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あの頃は
しおりを挟む今年もあの季節が近づいてきている。
私たちの婚約をした日は今でもはっきり覚えている。
外は生憎の雨で、私の屋敷に彼女と彼女の両親、そして何故か彼女の兄であるルーニーまでもが来ていた。
「アッシュ様…お久しぶりでございます。」
「シンディ、久しぶりだね。」
久々に会ったシンディはあの頃の可愛らしい面影を残しながらも美しい女性になっていた。
夢に描いていたとおりだ、と思ったのも束の間、彼女が自分に向かって微笑んだ瞬間そんな愚かな想いは吹き飛んだ。
本物だ、本当に彼女がいる。
私の婚約者として。
私は感動を覚えるほどに彼女を実感していた。
「私と結婚してくれますか?」
「はい、喜んで。」
私があんなに愚かでなければ、私たちの結婚は幸せなものになるはずだった。
なんてことはないよくある話。
まだ城勤めとして働き始めたばかりだった私はほとんど家に帰ることが出来なかった。
それも結婚してからほとんど一年をそんな風に過ごしてしまった。
帰れない日が続く中、暇を見つけては手紙を送ったけれど、彼女からの手紙は私を気遣う内容やこちらは大丈夫です、心配しないで、という内容だった。
私はそれが不満だったのだ。
正直に欲を言うならば彼女にもっと我儘を言って欲しかった。
本音を秘めた嫌味の一文でもあれば私は喜んでその手紙を後生大事にしただろう。
けれども、彼女からそういった類の手紙は来なかった。
会いたいと言って欲しかった。
「シンディが寂しがってたぞ。」
しかし、私の欲しい一言は彼女の片割れとも言える兄ルーニーの口から聞くこととなった。
私はそれでも浮かれ、そろそろ落ち着いてもいい年齢に差し掛かるというのにその日は若者のようなノリでルーニーと酒を飲んだ。
「そうかそうか、妹は愛されてんなー。良かったよかった。」
程よく酔いも回ってきた頃、ルーニーは年配者のようにふざけた物言いをしてきた。
「私は彼女と結婚するのが夢だったんだ…愛しているのは当然さ。」
「へー?贈り物ひとつしたことないのにそりゃー大した愛だな!」
あっはっは、と上機嫌にブランデーを飲むルーニーの言葉に私は固まった。
「ルーニー、いま、なんて…?」
息をのむ。
「いや、だからさ。結婚に必要な指輪類以外で?あげたことないだろ?シンディに聞いたら何も貰ったことないって笑って誤魔化してたけど…?」
「な、なんてことだ…!」
「え…?」
そんなこんなで。
私はとてつもなく重大な失態を犯していることに気付かされた。
愛してると言いながら義務的な最小限の贈り物以外なにも渡したことがないなんて!
手紙ではいつも不自由はないか聞いてはいるものの、彼女とて実家からそれ相応の荷物は持ってきていたため、その件について答えはいつも「不自由なく足りております。」の一言だった。
いや、言い訳だ。
これは言い訳に過ぎない。
私は贈り物を考えた。
彼女の欲しいもの、似合うもの、相応しい愛の形を求めて。
そして考えついた。
「そうだ、彼女に花火をプレゼントしよう。」
王都で毎年行われる祭。
その最後のセレモニーとして行われている花火は寄付をすればその分の花火を打ち上げてくれるのだ。
家に帰れないほど働いてきた自分ならばセレモニーの最後のラストスパートを飾るほどの花火を用意できる。
そうして彼女に聞こえるだけの愛を囁き、アクセサリーを贈ろう。
ベタすぎる、と後日相談したルーニーには笑われたがそれでよかった。
彼女も笑ってくれるだろうか。
彼女が笑ってくれるならそれでいい、それがいい。私の頭の中はそれでいっぱいだった。
ちょうど祭は結婚記念日の前日ということもあったし、上司の話を信じるならば次の年からはせめて夜には家に着くほどの勤務体制になるという。
実はこのこともまだ彼女には話していない。
直接伝えたい。
じっくりとは言えないが少しずつ着実に彼女との時間を持ちたい気持ちを全力で伝えよう。
私は着々と準備をしその日を待った。
王都まで彼女を呼び出す手紙はもう送った。
恐らく彼女のことだ、「楽しみにしております。」という返事が返ってくるに違いない。
本当に、本当に後は楽しむだけだったのだ。
あの事故がなければ。
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