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第10話 炎が燃えつづける理由

忘れえぬ火の語らい

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  あの夜の炎をわたしは忘れたことがない。



  高3の夏休みにわたしはハッカとギャスの3人で、町の外れにある海辺へ散歩に行った。

  砂浜の長い海岸線を脚がくたびれるまで、ただ歩いた。

  買ったばかりのビーチサンダルが一日で使い物にならなくなった。

  陽が沈むと、わたしたちは焚き火をした。

  炎を囲むようにして離れた岩にそれぞれ腰かけ、色々なことを語り合った。

  夢や目標、将来についての話がほとんどだ。

  わたしは「おつよん」にどうしても合格するんだ、とふたりの前で誓った。

  波の音はすぐそこまで静かに迫っていた。

  星の海が夜空一面に広がっていて、とてもきれいだった。

  ちょうど慣れない勉強にも疲れてきていた頃で、夏の星空はそんなわたしの頭や心を癒してくれた。



  この美しい光景でただひとつ残念だったのは、ギャスがなぜか海パン一丁でいたことだ。

  彼はおそらくわたしたちの中で最もロマンチストであったけど、どうしてそんな格好で来て、雰囲気を台無しにしたのかが理解できない。

  海へ散歩に訪れたとはいえ、べつに泳ぎに来たわけでもないし、わたしとハッカだって水着なんか持ってきてはいない。

  まあ、なんであれ彼らとその夜、炎を取り囲んで過ごしたことは、十代のわたしにとって特別な出来事だった。


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