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episode5.決意と変化
5話-②
「あのさ、私……余計なことしちゃいました」
ごめん。思わず逃げた…テヘペロ。
「おい。まさか茜に何か言ったのか?」
まぁ、私が余計なことをするといったら、茜のことしかないだろう。
「あのね、美咲に電話をかける前に、茜から電話がかかってきて。
そこで茜の過去の話をされて、その時に思わず確認しちゃったのよ。美咲から何か言われてないかって…」
あーーー!ごめんなさい。もう二度とお節介なんて焼かないと誓った。
「おい。お前、どうしてくれんだよ?完全に怪しまれたじゃないか」
まさしくその通りです。怪しまれました。
なんとか…多分、誤魔化せたと思う。
「怪しまれはしたと思う。でも、美咲が自分のことを好きだとは微塵も思っていないみたい」
寧ろ私達が付き合い始めたと勘違いしているみたいだった。
それはそれで困る。もう私は完全に美咲に気持ちがないから。
「え…それはそれで辛い」
「私とあんたが付き合い始めたと勘違いしていたみたいだから、訂正しておいたわよ」
「それは助かります。そのまま勘違いされていたら困るからな」
本当にね。それで変に茜が遠慮して、私らと遊ばなくなったら私が困る。
茜に会えなくなるし、確実に美咲に恨まれ、今度こそ口を聞いてもらえなくなる。
「なぁ、正直に思ってることを言って欲しいんだが、茜って俺のことを男として見ていると思うか?」
うーん…。これは難しい質問だ。
はっきり答えて欲しいから、わざわざ聞いてきているのだと思う。
しかし、先程やらかした私が思ったことを素直に言っていいのかと考えてしまう。
美咲は私ぐらいにしか相談できないし、私がはっきり言ってくれるから、相談してきてくれているのだと思う。
いつもならすぐに望む答えを出すのだが、今日はなんだかそんな気分になれなかった。
「おい。変に遠慮するとか、お前らしくないだろ」
あんたのせいでこんなんに悩んでるんだけど。
もういいや。こうなったらはっきり答えてやろう。
「本当にいいんだね?傷ついても知らんよ」
「うん。大丈夫。ってか、傷つく前提なのかよ」
あんた今、この状況を理解してます?
今のままだと絶望的なんですけど…。
「茜は美咲のこと、性別上という点においては、男性という目でちゃんと見ているわよ。
でも、恋愛としてってなると、正直、微妙なところね」
思わず言ってしまった。絶対に心がズタズタにやられたと思う。
私、知らないからね?!責任取れないし。あとはあんたが自己処理してよね。
「あー…なんとなくそう感じてた」
意外と現実が見えているみたいだ。
よかった…。想像よりは落ち着いていて。
「…今のところはね。恋愛としてというより、今の関係性に居心地の良さみたいなのを感じているのは間違いないわよ」
や、やばい。これはさすがに言い過ぎたかもしれない。
どうして、わざわざ傷口に塩を塗るようなことをしてしまったのだろうか。後悔してももう遅いのであった…。
「綾香…」
美咲が口を開いた。絶対に言い過ぎだって責められるわよね。
責められたって仕方ない。だっていくらなんでも正直に言い過ぎてしまったもの。
責められる覚悟を決めた瞬間、再び美咲は口を開いた。
「正直に答えてくれてありがとう。お陰でスッキリした」
意外な回答だった。あれ?私、責められないの?逆にお礼を言われてしまった…。
「う、うん…それならよかった…」
絶対に傷ついているはず。それでも傷ついている姿を見せようとはしなかった。
見せたくなかったのであろう。格好悪いからである。
なので、これからは少しだけ優しくしようと決めた。
「俺、決めた」
お?!ついに告白か?!
お母さんは嬉しいよ。ずっと見守ってきたからね…。
「SNSのアカウントを全部作り直すわ」
……え?はぁ?正直、そんなこと?って思ってしまった。
しかし、それを言ってしまってはお終いなので、言葉をギリギリのところで引っ込めた。
「それは…どうして?」
「俺さ、名前のせいでよく女だと勘違いされることがSNSでは多いんだよね」
見た目はちゃんと男らしい見た目をしているが、確かに名前だけ聞いたら女性と勘違いされてもおかしくはない名前だ。
寧ろ女性に多い名前なので、受け取り手が勝手に女性だと思い込んでいる節はある。
「SNSを辞める理由は分かったわ。でも、どうして今、このタイミングなの?」
美咲だって茜以外のフォロワーとの繋がりだってあるはず。
やっとできた居場所を手放すくらい、追い詰められてるってことなのかな?
「俺、自分の名前が女っぽい名前なのを利用して、男であることを隠しながらやってきた。
騙すつもりなんてなかったし、もちろん騙していたつもりもなかった。
でも、俺が茜にちゃんと男として見てもらえるようにするためには、まずけじめとしてアカウントを作り直す。今度はちゃんと最初から男として……」
つまり美咲は、始まりの場所から変えることに意味があると思っているみたいだ。
もちろん、意味は大いにあると思う。どう見てもSNSの美咲は女性にしか見えないから。
一体、どういう気持ちでSNSに載せる写真とかを撮影しているのやら…。
その話はさておき、今の話を聞いた上で私の意見を述べさせてもらうとしたら、美咲の意見に大いに賛成だ。
SNSを変えただけで茜が美咲のことを男として意識するかどうかは別だが、このままでいるのは良くないことは確かだ。
小さなことでも今の二人には変化が必要だと、私は思う。
変化を起こすとしたら、二人が知り合うきっかけともなったSNSは大きな変化を齎すと思う。
これでもし失敗したら、脈ナシ確定でもあるわけだが、ある意味、美咲が茜を諦めるにはいいきっかけになると思う。
それも一つの手段だ。私としては二人が恋人同士になってくれたら嬉しいわけだが…。
「いいんじゃない?とりあえず、作り直したら私にもちゃんと新しいアカウントを教えなさいよ」
「もちろん、お前にもちゃんと教えるに決まってるだろ」
あんなに私のことを警戒していた美咲が、私に心を開いてくれただけでも嬉しい。
元サヤには戻れなかったけど、こうして改めて友達として傍に居られるようになっただけでも、過去に残した後悔を取り除くことができたのでよかった。
「あのさ、あんたが昔、何があったかなんて今更、私は聞かないから」
「はぁ?いきなりどうした?」
本当は知りたいという気持ちもある。
でも、私は話を聞いて美咲に変に同情したくないし、今のままの距離感の方が楽だと思っている。
それにある程度線引きしておけば、茜から私達の関係性を変な方向に勘違いされないのではないかという考えもある。
つまり私にとって美咲は元彼ではなく、ヲタク友達ということにしておきたいということだ。
そして、それは美咲も同じ気持ちであるはずなので、敢えて踏み入れない領域を作ってみた。
「あんたがSNSを変えるっていうから、この際はっきり言っておこうと思って」
「あーなるほど。それは有難い話だが、お前になら俺、話せるけど」
「いい。大丈夫。きっと知らない方がお互いのためだと思う」
「ん?なんで?」
茜だけじゃなく、お前も鈍感かい?!
あんたらある意味、お似合いカップルだよ。
「だから、あんたがSNSのアカウントを変えるのって、茜に男として意識してもらうためでしょ?」
「あぁ、そうだけど…」
「だとしたら、私ってあんたの恋愛において枷になるわけよ。
だって茜からしてみれば、私が美咲の事情に詳しすぎたら、やっぱり美咲くんって綾香のこと…って勘違いすると思う」
もうこれ以上、茜に美咲とのことで誤解してほしくはないという、私なりの配慮なのであった。
「お前、そこまで考えてくれていたんだな。優しいな」
あんたらが鈍感すぎるせいで、こっちもない頭使ってるんですけどね。
「え?そうかな?あはは…」
なんだか褒められ慣れていないせいで、褒められることに弱い。
「まぁ、要するにあんたがSNSを変えることに大きな意味があるのなら、私はその大きな一歩を踏み出す勇気を応援するってこと」
美咲の顔がぱーっと明るくなった。
どうやら私の言葉が余程嬉しかったみたいだ。
「綾香、ありがとう。いつも綾香のサポートが支えになってるよ」
なんであんたは落とす気のない女を口説いてんのよ。
もう私は美咲に対する気持ちはないので、勘違いしたりしないが、友人として嬉しい言葉を受け取ったと解釈した。
「きっと茜も応援してくれると思う。それと同時に、びっくりすると思うよ。
これが茜の中で大きな取っ掛りになれば、美咲のことを男として意識してくれるようになるかもしれないね」
私もそうなってほしいと願った。
あとは茜次第だが…。どうなるかは今後も傍で見守らせてもらおう。
「だといいけどな。ありがとう。このことをちゃんと伝えるために電話してきてくれて」
それは私が勝手に口を滑らせてしまったのがいけないので、謝る必要があった。
「悪いことしちゃったなと思ったから、一応謝らないといけないなと思って…」
余計なことを口走ってしまい、美咲には迷惑をかけてしまったと今では反省している。
これからは本人の口から告げられるまで黙っていようと思う。
もう同じ過ちを犯したくはないから。
「別に悪いことはしていないだろう。俺がこんなんだから、つい世話焼きのお前は手を焼いちゃうんだよな」
すれ違った時間はあれど、本当の私を分かってくれるのも知っているのも美咲だ。もちろん、茜も。
とりあえず、お節介なところがウザがられていなくて安心した。
「ふん。まぁね。…あとありがとう」
なかなか素直に喜べない。だって今更、気恥しいから。
でも、きっと美咲はそんな私もお見通しなのであろう。
「頑張ってね、美咲」
「おう。頑張るわ」
その後、軽く雑談をし、美咲との通話は終了した。怒られなかったことにほっとした。
美咲が寛容的な性格でよかった。他の人だったら、確実に怒られているところである。
美咲が私を怒らないのは、きっと自分じゃなかなか動き出せないから、何か動き出すきっかけが欲しかったんだと思う。
結果、私は美咲の心をズタズタにしてしまったわけだが…。本当ごめん、美咲。
でも、きっと美咲なら大丈夫だ。そのうちこの問題も乗り越えていくであろう。
そんな二人を優しく見守ると決意したばかりが、私のことだからどこかでまたお節介を焼いてしまうかもしれない。
それでも、美咲はまた怒らずに友達として優しく接してくれるんだろうな…なんてことを想像していた。
*
俺は綾香と電話をした数日後に、SNSのアカウントを全て削除した。
さすがにLINEだけは知り合いとも繋がっているため、消すことはできなかったが…。
しかし、元々LINEは身バレ防止のため、SNS経由で交換したのは茜しかいなかった。
そのため、さほどLINEに関しては影響がない。
なので、せめてプロフィール写真だけは、今までとは違う男らしいものに変更しておいた。
これも茜に男性として意識してもらうためである。
というのも、これまでのプロフィール写真はヲタク感丸出し…とまではいかないが、中性的なプロフィール写真だったからである。
寧ろ今までのプロフィール写真の時は、知り合いにツッコまれないか不安であったが、俺の名前が元々中性的なことも相まってか、あまりツッコまれることはなかった。
今思えば、つっこんではならないオーラーでも醸し出していたのかもしれない。
それはさておき、自分なりに茜に対して、男であるというアピールはできたと思う。
こんなことだけではまだまだ足りないのは、百も承知なわけだが…。
それでも塵も積もれば山となるという言葉もある通り、小さな積み重ねも大切だと俺は思うのであった。
そして、あっという間に季節は移り変わり、もうすぐ秋が始まろうとしていた。
秋になり、仕事が忙しくなった。そのせいで、なかなかSNSのアカウント変更の連絡ができずにいた。
そもそもアカウントを削除しただけで、まだ新しいアカウントを作る時間すらなかった。
そうこうしているうちに時間だけが過ぎていき、茜と綾香に連絡するのが遅くなってしまった…。
あれから二人と全く連絡を取っていないため、茜に対しては事情を説明せずに消えたも同然であった。
さすがに茜はそんなことくらいで怒りはしないと思うが、きっと不審に思っているはず…。
その経緯を説明するためにまず、文章で説明するにはなんだか味気ないというか、他人行儀すぎる…。
それに好きな女の子に取る態度ではない。
となると、電話でもいいのだが、やっぱり直接会って話したい。
俺が会いたいだけなのもあるが、好きな子にはちゃんと直接会って、説明したいと思うのが男だ。
もう逃げないと決めたんだ。そして、俺は二人に連絡をした。
今回はSNSのアカウントを消した理由説明。そして、そのまま茜を…。
勢いよく二人に新しいアカウントと、久しぶりに三人で集まろうという連絡をしてみた。
*
夏も過ぎ、季節は秋へと変わり、私はついにイラストを描く決意を固めた。
というのも、綾香と電話をしてから描こうと決意したものの、時間の使い方が下手な私は、描く時間をなかなか作れずにいた。
何故、時間を作れなかったかというと、ヲタク的に忙しかったからである。
まず、今期に面白い作品が多く集中していたため、お陰様でいつもの倍はアニメを見ていた。
他にもアイスマの声優陣による生放送の回数が多かったことや、また翔くんが同期の漣くんのラジオにお邪魔したり等、あらゆる場面で誘惑が多く存在していたのが原因だ。
しかし、それだけが原因ではない。もう一つの理由は、突然、美咲くんのSNSのアカウントが全て消えてしまったからである。
唯一、LINEだけはやっており、それならばLINEで《どうして、アカウントが消えたの?》と直接聞けばいいだけの話なのだが、なんだか聞いていいものなのか分からず、本人から連絡がくるのをずっと待っている状態だ…。
そんなこんなで待っている間、時間があったため、一人でヲタ活をしていた。
まさかこんなに月日が経過するものとは知らず、もっと早く連絡すればよかったと、今では少し後悔している。
そんなことをずっと考えていても仕方がないので、イラストを描こうと改めて決意したのであった。
イラストとなると、やはりあの人に頼ってみるしかないと思い、早速、あの人に連絡を取ってみた。
ごめん。思わず逃げた…テヘペロ。
「おい。まさか茜に何か言ったのか?」
まぁ、私が余計なことをするといったら、茜のことしかないだろう。
「あのね、美咲に電話をかける前に、茜から電話がかかってきて。
そこで茜の過去の話をされて、その時に思わず確認しちゃったのよ。美咲から何か言われてないかって…」
あーーー!ごめんなさい。もう二度とお節介なんて焼かないと誓った。
「おい。お前、どうしてくれんだよ?完全に怪しまれたじゃないか」
まさしくその通りです。怪しまれました。
なんとか…多分、誤魔化せたと思う。
「怪しまれはしたと思う。でも、美咲が自分のことを好きだとは微塵も思っていないみたい」
寧ろ私達が付き合い始めたと勘違いしているみたいだった。
それはそれで困る。もう私は完全に美咲に気持ちがないから。
「え…それはそれで辛い」
「私とあんたが付き合い始めたと勘違いしていたみたいだから、訂正しておいたわよ」
「それは助かります。そのまま勘違いされていたら困るからな」
本当にね。それで変に茜が遠慮して、私らと遊ばなくなったら私が困る。
茜に会えなくなるし、確実に美咲に恨まれ、今度こそ口を聞いてもらえなくなる。
「なぁ、正直に思ってることを言って欲しいんだが、茜って俺のことを男として見ていると思うか?」
うーん…。これは難しい質問だ。
はっきり答えて欲しいから、わざわざ聞いてきているのだと思う。
しかし、先程やらかした私が思ったことを素直に言っていいのかと考えてしまう。
美咲は私ぐらいにしか相談できないし、私がはっきり言ってくれるから、相談してきてくれているのだと思う。
いつもならすぐに望む答えを出すのだが、今日はなんだかそんな気分になれなかった。
「おい。変に遠慮するとか、お前らしくないだろ」
あんたのせいでこんなんに悩んでるんだけど。
もういいや。こうなったらはっきり答えてやろう。
「本当にいいんだね?傷ついても知らんよ」
「うん。大丈夫。ってか、傷つく前提なのかよ」
あんた今、この状況を理解してます?
今のままだと絶望的なんですけど…。
「茜は美咲のこと、性別上という点においては、男性という目でちゃんと見ているわよ。
でも、恋愛としてってなると、正直、微妙なところね」
思わず言ってしまった。絶対に心がズタズタにやられたと思う。
私、知らないからね?!責任取れないし。あとはあんたが自己処理してよね。
「あー…なんとなくそう感じてた」
意外と現実が見えているみたいだ。
よかった…。想像よりは落ち着いていて。
「…今のところはね。恋愛としてというより、今の関係性に居心地の良さみたいなのを感じているのは間違いないわよ」
や、やばい。これはさすがに言い過ぎたかもしれない。
どうして、わざわざ傷口に塩を塗るようなことをしてしまったのだろうか。後悔してももう遅いのであった…。
「綾香…」
美咲が口を開いた。絶対に言い過ぎだって責められるわよね。
責められたって仕方ない。だっていくらなんでも正直に言い過ぎてしまったもの。
責められる覚悟を決めた瞬間、再び美咲は口を開いた。
「正直に答えてくれてありがとう。お陰でスッキリした」
意外な回答だった。あれ?私、責められないの?逆にお礼を言われてしまった…。
「う、うん…それならよかった…」
絶対に傷ついているはず。それでも傷ついている姿を見せようとはしなかった。
見せたくなかったのであろう。格好悪いからである。
なので、これからは少しだけ優しくしようと決めた。
「俺、決めた」
お?!ついに告白か?!
お母さんは嬉しいよ。ずっと見守ってきたからね…。
「SNSのアカウントを全部作り直すわ」
……え?はぁ?正直、そんなこと?って思ってしまった。
しかし、それを言ってしまってはお終いなので、言葉をギリギリのところで引っ込めた。
「それは…どうして?」
「俺さ、名前のせいでよく女だと勘違いされることがSNSでは多いんだよね」
見た目はちゃんと男らしい見た目をしているが、確かに名前だけ聞いたら女性と勘違いされてもおかしくはない名前だ。
寧ろ女性に多い名前なので、受け取り手が勝手に女性だと思い込んでいる節はある。
「SNSを辞める理由は分かったわ。でも、どうして今、このタイミングなの?」
美咲だって茜以外のフォロワーとの繋がりだってあるはず。
やっとできた居場所を手放すくらい、追い詰められてるってことなのかな?
「俺、自分の名前が女っぽい名前なのを利用して、男であることを隠しながらやってきた。
騙すつもりなんてなかったし、もちろん騙していたつもりもなかった。
でも、俺が茜にちゃんと男として見てもらえるようにするためには、まずけじめとしてアカウントを作り直す。今度はちゃんと最初から男として……」
つまり美咲は、始まりの場所から変えることに意味があると思っているみたいだ。
もちろん、意味は大いにあると思う。どう見てもSNSの美咲は女性にしか見えないから。
一体、どういう気持ちでSNSに載せる写真とかを撮影しているのやら…。
その話はさておき、今の話を聞いた上で私の意見を述べさせてもらうとしたら、美咲の意見に大いに賛成だ。
SNSを変えただけで茜が美咲のことを男として意識するかどうかは別だが、このままでいるのは良くないことは確かだ。
小さなことでも今の二人には変化が必要だと、私は思う。
変化を起こすとしたら、二人が知り合うきっかけともなったSNSは大きな変化を齎すと思う。
これでもし失敗したら、脈ナシ確定でもあるわけだが、ある意味、美咲が茜を諦めるにはいいきっかけになると思う。
それも一つの手段だ。私としては二人が恋人同士になってくれたら嬉しいわけだが…。
「いいんじゃない?とりあえず、作り直したら私にもちゃんと新しいアカウントを教えなさいよ」
「もちろん、お前にもちゃんと教えるに決まってるだろ」
あんなに私のことを警戒していた美咲が、私に心を開いてくれただけでも嬉しい。
元サヤには戻れなかったけど、こうして改めて友達として傍に居られるようになっただけでも、過去に残した後悔を取り除くことができたのでよかった。
「あのさ、あんたが昔、何があったかなんて今更、私は聞かないから」
「はぁ?いきなりどうした?」
本当は知りたいという気持ちもある。
でも、私は話を聞いて美咲に変に同情したくないし、今のままの距離感の方が楽だと思っている。
それにある程度線引きしておけば、茜から私達の関係性を変な方向に勘違いされないのではないかという考えもある。
つまり私にとって美咲は元彼ではなく、ヲタク友達ということにしておきたいということだ。
そして、それは美咲も同じ気持ちであるはずなので、敢えて踏み入れない領域を作ってみた。
「あんたがSNSを変えるっていうから、この際はっきり言っておこうと思って」
「あーなるほど。それは有難い話だが、お前になら俺、話せるけど」
「いい。大丈夫。きっと知らない方がお互いのためだと思う」
「ん?なんで?」
茜だけじゃなく、お前も鈍感かい?!
あんたらある意味、お似合いカップルだよ。
「だから、あんたがSNSのアカウントを変えるのって、茜に男として意識してもらうためでしょ?」
「あぁ、そうだけど…」
「だとしたら、私ってあんたの恋愛において枷になるわけよ。
だって茜からしてみれば、私が美咲の事情に詳しすぎたら、やっぱり美咲くんって綾香のこと…って勘違いすると思う」
もうこれ以上、茜に美咲とのことで誤解してほしくはないという、私なりの配慮なのであった。
「お前、そこまで考えてくれていたんだな。優しいな」
あんたらが鈍感すぎるせいで、こっちもない頭使ってるんですけどね。
「え?そうかな?あはは…」
なんだか褒められ慣れていないせいで、褒められることに弱い。
「まぁ、要するにあんたがSNSを変えることに大きな意味があるのなら、私はその大きな一歩を踏み出す勇気を応援するってこと」
美咲の顔がぱーっと明るくなった。
どうやら私の言葉が余程嬉しかったみたいだ。
「綾香、ありがとう。いつも綾香のサポートが支えになってるよ」
なんであんたは落とす気のない女を口説いてんのよ。
もう私は美咲に対する気持ちはないので、勘違いしたりしないが、友人として嬉しい言葉を受け取ったと解釈した。
「きっと茜も応援してくれると思う。それと同時に、びっくりすると思うよ。
これが茜の中で大きな取っ掛りになれば、美咲のことを男として意識してくれるようになるかもしれないね」
私もそうなってほしいと願った。
あとは茜次第だが…。どうなるかは今後も傍で見守らせてもらおう。
「だといいけどな。ありがとう。このことをちゃんと伝えるために電話してきてくれて」
それは私が勝手に口を滑らせてしまったのがいけないので、謝る必要があった。
「悪いことしちゃったなと思ったから、一応謝らないといけないなと思って…」
余計なことを口走ってしまい、美咲には迷惑をかけてしまったと今では反省している。
これからは本人の口から告げられるまで黙っていようと思う。
もう同じ過ちを犯したくはないから。
「別に悪いことはしていないだろう。俺がこんなんだから、つい世話焼きのお前は手を焼いちゃうんだよな」
すれ違った時間はあれど、本当の私を分かってくれるのも知っているのも美咲だ。もちろん、茜も。
とりあえず、お節介なところがウザがられていなくて安心した。
「ふん。まぁね。…あとありがとう」
なかなか素直に喜べない。だって今更、気恥しいから。
でも、きっと美咲はそんな私もお見通しなのであろう。
「頑張ってね、美咲」
「おう。頑張るわ」
その後、軽く雑談をし、美咲との通話は終了した。怒られなかったことにほっとした。
美咲が寛容的な性格でよかった。他の人だったら、確実に怒られているところである。
美咲が私を怒らないのは、きっと自分じゃなかなか動き出せないから、何か動き出すきっかけが欲しかったんだと思う。
結果、私は美咲の心をズタズタにしてしまったわけだが…。本当ごめん、美咲。
でも、きっと美咲なら大丈夫だ。そのうちこの問題も乗り越えていくであろう。
そんな二人を優しく見守ると決意したばかりが、私のことだからどこかでまたお節介を焼いてしまうかもしれない。
それでも、美咲はまた怒らずに友達として優しく接してくれるんだろうな…なんてことを想像していた。
*
俺は綾香と電話をした数日後に、SNSのアカウントを全て削除した。
さすがにLINEだけは知り合いとも繋がっているため、消すことはできなかったが…。
しかし、元々LINEは身バレ防止のため、SNS経由で交換したのは茜しかいなかった。
そのため、さほどLINEに関しては影響がない。
なので、せめてプロフィール写真だけは、今までとは違う男らしいものに変更しておいた。
これも茜に男性として意識してもらうためである。
というのも、これまでのプロフィール写真はヲタク感丸出し…とまではいかないが、中性的なプロフィール写真だったからである。
寧ろ今までのプロフィール写真の時は、知り合いにツッコまれないか不安であったが、俺の名前が元々中性的なことも相まってか、あまりツッコまれることはなかった。
今思えば、つっこんではならないオーラーでも醸し出していたのかもしれない。
それはさておき、自分なりに茜に対して、男であるというアピールはできたと思う。
こんなことだけではまだまだ足りないのは、百も承知なわけだが…。
それでも塵も積もれば山となるという言葉もある通り、小さな積み重ねも大切だと俺は思うのであった。
そして、あっという間に季節は移り変わり、もうすぐ秋が始まろうとしていた。
秋になり、仕事が忙しくなった。そのせいで、なかなかSNSのアカウント変更の連絡ができずにいた。
そもそもアカウントを削除しただけで、まだ新しいアカウントを作る時間すらなかった。
そうこうしているうちに時間だけが過ぎていき、茜と綾香に連絡するのが遅くなってしまった…。
あれから二人と全く連絡を取っていないため、茜に対しては事情を説明せずに消えたも同然であった。
さすがに茜はそんなことくらいで怒りはしないと思うが、きっと不審に思っているはず…。
その経緯を説明するためにまず、文章で説明するにはなんだか味気ないというか、他人行儀すぎる…。
それに好きな女の子に取る態度ではない。
となると、電話でもいいのだが、やっぱり直接会って話したい。
俺が会いたいだけなのもあるが、好きな子にはちゃんと直接会って、説明したいと思うのが男だ。
もう逃げないと決めたんだ。そして、俺は二人に連絡をした。
今回はSNSのアカウントを消した理由説明。そして、そのまま茜を…。
勢いよく二人に新しいアカウントと、久しぶりに三人で集まろうという連絡をしてみた。
*
夏も過ぎ、季節は秋へと変わり、私はついにイラストを描く決意を固めた。
というのも、綾香と電話をしてから描こうと決意したものの、時間の使い方が下手な私は、描く時間をなかなか作れずにいた。
何故、時間を作れなかったかというと、ヲタク的に忙しかったからである。
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そんなこんなで待っている間、時間があったため、一人でヲタ活をしていた。
まさかこんなに月日が経過するものとは知らず、もっと早く連絡すればよかったと、今では少し後悔している。
そんなことをずっと考えていても仕方がないので、イラストを描こうと改めて決意したのであった。
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そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041