星と子犬

ひよ

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星と子犬

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「おなか……すいたな……」
こいぬは、おなかがすいたのと寒さで、もう 一歩も歩くことが出来なくなりました。こいぬがうずくまっていると、
“大丈夫? こいぬちゃん”
と、頭の中で声がしたので、こいぬは驚いて、辺りを見回しました。
“ここよ。あなたのおなかのところ”
「え?」
こいぬがおなかのあたりを見てみると、泥の津いたきんいろの星がありました。
ペロッとなめると、泥がとれてピカッと かがやきました。
こいぬは星を自分のほうへ引き寄せました。
“あなたの名前はなんていうの?”
「ほくと。」
“お母さんがつけてくれたの?”
「ぼく 捨て犬なんだ。拾ってくれた男の子がつけてくれたんだ。でも、男の子のお母さんが、だめって……」
“そう……”
「きみは?」
“わたしは、空からおっこちてしまったの”
「ええ! 空から来たの?」
こいぬは、とても驚きました。
“わたし、おうちに帰りたい”
と きんいろの星は、いきなり泣き出しました。
こいぬは、きんいろの星が可哀想になりました。
「きみ、どうすれば、うちに帰れるの?」
“風に飛ばされて、ここがどこかも分からないの。たくさんの星が 見えるところへいけば、おうちを教えてくれるけど……。ここは まっくらだもの。”
きんいろの星は 涙が止まりません。
ここは、こんもりした茂みの中です。
こいぬは怖い人間に、追っ払われたり、大きな犬に吠えられたりして、必死で走っているうちに、ここを見つけて逃げ込みました。この中にいると、誰にも見つからず、安心でした。
でも、こいぬは茂みから出る決心をしました。
空には、たくさんの星たちが光っています。
“やあ、どうしたね” 
“みんなが 探しているよ” 
“はやく お帰りよ” 
と、夜空の星たちが、次々とこいぬときんいろの星に話しかけてきました。
「君といると、お星さまの声が聞こえるよ。」
“良かった。きっと友達だからよ”
「うれしい。ぼくたち友達なんだ!」
こいぬは、嬉しそうに言いました。
星たちが、こっちだよこっちだよっというように、導いてくれます。 
こいぬは、きんいろの星を落とさないように 大事にくわえて歩きました。

「ここ?」
こいぬは、不思議そうに見上げました。
“うん” 
空を飛んでいる可愛い男の子が、ななつのお星さまを持っているカンバンでした。
ひとつ、お星さまが足りません。きんいろの星の形どおりに、スポッと空いてます。
ここは、町外れの定食屋さんでした。
“連れて来てくれて、本当にありがとう”
 きんいろの星はそう言うと、キラキラキラーーと輝いて、フっと静かになりました。
「星さん?」
きんいろの星は、急に、なんにも、言わなくなりました。
「星さん、星さん、どうしたの?」
こいぬは、何度も呼びました。
「おや? 今の光はなんだね?」
店から、おじさんとおばさんが出てきました。
「おや、こいぬがいるよ。」
「あら、この星! 風で飛んだカンバンの星よ!」
おばさんが驚いた様子で言いました。
「このこいぬが持ってきてくれたんだな。」
そう言って、白い服のおじさんがこいぬを 抱き上げました。そして、店の中に入れてくれました。
「ぼうや おいで。カンバンの星が見つかったよ!」
「ほんとう!」
男の子が 階段を下りてきました。
「このこいぬが持って来てくれたんだ。」
「わあ! ありがとう。ぼく、ずっと探していたんだよ。」
おじさんが、男の子にこいぬと星を渡しました。
「おとうさん、この子を僕の弟にしていい?」
「もちろんだよ。名前は、なんにする?」
「じゃあね。……じゃあ、お店のなまえがななつぼしだから。ほくとはどうかな?」
(ええ! ほくと?)
 こいぬは 驚きました。だって、こいぬは ほくとという名前だったからです。
「それ、いいな。北斗七星だな。」
「うん。いいでしょ!」
男の子は 嬉しそうに笑ってこいぬを抱きしめました。ひとりぼっちのこいぬは、不思議な星たちの導きで、家族を見つけることが出来ました。そして、カンバンにもどされたきんいろの星は、今日も、満足そうに光っています。
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