22 / 49
第一章
【七話】怠惰と変動。(2)
しおりを挟む
……。
声が聞こえる。なんだって?
「……ウ!起きなさい。」
なんだ、母さんか……。
「ユウ。もう二人とも迎えに来たわよ」
……二人……?ああ、アイシャとサラか。
「……⁈」
迎えに来たのが誰かわかってから数秒後、オレは布団から飛び出た。
「また夜遅くまで遊んでたんでしょ?ほら、さっさと顔洗いなさい」
図星をつかれたオレは何も言い返せず、「うん」とだけ言った。
用意を済ませて外に出ると、二人が待ち構えていた。
「おはよ」
「おはよう、サラ」
「おっそいよ」
「すみませんでした」
優しいサラと、怒るアイシャという対比はいつものことで、何なら昨日も見た気がする。
「とりあえず公園いこ」
「あいよ」
「うん」
マモノ、とかいう化け物が現れたらしいというニュースが流れてからもう三か月。
俺たちの住むストロングホールドは王都を守る最後の砦だから、ここにマモノが攻めてくることは滅多にない。
それでも、この街には物資の運搬車や常駐の騎士たちが増えた。
あまりいい人とは言えない騎士も多い。
歴史では、騎士は格式高く、誇りを持つ人たちだと教えられた。
この街にいる彼らを見ても、その片鱗は全く感じられない。
今日も公園の隅で酒を飲んで居眠りしたり、大声で怒鳴ったりしている。
「……また居るね」
「ほんと、迷惑しちゃう」
「……。」
この公園は、この前まで子供たちの憩いの場だった。
しかし今では、横暴な騎士たちがたまり、遊ぶ子供の姿はめっきり減ってしまった。
オレは、そんな騎士が嫌いだった。
公園の遊具で遊びながら、今日は何をするかの会議をした。
商店を見て歩くとか、もう一度教会を見に行くとか、防壁を登るとか。
十人十色の意見を出し合い、結局は「図書館で面白そうな本を探す」という頭のよさそうな案が採用された。
こういう案を出してくれるのはサラ。アイシャを上手くまるめこむ能力に長けている。
普段はあまり本を読まないオレは、何が自分にとって「面白そう」なのかわからず、
図書館の中を何周もうろうろしている。古典は読めないし……絵本は何だか恥ずかしい。
文学作品……?歴史書は……難しそうだ。なんて悩んでいると、時計はすでに二十分の経過を示していた。
もしかしてオレ待ちなんじゃないかという焦りから、選ぶジャンルを小説に絞って集中することに。
本のタイトルだけをざっと見、気になったら背表紙のあらすじを読んでみる。
そんな感じで、全神経を尖らせて探す。学業関連では発揮されることのない力だ……。
「私はこれ。」
決めておいた集合地点に、各自選んだ本をもって再集合した。
二人がどんな本を選ぶのか、まったく予想がつかない。意外と楽しい企画かもしれない。
アイシャが選んだのは、報われない姫と立ち直れない王子の物語。
そういうチョイスは女の子。
そう言えば女子でしたね……。
オレが持って行ったのは、戦争時に敵軍に送られたスパイの小説。
タイトルとあらすじがなぜか妙にオレの気を引いた。
今が戦時中だという事実を、日常で実感することがほとんどないストロングホールド。
そこで暮らすオレをはじめとした住人にとって、マモノなんて言う作り話みたいな敵と、
自分自身がそれである人間との戦争は刺激的な非日常だ。
そうした背景があって、戦争という近くて遠いワードにワクワクしたのかもしれない。
そして——
「私はね、前に教会で聞かせてもらったお猿さんのお話。あれの絵本があったから。」
「ああ、あの話か。うっすら覚えてる」
「そんなのあったっけ?」
「シスターさんが話してくれたでしょ……?」
「そうだっけ」
……この娘は……。
とは言え、オレもよく分かっていない。
確か三匹のサルが出逢って喧嘩別れ……みたいな感じだったか。
アレが何を意味するのか、オレにはまだわからない。
まあたいていの絵本も内容は子供にはよくわからない。
大人になったら分かるのだろうか……。
結局、図書館だけで一日をつぶすことはできなかった。
アイシャが「飽きた」とわめくので、近くの商店街へ。
ここは活気があって、いるだけでテンションが上がる場所だ。
オレたちは、なけなしのお小遣いから出し合ってフライドポテトを購入。
休憩スペースで雑談しながら完食。
今日気づいたが、どうやらアイシャはこの手の食べ物が好きなようだ。
夕方。帰路に就いたオレたちは、いつものようにくだらない話で盛り上がる。
道中、ふとサラの顔を見て違和感に気づく。
「サラ?」
「……ん、どうしたの?」
「いや、その……なんか元気なさそうだったからさ」
「大丈夫?」
「アイシャが連れまわすから疲れちゃったんじゃねえの?」
元気がなさそう。自分でそう言ったのだが、少し違う気がする。
浮かない表情であることは確か。けれど、元気がないというよりは、寂しげというか……。
「ううん、大丈夫。でもたしかに、ちょっと疲れちゃったのかも。」
「ごめんね、明日学校なのに。ゆっくり休んでね?」
「うん。心配してくれてありがとう。」
サラは優しく、無理をしがちなところがある。
ちょっとくらい体調が悪くてもそんなそぶりを見せず、アイシャの誘いに応えてしまう。
これを機にアイシャには反省してもらわねば。
「今日はもう解散するか」
「うん」
「そうだね」
体調が悪いというわけではなさそうだった。
ただ疲れているだけ。アイシャが毎日毎日呼び出すから。
サラは熱心な勉強家で、きっと今朝も早起きして勉強していたんだろう。
寝ていただけのオレとは違って、疲れるのも無理はない。
その点で、アイシャは何者なんだ、という話になるが……。
まあ、彼女には男にも勝るガッツがある。
気性は荒いし、殴るときはグーだ。
サラにだけ優しい態度をとるのは解せないが。
とにかく俺は、サラの異変を単なる疲労だと決めつけて、
深く考えることもせずに、いつものように別れの挨拶を口にした。
「んじゃ、また明日」
「うん、また明日」
オレ、アイシャに続いてサラも返事をした。
「……バイバイ」
何だか不思議な感覚になりながらも、オレは家へ向かった。
さっきまで明るく輝いていた太陽はすっかり顔を隠し、世界は暗闇に支配されようとしていた。
声が聞こえる。なんだって?
「……ウ!起きなさい。」
なんだ、母さんか……。
「ユウ。もう二人とも迎えに来たわよ」
……二人……?ああ、アイシャとサラか。
「……⁈」
迎えに来たのが誰かわかってから数秒後、オレは布団から飛び出た。
「また夜遅くまで遊んでたんでしょ?ほら、さっさと顔洗いなさい」
図星をつかれたオレは何も言い返せず、「うん」とだけ言った。
用意を済ませて外に出ると、二人が待ち構えていた。
「おはよ」
「おはよう、サラ」
「おっそいよ」
「すみませんでした」
優しいサラと、怒るアイシャという対比はいつものことで、何なら昨日も見た気がする。
「とりあえず公園いこ」
「あいよ」
「うん」
マモノ、とかいう化け物が現れたらしいというニュースが流れてからもう三か月。
俺たちの住むストロングホールドは王都を守る最後の砦だから、ここにマモノが攻めてくることは滅多にない。
それでも、この街には物資の運搬車や常駐の騎士たちが増えた。
あまりいい人とは言えない騎士も多い。
歴史では、騎士は格式高く、誇りを持つ人たちだと教えられた。
この街にいる彼らを見ても、その片鱗は全く感じられない。
今日も公園の隅で酒を飲んで居眠りしたり、大声で怒鳴ったりしている。
「……また居るね」
「ほんと、迷惑しちゃう」
「……。」
この公園は、この前まで子供たちの憩いの場だった。
しかし今では、横暴な騎士たちがたまり、遊ぶ子供の姿はめっきり減ってしまった。
オレは、そんな騎士が嫌いだった。
公園の遊具で遊びながら、今日は何をするかの会議をした。
商店を見て歩くとか、もう一度教会を見に行くとか、防壁を登るとか。
十人十色の意見を出し合い、結局は「図書館で面白そうな本を探す」という頭のよさそうな案が採用された。
こういう案を出してくれるのはサラ。アイシャを上手くまるめこむ能力に長けている。
普段はあまり本を読まないオレは、何が自分にとって「面白そう」なのかわからず、
図書館の中を何周もうろうろしている。古典は読めないし……絵本は何だか恥ずかしい。
文学作品……?歴史書は……難しそうだ。なんて悩んでいると、時計はすでに二十分の経過を示していた。
もしかしてオレ待ちなんじゃないかという焦りから、選ぶジャンルを小説に絞って集中することに。
本のタイトルだけをざっと見、気になったら背表紙のあらすじを読んでみる。
そんな感じで、全神経を尖らせて探す。学業関連では発揮されることのない力だ……。
「私はこれ。」
決めておいた集合地点に、各自選んだ本をもって再集合した。
二人がどんな本を選ぶのか、まったく予想がつかない。意外と楽しい企画かもしれない。
アイシャが選んだのは、報われない姫と立ち直れない王子の物語。
そういうチョイスは女の子。
そう言えば女子でしたね……。
オレが持って行ったのは、戦争時に敵軍に送られたスパイの小説。
タイトルとあらすじがなぜか妙にオレの気を引いた。
今が戦時中だという事実を、日常で実感することがほとんどないストロングホールド。
そこで暮らすオレをはじめとした住人にとって、マモノなんて言う作り話みたいな敵と、
自分自身がそれである人間との戦争は刺激的な非日常だ。
そうした背景があって、戦争という近くて遠いワードにワクワクしたのかもしれない。
そして——
「私はね、前に教会で聞かせてもらったお猿さんのお話。あれの絵本があったから。」
「ああ、あの話か。うっすら覚えてる」
「そんなのあったっけ?」
「シスターさんが話してくれたでしょ……?」
「そうだっけ」
……この娘は……。
とは言え、オレもよく分かっていない。
確か三匹のサルが出逢って喧嘩別れ……みたいな感じだったか。
アレが何を意味するのか、オレにはまだわからない。
まあたいていの絵本も内容は子供にはよくわからない。
大人になったら分かるのだろうか……。
結局、図書館だけで一日をつぶすことはできなかった。
アイシャが「飽きた」とわめくので、近くの商店街へ。
ここは活気があって、いるだけでテンションが上がる場所だ。
オレたちは、なけなしのお小遣いから出し合ってフライドポテトを購入。
休憩スペースで雑談しながら完食。
今日気づいたが、どうやらアイシャはこの手の食べ物が好きなようだ。
夕方。帰路に就いたオレたちは、いつものようにくだらない話で盛り上がる。
道中、ふとサラの顔を見て違和感に気づく。
「サラ?」
「……ん、どうしたの?」
「いや、その……なんか元気なさそうだったからさ」
「大丈夫?」
「アイシャが連れまわすから疲れちゃったんじゃねえの?」
元気がなさそう。自分でそう言ったのだが、少し違う気がする。
浮かない表情であることは確か。けれど、元気がないというよりは、寂しげというか……。
「ううん、大丈夫。でもたしかに、ちょっと疲れちゃったのかも。」
「ごめんね、明日学校なのに。ゆっくり休んでね?」
「うん。心配してくれてありがとう。」
サラは優しく、無理をしがちなところがある。
ちょっとくらい体調が悪くてもそんなそぶりを見せず、アイシャの誘いに応えてしまう。
これを機にアイシャには反省してもらわねば。
「今日はもう解散するか」
「うん」
「そうだね」
体調が悪いというわけではなさそうだった。
ただ疲れているだけ。アイシャが毎日毎日呼び出すから。
サラは熱心な勉強家で、きっと今朝も早起きして勉強していたんだろう。
寝ていただけのオレとは違って、疲れるのも無理はない。
その点で、アイシャは何者なんだ、という話になるが……。
まあ、彼女には男にも勝るガッツがある。
気性は荒いし、殴るときはグーだ。
サラにだけ優しい態度をとるのは解せないが。
とにかく俺は、サラの異変を単なる疲労だと決めつけて、
深く考えることもせずに、いつものように別れの挨拶を口にした。
「んじゃ、また明日」
「うん、また明日」
オレ、アイシャに続いてサラも返事をした。
「……バイバイ」
何だか不思議な感覚になりながらも、オレは家へ向かった。
さっきまで明るく輝いていた太陽はすっかり顔を隠し、世界は暗闇に支配されようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる