腐女子がオフ会で知り合ったのは腐男子でした

和泉 花奈

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episode2.初コラボカフェ

2話-⑤

もし、写真を撮れるようなスペースにいたら、写真を撮りたい。
とりあえず、私の推しはあとで探してみることにして、今はまず注文するメニューを決める方が先である。

「美咲くんはもう注文するメニューは決まった?」

「決まったよ。今のところ俺は推しが理人様だけだから、理人様関連のものを注文するくらいかな」

どうやら、既にもう美咲くんは注文するものが決まっているみたいだ。
少し迷いつつも、私も無事に注文するメニューが決まった。
私は今回、慧斗様のメニューだけを注文することにした。
私にはもう一人の推しの瑞輝様もいるが、今回はあくまで美咲くんの付き添いという立場なので、できる限り美咲くんに協力してあげたいと思っている。

「私も今回は慧斗様だけでいいかな」

推しが二人いるとは言いつつも、瑞輝様は最近好きになったばかりなので、超がつくほど大好きかと問われると微妙なラインだ。
対して、慧斗様はずっと変わらずに私の最推しなので、胸を張って大好きと答えることができる。
だから、今回は慧斗様だけで充分だ。
それに、そんなにたくさん食べられないし、グッズもあるので、その分グッズに回せばいいだけの話だ。

「瑞輝様はいいの?」

「うん。いいの。そんなに食べられないし、グッズもあるからそれでいいかなって思って」

あくまで最推しは慧斗様なので、瑞輝様は我慢できるというわけである。

「茜ちゃんがそれでいいならいいんだ。
とりあえず、俺がオーダー表に記入するね」

結局、同じグループを推しているため、頼むものは全て被った。
きっと美咲くんは、私が勝手に美咲くんに協力していることに気づいていたのだと思う。
しかし、美咲くんは黙って私の気持ちを受け入れてくれた。
また美咲くんに気を使わせてしまった。よかれと思ってやったことが空回りしていることに気づき、少し反省をした。

「うん。それで大丈夫だよ」

「それじゃ、俺が店員さんに渡しておくね」

美咲くんが店員さんに渡して来てくれた。
私は至れり尽くせり状態であった…。

「何から何までやってもらっちゃって、ありがとう」

「それは全然気にしないで。俺が茜ちゃんを誘ったんだから、これくらいはやらせてよ」

きっと美咲くんは、心から純粋に楽しんでほしいと思っているからこそ、私に気を使ってほしくないだけなのかもしれない。
それならば、もう美咲くんに変な気を使うのは止めることにした。

「分かった。もう気にしない。美咲くんにお任せしちゃうね」

先程甘えたばかりで申し訳ない気持ちもあるが、また素直に甘えてみようと思った。
もしかしたら、美咲くんは頼られたり甘えられたりするのが好きなのかもしれない。
段々と美咲くんの性格が分かってきたような気がした。

「おう。任せておけ」

男の子はやっぱり少し頼りになると思った。
段々と私もリラックスしていき、落ち着いてきた。

「なぁ、さっき店員さんに紙を渡したけど、いつになったらグッズが買えるんだろうな?」

私の経験に基づくと、恐くグッズ購入についての説明を受けてからではないかと思われる。

「そろそろ店員さんからグッズについての説明をして貰えると思うよ」

なんて話していた矢先に、店員さんが話す準備をし始めた。
その影響で周りもザワザワし始めてきた。いよいよヲタクの本領発揮開始のゴングが鳴り始めようとしている。

「本日は当店へお越し頂き、誠にありがとうございます。
皆様、ご注文はもうお決まりでしょうか?既にもうお決まりのお客様は、お近くの店員へオーダー表をお渡し下さい。
それでは、今からグッズ購入についてのご説明を致します」

それから、店員さんがまた丁寧に分かりやすく説明をしてくれた。
グッズ購入に関しては、時間になると座席毎に番号が呼ばれ、購入する形となっている。
再購入は全ての座席が購入し終えた後に可能となる。
ちなみに座席が呼ばれる順番は、先程の整理券番号順に呼ばれるとのこと。
私達は比較的早い順番で呼ばれたため、グッズ購入も早く購入することができそうだ。

「説明は以上となります。分からないことがあればその都度、お近くの店員に質問して頂いても構いません。
それでは、どうぞごゆっくりお過ごし下さい」

ようやく説明が終わり、場の雰囲気が一転し始めた。
そう。今から戦争が始まる。その名もグッズ争奪戦という戦争が…。
戦闘開始と共に皆の目が一気にギラギラし始めた。
いつもの私なら皆と同じようにギラギラした目をしていたかもしれないが、今日に限っては付き添いということもあり、どこか落ち着いていた。
一方、美咲くんはというと、どこか落ち着かない表情をしていた。

「美咲くん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。ただ、女子って買い物になると、目が一気に怖くなるから怯えてただけ」

誰しも初めて戦地へ赴く際は、ビクビク怯えてしまうものだ。
いつしか徐々に慣れていき、そのうち自分も同じような目をするようになっていた。
まずは場数を踏み、慣れていくしかない。

「分かるよ。初めての時は私もビクビク怯えてたもん」

「茜ちゃんも怯えてたの?」

「うん。今でこそ私はお姉さんの部類に入る年齢にはなったけれども、その当時はまだ学生だったから。
大人のお姉様方のお金がありますオーラに圧倒されてたもん」

そして、自分もお金を稼ぐようになると、余裕が持てるようになってきた。
人はお金があるのとないのとでは、こんなにも心の持ちようが変わるものだとは知らなかった。

「確かに。綺麗なお姉様方が多いけど、皆目がギラついてるから、圧倒される気持ちはよく分かる」

人は欲望が丸出しになると、こんなにも怖いものなのだと思い知らされた。
特に最近のヲタクは見た目が綺麗な方が多いので、綺麗なお姉様方のギラついた目は二割増しで怖く感じてしまうことがある…。
無論、お姉様方にはとても言えないが……。

「でも、今日は私が付いてるから大丈夫でしょ?」

「うん。茜ちゃんが居るから大丈夫かも」

分かってる。深い意味なんてないことは…。
自分から聞いておいてドツボにハマるなんてしてやられた。

「それならいつもより人の目を気にせずにグッズが購入できるね…」

今日はなんだかおかしい。胸の動悸と高鳴りが抑えられない。
会うのがこれで二回目ということもあり、まだ緊張が解けていないのかもしれない。
それもそうだ。既にもう完全に打ち解けている方が不自然である。
男性経験が浅い私でも、いつしか慣れていき、一々美咲くんの言動に振り回されなくなる日が訪れるかもしれない。
だからこそ、こういったことは徐々に慣れていけばいいだけの話である。

「そうだな。安心してきた。茜ちゃんのお陰で」

美咲くんはたまたま腐男子であることを受け入れてくれたのが私で、しかもお仲間だからに過ぎない。
きっと私以外の他の誰かが受け入れてくれていたとしたら、その人にも同じ言葉をかけていたと思う。
少しモヤッとした。誰でもいいわけじゃないと思う。
でも、私が特別というわけではない事実に少し胸が痛んだ。

「整理券番号801番でお待ちのお客様…」

そんなこんなんでもうグッズを買う番が回ってきた。
今からグッズを買う楽しみがあるのだから、今はネガティブなことは考えないようにしておこう。

「美咲くん、私達の番が回ってきたから買いに行こ?」

やっぱり私には考え事なんて向いていない。
明るく元気にヲタ活をするのが私らしいと思う。
だから、美咲くんが私の傍に居てくれればそれでいいと思うことにした。

「お、おう。行こう」

さぁ、いよいよ推しを自引きできるかどうかの戦いが始まろうとしていた…。



         *


まず結果から言おう。私達は見事に…、

「そりゃ自引きは無理だよな」

かすりもしなかったのである。それもそうだ。キャラクターの人数が多すぎるので、自引きできる確率なんて低いに決まっている。

「このキャラ総数で自引きできる人ってかなりの強運の持ち主だよな」

私からしたら美咲くんも充分、強運の持ち主である。
初めてのコラボカフェで推しの目の前に座れることなんて早々ないことだ。

「まぁ、でもここはグッズの交換を認められてるわけだし。あとで誰かと交換してみる?」

ちなみにどちらか一方がお互いの推しを引いていればよかったのだが、引くことすらできなかった。
今回は交換することを前提に考えていたため、いつもよりロットをかけなかった。
それにトレーディング形式のグッズばかりではなく、自分で選び買うことができるグッズもあったため、そちらにも少しお金を割きたかった。
以上のような事柄を踏まえた上で、今日敗北した原因を導き出してみた。
ここはもっと軍資金を用意しておくべきだったと今更になり、とても後悔している。

「そうしますかね。ちなみに茜ちゃんはいつも交換とかしてるの?」

いつもの私なら面倒なのでしない。でも今日の私はいつもと違う。だから……。

「いつもはしないよ。でも、今日は交換してみようかなって思ってる。
だって今日は美咲くんが付いてるから」

仲間がいるだけでこんなにも心強いなんて知らなかった。
もっと早くにお友達を作る努力をしておけばよかったと、今更ながら後悔し始めている。

「茜ちゃんにそう言ってもらえて嬉しい」

まだ出会ってそんなに時間は経っていないが、この人なら信用できるという安心感がある。
この気持ちがなんていうのか、今の私にはよく分からないが、きっと親友という言葉がぴったりなのかもしれないと思った。

徐々に友情愛を育んでいきたい。美咲くんともっと仲良くなるために。

「それならよかった。早く交換したいね」

せめて私が美咲くんの分を引けていたらよかったのに。
早々上手くいかないものである。だからこそ、頑張ってグッズを集めたいと思うのかもしれない。

「お待たせ致しました、こちらドリンクとフードになります」

グッズ購入が終わると、今度はフードとドリンクが運ばれてきた。
さすがコラボカフェだ。キャラクターをイメージした再現の完成度が高い。

「さてと、早速食べますか」

「待って。食べる前にやることがあるだろうが!」

ヲタクにとって大切なこと。それは推しとの記念撮影だ。
それを見過ごすなんて許すまじ行為である。

「えっと…なんでしょうか?」

「まず、ドリンクとフードの撮影。そのあと推しとの撮影。あ!これは事前にグッズを持ってたらの話ね。とにかく、写真を撮らずに食べるなんて言語道断よ」

ヲタク関連に限らず、最近の若者はSNSをやっているため、食べ物の写真を撮るのは当たり前の文化となっている。
特にインスタ映えを狙っている若者女性は、狙った獲物は逃がさない。彼女たちは綺麗に写真を撮ることに特化している。
美咲くんは男性だし、コラボカフェ初心者なため、きっとこういったことに慣れていないのかもしれない。
でも、せっかくなら初コラボカフェなので、記念に写真撮影をして欲しいと思った。

「茜ちゃんに指摘されるまで気がつかなかったよ。指摘してくれてありがとうな」

「これぐらい別に大したことないよ。
あ、そうだ。あとで壁の理人様と一緒に写真撮ってあげるね」

「本当に?撮ってくれると助かる」

きっと写真をSNSにアップしたら、イケメン×イケメンでいいねの数が大量にくるのではないかと思われる。
当の本人は腐男子であることを隠し通したいみたいなので、SNSにアップすることはなさそうたが…。

「うん。いいよ。あとで私も撮ってくれると助かる」

「もちろん茜ちゃんもちゃんと撮らせてもらいますよ」

その前にまずは今、目の前にあるドリンクとフードの撮影をしたい。
でもその前にまだ確認していないことがあった。それは、ドリンクやフードに付いてくる特典のコースターの絵柄である。

「写真の前に美咲くん、特典の絵柄はどうだった?」

ドリンクもフードもそんなに頼んではいないが、ここで当てればかなりの強運の持ち主である。
どうか神様。ここでも推しが来てください。せめて美咲くんの推しだけでも…。

「残念ながら俺の方は、KINGの氷室 颯斗ひむろ はやと様とflowerの湊 凛紅みなと りく様が出たよ。茜ちゃんの方はどう?」

氷室 颯斗様はKINGの中で理人様の次に人気のキャラクターだ。ちなみに私の推しは三番目に人気である。
そして、湊 凛紅様はflowerの中で一番可愛いキャラクターで、flowerの中でもかなりの人気を誇る。
お互いの推しではないにせよ、人気キャラクターが出てしまったので、今から自分が貰った特典を見るのが怖くもある。
しかし、ここで見ないわけにはいかないので、恐る恐るめくってみた。すると奇跡が起きた…。

「凄いことが起きた。理人様も慧斗様も出た……」

「え?ほんとに?」

そっと美咲くんに理人様のコースターを渡した。
渡す手が震えるほど、嬉しさのあまり動揺を隠し切れなかった。

「本当だ…。まさかコースターが自引きできるなんて奇跡だな」

こんなミラクルもう二度と起こらないと思う。
これもきっと美咲くんと一緒に来たお陰かもしれない。
やっぱり美咲くんって、かなりの強運の持ち主だと思った。

「ほんとすごいよね…。こんなことも起こるんだね」

「うん。茜ちゃんと来たお陰かも」

この男は無自覚でこういったことをしているのだろうか。だとしたら、末恐ろしい男である。
自覚があってわざとやっていたとしても複雑な気持ちではあるが、こうやって無自覚に人を惑わすのは止めてほしい。
恋愛経験が乏しい私のような子は、すぐ勘違いしてしまいそうになるから。
悪気はないと分かっていても、この胸がモヤモヤする気持ちを今すぐにでも忘れてしまいたいと思った。

「私も美咲くんと一緒に来たお陰かも。いつも一人で来てる時は出ないもん」

「え?そうなの?!俺も大体一番くじはいつも外れるわ…」

きっと今回上手くいったのは友情パワーのお陰かもしれないと思った。

「今回はたまたま運が良かっただけかもね」

 「そうだな」

無事に推しが出せたので、そろそろ撮影会に入ろうと思う。

「そろそろ写真撮ろっか。推しのコースターと一緒に」

「いいね。でもやり方が分からないから、まずは茜ちゃんがお手本見せて」

お手本となると途端に緊張してきた。
いつもどんなふうに撮影してたっけ?頭がパンクしそうだ。

「えっと…まず、食べ物の周りにグッズを置きます」

事前に準備しておいたぬいぐるみとアクリルキーホルダーを出す。
ちなみにぬいぐるみは、最近流行りのおまんじゅうの形をした顔だけのマスコットである。
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