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第一章
【三話】貪食と喜悦。(4)
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瞬間移動で岩の陰に避難した途端、直前まで居た方向から爆風が来た。
「間一髪、だな。」
「さすがに死ぬかと思ったわ・・・。」
「良かった・・・。処女のまま死ぬところでした」
「え?」
「は?」
「・・・え、何ですか?」
「ああ、いや。何でもないわ。忘れてちょうだい」
とりとめのない会話を中断し、爆心地へ。そこにあったのは、無惨にも爆散した肉塊。さっきまで俺たちを苦しめていた者の姿は、惨い物体に変貌していた。怒りに任せて食いまくった結果、エネルギー過剰になって爆発。と言ったところか?
「ユウ、これ何だろう?」
「どれ?」
「ほら、死骸に埋まってる赤黒いやつ」
言われた部分を見ると、確かに何かある。
「ちょっとお姉ちゃんにも見せて」
霊はダメでも、こういうのは平気なんだ・・・。
などと失礼なことを思っていると、お姉ちゃんが何かを思い出したようだ。
「これ、この魔物のコアかもしれないわ」
「「コア?」」
魔物に核があるなんて話は聞いたことが無い。
「おい、じゃあもしかして・・・」
リーフさんも心当たりがある様子。
「ええ、間違いないわ。先代魔特班の報告書に書かれてた超強力な魔物・・・。こいつはその類かもしれないわ。」
先代は、お姉ちゃんやリーフさんが配属される前の年まで前線で活躍していた。しかし、ある時突然、壊滅してしまったらしい。その真相は定かではないという。そんな先代が遺した報告書にコアという記載があったのだとか。その報告書は、俺とアイシャが来る前に回収されたらしいのだが・・・。
「確か、コアは破壊しないといけなかったはずよ」
「やってみます」
俺はそのコアに、剣を力いっぱい突き刺した。ガラスのような音をたてて割れ、同時に魔物の体が淡い光と共に蒸発するように消えた。
——終わった。
最後に周辺を捜索し、人間の遺体を発見した。
「かなり腐敗が進んでるけど、外傷は無いわね。」
「顔は明らかにガイストさんですね」
「だな。一体どうなってんだ?」
「あれ、そういえばユウ。魔物が出てくる直前に何か言いかけなかった?」
「あぁ、あれは・・・」
ガイストさんが霊魂として存在している理由の考察を言いかけたんだった。彼は最後に足を怪我して、とてもじゃないが泡を避けられるような状態じゃなかった。その事実と、遺体を見て今、推測は確信に変わった。
「ガイストさんの所に行って話しましょう」
《本当にあの化け物を倒したのか⁈》
「うん。仇、とったよ」
《ありがとう・・・本当に。なんてお礼を言えばいいのか・・・。》
「それからね、ユウからガイストさんに話があるみたい」
《俺に?》
ガイストさんは不思議そうな顔で俺を見た。
「はい。ガイストさん、貴方のことです。」
《・・・?》
「結論から言いますね。あなたは、隊長さんの最期の命令を果たせたようですよ」
《そんなはずは無い。現に俺は》
「まあ聞いてください。あの魔物は、腹が減ると周囲の命を食ってエネルギーにしていたんです。人間も対象です。でも、あいつに襲われたはずの貴方の遺体には欠損はおろか、傷一つさえ無かったんです。怪我した足を除いてね」
《・・・・・・》
「つまり貴方は、あいつに襲われはしたものの、殺されたわけではないんです。あいつは命を食います。命だったから貴方を追ってきた。でも、食われる前に命じゃなくなったのだとしたら?」
《命じゃなくなった?》
「要するに、肉体から魂が抜けたなら?残った体は命ではありませんよね。だから奴の興味から外れた。そう考えると一つ、辻褄の合う答えが見えてくるんです。」
《答え・・・?》
「貴方の能力です」
能力はまだすべての人類に備わっているものではないし、持っている人間も偶然発見しなければ自覚できない。ガイストさんは・・・名付けるなら「幽体離脱」のような能力を自身が持っていることに気が付かないでいた。それがあの時、自責の念と悔しさで開花し、気付かぬ間に肉体から脱出できた。
「見せてもらった記憶では、最後に意識が途絶えましたよね。亡くなったとは限りません。それに、貴方が死を自覚できなかったのも、本当は死んでいないからとも考えられます。」
《俺の能力が覚醒して・・・。でも、そうだったとしても俺は結局、何も出来てない。王都への報告も・・・》
「いいえ、貴方は十分すぎるほど情報をくれましたよ。俺たちに、ね。」
「うん。敵の特徴とか、本当に助かったよ」
「だな」
「そうね。ご協力、感謝するわ」
《お、俺は・・・あいつを倒す力に・・・君たちの力に、なれたのか・・・》
嬉し涙。
悲し涙。
悔し涙。
様々な感情の雫で地を濡らすガイストさん。震える声で彼は続けた。
《俺の肉体は、もう腐ってるんだろう?》
「うん、残念だけど」
《いや、いいんだ。もう、未練は無いからな。》
「ガイストさん?」
《君たちには世話になったな。ありがとう。へへっ、いくら言っても足りねえや。》
その言葉と共に、ガイストさんはこの世から姿を消した。
「居なくなっちゃった」
「・・・そっか」
寂しいが、ガイストさんがその道を選んだなら仕方ない。
集落に戻ると、モルケライさんが待っていた。
「よく戻ってきてくれた」
「家畜数減少の原因はやはり魔物でした。討伐は完了しましたが、戦闘中にかなりの数の家畜が捕食されています。復興には少し時間がかかるかと思います。」
「そうか。ありがとう。だがそれよりも諸君らの命だ。これから時間はあるかな?」
連れられてやってきたのはレストランだった。夕食も振舞ってくれると言うので、お言葉に甘えた。そこで調査内容などの報告を行った。
「そうか、調査班は・・・。それにしても、何故そんな魔物がこのヴァルム地方に?」
「たまたまなのか、何か理由があるのか・・・。そこまでは分かっていません」
「運が悪かっただけ・・・、そう思いたいよ」
何が原因で何が起きていたのか。それと、派遣された調査班はどうなったのか。おおまかにその二つを報告した。
「すみません、二度もごちそうになってしまって」
「いいんだ、気にしないでくれ。君たちは命をかけて戦ってくれたんだ。対価としては足りないくらいだが、せめてもの気持ちだよ。」
お礼と挨拶をし、帰りの馬車に乗り込んだ。帰りと言っても、一回王城へ向かう。任務完了の報告だ。道中は居眠りをしてしまった。馭者を務めるリーフさんには申し訳ないが・・・。
到着後、昼と同じようにして王のもとに。
「ほう、そのような魔物が。」
「それと事前に派遣された調査班ですが、メンバーは皆・・・。」
「やはり、そうであったか。」
「報告は以上になります。」
「うむ、ご苦労。では、私からも話をさせてもらおう。」
王からの話?いったい何だろう。明日の任務とかだったら嫌だな・・・。
「まずはこれを見てくれ」
王は、椅子の横から大きめの紙を取り出し、机に広げた。それに書かれていたのはどこかの施設?か何かの間取り図だった。
「・・・こちらは?」
「これは王都内にある屋敷だ。今は空き家になっていてね。」
「はあ」
「この屋敷を、今回の君たちへの報酬とする」
・・・え?
ちょっと待ってくれ。
今、王はなんて・・・?
この屋敷を?
俺たちへの報酬に?
「え、えっと・・・つまりそれは、この御屋敷を我々にくださる、と?」
さすがに驚きを隠せない様子のお姉ちゃん。
いや、驚いているのはお姉ちゃんだけじゃない。
この場にいる王以外、全員だ。
「そうだ。もう準備は出来ている。すぐにでも転居を開始できる状態だ。君たちの使っていた屋敷は第一班が使う予定だ。」
手が早いな・・・。
俺たちが今日の任務を成功させると信じていたようだ。
「し、深謝申し上げます。」
「疲れているとは思うが、出来れば明日、すぐにでも転居作業を始めてもらいたい。昨日の成果を労った休暇を明日以降の三日間、君たちと第一班に与えることになっている。活用してほしい」
一班はクリスが居るところだ。昨日の約束が早速果たせそうだな。
「それと、屋敷を与えるに至って、もう一つ話がある」
王は何枚かの書類を取り出し、お姉ちゃんに渡した。
「休めることが多い戦況だとは言え、君たちも多忙だろう。そんな中で屋敷の管理まで行うのは荷が重い。」
ま、まさか・・・。
「そこで、だ。」
まさか、まさか・・・。
「三名の派遣メイドと、一名の専属メイドを仕えさせることにした。」
メイド。
・・・メイド‼
「その書類は一級資格を持つメイドのリストだ。その中から一名、専属メイドを選ぶといい。」
メイドと聞いてそわそわしていると、アイシャが笑顔で俺の右手を握った。
ごめんなさい。
お姉ちゃんは一枚ずつ書類をめくっている。やがて、一瞬目を見開いたかと思うと、その時見ていたページを王に提示した。
「この方でお願いいたします」
「ずいぶんと早いな。他三人は、それでよいのか?」
「異議はありません。」
誰でもいいよ、と言いたげなリーフさん。かく言う俺も、誰がどんな人間かは分からないし。お姉ちゃんの判断に従うことに。
「問題ありません。」
「私も大丈夫です。」
「そうか。ではこの者に連絡を入れておく。明後日には屋敷へ到着するだろう。」
「ありがとうございます」
「以上だ。そちらから加えて何かあるか?」
「いえ、特には」
「そうか。ではこれにて終了とする。本日の任務、本当にご苦労であった。」
「失礼いたしました。」
各々挨拶を口にし、退室。
城門から出ると、一気に緊張が切れた。疲れた~とか。眠~いとか。それより前に出る言葉は決まっている。
「王都の屋敷!豪邸よ、豪邸‼」
「ああ、あのボロ屋敷ともおさらば、だな。」
「・・・メイド」
「・・・ユウ?」
まっすぐな瞳で圧力をかけるのはやめてください、怖いです。
「ご、ごめんってアイシャ・・・。」
それにしても、王都に住む。騎士のみならず、大半の人間にとって、これほど嬉しいことがあるだろうか。豊かで活気あふれた土地での生活はさぞ楽しかろう。明日が待ち遠しい。
馬車に乗り、帰路に就く。ああ、今日は本当に疲れた。トラウマになりそうな一日だった。出来ることなら、あんな魔物は二度と現れないでほしい。勝ちはしたものの、精神負荷は間違いなく過去一番だ。それに今、俺はとんでもない大問題を抱えている。
「おえっ・・・」
「ちょっとユウ、吐かないでよ?」
「だ、大丈夫です・・・多分きっと・・・。」
俺は馬鹿だ。あの魔物を倒した達成感と解放感からつい夕食を食べすぎてしまった。帰りに馬車を使うことを忘れて。元々馬車に強くない俺が、食べ過ぎた状態で乗ればどうなるか。容易に想像できたはずなのに。
やっぱり、いつだって食べるのは「程よく」が一番いいな
「間一髪、だな。」
「さすがに死ぬかと思ったわ・・・。」
「良かった・・・。処女のまま死ぬところでした」
「え?」
「は?」
「・・・え、何ですか?」
「ああ、いや。何でもないわ。忘れてちょうだい」
とりとめのない会話を中断し、爆心地へ。そこにあったのは、無惨にも爆散した肉塊。さっきまで俺たちを苦しめていた者の姿は、惨い物体に変貌していた。怒りに任せて食いまくった結果、エネルギー過剰になって爆発。と言ったところか?
「ユウ、これ何だろう?」
「どれ?」
「ほら、死骸に埋まってる赤黒いやつ」
言われた部分を見ると、確かに何かある。
「ちょっとお姉ちゃんにも見せて」
霊はダメでも、こういうのは平気なんだ・・・。
などと失礼なことを思っていると、お姉ちゃんが何かを思い出したようだ。
「これ、この魔物のコアかもしれないわ」
「「コア?」」
魔物に核があるなんて話は聞いたことが無い。
「おい、じゃあもしかして・・・」
リーフさんも心当たりがある様子。
「ええ、間違いないわ。先代魔特班の報告書に書かれてた超強力な魔物・・・。こいつはその類かもしれないわ。」
先代は、お姉ちゃんやリーフさんが配属される前の年まで前線で活躍していた。しかし、ある時突然、壊滅してしまったらしい。その真相は定かではないという。そんな先代が遺した報告書にコアという記載があったのだとか。その報告書は、俺とアイシャが来る前に回収されたらしいのだが・・・。
「確か、コアは破壊しないといけなかったはずよ」
「やってみます」
俺はそのコアに、剣を力いっぱい突き刺した。ガラスのような音をたてて割れ、同時に魔物の体が淡い光と共に蒸発するように消えた。
——終わった。
最後に周辺を捜索し、人間の遺体を発見した。
「かなり腐敗が進んでるけど、外傷は無いわね。」
「顔は明らかにガイストさんですね」
「だな。一体どうなってんだ?」
「あれ、そういえばユウ。魔物が出てくる直前に何か言いかけなかった?」
「あぁ、あれは・・・」
ガイストさんが霊魂として存在している理由の考察を言いかけたんだった。彼は最後に足を怪我して、とてもじゃないが泡を避けられるような状態じゃなかった。その事実と、遺体を見て今、推測は確信に変わった。
「ガイストさんの所に行って話しましょう」
《本当にあの化け物を倒したのか⁈》
「うん。仇、とったよ」
《ありがとう・・・本当に。なんてお礼を言えばいいのか・・・。》
「それからね、ユウからガイストさんに話があるみたい」
《俺に?》
ガイストさんは不思議そうな顔で俺を見た。
「はい。ガイストさん、貴方のことです。」
《・・・?》
「結論から言いますね。あなたは、隊長さんの最期の命令を果たせたようですよ」
《そんなはずは無い。現に俺は》
「まあ聞いてください。あの魔物は、腹が減ると周囲の命を食ってエネルギーにしていたんです。人間も対象です。でも、あいつに襲われたはずの貴方の遺体には欠損はおろか、傷一つさえ無かったんです。怪我した足を除いてね」
《・・・・・・》
「つまり貴方は、あいつに襲われはしたものの、殺されたわけではないんです。あいつは命を食います。命だったから貴方を追ってきた。でも、食われる前に命じゃなくなったのだとしたら?」
《命じゃなくなった?》
「要するに、肉体から魂が抜けたなら?残った体は命ではありませんよね。だから奴の興味から外れた。そう考えると一つ、辻褄の合う答えが見えてくるんです。」
《答え・・・?》
「貴方の能力です」
能力はまだすべての人類に備わっているものではないし、持っている人間も偶然発見しなければ自覚できない。ガイストさんは・・・名付けるなら「幽体離脱」のような能力を自身が持っていることに気が付かないでいた。それがあの時、自責の念と悔しさで開花し、気付かぬ間に肉体から脱出できた。
「見せてもらった記憶では、最後に意識が途絶えましたよね。亡くなったとは限りません。それに、貴方が死を自覚できなかったのも、本当は死んでいないからとも考えられます。」
《俺の能力が覚醒して・・・。でも、そうだったとしても俺は結局、何も出来てない。王都への報告も・・・》
「いいえ、貴方は十分すぎるほど情報をくれましたよ。俺たちに、ね。」
「うん。敵の特徴とか、本当に助かったよ」
「だな」
「そうね。ご協力、感謝するわ」
《お、俺は・・・あいつを倒す力に・・・君たちの力に、なれたのか・・・》
嬉し涙。
悲し涙。
悔し涙。
様々な感情の雫で地を濡らすガイストさん。震える声で彼は続けた。
《俺の肉体は、もう腐ってるんだろう?》
「うん、残念だけど」
《いや、いいんだ。もう、未練は無いからな。》
「ガイストさん?」
《君たちには世話になったな。ありがとう。へへっ、いくら言っても足りねえや。》
その言葉と共に、ガイストさんはこの世から姿を消した。
「居なくなっちゃった」
「・・・そっか」
寂しいが、ガイストさんがその道を選んだなら仕方ない。
集落に戻ると、モルケライさんが待っていた。
「よく戻ってきてくれた」
「家畜数減少の原因はやはり魔物でした。討伐は完了しましたが、戦闘中にかなりの数の家畜が捕食されています。復興には少し時間がかかるかと思います。」
「そうか。ありがとう。だがそれよりも諸君らの命だ。これから時間はあるかな?」
連れられてやってきたのはレストランだった。夕食も振舞ってくれると言うので、お言葉に甘えた。そこで調査内容などの報告を行った。
「そうか、調査班は・・・。それにしても、何故そんな魔物がこのヴァルム地方に?」
「たまたまなのか、何か理由があるのか・・・。そこまでは分かっていません」
「運が悪かっただけ・・・、そう思いたいよ」
何が原因で何が起きていたのか。それと、派遣された調査班はどうなったのか。おおまかにその二つを報告した。
「すみません、二度もごちそうになってしまって」
「いいんだ、気にしないでくれ。君たちは命をかけて戦ってくれたんだ。対価としては足りないくらいだが、せめてもの気持ちだよ。」
お礼と挨拶をし、帰りの馬車に乗り込んだ。帰りと言っても、一回王城へ向かう。任務完了の報告だ。道中は居眠りをしてしまった。馭者を務めるリーフさんには申し訳ないが・・・。
到着後、昼と同じようにして王のもとに。
「ほう、そのような魔物が。」
「それと事前に派遣された調査班ですが、メンバーは皆・・・。」
「やはり、そうであったか。」
「報告は以上になります。」
「うむ、ご苦労。では、私からも話をさせてもらおう。」
王からの話?いったい何だろう。明日の任務とかだったら嫌だな・・・。
「まずはこれを見てくれ」
王は、椅子の横から大きめの紙を取り出し、机に広げた。それに書かれていたのはどこかの施設?か何かの間取り図だった。
「・・・こちらは?」
「これは王都内にある屋敷だ。今は空き家になっていてね。」
「はあ」
「この屋敷を、今回の君たちへの報酬とする」
・・・え?
ちょっと待ってくれ。
今、王はなんて・・・?
この屋敷を?
俺たちへの報酬に?
「え、えっと・・・つまりそれは、この御屋敷を我々にくださる、と?」
さすがに驚きを隠せない様子のお姉ちゃん。
いや、驚いているのはお姉ちゃんだけじゃない。
この場にいる王以外、全員だ。
「そうだ。もう準備は出来ている。すぐにでも転居を開始できる状態だ。君たちの使っていた屋敷は第一班が使う予定だ。」
手が早いな・・・。
俺たちが今日の任務を成功させると信じていたようだ。
「し、深謝申し上げます。」
「疲れているとは思うが、出来れば明日、すぐにでも転居作業を始めてもらいたい。昨日の成果を労った休暇を明日以降の三日間、君たちと第一班に与えることになっている。活用してほしい」
一班はクリスが居るところだ。昨日の約束が早速果たせそうだな。
「それと、屋敷を与えるに至って、もう一つ話がある」
王は何枚かの書類を取り出し、お姉ちゃんに渡した。
「休めることが多い戦況だとは言え、君たちも多忙だろう。そんな中で屋敷の管理まで行うのは荷が重い。」
ま、まさか・・・。
「そこで、だ。」
まさか、まさか・・・。
「三名の派遣メイドと、一名の専属メイドを仕えさせることにした。」
メイド。
・・・メイド‼
「その書類は一級資格を持つメイドのリストだ。その中から一名、専属メイドを選ぶといい。」
メイドと聞いてそわそわしていると、アイシャが笑顔で俺の右手を握った。
ごめんなさい。
お姉ちゃんは一枚ずつ書類をめくっている。やがて、一瞬目を見開いたかと思うと、その時見ていたページを王に提示した。
「この方でお願いいたします」
「ずいぶんと早いな。他三人は、それでよいのか?」
「異議はありません。」
誰でもいいよ、と言いたげなリーフさん。かく言う俺も、誰がどんな人間かは分からないし。お姉ちゃんの判断に従うことに。
「問題ありません。」
「私も大丈夫です。」
「そうか。ではこの者に連絡を入れておく。明後日には屋敷へ到着するだろう。」
「ありがとうございます」
「以上だ。そちらから加えて何かあるか?」
「いえ、特には」
「そうか。ではこれにて終了とする。本日の任務、本当にご苦労であった。」
「失礼いたしました。」
各々挨拶を口にし、退室。
城門から出ると、一気に緊張が切れた。疲れた~とか。眠~いとか。それより前に出る言葉は決まっている。
「王都の屋敷!豪邸よ、豪邸‼」
「ああ、あのボロ屋敷ともおさらば、だな。」
「・・・メイド」
「・・・ユウ?」
まっすぐな瞳で圧力をかけるのはやめてください、怖いです。
「ご、ごめんってアイシャ・・・。」
それにしても、王都に住む。騎士のみならず、大半の人間にとって、これほど嬉しいことがあるだろうか。豊かで活気あふれた土地での生活はさぞ楽しかろう。明日が待ち遠しい。
馬車に乗り、帰路に就く。ああ、今日は本当に疲れた。トラウマになりそうな一日だった。出来ることなら、あんな魔物は二度と現れないでほしい。勝ちはしたものの、精神負荷は間違いなく過去一番だ。それに今、俺はとんでもない大問題を抱えている。
「おえっ・・・」
「ちょっとユウ、吐かないでよ?」
「だ、大丈夫です・・・多分きっと・・・。」
俺は馬鹿だ。あの魔物を倒した達成感と解放感からつい夕食を食べすぎてしまった。帰りに馬車を使うことを忘れて。元々馬車に強くない俺が、食べ過ぎた状態で乗ればどうなるか。容易に想像できたはずなのに。
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