腐女子がオフ会で知り合ったのは腐男子でした

和泉 花奈

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episode1.それはSNSから始まった…

1話-④

「大丈夫。安心してください。何も取って食ったりしないので」

さっき疑わないって啖呵切ったばかりなはずなのに。
あまりにも男性に免疫がないため、ちょっとした言葉にドキドキしてしまう自分がいた。美咲くんがイケメンなのがいけないんだ。

「それは…ちゃんと分かってるので、安心してください。それに私、そこまで自惚れてないので」

私みたいな女なんか男の人に相手にされるはずもない。
特に美咲くんのような美形男子になんか……。

「茜ちゃんは充分、可愛い女の子だよ。だって俺、初めて会った時、この子凄く可愛いなって思ったよ」

お世辞だと分かっていても、イケメンに言われてしまうとドキドキしてしまう。
分かってる。深い意味はないってことくらい…。

「ありがとう…ございます……」

こんな私にだって彼氏がいたことくらいはある。
でも、もう数年は彼氏がいない。今となっては遥か彼方昔の話である。

「あのさ、もう敬語とか止めない?俺達、歳近いと思うからさ」

それもそうだ。仲良くなると決めたのだから、いつまでも敬語というのはおかしい。
ちょうどいいタイミングなので、敬語で話すのを止めることにした。

「そうだね。これからはフランクに話させてもらうね」

私が敬語を止めた途端、美咲くんは嬉しそうな表情をしていた。
もしかしたら、美咲くんはずっと私が敬語で話すことを気にしていたのかもしれない。
敬語はどうしても、心の壁みたいなものを感じてしまう。
だからこそ、余計に敬語を止めたことが嬉しかったのだと思う。

「その方が俺も楽かな。堅苦しいのはどうも苦手で…」

私も得意な方ではない。もう友達なのだから、フランクに話せた方がお互いに楽である。

「私だって仕事の時以外は、フランクに話す方が楽だよ」

そういえば、自己紹介をまだしていない。
SNS上では既にお互いに自己紹介を済ませているが、こうして顔を合わせてからの自己紹介はまだしていないことに今更気づいてしまった。

「茜ちゃんって普段、どんなお仕事をしてるの?」

「私は普通の会社で事務員として働いてるよ。美咲くんは?」

「俺は役場で公務員として働いてるよ」

美咲くんが容姿端麗であることが発覚した。
絶対、モテるであろう。但し、腐男子であることを伏せてということになるが…。

「公務員か。羨ましいなぁ…」

OLとは違い、給料もそれなりにいいはず…。
私も将来のことをちゃんと考えて、資格系の仕事か公務員にしておけばよかったと後悔している。

「友達にもよく言われるよ。実際、仕事は大変なんだけどね」

楽な仕事なんて存在しない。それに、給料が良ければ良いほど、それなりに大変な仕事でもある。

「そうなんだ。どんな仕事も大変だよね」

ヲタ友と仕事の話をしたいわけじゃないのに。寧ろ趣味の話をしたいくらいだ。

「話変わるけどさ、茜ちゃんって何がきっかけで腐ったの?」

さすが美咲くん。ナイスパスだ。
せっかく腐った者同士が集まったのだから、こういった話をして親睦を深めようではないか。

「私は某少年漫画がきっかけかな。
いがみ合いながらも、結局、二人は仲良しで。この二人ってもしかして…付き合ってるんじゃない?って思ったら、妄想が止まらなくなって」

ちなみに某少年漫画とは、同世代の間で大流行した『俺のおれ剣はつるぎ魂とたましい共にとも…』こと通称、剣魂けんたまのことである。
剣魂を知らない人間はいない。それくらい人気の漫画だった。
今は本誌で連載が終了し、無事に最終回を迎えた。
剣魂は私にとって青春だ。今でも大好きで、時々漫画を読み返したりしている。

「すげー分かる。俺もそれがきっかけだった……」

まさに今、魂の友ソウルメイトが目の前にいることに、私はとても感動している。

「ちなみに美咲くんの推しカプは?」

推しカプとは、腐女子または腐男子が好みのタイプ同士を勝手にカップルにさせて、脳内で妄想することである。
もし、これで逆カプだった場合、戦争が起こり、友情は破滅する。
私達の今後において、お互いの推しカプを知っておくことは、かなり重要なことであり、死活問題である。

有×蓮あり×はすかな」

有×蓮とは、登場人物の名前の一部を文字って略し、腐女子の間でしか分からないようにする隠語である。
ちなみに有の方は“有栖川 拓斗ありすがわ たくと”で、蓮の方は“蓮見 廉司はすみ れんじ”という。

私は心の中で安心していた。実は私も……。

「よかった。実は私も一緒なの」

「マジで?!俺、こんなにも身近に同士がいて感動してる。すげー嬉しい」

それは私も同じ気持ちだ。今まで漫画やアニメが好きな子なら身近に居たりもしたが、さすがに推しカプについて語れることはなかった。
なので今、こうしてようやく推しカプについて語れることに喜びを感じていた。

「私も凄く嬉しい。初めてだもん。こうして推しカプについて語れるの…」

剣魂は普通の少年漫画なので、語れるとしても漫画の内容や好きなキャラについてくらいである。
男女の推しカプについてならいくらでも語れる(一般人は大抵、‪男女で考える)が、さすがにBLカップリングともなると、人によっては地雷原なことが多々ある。
こういった元々作品があったものに腐女子が勝手に妄想し、原作とは違った展開を描く自主制作本のことを同人誌と呼び、それらは大抵、二次創作と言われている。
二次創作ではBLが多いが、稀に男女のカップリングやオールキャラものが存在する。
同じ作品が好きなヲタクでも、考え方は人それぞれ違うので、まずお互いに地雷原ではなかった安心感と同士がいた高揚感に浸っていた。

「俺も語れる人がいなかったら、茜ちゃんと語れて嬉しい。
特に男の方は普通に少年漫画を好きな奴はいても、さすがに男同志で考える奴はいないから…」

確かに男性は普通に少年漫画を好きな人はいても、BLを妄想する人はなかなかいない。
それは女性にも適用されることではあるが、男性の方はゼロに等しいであろう。

「なかなか厳しそうだね…。
でも、これからは私と語れるから、たくさん語ろうね」

最初は美咲さんが美咲くんだったという事実を知り、戸惑いもしたが、今ではそんなことはどうでもよかった。
こうして素敵な友達を見つけられたから。

「茜ちゃんは優しいね。そう言ってもらえると助かる。ちょうど語れる相手が欲しくてさ…」

私もこんなふうに語れる相手がずっと欲しかった。
もしかしたら、美咲くんは私にその一歩を踏み出す勇気を与えてくれたのかもしれない。

「私もちょうど欲しかったの。またオフ会しようね」

美咲くんは笑顔で嬉しそうに、「うん」と返事をしてくれた。
釣られて私も笑顔になってしまった。初めてできた友達が美咲くんで良かったと心の底からそう思えた瞬間だった…。
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