天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第2章:破壊

突然の来訪者

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◇◇◇

 ——ニューラグーン王国城、城門前

 ニューラグーン国王への挨拶と、増援の獲得と言った目的のため、王国城へとやってきた二人。騎士であることの証明のため、両名とも装備を身に着けての訪問である。

 事前に文書などを送った訳ではないが故、まずは謁見の交渉からする必要がある。

「恐れ入ります」

「何でしょう」

 アインズを先頭にして、門番の騎士に話しかける。

「私、ブライトヒルから参りました、王国騎士団のアインズと申しますが」

 彼女が名乗ると、細かった門番騎士の眼が見開いた。思わぬ客人に驚いたからだ。

「なんと、ブライトヒルから?」

 疑問を呈した彼に、アインズは自身の剣に刻まれたブライトヒル王国の紋章と、王国騎士団の紋章を見せた。これを持っていることが、一応の身分証明となる。

——あ、これか

 メーデンがユウキに贈った剣と防具にも、同じ紋章が刻まれている。

「急で申し訳ないのですが、国王様にお会いしたく……今からなんとか謁見を許可願えませんでしょうか」

「少々お待ちくださいませ」

 門番が少し戸を開け、その向こう側に居た騎士を呼び寄せた。

「そこの者、少し良いか」

 重厚感のある足音を鳴らしながら、一人の騎士が近づく。二人が小声で何か話しているのを見守る。

「そういう事だから、確認を頼む」

「御意」

 了承の返事をした後、再び重い足音を鳴らして離れて行った。

「ただいま確認いたします。もう少々お待ちください」

「ええ。ありがとうございます」

◇◇◇

 それから数分、何もない時間が流れる。その間にユウキは、周辺を観察した。故郷では見ない景色ばかりだからだ。

 大きな荷台をひいた馬車が次々と到着している。そのどれもが決まった場所で一時停止し、守衛の騎士に書類を提出している。

 入城許可書や積み荷情報書の類である。許可を受けていない馬車は追い返されるのだろうが、今のところそう言った事件は起きていないようである。

——来た

 扉の向こうから、再び例の足音が聞こえた。

「お待たせいたしました、アインズ様。どうぞお入りください」

「感謝いたします」

 アインズが一歩踏み出した。ユウキもそれに倣うが、そんな彼を見て門番が問う。

「ところで、貴方様は?」

「この子は私の連れです。騎士見習い中でして。ほら、紋章をお見せして」

「はい」

 先ほどアインズがやったように、剣に刻まれた二種類の紋章を見せる。

「なるほど。お引止めしてしまい申し訳ございません。お進みください」

「ありがとうございます」

 礼の言葉と共に軽く会釈をし、アインズの背中を追って城へと足を踏み入れた。

◇◇◇

 ——ニューラグーン王国城

 応接間に通されることになった二人は、
案内人について行き、やがて長い廊下の最奥にある部屋へ。その入口にて。

「念の為、武器はこちらへ」

 腰に携えた剣と脚に括った短剣を外す。
武器を置くと、身体が一気に軽くなったように感じた。

——アインズさんはずっとこんなのを提げてたんだ……

 案内人の騎士が去ったのを見て、アインズが部屋の扉をノックした。

「お入りください」

 応接間の中から返事が聞こえた。深呼吸をひとつして、扉開けた。

「失礼いたします。ブライトヒルから参りました、アインズと申します」

 その場で、国王らしき男性に頭を下げ、アインズが名乗った。

「お、同じく、ユウキと申します」

見様見真似でユウキも名乗る。

 ニューラグーンの王は、ブライトヒルの王よりも若く見える。容姿からして五十代くらいだ。

「どうぞ、そちらへおかけ下さい」

「「失礼致します」」

 着席の許可に対して一礼し、椅子の左側から着席。ユウキは無論、アインズの模倣である。動作を終えると、早速アインズが口を開いた。

「本日は、文も出さず唐突に申し訳ございません。大変不躾な訪問、ご容赦願います」

「いや、構いませんよ。して、どの様な要件で?」

──王様も、暇じゃないんだろうな

「本日は……そうですね、まず経緯からご説明致します」

 王とその左右に立つ近衛兵が聞き耳を立てる中、アインズが経緯と目的の説明を開始。

「ご存知かと思いますが、現在、鎖によって地表に月が固定され、異形のバケモノが出現しております」

「ええ。我が国の騎士からも、犠牲者が出ています。深刻な問題ですな」

「……我がブライトヒルでも、バケモノの襲撃で被害が出ております」

「おっと、お話を遮って申し訳ない」

「いえ。そこで彼──ユウキの発案で、私共は現在、その鎖を全て破壊しようと旅に出たところでございまして」

「旅?」

 そう聞き返す王の視線はアインズではなく、ユウキに向いていた。それに気付いた彼は、緊張しながらも口を開く。

「はい。鎖を破壊し、月を解放する事が出来れば、バケモノの出現を止めることが出来るのではないかと、そう考えての事です」

「なるほど。確かに、因果関係は不明ですが、月が落ちてからバケモノが現れた。やってみる価値はありそうですな。いや、しかし……」

 ユウキの話に賛同したニューラグーン国王だが、一つ、大きな疑問が生じたようである。顎に手を当て、首を傾げて再び問うた。

「そのような壮大な目的の旅を、お二人で?」

「……ええ、旅に出ているのは我々のみです」

「何故です? もっと大々的に部隊を出せば、効率よく進むのではないですか?」

「それに関しましては……本国の防衛も必要ですし──」

「貴国ほどの騎士団であれば、と思ってしまいますが」

「それは──」

「アインズさん」

 疑問を解消しようとする王。そろそろアインズが返答に困り始めた時、彼女の言葉をユウキが遮った。

「僕が、言います」

「ええ、じゃあ……お願いね」

 三人の視線を受けながら、今度はユウキが説明を始める。

「結論から言いますと、この旅は、ブライトヒル王国の国家計画ではないのです」

「……?」

 王は、どういう事だと眉間にシワを寄せ、理解が追いついていないようである。

──まあ、そうだよね

「ブライトヒル王国ではなく、僕個人が言い出し、僕個人が実行しているに過ぎないんです。アインズさんはそんな僕に同行してくれているだけで、先程申し上げた通り、国家計画ではありません」

「なるほど……?」

 納得はしたが、まだ疑問が残っていた王は、話の根幹について質問を投げる。

「貴国の計画ではなく、貴方個人での行動とのことですが、何を目的に?」

「目的は先述の通り、鎖の──」

「そうではなく」

 鎖の破壊と答えようとしたユウキ。しかし、その言葉は途中で遮られてしまった。

「貴方は何故、何の目的で、鎖を破壊しようと考えたのですか?」

「それは……」

 表面的な目的ではなく、旅に出ようと決心したその由縁は何なのか。深く掘り下げた質問を受け、とうとう彼自身の身分を明かす時が来た。

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