天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第3章 : 乖離

月の巫女・セレーネ

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◇◇◇

 月の騎士をなんとか退けたユウキ。既に疲労が見られる彼と、旅の相方アインズ、そしてウルスリーヴルの防人である桜華が鎖へと向かう。

 左右に散った防人は既に鎖へと到達。辺りのバケモノを一掃し、三人が鎖の調査に集中出来る環境を整えていた。

「……で、これどうするの?」

 目の前にそびえる巨大な鎖を見て、改めてその大きさに絶望する桜華。

「壊すのよ」

 対してユウキとアインズは、前回と同様にしてパーツの隙間を発見。そこへアインズの剣を差し込んだ。

「気合いでね」

「気合い……?」

「あそこにアインズさんがワイル──可憐な蹴りをお見舞して、無理やり壊すんです」

「言わされてる感すごいね」

 当該ブライトヒルの騎士は何も言わず、助走を付けて攻撃を見舞う。

「うわぁ……」

「今回もいけそうよ。ユウキ君、そっちをお願い」

「はい」

 隙間を広げる。鎖の破壊方法を知った二人の目的はパーツの分離ではなく、その中にある月長石に触れる事だ。神殿に行き守護者を討伐出来ればなんでも良い。

「やっぱり、ここにもあったわね」

「どれどれ?」

 話だけは聞いていた桜華が二人の間から覗き込む。

「わ、ほんとだ……」

 彼女の目には、やはり月長石が映る。先程ユウキと一戦交えた戦士の首にかかっていた石に酷似しており、同時に、彼の剣がまとった不気味なオーラが思い出された。

「へえ、これがね……」

 ふと手を伸ばす桜華。その行先は鎖の核となる宝玉であり──

「あっ、桜華さ────」

 その途端、周辺の景色が歪みそれに巻き込まれるように三人は現世から姿を消した。

◇◇◇

 ──月の神殿・巫女の間

 持ち主の体格に対して大き過ぎる玉座。それ以外にはこれと言った特徴の無い殺風景な部屋。入口付近に置かれた台座には、夜空のような輝きを放たぬ月長石が一つある。

「う~ん」

 いたずらに露出が多く黒い羽衣に身を包んだ月の巫女・セレーネは玉座で脚を組み、思案していた。

「まだ、力が戻らない……」

 永きに渡って封印されていた影響で、彼女が本来持って然るべき力は未だ発揮されない。

 セレーネは少し焦っていた。こうしている間にも、日の巫女の遣いが鎖を破壊して回っているからだ。

 全て断たれた暁には月が解放され日が影を照らす。そうなってしまえば、人がバケモノと呼ぶ存在は生まれなくなる。その心配をしていたのである。

「……ん?」

 そんな時。台座の上の月長石が光始めたのを発見。この現象に彼女は心当たりがあった。

「おかえり、ジュアン」

 日の巫女の遣いを撃破する様にと命じた己の遣い、ジュアンの帰還である。その成果を聞くのが楽しみで仕方なく、思わず駆け寄った。

「どう? 倒してくれた?」

「セレーネ様……も、申し訳、ございません」

 彼は謝罪とともに右へ倒れた。見ると、左手を欠損している。血が滴り、鏡面のように磨かれた床を赤く濡らす。

「わぁ大変、痛かったでしょ?」

 セレーネは四つん這いになり、横たわるジュアンの患部を覗き込む。そんな姿を見て気が気でない彼に、月の巫女は更に這い寄った。

「セ、セレーネ様……」

「大丈夫、私が治してあげるからね」

そう優しく告げながら彼女は患部に触れ──

「痛いの痛いの、飛んでけ~」

 おさなげな文言を唱えると、ジュアンの左手があった部分に月長石のオーラが集約した。

「まだ痛い?」

「もう平気です。ありがとうこざいます、セレーネ様」

「うんうん。元には戻らないけど、暫くしたら代わりが生えるからね」

「感謝申し上げ──」

「それで、日の巫女の遣いは死んだ?」

 横たわるジュアンに手を差し伸べることなく、セレーネは問いながら玉座に戻った。それまでの様に深く座り、脚を組む。

「いえ……奴はまだ生きて──」

「なんで?」

 敗北の報告を聞き、声のトーンを落として食い気味に言葉を被せた。セレーネの扇情的な雰囲気は瞬時に消え去り、ただ恐るべき悪魔のような女性が座するのみである。

「思ったよりも日長石の力が鬱陶しく……。つ、次こそは仕留めてご覧に入れます!」

 そう宣言したジュアンを数秒冷たい目で見た後、彼女は元のセレーネに戻った。

「そう? 頑張ってね。私も、ジュアンにご褒美あげるの楽しみにしてるんだから……ねっ?」

「はっ!」

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