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第1話 わたしに火をつけた資格

変わりたくて始めたスタンドのバイト

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  何も予備知識がなくわたしの話をここまで聞いてきたあなたにとっては、もうそろそろその資格がいったい何であるのかを知りたい頃だろう。

  ガソリンスタンドには行ったことがあるだろうか?

  当然あると思う。

  わたしは行ったことがなかった。

  恥ずかしながら、じつはあの夏までガソリンスタンドが実際にはどんな場所であるのか、知識としては知っていても経験したことが全くなかったのだ。

  なんといってもわたしは学校の授業へ出席するのはおろか、家から一歩外へ出るのさえためらったり怖じ気づいたりするような子どもだったのだから。

  買い物や旅行、ドライブなんて縁遠かった。

  この資格の保有者は身近なスポットだと、ガソリンスタンドという職場でおもに活躍している。

  なんとありふれたガソリンを扱うのにも正式には国家資格がいるのだ。



  わたしは高校3年生の夏休み前にそれまでの引きこもっていた自分を何か変えようと、思い切って近所のガソリンスタンド、SS(サービスステーション)のアルバイトに応募をしてみた。

  化学部にまがりなりにも在籍していた事が大きいかもしれない。

  安直といえば安直すぎるけど、関わるのがおなじ化学薬品の仲間といった程度の認識からその仕事を選んだのだ。

  それに、そうする勇気を持てたのは、妹のハッカの影響やギャスとの出会い、彼女たちの存在がわたしの背中を少なからずそっと押してくれたからだろう。

  なので、わたしもその資格のことは名前すら知らなかった。

  SSで働く従業員の先輩や大人たちと交わっていくなかで、自然と初めて彼らから教わったのだ。

  あなたたちの多くはよくご存じだろう。

  その国家資格とは「危険物取扱者 乙種第四類」──そう、通称「乙4」(おつよん)にほかならない。


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