。
それでも、三人は見つかっていない。
彼らの姿どころか、痕跡すら見つけられていない。
それでも捜索を続けたが、探せば探すほど不安が育っていった。このままでは埒が明かないという話になり、一度、旗を立てた地点に戻ることに。

《これは・・・》
《スタークさん・・・いったい何処へ?》

旗の所へ戻ると、後列の四人はおろか、スタークさんの姿すら無かった。その時点で、俺の中で生長した不安の種は芽を出し、絶望へと姿を変えた。

あいつだ。
あの魔物がみんなを・・・。
怖くてたまらなかった。
ああ、俺は。なんて馬鹿野郎だ。
隊長から気を引き締めろと言われたのに。
ぼーっと歩いていたせいで魔物の姿を目視できず。
あまつさえ、俺は報告にいったクンペルを見ていなかった。
そしてこの有様だ。恐怖で足がすくんだ。
今度は俺の番だと思った。
それでも、仲間のために調査を続けた。
今更遅いのは分かっているが。

《隊長、これを》
《ん?信号用銃か》
《緑信号が装填されています。スタークさんは・・・》
《ああ。後列に集合をかけようとしたところだったようだな》

だが、違和感がある。
もしも魔物に殺されているなら、遺体はどこだ?
それに血痕もない。

《もしかして、我々以外はもう・・・》
《・・・可能性はある。だが気を落とすな。負の感情は剣を鈍らせる。》
《・・・すみません》

刹那。
すぐ近くの岩場から金属音らしき音が聞こえた。

《隊長!》
《ガイスト、行くぞ》

俺たちはすぐにその岩場へ。
すると、一本の剣が落ちていた。
さっきの音はこれが地面に落ちた時のものか。

《これは・・・。隊長。この剣はスタークさんの物ですね》
《・・・ガイスト。》
《はい?》
《悠長に捜査をしている場合じゃなさそうだ。》

隊長が見ている方へ俺も視線を向ける。
隊長の言いたいことはすぐに分かった。

《あれは・・・魔物⁈》
《ああ。しかも未知のタイプ。間違いない。クンペルが見たという奴だろう》

確かにクンペルの言う通り、
クモ型やトラ型など生易しい。何故ならば・・・。

《ヒ、ヒト型・・・?》

背を向けていたそいつは、俺と隊長の声に気付いてこっちを向いた。そして次の瞬間には、その腕で隊長の首をつかみ、持ち上げていた。俺はふたたび恐怖した。

《ぐぅ・・・‼》
《た、隊長‼》

隊長は必死にもがいている。
しかし、魔物は決して彼の首を離さない。

《うおおおおおお‼》

俺はとっさに剣を抜いて、そいつに斬りかかった。
だが、冷静な判断が出来ない今の状況では全く手も足も出ず、いともたやすく反撃をくらい、岩に叩きつけられた。

《・・・っ⁈》

ダメだ。勝てるわけがない。こんな化け物に。
そんな弱音を心の中で言い放った俺に、喝が飛んだ。

《ガ・・・ガイスト‼》
《隊長・・・‼》
《何を・・・して・・・いる!た、立つんだ・・・!》

薄れゆく意識を必死に繋ぎとめ、
ゆらゆらと立ち上がった。
剣を構えると、更に隊長から叱責を受けた。

《貴様・・・お、大馬鹿者・・・‼は、早く・・・て、撤退だ・・・!》
《し、しかし隊長は!》

そうだ。隊長は逃げられる状態じゃない。

《黙れ!こ、これは・・・命令だっ・・・!》
《隊長!》
《早くしろ・・・!》
《くっ!》

走った。
ただひたすらに。
逃げて。
生きて帰って。
あの魔物のことを報告すれば・・・!
走って、走って、走って。

しかし、必死だった俺は、地面の抉れに気が付かず転倒。
それでも地獄の底から這い上がり、起き上がろうとしたのだが猛烈な痛みに思わず怯んだ。

足を怪我したようだった。
死にたくないという思いと共に、仲間たちの顔が脳裏をよぎった。自分を鼓舞してなんとか四つん這い状態になった。だが、それでも足が言う事を聞かなかった。

そして、甲高い唸り声が近くで聞こえたかと思った
その刹那、俺の意識は途絶えた。
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