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プロローグ

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 気がつくと知らない場所に居た。いや、ここが何処なのか明確に定義する事が出来るのかも定かではない。
落ちているのか、昇っているのか、体を動かそうにも感覚が無い。
ただ視界のみが目まぐるしく変わり、1人の男の人生が、まるでそこに現れたかの様に再生される。

 叶わなかった初恋や、失敗した自己紹介、友達との喧嘩、痛い高校デビューなど。思い出したく無いエピソードもそこには含まれていた。

 何が悲しくて、こんな大黒歴史上映会を見なければならないんだ。
それに、これじゃあ走馬灯みたいだ、それではまるで俺がしん…

「ご明察の通り。後がつかえているのでな、手早く説明させていただく。ごほんっ、…貴方は死にました。」

「---へっ?」
 突如何処からともなく響く声に話しかけられ、自分でも呆れるほど間の抜けた声が出た。ともかく、体の感覚はなくても喋れはするらしい。

「死因は…まあ良いか、今更論じても詮無き事だ。これより貴方は死出の旅路へと進む事になる。しかしな、極楽に行くには徳が足らん。なので地獄にでも落とそうかと思った次第。」

「ちょっ、ちょっと待って…!
死んだってどういう事なんですか!?
それに地獄って!!」

 依然として姿の見えない声の主は、淡々とした口調で、極めて一方的に地獄行きを宣告した。言われるこちらの身からすると冗談では無い。

「フフフ…しかしな、よく見てみると地獄に落とすほど罪深いわけでは無い。そこでだ、比較的新しく創造された世界へと降り立ち、その地で天へと登れるよう善行を積んでくるのだ。」

「この人、全然話を聞いてくれないッ」
わけのわからない話も、当事者そっちのけどんどん進んでるし!

「こら、誰が人か、失礼な奴め。ちゃんと話を聞かんか。」

「や、やっと反応した!」
「人じゃ無いならなんだって言うんですか!死んだってどう言う事なんですか、ここ何処なんですか、善行ってなんなんですかーーー!?」

 ここぞとばかりに質問する。でないと、このまま一方的に今後の命運を決められてしまいそうだ。

「カァー!!喧しい奴め、大人しく話を聞けんのか。全く最近の地球人は!」

「まあ良い。私か?私は地球他数多の世界の管理者にして、天を統べる意思。そしてここは、あの世の分かれ道、裁きを下す天界の狭間よ。」

「貴様はごく普通に死んだが、振り分けるにはいささか魂が軽すぎる、善にも悪にも振れぬ半端者というわけだ。」
「そこで過去の事例に則る事にした。他世界で私の代理人となり、迷える者たちを導く事で、天国へと昇る徳を積むのだ。」
「理が乱れるゆえ地球には降ろせぬが、地球の他にも苦しみ喘ぎ、救済を必要とする世界は無数にある。」
 
…つっこみどころが多すぎる。
しかし、超展開でついて行けてなかったが、もしかしてもしかするとこれは神様転生ってやつじゃないか?
「簡単に言うと、このまま死ぬのではなく、一旦異世界に行って人助けをしろって事ですよね?」

「うむ、やっと分かったか戯けめ。」

「何この人、ちょいちょいディスってくる…!」
 しかしこの自称管理者の言には疑問が残る。わざわざ俺を送る意味がわからないし、そもそも目的が不明確だ。

「で、でも何故わざわざ俺を転生させるんですか?ご自分で救えばいいじゃないですか。」

「だから人では無いと言うに。…世界に管理者が直接干渉するのは、他世界とのバランスを崩す事になる。」

「比較的他世界への順応力が高く育った地球の人間、さらに転生といった娯楽が人気の日本人で、理解がある者を探しておったら、丁度よく半端者の貴様が死んだのだ。」
「それに、何も貴様が特別というわけではない。それなりに頻繁に送っている。まあ、世界は文字通り星の数ほどあるのでな、同じ世界に送る事はあまりないが。」

 ナルホド、突然の事で驚いたが。これは満更でもないぞ!異世界には興味があるし、そも地獄になんか行きたくは無い。
「ただ、具体的には何をすればいいんですか?自分で言うのもなんですが、俺はただの高校生で大した事は出来ないと思うのですが。」

「うむ、各地を巡って傷ついたものを癒し、驕れる者を挫き、魔を打ち砕くのだ。」
 相変わらず大雑把過ぎてよくわからない。

「貴様が大した力を持っていないのは百も承知だ。だが直ぐに死んでは意味がない。どれ、あまり過剰なものは与えられんが、1つ力を授けてしんぜよう。希望を申してみよ。」

 これはっ!来たぞ、チート能力だ!
うだつの上がらない高校生活から一変!チート能力を貰って、ワクワク異世界ライフをエンジョイできる!!
俄然やる気が湧いてくる。だがそれも仕方ないだろう、異世界チーレムは誰しも憧れるものだ。

「ぐふふ、おおっと…クールになれオレ!」
 まずは能力を考えなきゃな。なんにせよ人助けはしなきゃならないようだ、汎用性が高い物が良い…
「そうだ、神様!俺が行く世界はどんな世界なんです!?」

「…急に元気になりおって、気色の悪いやつだ。」
 自称管理者の罵倒も、今の俺には福音のように聞こえる。

「貴様が行く世界は、日本人の大部分が想像する中世ふぁんたじーな世界だ。地球との大きな違いは、火、水、風、土に光と闇を加えた6属性魔法が存在し、魔の物が跳梁跋扈していることか。」

 王道ファンタジー的世界観!それに魔法があるのか!よし、貰うなら魔法の力だな。

「決まった様だな?」

「はい、神様!各属性魔法をそれぞれ、その世界で最強の人と同じレベルで使える様にして下さい!」

「ん、その程度の力で良いのか?」

「えっ?」
 チート能力を選んだと思うのだけど、なにやら雲行きがおかしい。大きなミスを犯してしまった気がする。

「まあ、よかろう。思いの外時間もかかっている事だ。そろそろ降ろすぞ。」

「え、ちょっと待って、その程度の力ってどう言う事です?」
「では行くが良い、干渉者にして、管理者アミニドスの代理人よ。」

 この神様また話聞いてない!
「せつめい、お願いだから説明して下さいよぉぉぉぉ!!」

 目の前の光景が粒子となって消えていく、いくら呼びかけても神は応えてくれない。
やがて視界には何も無くなり、続くように俺の声も、そして意識も途絶えた。



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