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8度:穏やかな時間
23話
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如月くんに告白されてから、数日が経過した。
さすがに職場で返事をするわけにはいかないので、それ以外となると中々タイミングが難しい。
早く答えを言って、はっきりさせたい。
でも、こういうのはタイミングが大事なので、いつ言えばいいのか分からず、時間だけが過ぎていった。
もうこのままでもいいかもしれない。そう諦めかけていた。
慧くんも事情を知っているし、向こうから触れてこない限り、こちらから触れる必要はない。
寧ろこちらからその話題に触れて、面倒くさい事になるのは避けたい。
ちゃんと答えを告げないで、逃げるのは不誠実かもしれないけど、時には触らぬ神に祟りなしということもある。
そう自分に何度も言い聞かせて、心を落ち着かせた。
そうすることしかできないといった方が正しいが…。
心にモヤモヤを抱えたまま、今日も何事もなく終わった。
疲れたからそのまま帰宅しようと思っていたら、メッセージが届いた。
《今日、一緒に帰りませんか?》
慧くんからのメッセージだった。
もちろん、答えは決まっている。
《うん、いいよ。一緒に帰ろう》
モヤモヤした気持ちが、一気に晴れやかな気持ちに変わった。
好きな人って偉大だなと、改めて思い知った。
《それじゃ、会社の出口を出て、右に曲がったカフェで落ち合いましょう》
もういつもの待ち合わせ場所で落ち合うのは、この間のこともあり、二人の間で自然とタブーになっていた。
だから、二人で新たな待ち合わせ場所を考えて決めた。
《分かった。そうしよう。帰り支度が整ったら、そっちに向かうね》
そう送ってから、私は帰り支度を始めた。
横目でチラッと確認した。慧くんは支度を終え、先に待ち合わせ場所へと向かったみたいだ。
それを見て、私も少し急いで支度を始め、そのまま待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所に着くと、慧くんが待っていた。
私は慧くんの元へと駆け寄った。
「慧くん、お待たせ」
私が声をかけると、彼は私の声に振り向いてくれた。いつもそれだけで嬉しくなってしまう。
だって、彼も私と会えるのが嬉しかったのだと思うと、心が踊らないわけがなかった。
「いえ。そんなに待ってないので大丈夫ですよ」
本当にそう思っているのが伝わってきた。慧くんに愛されているという実感が持てた。
慧くんと一緒に居ると、とても心が落ち着く。穏やかな気持ちになれる。
もう私には、この人しかいないと思っている。
それぐらい、私にとって大切な存在になっている。
この穏やかな時間が長く続いてくれることだけが、私の願いだ。
でも今、心から穏やかになれているかというと、百パーセントそうとは言えない。
やっぱり心の中のどこかで、如月くんに対して返事を出せていないという罪悪感がある。
このまま答えを有耶無耶にしても…と思う自分と、いやさすがにそれは不誠実では?と思う自分がいて。自分で自分の板挟み状態である。
分かってる。如月くんのことは気にしても仕方がないと。
私にとって大事な人は慧くんであって。如月くんではない。大事なものを見誤ってはいけない。
今、選ぶべき人は慧くんでなくてはならない。頭ではそう分かっていても、恋愛初心者の私には上手く気持ちを切り替えることができなかった。
「…大丈夫ですか?」
慧くんはきっと私が今、何を考えているのかお見通しなのであろう。
その上で心配して聞いてくれているのだと思う。
正直に今の自分の気持ちを伝えようか迷った。
でもやっぱり、ちゃんと伝えることにした。変に隠してまた拗れるのは嫌だから。
「慧くん。私がおかしいのかな?返事が出せないことを気にしてるの…」
慧くんは私と違って、恋愛経験が豊富そうだ。
こういったことにも長けていそうなので、迷わずに聞いてみた。
「そんなことないと思いますよ。気にしない人の方がおかしいと思います」
人の気持ちを蔑ろにする方が、人としておかしい。
好きな人もそういう人であって安心した。
そして同時に、私が気にしていることがおかしくないのだと分かり、心が軽くなった。
「そっか。そうだよね…」
だからといって、いつまでも気にしていても仕方がないのは確かで。
せっかく好きな人と一緒に居るのだから、好きな人のことだけを考えていればいい。
今は一旦、如月くんことを忘れて、思いっきり慧くんとの時間を楽しむことにした。
*
あの日は慧くん家でまったり一緒に過ごした。
とても幸せな時間で。思い出すだけで顔がニヤけてしまいそうだ。
「何か嬉しいことでもあったんですか?」
隣の席の同僚に指摘された。
どうやら既に顔に出てしまっていたみたいだ。
慌てて取り繕った。何もなかったかのように。
「ちょっとね。でも内緒」
「えー。でもそういうことをされると、余計に気になっちゃうじゃないですか」
私と慧くんが付き合っていることは、今のところ如月くん以外、知らない。
だから当然、言えない。私と慧くんだけの秘密だ。
「そうなの?そう言われてもな…」
「葉月さんは逃げるのが上手ですね。その逃げの上手さに免じて、これ以上追求するのは止めておきますね」
大人の人間関係は、お互いにある程度の適切な距離感があり、その領域から踏み越えることはない。
同僚はその点の匙加減が上手い。私が嫌なオーラを出せば、良いところで引き上げてくれる。
この関係性が心地好くて。とても楽に感じている。
ずっとこういう関係でいたい。友達…とはまでいかないけど、気心が少し知れた楽な関係。
今、私は充実していて幸せだからか、見えている景色が今までよりもカラフルに見えて。毎日が楽しくて仕方がなかった。
これが恋か。知らなかったものを知り、新しい世界がとても煌びやかで。心が踊った。
私はずっと勝手に自分で決めつけて、縁がないと言い訳をし、恋愛から遠ざかっていただけなのかもしれない。
初めて誰かとお付き合いをして、誰かに想い想われる幸せを知り、もう前の自分には戻れないと思った。
今日も慧くんと会う約束している。今から楽しみ過ぎて仕方がない。
さすがに職場で返事をするわけにはいかないので、それ以外となると中々タイミングが難しい。
早く答えを言って、はっきりさせたい。
でも、こういうのはタイミングが大事なので、いつ言えばいいのか分からず、時間だけが過ぎていった。
もうこのままでもいいかもしれない。そう諦めかけていた。
慧くんも事情を知っているし、向こうから触れてこない限り、こちらから触れる必要はない。
寧ろこちらからその話題に触れて、面倒くさい事になるのは避けたい。
ちゃんと答えを告げないで、逃げるのは不誠実かもしれないけど、時には触らぬ神に祟りなしということもある。
そう自分に何度も言い聞かせて、心を落ち着かせた。
そうすることしかできないといった方が正しいが…。
心にモヤモヤを抱えたまま、今日も何事もなく終わった。
疲れたからそのまま帰宅しようと思っていたら、メッセージが届いた。
《今日、一緒に帰りませんか?》
慧くんからのメッセージだった。
もちろん、答えは決まっている。
《うん、いいよ。一緒に帰ろう》
モヤモヤした気持ちが、一気に晴れやかな気持ちに変わった。
好きな人って偉大だなと、改めて思い知った。
《それじゃ、会社の出口を出て、右に曲がったカフェで落ち合いましょう》
もういつもの待ち合わせ場所で落ち合うのは、この間のこともあり、二人の間で自然とタブーになっていた。
だから、二人で新たな待ち合わせ場所を考えて決めた。
《分かった。そうしよう。帰り支度が整ったら、そっちに向かうね》
そう送ってから、私は帰り支度を始めた。
横目でチラッと確認した。慧くんは支度を終え、先に待ち合わせ場所へと向かったみたいだ。
それを見て、私も少し急いで支度を始め、そのまま待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所に着くと、慧くんが待っていた。
私は慧くんの元へと駆け寄った。
「慧くん、お待たせ」
私が声をかけると、彼は私の声に振り向いてくれた。いつもそれだけで嬉しくなってしまう。
だって、彼も私と会えるのが嬉しかったのだと思うと、心が踊らないわけがなかった。
「いえ。そんなに待ってないので大丈夫ですよ」
本当にそう思っているのが伝わってきた。慧くんに愛されているという実感が持てた。
慧くんと一緒に居ると、とても心が落ち着く。穏やかな気持ちになれる。
もう私には、この人しかいないと思っている。
それぐらい、私にとって大切な存在になっている。
この穏やかな時間が長く続いてくれることだけが、私の願いだ。
でも今、心から穏やかになれているかというと、百パーセントそうとは言えない。
やっぱり心の中のどこかで、如月くんに対して返事を出せていないという罪悪感がある。
このまま答えを有耶無耶にしても…と思う自分と、いやさすがにそれは不誠実では?と思う自分がいて。自分で自分の板挟み状態である。
分かってる。如月くんのことは気にしても仕方がないと。
私にとって大事な人は慧くんであって。如月くんではない。大事なものを見誤ってはいけない。
今、選ぶべき人は慧くんでなくてはならない。頭ではそう分かっていても、恋愛初心者の私には上手く気持ちを切り替えることができなかった。
「…大丈夫ですか?」
慧くんはきっと私が今、何を考えているのかお見通しなのであろう。
その上で心配して聞いてくれているのだと思う。
正直に今の自分の気持ちを伝えようか迷った。
でもやっぱり、ちゃんと伝えることにした。変に隠してまた拗れるのは嫌だから。
「慧くん。私がおかしいのかな?返事が出せないことを気にしてるの…」
慧くんは私と違って、恋愛経験が豊富そうだ。
こういったことにも長けていそうなので、迷わずに聞いてみた。
「そんなことないと思いますよ。気にしない人の方がおかしいと思います」
人の気持ちを蔑ろにする方が、人としておかしい。
好きな人もそういう人であって安心した。
そして同時に、私が気にしていることがおかしくないのだと分かり、心が軽くなった。
「そっか。そうだよね…」
だからといって、いつまでも気にしていても仕方がないのは確かで。
せっかく好きな人と一緒に居るのだから、好きな人のことだけを考えていればいい。
今は一旦、如月くんことを忘れて、思いっきり慧くんとの時間を楽しむことにした。
*
あの日は慧くん家でまったり一緒に過ごした。
とても幸せな時間で。思い出すだけで顔がニヤけてしまいそうだ。
「何か嬉しいことでもあったんですか?」
隣の席の同僚に指摘された。
どうやら既に顔に出てしまっていたみたいだ。
慌てて取り繕った。何もなかったかのように。
「ちょっとね。でも内緒」
「えー。でもそういうことをされると、余計に気になっちゃうじゃないですか」
私と慧くんが付き合っていることは、今のところ如月くん以外、知らない。
だから当然、言えない。私と慧くんだけの秘密だ。
「そうなの?そう言われてもな…」
「葉月さんは逃げるのが上手ですね。その逃げの上手さに免じて、これ以上追求するのは止めておきますね」
大人の人間関係は、お互いにある程度の適切な距離感があり、その領域から踏み越えることはない。
同僚はその点の匙加減が上手い。私が嫌なオーラを出せば、良いところで引き上げてくれる。
この関係性が心地好くて。とても楽に感じている。
ずっとこういう関係でいたい。友達…とはまでいかないけど、気心が少し知れた楽な関係。
今、私は充実していて幸せだからか、見えている景色が今までよりもカラフルに見えて。毎日が楽しくて仕方がなかった。
これが恋か。知らなかったものを知り、新しい世界がとても煌びやかで。心が踊った。
私はずっと勝手に自分で決めつけて、縁がないと言い訳をし、恋愛から遠ざかっていただけなのかもしれない。
初めて誰かとお付き合いをして、誰かに想い想われる幸せを知り、もう前の自分には戻れないと思った。
今日も慧くんと会う約束している。今から楽しみ過ぎて仕方がない。
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