腐女子がオフ会で知り合ったのは腐男子でした

和泉 花奈

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episode4.初コミケ

4話-③

「それならよかったよ。それじゃ、とりあえずまずは並んでみよう」

急がないと欲しい本はすぐになくなってしまう。
ヲタクは自分の欲しい物に対する熱量は半端ない。
のんびりしていたら、あっという間に…なんてことはしょっちゅうある。

「美咲くんはリストの中で、どのサークルさんの本が一番欲しいの?」

「うーん、俺は幸子先生のサークルの本が一番欲しいんだけど、茜的にはどう思う?」

幸子先生…か。今、大人気BL漫画家のサークルだ。
だがしかし、それには…。

「ねぇ、美咲くん。その件も何とかなりそうだから、後回しでもいい?」

「あ、うん。分かった。それじゃ、それ以外だとサンプルを見てこのサークルさんの本が気になったかな」

さすが同士。私も同じサークルが気になっていた。

「そのサークルさんなら、私も気になってたから、是非、一緒に行こう」

「マジで?助かる」

その後、お互いに確認し合ってみたら、なんだかんだ気になるサークルが被っていたため、途中までずっと一緒に並んでいた。
しかし、さすがに全部というわけにはいかず、途中からそれぞれ別の道へと向かった。
コミケには並び方が様々ある。一つは友達と協力して手分けして買うパターンと、もう一つは私達のように各々で並ぶパターンだ。

慣れてきたら協力して手分けしてやるのも一つの手だが、自分で購入しないため、間違って購入してしまうというリスクも伴う。
なるべくそれは避けて、自分で欲しい物を手に入れる方が懸命だ。

私は協力して購入したことはない。している人を見たことがあるだけだ。
楽しそうで羨ましいと思った。綾香と美咲くんとなら、そういったことができそうな気がする…。
今度、提案してみようかな。二人が嫌がったら止めておくことにしよう。

そうこうしているうちに、私は大方、欲しいものがゲットできたので、二人にメッセージで連絡してみた。

《茜:買い物終えました~。お二人はどう?》

そういえば、綾香は今、どのエリアにいるのだろうか。
会場内に入れた瞬間、早々別々行動になってしまったため、どうしているのか状況が読めない。
まさか企業ブースとか?いや、あの口ぶりから察するに、綾香のことだから企業ブースには行ってなさそうだ。

仮に企業ブースに並びたいのであれば、綾香は朝から私達と別行動をしていたはずだ。
ということは多分、同人誌の方に用があるに違いない。
様子から察するに、かなり急いでいたように感じる。
ここは二人からのメッセージを気長に待ってみることにした。

…その数分後。スマホの着信音が鳴り、慌ててスマホの画面を見てみると、綾香からの返信が先に着ていた。

《綾香:私はあともう少し時間がかかるけど、もうすぐしたら合流できると思う》

まだ列に並んでいるか、あるいはまだ数冊欲しい本があるということであろう。
あとは美咲くんのみ…。迷子になっていないといいのだが。

《茜:了解。待ち合わせ場所はここで》

私が今居る場所を写真で添付した。あとは二人が無事に辿り着くのを願うのみ…。

《美咲:ごめん。今、気がついた。
俺はもう終わったから、写真の場所に向かうわ》

熱中していると気がつかないことなんて多々ある。
これに関しては仕方がないので、大目に見てやろう。

《茜:分かった!待ってるね》

こりゃ美咲くんの方が先にやって来そうだ。
各々、欲しいものはちゃんとゲットできたのだろうか。
戻ってきた時、どんな顔でやって来るのか楽しみだ。

「…あれ?茜ちゃん?」

二人が戻ってくる前に、まさかこの人と再会するなんて思いもしなかった…。


         *


綾香のアシストのお陰で、途中まで茜と楽しく買い物をしていたが、お互いにそれぞれ欲しい物が違ったため、そのタイミングで別れた。
その後、慣れてきた俺は初コミケを満喫していたわけだが、茜の連絡にも気づかずに没頭していた。
慌てて待ち合わせ場所へ戻ると、見知らぬ男と親しげに離す茜がそこには居た。

「…ほーら、私の言った通りでしょ」

俺より遅れてきた綾香が、悪魔のような囁きを呟いた。

「…ただ道を聞かれて、案内してるだけかもしんねーだろ?」

「いや、さすがにそれはないでしょ。だとしたら、あんな親しげに話すわけじゃない」

確かにそれは一理ある。…って俺だってちゃんと分かっている。
それでも上手く現実を受け入れられないのであった。

「わーってるよ。でも、好きな子が他の男と親しげに話していたら、男は複雑な気持ちになるの…」

綾香ならまだしも、茜のような純粋無垢な子に限ってそんなこと…っていう淡い夢を抱いていた成人男性が、いきなりそんな場面を見せられて、動揺しないわけがなかった。
ここでカッコイイ男ならば、クールに邪魔しに入るわけだがな…。
俺にはそんな余裕なんてなかった。

「とりあえず、一応、茜と待ち合わせしているわけだし、このまま突撃しちゃいましょ」

俺にはそんな芸当はできない。コイツのこういうところは本当に尊敬する。

「お取り込み中すみません…。茜、待たせちゃってごめんね」

綾香の声でようやくこちらに気づいたみたいな表情をしていた。

「お帰り。…あっ、ごめんね。いきなり知らない人がいて……」

「それは大丈夫。知り合いに会うこともあると思うし」

ここで彼氏かどうか遠回しにチェックしてくれたのであろう。
しかし、この遠回しの言い回しに気づくかどうか、天然の茜には怪しいのであった。

「それならよかった。ちなみにこの方は私の知り合いでもあり、アイスマのゲーム会社の社員さんです」

アイスマのゲーム会社の社員さんだと…?!
そんな方と知り合いということが羨ましく思うのと同時に、今の俺には太刀打ちできず、嫉妬心を助長させるだけであった。

「へ、へぇー。そうなんだ…」

もっと上手くやれるだろうが。
…ダメだ。今の俺はただカッコ悪いだけだった。

「あの…それでご紹介しますね。事前にお話しておいた通り、彼がアイスマ好きのお友達です」

こうもはっきりと友達宣言されるのは精神的にとてもキツかった。
だって、好きな子にこうもはっきりと恋愛対象として見ていないと言われれば…ね。
それにこの男性の前で言われるのは、結構堪えた。

「初めまして、いつも応援して頂き、ありがとうございます。スマイルカンパニーの社員の結城 真ゆうき まことです」

名刺までちゃんと渡されてしまった…。
本当はこの名刺を握り潰して、ゴミ箱へ捨ててしまいたい衝動に駆られたが、グッと堪えた。

「どうも。俺は美咲って言います。茜とはSNS経由で仲良くなりました」

さり気なく呼び捨てで呼び、仲の良さを見せつけてやった。

「そうなんですね。お会いできて光栄です」

涼しい顔で男はそう答えた。俺は全く光栄ではないですけどね…。益々嫉妬が増すばかりであった。
俺が対抗心を燃やしたところで意味がないことはよく分かっている。
それでも茜のことに関しては、譲れないのであった…。

「で…えっと、こちらが綾香で、綾香とは最近仲良くなったばかりなんですよ」

「初めまして、綾香と申します。茜にはいつもお世話になってます」

「初めまして、結城 真です。よろしくお願いします…」

俺もこんなふうに普通に挨拶がしてみたかった。
でも、俺はこの人が気に入らなかった。だって、俺より茜と親しそうだから。

「真さん。例の件なんですけど…」

「例の件ね。それに関しては任せて」

真さん……?!例の件………?!
真さんと呼ぶのも許せないが、例の件とやらが俺には引っかかった。

「ありがとうございます。助かります」

ダメだ…。もう俺、我慢の限界だ…。


「あの…そろそろいいですか?俺達、急いでるんで」

気がついたら咄嗟に動いていた。
そして、次の瞬間、驚いた表情をした茜とその男がいた。
そして、ニヤニヤした表情を浮かべた綾香も…。

「そっか。ごめんね。でも、もう少しだけ待ってほしい。渡したい物があるんだ」

渡したい物だと…?!誰に?そんなの茜ちゃんにだろう。
阻止したいところであったが、茜の気持ちを考えるとこれ以上は無理だと感じた。

「もう。焦らさらないで早く渡してくださいよ。真さん、そういうとこ先輩に似てますよね」

「そんなに美幸みゆきと似てるかな?自分ではよく分からないや…。
とりあえず、はいこれ。まずは茜ちゃんの分ね…」

頬を染めながら、男は茜に紙袋を手渡した。
そして、そのまま俺の方に近づいてきた。

「これは美咲くんの分ね。茜ちゃんから事前に話は聞いてると思うけど、中身は後でのお楽しみに…」

いや、聞いてないですけども…。
そして、その男は「もう時間が…」と言い、華麗にその場を去って行った。まるで嵐のような男だった。

「ねぇ、茜。私の分は…?」

「え?綾香も必要だった?まさか知らないうちに沼っていたとは…」

「いや、まず私は何に沼ってることになってるのよ…。
ま、さっきの男性に関連しているのだとしたら、アイスマ関連なんだろうと思うけども」

「あ!分かっちゃった?そうなの。だから、綾香の分はないんだ」

「うん。それなら大丈夫。ただ、美咲がどうやらキャパオーバーみたいよ」

つまり、あの男は俺に力を見せつけてきたというわけだ。
益々負けていられないと、より対抗心を燃やすのであった。

「えっと…美咲くん?大丈夫?」

「ねぇ、あの人とはどんな関係なの?」

一番聞きたかったことを素直に聞いてみた。
もうこの際、意地なんて張っている場合ではなかった。

「あの人はね、大学時代に所属していた漫研の時の先輩の彼氏さん」

「え?茜の彼氏さんではなく…?」

思わず心の声が漏れてしまった。
すると、茜は微笑みながらこう答えた。

「違うよ。先輩の彼氏さんだから、仲良いだけだよ」

と笑顔で優しく答えてくれた。そんな茜の姿にどこか安心している自分がいた。
なんだ。茜の彼氏ではないのか。よかった…。

「ねぇ、よかったらさ、一緒に先輩に会いに行かない?」

「え?先輩って?」

確かさっきも先輩がどうたらこうたら言っていたような気がする…。

「綾香も一緒に行く?」

俺はまだ行くかどうか答えてないよ?俺は一緒に行く前提なのね?!

「私は知り合いのサークルに顔を出したいから、二人で行ってきて」

これは綾香なりに気を利かせて、二人きりにさせてくれたのであろう。
だが、今この状況で二人きりにさせられるのは少し気まずい…。

「そっか。それなら仕方ないね。それじゃ、二人だけで行こっか」

でも、ここで断る勇気なんてなかった。だって好きな子に嫌われたくはないから。
それに先輩とやらがどんな人なのかも気になる。もし、男だったら嫌だし。

「あぁ。そうだな」

よく分からないまま、俺は茜ちゃんに付いていくことに決めた。


         *


「確かこの辺だったと思うんだよね…」

こっちの会場って確か、幸子先生のスペースがあったような気がする…。
茜と別れた後、俺は諦めきれず、先生のスペースへと足を運んだのだが、結局、長蛇の列を見て諦めてしまったのであった。
まぁ、幸子先生の件に関しては茜が何とかするみたいなことを言っていたし、薄い本をゲットできなくても、足を運んでみたいと思うのがヲタクなのであった。

「美咲くん、着きました。ここです…」

って、幸子先生本人のスペースじゃん。
ん?あれ?今から先輩の所に会いに行くって言ってたよな?
あ!そっか。売り子さんの中に茜の先輩がいるのかもしれない。
すげーな。先生のスペースで売り子だなんて。茜の先輩とやらはどんなコネを持っているんだと感心した。
しかし、ここに来る必要はなかったのでは?
まさか同人誌を貰いに来たとか?いや、もう完売してるし…。
一体、ここへ何しに来たというのだろうか。

「茜、同人誌は完売しているみたいだよ?」

「それは大丈夫。同人誌が目当てなわけじゃないから」

益々どういうことなのか分からなくなってしまった…。

「茜、それってどういう意味?」

と俺が話しかけた瞬間、いきなり目の前に知らない女性が一人現れた。
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