天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第4章 : 責務

安寧のために

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「私に任せて、アインズ殿はそこで寝てな」

 蛇の装飾がついた刀を納め、鞘ごと左手に持つ。右手で柄を掴み、敵の動きを見る。

《グギ?》

 来ないならこっちから行くぞと、そう言うかのように桜華に向かって走るオオタケマル。

「おいで!」

 右手に力を込め、敵の攻撃を待つ。バケモノの腕が振り上がる。眼を見開き時期を伺う。あとは攻撃を受けるその直前に刀を鞘から抜くだけだが、腕の竜巻により敵の近くでは強い風が吹いている。

そんな場所で大きく眼を開けば──

「痛っ!」

「桜華さん!」

 舞い上がった粉塵と風そのものが彼女の眼を刺激する。それは痛みとなり、桜華は反射的に目を閉じてしまった。

《ウギャアアア!》

バケモノはこの好機を見逃さず、振り下ろす腕を加速させる。

「ヤバ──」

 見えないながらも、直前まで見ていた景色の記憶を頼りに防御。体への直撃は避けられたものの、後方へとばされた。

《フン!》

「桜華!」

敵は更に追撃を試みる。桜華が飛んでいくその進路に雷を落とさんと──

「ブリッツ・ピアス!」

亜光速の突き攻撃を応用した移動により、なんとか桜華の救出に成功。数刹那前に通った地点を落雷が抉る。

「寝てた方が良かったかしら?」

「……ども」

「って、泣いてるじゃない。あらあら、大変だったわね~」

「いや違うから、目にゴミ入っただけだから」

──まずいな

 敵は今までの守護者よりも強い。真にバケモノと表現するに相応しいオオタケマルに、自分たちは勝てるのかと。ユウキは一抹の不安を感じた。

──アインズさんも桜華さんも、ただでは攻撃できない

──僕も同じだ

──それにきっと、力も強い

──どうすれば……

「ボウズ」

「はい?」

 指の関節を鳴らし、微笑みを浮かべながらタヂカラは少年に問いかける。

「奴が怯みさえすりゃ、お前さんの攻撃は通るんだろ?」

 オオタケマルに隙が生じ、甲冑の関節部分などを狙うことさえ出来れば太陽の力によって斬ることが出来よう。

「はい、隙が出来れば」

「なら任せろ。俺が奴をねじ伏せてやる」

「どうするんです?」

「どうもこうも無ぇ。取っ組み合いだ」

「そんな無茶な──」

 いくら落石を受け止める程の怪力であっても、屈強なバケモノと力比べをするなど無謀の極みである。

「なあに、力だけが俺の取り柄なんでな!」

「タヂカラさん!」

 ユウキの言葉など聞かず、彼はアインズらに追撃しようとするバケモノの進路に割り込む。

《愚かな。我と力勝負をしようと言うのか》

「ああ!」

《……考えを改めるなら、今のうちだぞ》

「ほざけ!」

 互いに突進し、力をぶつけ合う。タックルは互角に終わり、今度は互いの手を掴み押し合う。

《グギャギャアアアア!》

「うおおおおおおお!」

──す、凄い!

 両者一歩も譲らず、歯を食いしばって己の持てる力以上に踏ん張る。

──これで少しでもタヂカラさんが押してくれれば、奴にサン・フラメンを叩き込める!

 が、それはただの希望であり、現実はそう上手くは行かないのだと。期待を全て覆すかのようにバケモノが次第に勝る。

「うおっ?! クソ、負けるか!」

「タヂカラさん!」

「早まるなボウズ! 俺がこいつの鎧をぶっ飛ばすまで待て!」

 アインズや桜華と違い、ユウキは剣の達人ではない。そんな彼がピンポイントで関節部分に攻撃を行うには、それなりの機会と集中が必要となる。

 ならば鎧を剥いでしまえば良い。とにかく当てるだけと言った状況に持ち込んでしまえば、チャンスは広がる。タヂカラによる、そんな作戦であった。

《邪魔をするな!》

 背後から忍び寄ろうとしたアインズと桜華だが、落雷の壁に阻まれて不意打ちは出来ずに退く。

《なかなかの力量だが、我には及ばん!》

「ぐおっ?!」

──まずい!

 オオタケマルがぐっと力をこめると、一気にタヂカラが押され始める。片膝が曲がって地へと向かう。苦悶する表情は、もう限界である事をユウキらに示した。

「負け……られ……ねぇ!」

《ほう、まだそんな力が》

「負ける……わけには……いかねぇんだ!」

「タヂカラさん……」

 決して負けまいと押し返すタヂカラ。彼の周囲には、次第に真っ赤なオーラが見え始める。

「お前をぶっ倒して、鎖を壊す!」

──タヂカラさん。あなたは、本当は

「トリシュヴェアの……皆の! 安寧のために!」

──誰よりもトリシュヴェアを愛しているんですね
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