水族館の鈴木くん

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突然のお誘い

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 お昼休みが終わる10分前。

 教室に戻ると、賑やかな雰囲気にまだ満ちていた。皆んな仲の良いグループで楽しげに話したり、遊んだりしている。
 私はいつもならまだ教室には戻っていない。学食からの帰りの廊下で、玲奈《れな》と喋りながら歩いてるところだ。

 あっ、いた。

 賑やかなクラス内で、鈴木くんはもう自分の席に座っていた。

 教壇から1番後ろ、窓際の席。

 鈴木くん、ぼんやりと窓の外見てるし。

 夏の青空には、大きな雲がゆったりと流れていて、鈴木くんのおっとりした空気感ととても合っている気がした。

 ……ふふっ、こっそり近づこうっと。

 バレないように……、バレないように。

 ゆっくり歩いて、無事に自分の席についた。鈴木くんは、あいかわらず窓の景色を眺めている。さて、ここからどうしよっか……。
 じぃ~っと、鈴木くんの頭の後ろに視線を送っても仕方ないわけだし。よし、

「こほん」

 私の声に反応して振り向くでしょ、きっと。

 窓の外を眺めていた鈴木くんは、ん? あれ? なんか、無反応なんですけど?

「あ~、んんっ……」

 さっきより、ちょっと声を発してみた。なのに……。全然反応しないじゃん。窓の外に広がる雲のほうにばっか目線がいってるのがムカつく…………。フフッ、よ~しっ。

 私は自分の席から離れて、鈴木くんにそっと近づいた。

 耳元で、呼んであ・げ・る・ねっ。

「すずきくん……」
「わわっ!? は、はいっ!?」

 よしっ!! 大成功~。うっしっしっ、めちゃくちゃ驚いてる。

「い、一条さん!? えっ!? な、なんでここに!?」
「んん~? なんでって、だって私の席、鈴木くんの隣だもん」
「あっ、そ、そっか!? あ、あれ!? で、でも、ぼ、僕の席に……、えっと~……」

 近いって言いたい? まあ、そうだよね、何か用がないと可笑しな感じだし。鈴木くんを驚かしたかった、っていうのはまずいから、

 もう一つ、別の用事を鈴木くんに伝えた。

「写メ、ありがとっ」 

 鈴木くんは一瞬キョトンとしたけど、すぐわかったみたい。慌てて私に話しかけてきた。

「あ、あぁ! そ、そんなそんな! 全然良いよ。えっと、イルカ気に入ってくれた?」
「うん、すごく良い。鈴木くん、写メ撮るの上手なんだねっ」
「あっ、いや~、そ、そうかな」

 照れながら言いつつも、まんざらでもない感じ。ふふっ、分かりやすい。鈴木くん、すごく嬉しそうに笑ってるもん。

「僕ね、イルカショーの写メを何度も撮ったりしてるから、その、アングルとか、イルカがジャンプするタイミングとか、ちょっとコツを掴んだりしてて。それで、わりとうまく撮れる感じなんだ」
「へぇ~、そうなんだぁ♪  良いなぁ、写メのコツ。私も……、コツを掴んだら、上手く撮れるかも?」

 少しおどけた感じで、鈴木くんに尋ねた。純粋に知りたかった。だって、イルカを可愛くとれるんだもん。でも、教えて、っていうのが
、この時はなんだか恥ずかしくて。だから、鈴木くんが教えてくれるような流れを作ろうと思ったの。そしたら、鈴木くんは、

「うん! コツを掴んだら、イルカをうまく撮れるよ!」
「ほんと! 華でも?」
「もちろん! ねぇ、一条さん」
「うん? なぁに?」

 きた! うっしっし、鈴木くんに、イルカの写メ撮るコツ、教えてもらえ、

「今週の土曜日、水族館行こっ!」
「えっ??」

 私の頭はフリーズした。ん? ………、あれ? 今鈴木くん、なんて言って、

 キーンコーン、カーンコーン。

 昼休みが終わるチャイムに、ハッとした。

 や、やば! えっと、す、鈴木くんにも、もう一度、き、聞いてみないと!? だ、だって、聞き間違いかもだし! だっ、だって、おとなしい鈴木くんがだよっ!? そんな鈴木くんが、ま、まさかね!?

 私は慌てて鈴木くんの顔を見た。

 なっ!? す、鈴木くん!?!?

 私は驚いた。

 だって、すごく顔が赤いんだよ!! う、うそ!? な、なんでそんなに顔が赤いの!? それってなんかすごく照れているみたいだし! じゃ、じゃあ、さっき鈴木くんが言ったのって、聞き間違いじゃない!?

『今週の土曜日、水族館行こっ!』

「つっ……!?」

 私の頬が熱くなる。

 や、ヤバい! と、とりあえず自分の席に!!

 慌てて鈴木くんから視線を外し、隣の自分の席に座った。

 激しくなる私の鼓動。教室内の休憩中のざわめきは、先生が入ってきて静かになる。そのせいで、私の中の動揺は恥ずかしいくらいに感じられて。

なになに!? こんなにドキドキしなくていいじゃん!? お、落ち着いて、落ち着いて、私!

 でも、隣の席の鈴木くんが気になって、落ち着けない。

 も、もう! す、鈴木くんの、せいなんだからっ!! 

 この日の午後の授業は、私の頭に何も入らなかったのはいうまでもなかった。
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