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episode2.初コラボカフェ
2話-④
「美咲くんはこのコラボカフェに、あと何回足を運ぶ予定でいるの?」
「え?どういうこと?それって大事なことなの?」
一見、こんな状況で訊く質問に思えないかもしれないが、とても重要なことだ。
「かなり大事なことだよ。当たるかどうかは別として、今日以外にもまだこのコラボカフェに足を運ぶつもりでいるなら、わざわざたくさん注文する必要はないと思う。
でも、今日しか来ないつもりなら、できるだけ多く注文しておくことをおすすめするよ。
もちろん、それでも限度はあるけどね…。食べ残しはあまりしない方がいいと思うから」
ドリンクやフードメニューを一品注文する事に、注文した数の分だけ特典が貰えるシステムとなっている。
その特典がランダム配布なため、推し欲しさに頑張って注文してしまう人が多い。
その気持ちは痛いほどよく分かるが、料理を作って下さったお店の人の気持ちを考えると、なるべく食べ残しをしない方がいいのではないかと思ってしまう。
それでも制限時間が決まっている上に人も多いため、注文した品がなかなか運ばれてこないなど、どうしても時間内に食べ終われないことも多々ある。
特に追加注文した時によく見られる光景だ…。
あまり偉そうなことは言えないが、私は今まで一度も食べ残しをしたことがない。ちゃんとよく考えてから注文するよう心がけている。
自分の身体のことは、自分が一番よく分かっているはずだ。
だからこそ、自分の限界をちゃんと知り、無理をしないのが得策である。
頑張って無理をしたところで、食べ残しをしてしまえば結局、お店の人に迷惑をかけてしまうことになる。
そうならないためにも、私は常に常識を持って行動できるヲタクでありたい。
それが正しいかどうかではなく、ただ人様に迷惑をかけたくはないだけだ。
とはいえ、抽選に当たるかどうかさえ難しい。抽選に外れることの方が圧倒的に多い。
その上、地方在住ともなれば、遠征費が嵩むため、あまり足を運べない。
人それぞれ色々な事情がある。どんなに行きたい気持ちがあっても、現実はとても厳しい。
だからこそ、無理はせずに思いっきり楽しんでほしい。
グッズや特典の交換を禁止されているところもあるが、交換が可能な場合はわざわざ無理をする必要なんてない。
それにこのご時世、SNSで交換できる時代なのだから、色々な手段を駆使すればいいだけの話である。
それを利用するしないは本人の自由なため、私みたいに面倒くさい人は何度も足を運んだりすればいいだけの話だ。
「なるほど。確かに言われてみればそうかもしれない。
あまり俺は深く考えていなかったから、そんなに何回も来ることを想定していなかったんだよね」
普通、初めてコラボカフェに行こうとしている人間が、次のことまで考えていたりなんかしない。
寧ろ考えている方が、逆に怖く感じてしまう。
「だからさ、俺は今日を思いっきり楽しむことに決めた。
もちろん、自分のお腹と相談しつつ、考えながら頼むわ。追加注文できないのはかなり痛いけど…」
さすが美咲くんだ。それならば、私も思いっきり楽しむことにした。
コラボカフェ初心者の美咲くんに楽しんでもらうために…。
「同じお店でもコラボ作品やその時の状況に応じて変わることが多いからね。
もし、次も一緒に行けたら、その時は追加注文できることを願おう」
これからコラボカフェを満喫しようとしているのにも関わらず、もう次の話をするなんておかしな話だが…。
もしかしたら、私は悔しかったのかもしれない。
せっかくの初めてのコラボカフェで、追加注文ができないなんて、あまりにも可哀想だと思ってしまった。
いつかもし、再び美咲くんがコラボカフェを訪れる時がきたら、その時は追加注文が可能な場合であってほしいと願った。
「だな。またその時は一緒にお願いします」
「私の方こそよろしくお願いします…」
先のことなんてまだよく分からないが、ずっと美咲くんの傍に居られたらいいなと思った。
「で、そろそろ本題に戻すけど、今のところ俺は今日の分しか予約してないから、今後は参加しない予定なんだよね。
その場合はたくさん頼んだ方がいいってことだよね?どれぐらい頼めそうなもんなの?」
美咲くんは男性なため、女性よりは食べられるはず。
しかし、美咲くんの見た目が細身なため、はっきり言ってどれぐらい食べられそうなのか、今の段階ではよく分からないので、一概には言えない…。
「食べ物に関しては、いっぱい食べられるなら、たくさん頼んでも問題ないと思う。
ただ、飲み物に関しては思ったよりもそんなに飲めないから、精々、二杯か三杯程度に留めておくことをおすすめするよ」
二人で一緒に注文することができるので、数を稼ぐことができる。
しかも推しているチームが同じなため、推しが出る確率は少しだけ高くなるはずだ。
「それならドリンクは二杯にしておくよ。
フードの方は甘いものとしょっぱものの二つかな。実物をまだ見ていないから、大きさがよく分からないし、何とも言えないけど。
それに、あまり無理をするのは良くないって思ったから、推しを手に入れることよりも、この時間を楽しむことを優先しようと思う」
どうやら、私が伝えた思いが美咲くんに届いたみたいだ。
どんな形でも構わない。美咲くんに楽しんで貰えるのならば…。
「うん、それでいいと思う。今から楽しみだね」
どうやら無事にオーダーも決まったみたいだ。
私も待っている間にメニューを見ながら、自分のオーダーも無事に決まり、あとは中へ通されるだけとなった。
「大変長らくお待たせ致しました。本日は当店へお越し下さり、誠にありがとうございます。
先程、本人確認を行った際にお渡し致しました整理券の番号順にご案内致しますので、少々お待ちください。
それではごゆっくりお過ごしください」
待機中のお客様へとアナウンスがかかった。
いよいよ、中へ入れるみたいだ。ワクワクしてきた。店内の様子もどんな感じなのか気になる…。
「それでは順番に番号をお呼び致します。整理券番号796番でお待ちのお客様…」
どうやらスタートは796番からのようだ。
ともすれば、私達の番号はもうすぐみたいだ…。
「結構後ろかと思ってたけど、案外早くに順番が回ってきそうだよね」
「みたいだな。最初は801番って見た時は驚いたけど」
私は番号の遅さよりも、別の意味で驚きを隠せないでいたが…。
「まぁ、それは腐った者の性みたいなものだよね」
「ん?まぁ、そうだな」
どうやらまだ美咲くんは、その数字の意味に気づいていないみたいだ。
今すぐに教えてあげたいが、この場にいる人達全員が腐った者とは限らないので、説明は後ですることにした。
「801番でお待ちのお客様…」
談笑している間に、すぐ自分たちの番が回ってきた。
それにしても対応がスムーズで、よくできた店員さんたちである。
「はい。801番です」
「お待たせ致しました。それではお席までご案内致します」
番号を確認し終えた後、すぐに中へと通された。
どうやら、店員さんが自分達の席まで案内してくれるみたいだ。
「俺、今日は帰りたくないって思った。ここにずっと居たい」
足を踏み入れた瞬間、私達はすぐに天へと召された。
そう。ここが天国だと気づいたからである。
「私だって今日は帰りたくないよ」
ここに来ている皆の心を、美咲くんが代弁してくれた。
夢の国にずっと居られたらいいのにと願ってしまった。
「こちらの席になります。どうぞごゆっくりお過ごしください。それでは失礼致します」
そんなに店内は広くないため、案内されてすぐに自分達の席に着いた。
「コラボカフェ童貞卒業おめでとう。これで君も立派なキモヲタだ」
童貞卒業を祝福する気持ちと同時に、心配する気持ちも入り混ざっていた。
どうして心配なのかというと、一度この沼に落ちてしまったら、簡単には抜け出せないからである。
「卒業する前からキモヲタですけど…。まぁ…でも、ありがとう。茜ちゃんがいなければ、童貞を卒業することはできなかったと思うから」
もし、周りの人達に今の会話が聞こえていたとしたら、きっと脳内で変な妄想をされているに違いない。
もれなく私も脳内で早速、よからぬ妄想をしていた。
お陰様で私にとって都合のいい方向へと解釈したため、とても妄想が捗った。
もちろん、私の場合はBL脳が働いたわけだが…。
「大切なイベントだからね。誰にとっても…ね?」
「なんで意味深みたいな感じに言ったの?ねぇ、どうして?」
「さ、さぁ?何のこと…?!」
余計に怪しくなってしまっただけである。
こういう時、嘘をつくのが上手ければよかったのにと思った。
「相変わらず嘘をつくのが下手だね。ま、大体どんなことを考えていたのか察しはつくけど…ね?」
形勢逆転。美咲くん相手にカマなんてかけなければよかったと激しく後悔をした。
「この場はコラボカフェに免じて、今回は見逃してあげる。
でも、次からは俺に遠慮せずに発言してくれて構わないから。それが守れるなら、もうこんな意地悪はしない」
ここは素直に白状するしかなかった。
「ごめんなさい。童貞って言葉からよからぬことを妄想してしまいました」
美咲くん相手に隠し通すことなんてできるわけがなかった。
童貞という言葉につい、敏感になってしまうのが腐った者の定めなので、これは仕方ないのことなのである。
「素直に暴露したので、特別に許してあげよう」
美咲くんが寛大な人で良かったと心の底からそう思った。
童貞っていう言葉を連呼するのは、そろそろいい加減に止めよう。このままずっと連呼し続けていたら、周りの人達に白い目で見られてしまうからである。
「そうそう。茜ちゃんにとっておきの情報を敢えて教えてあげる。
確かにコラボカフェは初めてだけど、茜ちゃんが捉えた方向性のことについては、とっくに卒業してるかも…だね?」
何が敢えてだ。これは絶対に私の反応を面白がっているに決まっている。
「もう二度とこういったネタで弄りません。反省してます。ごめんなさい」
どうやら、公衆の面前で童貞ネタをからかわれたことを根に持っているみたいだ。
私は謝ることしできなかった。
「充分茜ちゃんも反省しているみたいだし、この話は、もうこの辺にしておいてあげるよ」
やっとこの話題を終了することができたことに、私は心から安堵した。
まぁ、自業自得なわけだが。もう二度と美咲くんをからかわないと誓った。
しかし、まだ頭の中で引っかかっていることがあった。
何故、あのタイミングであんなことを告げてきたのか、私には美咲くんの意図が全く読めなかった。
「それよりも、茜ちゃん。俺は今、幸せだ…。推しが……目の前に………いる……」
今はせっかく美咲くんが話題を変えてくれたので、このことは一旦忘れることにした。
「そうだね。だって、私達の席の位置にある壁にちょうど理人様がいるよ」
追加注文はできないというアクシデントに見舞われながらも、推しが近くにいるとは、かなりの強運の持ち主である。
「俺、もう全ての運を使い果たしてしまったかもしれない…どうしよう?」
推しが近くにいるというだけで美咲くんはテンパっていた。
そりゃそうだ。私だって逆の立場だったら、同じリアクションをしていたと思う。
「寧ろ推しのパワーにより、運がパワーアップしたかもよ?」
「だといいけどな。あー…推しの近くに座ろうか、それとも目の前に座ろうか悩む」
私達が案内された席は、小さなテーブルが一つに、椅子が二つある席だ。
人数が二人ともなれば、一人用または二人用の席を案内されるのは当然だ。
一先ず、椅子に座りたいのだが、まだ当分座れそうにない。
このままでは埒が明かないので、私が人肌脱ぐことにした。
「それなら両方体験してみるのはどう?途中で席交代するよ」
我ながらとても良い提案ではないかと思う。あとは美咲くんが納得してくれるかどうかである。
「寧ろこちらからお願いしたいくらいだったから、茜ちゃんの方から提案してくれて助かる。
交代の件、是非ともよろしくお願いします。
ただ問題は今、どちらに座るべきなのか悩み中なんだけどな……」
今の私の気持ちを一言で表すとしたら、女性の買い物に付き合わされる男性の気持ちであった。
「とりあえず、推しの目の前に座ってみたら?私が先に座ったら嫌でしょ?」
もし私が美咲くんの立場だった場合、自分よりも先にやってほしくはないことを想像してみた。
私は誰かが座った後に座るより、自分が先に推しの目の前に座わりたいと思った。
でももし、美咲くんの意見が違ったら、その時は私が推しの目の前に先に座らさせてもらうことにしようと思う。
「確かに…。俺が先に推しの目の前に座りたいかも。
だって推しの目の前に座った後になら、いくらでも推しを眺めることができるもんな」
つまりそういうことである。相手が了承さえしてくれれば、なんだっていいってことだ。
「そういうこと。とりあえず理人様の前に座りなよ」
「そうだな!座る!」
とても嬉しそうな表情をしていた。私はそんな美咲くんを見ているだけで、自分のことのように幸せな気持ちになれた。
あれ?もしかして、私達の席が理人様ということは、私の推しも近くにいる可能性が高い…。
「え?どういうこと?それって大事なことなの?」
一見、こんな状況で訊く質問に思えないかもしれないが、とても重要なことだ。
「かなり大事なことだよ。当たるかどうかは別として、今日以外にもまだこのコラボカフェに足を運ぶつもりでいるなら、わざわざたくさん注文する必要はないと思う。
でも、今日しか来ないつもりなら、できるだけ多く注文しておくことをおすすめするよ。
もちろん、それでも限度はあるけどね…。食べ残しはあまりしない方がいいと思うから」
ドリンクやフードメニューを一品注文する事に、注文した数の分だけ特典が貰えるシステムとなっている。
その特典がランダム配布なため、推し欲しさに頑張って注文してしまう人が多い。
その気持ちは痛いほどよく分かるが、料理を作って下さったお店の人の気持ちを考えると、なるべく食べ残しをしない方がいいのではないかと思ってしまう。
それでも制限時間が決まっている上に人も多いため、注文した品がなかなか運ばれてこないなど、どうしても時間内に食べ終われないことも多々ある。
特に追加注文した時によく見られる光景だ…。
あまり偉そうなことは言えないが、私は今まで一度も食べ残しをしたことがない。ちゃんとよく考えてから注文するよう心がけている。
自分の身体のことは、自分が一番よく分かっているはずだ。
だからこそ、自分の限界をちゃんと知り、無理をしないのが得策である。
頑張って無理をしたところで、食べ残しをしてしまえば結局、お店の人に迷惑をかけてしまうことになる。
そうならないためにも、私は常に常識を持って行動できるヲタクでありたい。
それが正しいかどうかではなく、ただ人様に迷惑をかけたくはないだけだ。
とはいえ、抽選に当たるかどうかさえ難しい。抽選に外れることの方が圧倒的に多い。
その上、地方在住ともなれば、遠征費が嵩むため、あまり足を運べない。
人それぞれ色々な事情がある。どんなに行きたい気持ちがあっても、現実はとても厳しい。
だからこそ、無理はせずに思いっきり楽しんでほしい。
グッズや特典の交換を禁止されているところもあるが、交換が可能な場合はわざわざ無理をする必要なんてない。
それにこのご時世、SNSで交換できる時代なのだから、色々な手段を駆使すればいいだけの話である。
それを利用するしないは本人の自由なため、私みたいに面倒くさい人は何度も足を運んだりすればいいだけの話だ。
「なるほど。確かに言われてみればそうかもしれない。
あまり俺は深く考えていなかったから、そんなに何回も来ることを想定していなかったんだよね」
普通、初めてコラボカフェに行こうとしている人間が、次のことまで考えていたりなんかしない。
寧ろ考えている方が、逆に怖く感じてしまう。
「だからさ、俺は今日を思いっきり楽しむことに決めた。
もちろん、自分のお腹と相談しつつ、考えながら頼むわ。追加注文できないのはかなり痛いけど…」
さすが美咲くんだ。それならば、私も思いっきり楽しむことにした。
コラボカフェ初心者の美咲くんに楽しんでもらうために…。
「同じお店でもコラボ作品やその時の状況に応じて変わることが多いからね。
もし、次も一緒に行けたら、その時は追加注文できることを願おう」
これからコラボカフェを満喫しようとしているのにも関わらず、もう次の話をするなんておかしな話だが…。
もしかしたら、私は悔しかったのかもしれない。
せっかくの初めてのコラボカフェで、追加注文ができないなんて、あまりにも可哀想だと思ってしまった。
いつかもし、再び美咲くんがコラボカフェを訪れる時がきたら、その時は追加注文が可能な場合であってほしいと願った。
「だな。またその時は一緒にお願いします」
「私の方こそよろしくお願いします…」
先のことなんてまだよく分からないが、ずっと美咲くんの傍に居られたらいいなと思った。
「で、そろそろ本題に戻すけど、今のところ俺は今日の分しか予約してないから、今後は参加しない予定なんだよね。
その場合はたくさん頼んだ方がいいってことだよね?どれぐらい頼めそうなもんなの?」
美咲くんは男性なため、女性よりは食べられるはず。
しかし、美咲くんの見た目が細身なため、はっきり言ってどれぐらい食べられそうなのか、今の段階ではよく分からないので、一概には言えない…。
「食べ物に関しては、いっぱい食べられるなら、たくさん頼んでも問題ないと思う。
ただ、飲み物に関しては思ったよりもそんなに飲めないから、精々、二杯か三杯程度に留めておくことをおすすめするよ」
二人で一緒に注文することができるので、数を稼ぐことができる。
しかも推しているチームが同じなため、推しが出る確率は少しだけ高くなるはずだ。
「それならドリンクは二杯にしておくよ。
フードの方は甘いものとしょっぱものの二つかな。実物をまだ見ていないから、大きさがよく分からないし、何とも言えないけど。
それに、あまり無理をするのは良くないって思ったから、推しを手に入れることよりも、この時間を楽しむことを優先しようと思う」
どうやら、私が伝えた思いが美咲くんに届いたみたいだ。
どんな形でも構わない。美咲くんに楽しんで貰えるのならば…。
「うん、それでいいと思う。今から楽しみだね」
どうやら無事にオーダーも決まったみたいだ。
私も待っている間にメニューを見ながら、自分のオーダーも無事に決まり、あとは中へ通されるだけとなった。
「大変長らくお待たせ致しました。本日は当店へお越し下さり、誠にありがとうございます。
先程、本人確認を行った際にお渡し致しました整理券の番号順にご案内致しますので、少々お待ちください。
それではごゆっくりお過ごしください」
待機中のお客様へとアナウンスがかかった。
いよいよ、中へ入れるみたいだ。ワクワクしてきた。店内の様子もどんな感じなのか気になる…。
「それでは順番に番号をお呼び致します。整理券番号796番でお待ちのお客様…」
どうやらスタートは796番からのようだ。
ともすれば、私達の番号はもうすぐみたいだ…。
「結構後ろかと思ってたけど、案外早くに順番が回ってきそうだよね」
「みたいだな。最初は801番って見た時は驚いたけど」
私は番号の遅さよりも、別の意味で驚きを隠せないでいたが…。
「まぁ、それは腐った者の性みたいなものだよね」
「ん?まぁ、そうだな」
どうやらまだ美咲くんは、その数字の意味に気づいていないみたいだ。
今すぐに教えてあげたいが、この場にいる人達全員が腐った者とは限らないので、説明は後ですることにした。
「801番でお待ちのお客様…」
談笑している間に、すぐ自分たちの番が回ってきた。
それにしても対応がスムーズで、よくできた店員さんたちである。
「はい。801番です」
「お待たせ致しました。それではお席までご案内致します」
番号を確認し終えた後、すぐに中へと通された。
どうやら、店員さんが自分達の席まで案内してくれるみたいだ。
「俺、今日は帰りたくないって思った。ここにずっと居たい」
足を踏み入れた瞬間、私達はすぐに天へと召された。
そう。ここが天国だと気づいたからである。
「私だって今日は帰りたくないよ」
ここに来ている皆の心を、美咲くんが代弁してくれた。
夢の国にずっと居られたらいいのにと願ってしまった。
「こちらの席になります。どうぞごゆっくりお過ごしください。それでは失礼致します」
そんなに店内は広くないため、案内されてすぐに自分達の席に着いた。
「コラボカフェ童貞卒業おめでとう。これで君も立派なキモヲタだ」
童貞卒業を祝福する気持ちと同時に、心配する気持ちも入り混ざっていた。
どうして心配なのかというと、一度この沼に落ちてしまったら、簡単には抜け出せないからである。
「卒業する前からキモヲタですけど…。まぁ…でも、ありがとう。茜ちゃんがいなければ、童貞を卒業することはできなかったと思うから」
もし、周りの人達に今の会話が聞こえていたとしたら、きっと脳内で変な妄想をされているに違いない。
もれなく私も脳内で早速、よからぬ妄想をしていた。
お陰様で私にとって都合のいい方向へと解釈したため、とても妄想が捗った。
もちろん、私の場合はBL脳が働いたわけだが…。
「大切なイベントだからね。誰にとっても…ね?」
「なんで意味深みたいな感じに言ったの?ねぇ、どうして?」
「さ、さぁ?何のこと…?!」
余計に怪しくなってしまっただけである。
こういう時、嘘をつくのが上手ければよかったのにと思った。
「相変わらず嘘をつくのが下手だね。ま、大体どんなことを考えていたのか察しはつくけど…ね?」
形勢逆転。美咲くん相手にカマなんてかけなければよかったと激しく後悔をした。
「この場はコラボカフェに免じて、今回は見逃してあげる。
でも、次からは俺に遠慮せずに発言してくれて構わないから。それが守れるなら、もうこんな意地悪はしない」
ここは素直に白状するしかなかった。
「ごめんなさい。童貞って言葉からよからぬことを妄想してしまいました」
美咲くん相手に隠し通すことなんてできるわけがなかった。
童貞という言葉につい、敏感になってしまうのが腐った者の定めなので、これは仕方ないのことなのである。
「素直に暴露したので、特別に許してあげよう」
美咲くんが寛大な人で良かったと心の底からそう思った。
童貞っていう言葉を連呼するのは、そろそろいい加減に止めよう。このままずっと連呼し続けていたら、周りの人達に白い目で見られてしまうからである。
「そうそう。茜ちゃんにとっておきの情報を敢えて教えてあげる。
確かにコラボカフェは初めてだけど、茜ちゃんが捉えた方向性のことについては、とっくに卒業してるかも…だね?」
何が敢えてだ。これは絶対に私の反応を面白がっているに決まっている。
「もう二度とこういったネタで弄りません。反省してます。ごめんなさい」
どうやら、公衆の面前で童貞ネタをからかわれたことを根に持っているみたいだ。
私は謝ることしできなかった。
「充分茜ちゃんも反省しているみたいだし、この話は、もうこの辺にしておいてあげるよ」
やっとこの話題を終了することができたことに、私は心から安堵した。
まぁ、自業自得なわけだが。もう二度と美咲くんをからかわないと誓った。
しかし、まだ頭の中で引っかかっていることがあった。
何故、あのタイミングであんなことを告げてきたのか、私には美咲くんの意図が全く読めなかった。
「それよりも、茜ちゃん。俺は今、幸せだ…。推しが……目の前に………いる……」
今はせっかく美咲くんが話題を変えてくれたので、このことは一旦忘れることにした。
「そうだね。だって、私達の席の位置にある壁にちょうど理人様がいるよ」
追加注文はできないというアクシデントに見舞われながらも、推しが近くにいるとは、かなりの強運の持ち主である。
「俺、もう全ての運を使い果たしてしまったかもしれない…どうしよう?」
推しが近くにいるというだけで美咲くんはテンパっていた。
そりゃそうだ。私だって逆の立場だったら、同じリアクションをしていたと思う。
「寧ろ推しのパワーにより、運がパワーアップしたかもよ?」
「だといいけどな。あー…推しの近くに座ろうか、それとも目の前に座ろうか悩む」
私達が案内された席は、小さなテーブルが一つに、椅子が二つある席だ。
人数が二人ともなれば、一人用または二人用の席を案内されるのは当然だ。
一先ず、椅子に座りたいのだが、まだ当分座れそうにない。
このままでは埒が明かないので、私が人肌脱ぐことにした。
「それなら両方体験してみるのはどう?途中で席交代するよ」
我ながらとても良い提案ではないかと思う。あとは美咲くんが納得してくれるかどうかである。
「寧ろこちらからお願いしたいくらいだったから、茜ちゃんの方から提案してくれて助かる。
交代の件、是非ともよろしくお願いします。
ただ問題は今、どちらに座るべきなのか悩み中なんだけどな……」
今の私の気持ちを一言で表すとしたら、女性の買い物に付き合わされる男性の気持ちであった。
「とりあえず、推しの目の前に座ってみたら?私が先に座ったら嫌でしょ?」
もし私が美咲くんの立場だった場合、自分よりも先にやってほしくはないことを想像してみた。
私は誰かが座った後に座るより、自分が先に推しの目の前に座わりたいと思った。
でももし、美咲くんの意見が違ったら、その時は私が推しの目の前に先に座らさせてもらうことにしようと思う。
「確かに…。俺が先に推しの目の前に座りたいかも。
だって推しの目の前に座った後になら、いくらでも推しを眺めることができるもんな」
つまりそういうことである。相手が了承さえしてくれれば、なんだっていいってことだ。
「そういうこと。とりあえず理人様の前に座りなよ」
「そうだな!座る!」
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