宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【五話】勇躍と向後。(2)

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 会計を済ませて退店。腹は満ち、財布は……。
 
「美味しかった~」
「これは通うしかないな」
「腹も膨れたし、屋敷に戻ろう」
「ちょっとだけ待ってて」
 
そう言ってアイシャが向かったのは、例のアイス屋。
ああ、そっか……。
列はなく、一分ほどで戻ってきた。
 
「お待たせ。はいこれ、おじさんから」
 
俺たち三人に差し出されたのは、人数分のアイス。ほんと、気前のいいおじさんだ。
 
「おじさんからって……?」
「え、くれたの?」
「うん。ユウがあのお店の常連でね。行くといつもご馳走してくれるんだ~」
「へえ……。お前、そんなにアイス好きだっけ?」
「訳は訊くな……。」
「お、おう……。」
 
神妙な顔で言った俺に、クリスは引き下がった。
 
「お、バニラ味か」
「バニラか……。卑猥な食い方するなよ、ビッ……ゴフ⁈」
 
俺の腹にえぐいスピードのミラの拳。
 
「ユウ君、お黙り♡」
「おい、俺の時より優しくね?おい?」
「え、そう?」
 
サル型魔物のタックルくらい痛いんだけど、これのなにが、優しいって……?
 
 
屋敷に帰還。俺たちが最後だったらしい。
 
「すみません、お待たせしました」
「いいのよ、休日なんだから」
「ああ。気張る必要はない」
 
……なんて言われましても、上官達を待たせておくのは気が引ける。
アイシャがお姉ちゃんに貢物を提出し、改めて席に着いた。
 
「じゃ、みんな揃ったわね。」
「ご厚意により、空き部屋の掃除と、荷物の搬入も助けていただけるそうだ」
「厚意よ、厚意。」
「……。では、早速だが始めよう。」
「私とリーフは空き部屋の掃除を手伝います。あなた達二人はお友達を手伝ってあげなさい」
「え、俺がミラの部屋に⁈」
「いいよ、おいで♡」
「ユウお前な……。」
 
 冗談はさておき、クリスの部屋予定地へ。ここは元・俺の部屋だ。ミラは元・アイシャの部屋を使うようだ。
リビングに積まれたクリスの荷物の運搬を手伝った。
 
「ふう、これで全部か?」
「おう、サンキュー」
 
部屋を一瞥した後、窓から景色を見てクリスは言った。
 
「良い部屋だな、ここ。」
「そうか?」
「ああ、そっか。お前は配属後いきなりここだったんだよな」
 
そう。だからどうしてもこの屋敷が基準になってしまう。
 
「兵舎は酷いもんだぜ」
「へえ……。どんな?」
「まず個人部屋なんて言うのは上官の特権さ」
「その時点でもう絶望的だが?」
「普通は大体三人から四人くらいのルームシェア状態だな」
 
すでに聞きたくない。
 
「隙間風はすごいわ、あっちこっち軋むわ、トイレは汚いわ。」
「散々だな……。」
 
そんな劣悪な場所と比べれば、ここは確かに楽園のような場所だ。
兵舎からの解放記念として、何かプレゼントをしてやりたいが……。
思いつくのはこれくらいだ。
 
「おね……班長に、コーヒーと紅茶を少し置いて行くように頼んでみるよ」
「え、本気で言ってんの⁈……おね?」
「魔特班は騎士団から片足はみ出てるし、王直属だからちょっと贅沢が出来るわけ」
「ずりぃな……。」
「今からでも目指せるだろ、頑張れよ」
 
騎士になるには、資格を得る必要がある。普通資格で騎士になり、それぞれの班に配属される。
上級資格を得ると一から四の少数班に入るか、伝令の人や受付の人のような公務を受け持つことが出来るようになる。
上級資格保持者のほとんどが公務にまわって生活の安全を確保しているのが現状だ。そして、更なる試験に受かれば魔特班の仲間入りだ。
 
「いや、やめておこう」
「なんで?」
「毎日お前とアイシャのイチャイチャを見せられちゃ堪ったもんじゃないからだ‼」
 
——ごめんなさい。
 
 
 リビングに降り、クリスに紅茶を振舞った。また雑談をしながらくつろいでいると、一班のカタリーナさんが降りてきた。自分の作業が終わったようだ。
 
「お疲れ様です。」
「ああ、クリス。お疲れ様。それは……紅茶かい?」
「はい。魔特班には頻繁に支給されるらしいです」
「そうなんだ」
「よかったら淹れましょうか?」
「いやあ、悪いよ」
「大丈夫ですよ、余るくらいなので」
「そう?じゃあ済まないけど、お言葉に甘えようかな……?」
「コーヒーもありますけど、どうします?」
「うーん……ではコーヒーを頂こうかな」
「了解です」
 
 数分経つと、残りの人たちがぞろぞろと降りてきた。
お姉ちゃんを見つけた俺は、さっき考案したお願いをしに向かった。念のため小声で話しかける。
 
「お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「ちょとお願いが」
「なに?下の世話ならアイシャに」
「違いますよ……。」
「ごめんね、早とちりしちゃった」
 
……とちりすぎにも限度があると思います。
 
「支給品のコーヒーや紅茶なんですけど、少し一班に分けられないですかね?」
「良いけど、どういう風の吹き回し?」
 
なんで俺が普段はケチみたいになってるのかは分からないが……。
 
「さっきクリスから兵舎の話を聞きまして……。」
「ああ、そういうことね。私もセリアさんから聞いたの。良い考えね。ご褒美♡あげちゃうわ」
 
……この人の「ご褒美♡」より怖い報酬はない。
 
「じゃあ、すみませんがその方向でお願いします」
 
クリスの横に戻り、小声で交渉結果を伝えた。
 
「良かったな、クリス。さっきの件、交渉成立した」
「おお、マジで⁈サンキュー‼」
 
革命が成功したかのように喜ぶクリス。これから暫くの間コーヒーや紅茶が飲めることに、心が躍っているのだろう。
一方で俺も、王都で良いお茶なんかが買えるんじゃないかと期待している。
いや、それが理由でプレゼントを考えたわけではないが……。
 
 全員がリビングに揃い、班長同士で何かの話し合いをしていた。
例の四人で一か所に固まり、残り少ない再会の時を有意義に過ごす。有意義……?
 
「もうすぐお別れだね」
 
騎士校以来の再会を心待ちにしていたのは、アイシャとて同じこと。
特に、親友ミラとの再会には胸が高鳴っていたことだろう。
 
「二度と会えなくなるわけじゃねえし、まあそのうちまた集まれるだろ」
 
ちょっといいことを言うクリス。
 
「だな。お前が死ななければ。」
「おい、なんで俺限定なんだよ」
「あの店に通っていれば会えるかもね~」
「あの店?お前が興味持つようないかがわしい店なんかあったっけ?」
「え、どこ?私も見てみたい」
「ご飯食べた店‼ユウはアタシのことなんだと思ってんのよ……?」
「「ビッ……ゴフ⁈」」
 
綺麗に同じセリフをハモる(予定だった)俺たちの腹に、えぐいスピードのミラの両拳。
いや、今のはそっちから誘ってただろ……‼
 
「こ、この拳も次に会う時までは無いな。助かった。」
「え~、それは無念すぎる。ていうか、くらう前提なのね。」
「私が代行しとく」
「え⁈」
「おっ、それ良いね~。頼むよアイシャ」
「やめてくださいお願いします」
 
——お姉ちゃんたちに動きが。
 
とっさに会話をやめ、顔を向ける。騎士の条件反射だ。
 
「はい。とりあえず合同作業はこれまで。お疲れさまでした。」
 
お疲れ様で~すと、各自言い、再び静まった。
 
「細かいことは大体シュルツさんに伝えました。この屋敷を大切に使ってあげてくださいね。私からは以上です。シュルツさんは何か?」
「私からは特に。」
「分かりました。では解散としましょう。」
 
 各自別れの挨拶を交わしている。お姉ちゃんはシュルツさんやセリアさん。リーフさんはタイロンさんと交流が深まったようだ。それを見ていると、カタリーナさんが俺の所に。
 
「やあ、今日はありがとうね」
「いえ、お役に立てて何よりです」
「コーヒーまで頂いて。本当に助かったよ。」
「あ、それなんですけどね。おね……班長に言って、コーヒーと紅茶を一部置いて行く事にしたので、よかったらどうぞ」
「本当かい⁈ありがとう、嬉しいよ。おね……?」
 
俺の言葉に、目を輝かせたカタリーナさん。喜んでもらえて嬉しい。
カタリーナさんと別れて馬車前へ。そこには、クリスとミラが居た。
 
「じゃ、またな」
 
クリスの言葉に、俺も返事をした。
 
「ああ、また。」
 
すると、クリスが拳を差し出してきた。その拳に俺の拳を合わせる。
アイシャとミラは手を握り合って別れを惜しんでいた。
 
「ユウも。またね~」
「おう、またな」
「最後に一発いっとく?」
「いいえ、結構です……。」
「ちぇ~」
「またな」
「うん。」
 
アイシャを先に馬車に乗せ、俺は思い出したようにクリスへ。
 
「そうだ。カタリーナさん、めっちゃいい人だな」
「ああ。あの人は良い人ランキング世界一位だからな」
「なんだよ、それ……。」
「お前のとこの班長もいい人だよな」
「あ……うん。そ、そうだな。おね……班長は……。」
「いつものその「おね」って何だ?」
「いや、何でもない‼こっちの話さ!じゃあな!」
 
不都合な話題を振られ、俺もさっさと馬車へ。
 
「なんだ、アイツ……。」
 
馬車が走り出した。俺は急いで窓を開け、二人に視線を向ける。
まだ言えてないことがあるからだ。今までは言えなかったが、動き出した今なら言える。
 
——またな、ビ〇チ‼
 
こら~殴らせろ~‼と暴れるミラを抑えるクリス。
 
そんな友の姿を見て、ふと笑みがこぼれた。
 
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