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episode5.決意と変化
5話-③
「もしもし…茜、どうした?」
そう。電話の相手は、あの超人気売れっ子BL漫画家の幸子先生こと、美幸先輩だ。
「先輩、相談があるんです…」
「何?私に?どんな相談?!」
なんだか嬉しそうだ。きっと先輩のことだから、私に頼ってもらえたことが嬉しかったのであろう。
こんなふうに先輩を頼るのは久しぶりだ。そう思うと少しだけ緊張してきた。
「えっと…先輩って、どんなふうに絵を描いてるんですか?」
ざっくりし過ぎた質問かもしれない。
しかし、描くこと自体久しぶり過ぎて、私にはどうしたらいいのか分からなくなってしまっているのであった。
「それは絵の描き方のこと?それとも、絵を描くツールとか環境とかそういった感じ?」
「全部…です」
いくら先輩が絵のプロとはいえ、こんなにたくさん一気に質問されても困らせるだけかもしれない。
さすがに甘えすぎたかもなと、一人で反省していた。
「うーん…そうだね、茜って最後に絵を描いた時は、アナログだったの?それともデジタルだったの?」
当時は大学のサークルにあった機材や道具を使用させてもらっていたため、どちらも上手く併用していた。
「アナログもデジタルもどっちも使ってました。
確かカラーで描く時は線画をアナログで描いて、それをスキャンして、デジタルで色を付けて…って感じだったと思います」
「なるほど。あの頃はそういった手法の方も、プロでも多かったもんね。
となると、久しぶりに描くことになるから、どちらから入っても問題はなさそうだね」
ブランクがある分、どちらから入っても問題ないのは確かだ。
しかし、今から入るとなると、できればデジタルに慣れておきたい。
もちろん、アナログも並行して慣らしておきたいが、デジタルの時代なので、デジタルに慣れておくに越したことはない。
「はい。それはそうなんですけど、先輩は漫画を描く時はデジタルなんですか?それともアナログなんですか?」
「私はもう完全にデジタルだね。ただ、イベントの時とかにスケブを頼まれることもあるし、あと読者にサイン色紙をプレゼントする機会とかもあるから、たまにアナログで絵の練習は未だにしてるかな」
プロは色々とあるみたいだ。私はアマチュアなので、ある程度、絵が描けるようなレベルに達すれば問題ない。
「なるほど。私はとりあえず、絵の練習がしたいんです。
今の時代ともなると、デジタルから入ってみようかなと思ってまして。
練習ってなると、デジタルとアナログ、どちらの方がいいですか?」
「うーん、そうだな…、どちらでも大丈夫だと思うよ。自分のやりやすい方を見極めてみるのもアリじゃないかな」
見極めか…。要は実践が大事だということが分かった。
とりあえず、両方試してみますか。あとはやるしかないということで。
「先輩、ありがとうございます。先輩に相談してみてよかったです」
「それならよかった。久しぶりにこんなふうに頼ってもらえて、先輩としても友達としても嬉しいよ」
またこうして先輩と話せるようになれて、私も嬉しかった。
もう無理かもしれないと思っていた。一方的に私が先輩を意識していただけに過ぎないが…。
それでもまた先輩と後輩という関係に戻れたことを、心から素直に嬉しく思うのであった。
「また頼ってもいいですか?私の絵について、アドバイスとかも貰いたいですし」
「もちろんいいに決まってるじゃない。どんどん頼ってきてね」
ツンケンした態度を取っていたのにも関わらず、昔と何ら変わらずに優しく接してくれる先輩の優しさに、自然と涙が零れ落ちた。
「…っ……あの、今まですみません」
「どうしたの?何か謝らなくちゃいけないようなことでもしたの?」
きっと先輩は気づいていたけど、敢えて気づかないふりをしてくれていたのだと思う。
そうやって、ずっと先輩に甘えてきた。その分、たくさん先輩を傷つけてきた。
これは今まで先輩を傷つけてきたことへの謝罪だ。
そして、未来への決意でもある。もう二度と誰かを羨んだりせずに、前を向いて歩いて行けるようにするために…。
「勝手に先輩の才能を妬んでました。それで、先輩のせいにして、自分が努力しなくてもいい理由にして、先輩のことを嫌ってました。
だから、今までごめんなさい。勝手に避けたりして…」
改めて自分の気持ちを伝えると、自分の心の狭さを痛感させられた。
仕方ないという言葉一つで片付けることだってできた。
でも、そんな言葉一つで逃げたくはなかった。そんなことをしたら、私は綾香と美咲くんに顔向けできなくなってしまう。
二人の傍に居たいから、先輩に謝ったわけではないが、今まで逃げてきた分、私もちゃんと先輩と向き合うと決めたからである。
私が逃げなければ、この人はとことん付き合ってくれるような情に厚い優しい人だから。
「茜が避け始めた時期が丁度、私がプロの漫画家として活動し始めた頃だったから、なんとなくそんな感じなのかなと思ってた」
やっぱり、とっくに先輩にはバレていたみたいだ。
それほどまでに分かりやすい避け方をしていたのであろう。
もっと上手く隠せたはずなのに、私って本当に大人気ないなと思った。
「人の幸せを素直に喜べなくて、本当にすみません…」
「それは全然大丈夫よ。だって、私も逆の立場だったら同じように茜のことを避けてたと思う」
意外な言葉だった。先輩からそんな言葉が出てくるなんて…。
「え?先輩が?!そんなの有り得ないですよ」
「いやいや、そんなことないって。だってよく考えてみて。後輩に負けるってだけで屈辱的なのに、それが一番仲の良い友達に先越されたら、誰だって焦るって」
勝手に先輩はそういった感情から縁遠い人だと思っていた。だって才能に満ち溢れている人だから。
でも、どんなに多くを持っている人でも、人並みに羨んだりするのだと知り、親近感が湧いた。
「だから、茜が私に対して、そういう感情を抱くのは分かる。
だって私達、一緒に描いてきたから。そんなの、片方だけ評価されたら、頭くるじゃん。
才能とか云々はおいといて、努力してきたことに対して、認められないのは誰だって堪えるよ。
私だって堪えた。茜の絵と漫画が好きだったから。茜も認めてよって何度も思ったもん…」
今まで先輩がそんなことを思っていたとは知らず、勝手に妬んで避けてきた…。
本当に私は大馬鹿者だ。一番大切な人がこんなにも想ってくれていたのに…。
「……っ、もう。そういうことは早く言ってくださいよ……っ」
「言いたかったのに、避けられちゃったからさ。私は悪くないと思うけど?」
痛いところを突かれ、言い返す言葉がなかった。
「そうですけど…、でもありがとうございます。私も先輩の絵が好きです。今更ですけど、漫画買って読みますね」
「うん。読んでみて。最新巻は送るから、買わずに待ってて…」
「え?送ってくれるんですか?!でも、貢献したいので買います」
「じゃ、お願いします。でも、せっかくだから送りたいな…。そうだ!サインつけるってのはどう?」
それは大変有難いお話だ。せっかくだし、この機会に先輩のサイン入りももらっておこうと思う。
「先輩さえよければ欲しいので、お願いします!」
「了解。それじゃ、送るのに後で住所教えてもらってもいい?」
「はい。分かりました。後で送りますね。楽しみに待ってます」
「うん。楽しみに待ってて。読んだら感想よろしく」
もちろん、ちゃんと感想を述べるつもりでいる。
寧ろ感想を言わせてもらいたいくらいだ。今まであった空白の時間を埋めるためにも…。
「はい。読んだら速攻連絡します!なので、待っててくださいね」
やっと先輩と仲直りすることができた。
あとは美咲くんから連絡がくるのを待つのみ…。
早く連絡こないかな。語りたいことがたくさんあるのに……。
「それじゃ、そろそろ仕事に戻るね。じゃないと叱られるのよ。主に担当さんに……」
いつも快調にお喋りする先輩が、急に声が震えていた。
余程、担当さんが怖いみたいだ。よく漫画で見る光景に私は心の中で興奮していた。
「それは仕方ないですね。また何かあったら電話します。先輩も遠慮なく連絡してきてください。
あとお仕事が落ち着いたら、ご飯にでも行きましょう。無理なく頑張ってください。応援してます」
今まで避けてきた奴が食事に誘うとか、馴れ馴れしくし過ぎたかもしれない。
あー…せっかく良い雰囲気だったのに…。私って本当にバカだな。慎重にいくってことをいい加減、覚えなくては。
「ありがとう。そう言ってもらえて、めちゃくちゃ励みになるよ。
落ち着いたらご飯しようね。いっぱい話したいこともあるし」
どうやら、こちらが考えすぎていたみたいだ。
今までみたいに先輩はすんなり私を受け入れてくれた。
それが一番嬉しかった。昔に戻れた気がして…。
「はい。いっぱい話しましょうね」
次に会う時がとても楽しみだ。今から先輩とどんな話をしようか考えてしまうくらいに…。
「それじゃ、この辺で。またね」
「はい。また」
ここで先輩との通話は終わった。忙しい中、急に通話に応じてもらえたことに感謝した。
あとでお礼も兼ねて、LINEをしようと思う。ついでに住所も送らなくては…。
早速、先輩にメッセージでも送ろうかと思った矢先に、久しぶりに連絡が着た。
そう。そのお相手とは、美咲くんだった。
*
突然、美咲くんから届いた連絡により、久しぶりに三人で集まることになった。
そもそも送られてきた内容はこうだ。
《美咲:お久しぶりです。突然、SNSのアカウントを消してすみません。
アカウントを新しく作り直そうと思って一旦、アカウントを消しました。
やっと新しいアカウントを作成することができたので、ご連絡させて頂きました。
新アカウントはこちら…(〇※△×◆……)。
あと、もし二人さえよければ、久しぶりに三人で集まって、飲まないか?》
……という流れになり、急遽、三人で集まって飲むことになった。
もちろん、新しいアカウントはフォローした。大切な友達だから。
でも、会えなかった時間が長かった分、気まずさもある。なんとなくだけど、顔が合わせづらい。
だって、ずっと待ちぼうけを食らっていたんだ。
せめてアカウントを消した理由くらい、すぐ教えてくれてもよかったのに…。
って、なんで私、こんなにイライラしているのだろうか。
久しぶりに友達に会えるのだから、嬉しいはずなのに…。
どこか落ち着かない自分がいて、そんな自分に自分で驚いた。
そして、私はそんな自分の感情に一旦、蓋をし、なかったことにした。
そして、そうこうしているうちに、なんだかんだ月日が流れ、飲み会当日がやってきた。
社会人になると不思議なもので、一週間があっという間に感じてしまう。
特に休みの日なんてもっと短く感じてしまうものだ。
こんな話は今はどうでもいい。久しぶりに二人に会うのだから、思いっきり飲むぞ。
あの日感じた胸のモヤモヤは、すぐになくなった。
一体、あれは何だったのだろうか。正体がよく分からないまま、私は考えることを放棄した。
「よ。久しぶり…」
待ち合わせ場所に着くと、先に美咲くんが来ていた。どうやら、綾香はまだみたいだ…。
「お久しぶり。美咲くん元気してた?」
「あー、うん。一応な。仕事が激務で、全く心に余裕がなかったけどな」
お仕事、そんなに大変だったのか。
そうとは知らず、アカウントを消した理由を説明してもらえなかったことに拗ねていた自分が、とても大人気なく感じた。
「そう…だったんだ。お仕事、お疲れ様です」
「励ましてくれてありがとう。すげー嬉しい。癒されました」
私はただお疲れ様と一言発しただけなのに。
そこまで喜ばれるとは思ってもみなかったので、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
「それならよかったです……」
その後、お互いになんだか気まずい空気が流れ始め、綾香がやってくるまでの間、ずっと無言状態が続いた…。
「ごめん。毎度ながら遅刻で…」
「…別に。もうお前の遅刻には慣れたわ」
少し機嫌が悪そうな態度の美咲くん。
余程、私と二人っきりがしんどかったみたいだ。
その事実に少し胸が痛んた。まさかアカウントを消した原因って私なんじゃ…。
それはないか。だとしたら、わざわざ新アカウントを教えるなんてバカのすることだ。
でも、どうして綾香が来た途端、安心した顔をしたのだろうか。
私のモヤモヤは消えてなんかいなくて、どんどん加速していった。
そう。電話の相手は、あの超人気売れっ子BL漫画家の幸子先生こと、美幸先輩だ。
「先輩、相談があるんです…」
「何?私に?どんな相談?!」
なんだか嬉しそうだ。きっと先輩のことだから、私に頼ってもらえたことが嬉しかったのであろう。
こんなふうに先輩を頼るのは久しぶりだ。そう思うと少しだけ緊張してきた。
「えっと…先輩って、どんなふうに絵を描いてるんですか?」
ざっくりし過ぎた質問かもしれない。
しかし、描くこと自体久しぶり過ぎて、私にはどうしたらいいのか分からなくなってしまっているのであった。
「それは絵の描き方のこと?それとも、絵を描くツールとか環境とかそういった感じ?」
「全部…です」
いくら先輩が絵のプロとはいえ、こんなにたくさん一気に質問されても困らせるだけかもしれない。
さすがに甘えすぎたかもなと、一人で反省していた。
「うーん…そうだね、茜って最後に絵を描いた時は、アナログだったの?それともデジタルだったの?」
当時は大学のサークルにあった機材や道具を使用させてもらっていたため、どちらも上手く併用していた。
「アナログもデジタルもどっちも使ってました。
確かカラーで描く時は線画をアナログで描いて、それをスキャンして、デジタルで色を付けて…って感じだったと思います」
「なるほど。あの頃はそういった手法の方も、プロでも多かったもんね。
となると、久しぶりに描くことになるから、どちらから入っても問題はなさそうだね」
ブランクがある分、どちらから入っても問題ないのは確かだ。
しかし、今から入るとなると、できればデジタルに慣れておきたい。
もちろん、アナログも並行して慣らしておきたいが、デジタルの時代なので、デジタルに慣れておくに越したことはない。
「はい。それはそうなんですけど、先輩は漫画を描く時はデジタルなんですか?それともアナログなんですか?」
「私はもう完全にデジタルだね。ただ、イベントの時とかにスケブを頼まれることもあるし、あと読者にサイン色紙をプレゼントする機会とかもあるから、たまにアナログで絵の練習は未だにしてるかな」
プロは色々とあるみたいだ。私はアマチュアなので、ある程度、絵が描けるようなレベルに達すれば問題ない。
「なるほど。私はとりあえず、絵の練習がしたいんです。
今の時代ともなると、デジタルから入ってみようかなと思ってまして。
練習ってなると、デジタルとアナログ、どちらの方がいいですか?」
「うーん、そうだな…、どちらでも大丈夫だと思うよ。自分のやりやすい方を見極めてみるのもアリじゃないかな」
見極めか…。要は実践が大事だということが分かった。
とりあえず、両方試してみますか。あとはやるしかないということで。
「先輩、ありがとうございます。先輩に相談してみてよかったです」
「それならよかった。久しぶりにこんなふうに頼ってもらえて、先輩としても友達としても嬉しいよ」
またこうして先輩と話せるようになれて、私も嬉しかった。
もう無理かもしれないと思っていた。一方的に私が先輩を意識していただけに過ぎないが…。
それでもまた先輩と後輩という関係に戻れたことを、心から素直に嬉しく思うのであった。
「また頼ってもいいですか?私の絵について、アドバイスとかも貰いたいですし」
「もちろんいいに決まってるじゃない。どんどん頼ってきてね」
ツンケンした態度を取っていたのにも関わらず、昔と何ら変わらずに優しく接してくれる先輩の優しさに、自然と涙が零れ落ちた。
「…っ……あの、今まですみません」
「どうしたの?何か謝らなくちゃいけないようなことでもしたの?」
きっと先輩は気づいていたけど、敢えて気づかないふりをしてくれていたのだと思う。
そうやって、ずっと先輩に甘えてきた。その分、たくさん先輩を傷つけてきた。
これは今まで先輩を傷つけてきたことへの謝罪だ。
そして、未来への決意でもある。もう二度と誰かを羨んだりせずに、前を向いて歩いて行けるようにするために…。
「勝手に先輩の才能を妬んでました。それで、先輩のせいにして、自分が努力しなくてもいい理由にして、先輩のことを嫌ってました。
だから、今までごめんなさい。勝手に避けたりして…」
改めて自分の気持ちを伝えると、自分の心の狭さを痛感させられた。
仕方ないという言葉一つで片付けることだってできた。
でも、そんな言葉一つで逃げたくはなかった。そんなことをしたら、私は綾香と美咲くんに顔向けできなくなってしまう。
二人の傍に居たいから、先輩に謝ったわけではないが、今まで逃げてきた分、私もちゃんと先輩と向き合うと決めたからである。
私が逃げなければ、この人はとことん付き合ってくれるような情に厚い優しい人だから。
「茜が避け始めた時期が丁度、私がプロの漫画家として活動し始めた頃だったから、なんとなくそんな感じなのかなと思ってた」
やっぱり、とっくに先輩にはバレていたみたいだ。
それほどまでに分かりやすい避け方をしていたのであろう。
もっと上手く隠せたはずなのに、私って本当に大人気ないなと思った。
「人の幸せを素直に喜べなくて、本当にすみません…」
「それは全然大丈夫よ。だって、私も逆の立場だったら同じように茜のことを避けてたと思う」
意外な言葉だった。先輩からそんな言葉が出てくるなんて…。
「え?先輩が?!そんなの有り得ないですよ」
「いやいや、そんなことないって。だってよく考えてみて。後輩に負けるってだけで屈辱的なのに、それが一番仲の良い友達に先越されたら、誰だって焦るって」
勝手に先輩はそういった感情から縁遠い人だと思っていた。だって才能に満ち溢れている人だから。
でも、どんなに多くを持っている人でも、人並みに羨んだりするのだと知り、親近感が湧いた。
「だから、茜が私に対して、そういう感情を抱くのは分かる。
だって私達、一緒に描いてきたから。そんなの、片方だけ評価されたら、頭くるじゃん。
才能とか云々はおいといて、努力してきたことに対して、認められないのは誰だって堪えるよ。
私だって堪えた。茜の絵と漫画が好きだったから。茜も認めてよって何度も思ったもん…」
今まで先輩がそんなことを思っていたとは知らず、勝手に妬んで避けてきた…。
本当に私は大馬鹿者だ。一番大切な人がこんなにも想ってくれていたのに…。
「……っ、もう。そういうことは早く言ってくださいよ……っ」
「言いたかったのに、避けられちゃったからさ。私は悪くないと思うけど?」
痛いところを突かれ、言い返す言葉がなかった。
「そうですけど…、でもありがとうございます。私も先輩の絵が好きです。今更ですけど、漫画買って読みますね」
「うん。読んでみて。最新巻は送るから、買わずに待ってて…」
「え?送ってくれるんですか?!でも、貢献したいので買います」
「じゃ、お願いします。でも、せっかくだから送りたいな…。そうだ!サインつけるってのはどう?」
それは大変有難いお話だ。せっかくだし、この機会に先輩のサイン入りももらっておこうと思う。
「先輩さえよければ欲しいので、お願いします!」
「了解。それじゃ、送るのに後で住所教えてもらってもいい?」
「はい。分かりました。後で送りますね。楽しみに待ってます」
「うん。楽しみに待ってて。読んだら感想よろしく」
もちろん、ちゃんと感想を述べるつもりでいる。
寧ろ感想を言わせてもらいたいくらいだ。今まであった空白の時間を埋めるためにも…。
「はい。読んだら速攻連絡します!なので、待っててくださいね」
やっと先輩と仲直りすることができた。
あとは美咲くんから連絡がくるのを待つのみ…。
早く連絡こないかな。語りたいことがたくさんあるのに……。
「それじゃ、そろそろ仕事に戻るね。じゃないと叱られるのよ。主に担当さんに……」
いつも快調にお喋りする先輩が、急に声が震えていた。
余程、担当さんが怖いみたいだ。よく漫画で見る光景に私は心の中で興奮していた。
「それは仕方ないですね。また何かあったら電話します。先輩も遠慮なく連絡してきてください。
あとお仕事が落ち着いたら、ご飯にでも行きましょう。無理なく頑張ってください。応援してます」
今まで避けてきた奴が食事に誘うとか、馴れ馴れしくし過ぎたかもしれない。
あー…せっかく良い雰囲気だったのに…。私って本当にバカだな。慎重にいくってことをいい加減、覚えなくては。
「ありがとう。そう言ってもらえて、めちゃくちゃ励みになるよ。
落ち着いたらご飯しようね。いっぱい話したいこともあるし」
どうやら、こちらが考えすぎていたみたいだ。
今までみたいに先輩はすんなり私を受け入れてくれた。
それが一番嬉しかった。昔に戻れた気がして…。
「はい。いっぱい話しましょうね」
次に会う時がとても楽しみだ。今から先輩とどんな話をしようか考えてしまうくらいに…。
「それじゃ、この辺で。またね」
「はい。また」
ここで先輩との通話は終わった。忙しい中、急に通話に応じてもらえたことに感謝した。
あとでお礼も兼ねて、LINEをしようと思う。ついでに住所も送らなくては…。
早速、先輩にメッセージでも送ろうかと思った矢先に、久しぶりに連絡が着た。
そう。そのお相手とは、美咲くんだった。
*
突然、美咲くんから届いた連絡により、久しぶりに三人で集まることになった。
そもそも送られてきた内容はこうだ。
《美咲:お久しぶりです。突然、SNSのアカウントを消してすみません。
アカウントを新しく作り直そうと思って一旦、アカウントを消しました。
やっと新しいアカウントを作成することができたので、ご連絡させて頂きました。
新アカウントはこちら…(〇※△×◆……)。
あと、もし二人さえよければ、久しぶりに三人で集まって、飲まないか?》
……という流れになり、急遽、三人で集まって飲むことになった。
もちろん、新しいアカウントはフォローした。大切な友達だから。
でも、会えなかった時間が長かった分、気まずさもある。なんとなくだけど、顔が合わせづらい。
だって、ずっと待ちぼうけを食らっていたんだ。
せめてアカウントを消した理由くらい、すぐ教えてくれてもよかったのに…。
って、なんで私、こんなにイライラしているのだろうか。
久しぶりに友達に会えるのだから、嬉しいはずなのに…。
どこか落ち着かない自分がいて、そんな自分に自分で驚いた。
そして、私はそんな自分の感情に一旦、蓋をし、なかったことにした。
そして、そうこうしているうちに、なんだかんだ月日が流れ、飲み会当日がやってきた。
社会人になると不思議なもので、一週間があっという間に感じてしまう。
特に休みの日なんてもっと短く感じてしまうものだ。
こんな話は今はどうでもいい。久しぶりに二人に会うのだから、思いっきり飲むぞ。
あの日感じた胸のモヤモヤは、すぐになくなった。
一体、あれは何だったのだろうか。正体がよく分からないまま、私は考えることを放棄した。
「よ。久しぶり…」
待ち合わせ場所に着くと、先に美咲くんが来ていた。どうやら、綾香はまだみたいだ…。
「お久しぶり。美咲くん元気してた?」
「あー、うん。一応な。仕事が激務で、全く心に余裕がなかったけどな」
お仕事、そんなに大変だったのか。
そうとは知らず、アカウントを消した理由を説明してもらえなかったことに拗ねていた自分が、とても大人気なく感じた。
「そう…だったんだ。お仕事、お疲れ様です」
「励ましてくれてありがとう。すげー嬉しい。癒されました」
私はただお疲れ様と一言発しただけなのに。
そこまで喜ばれるとは思ってもみなかったので、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
「それならよかったです……」
その後、お互いになんだか気まずい空気が流れ始め、綾香がやってくるまでの間、ずっと無言状態が続いた…。
「ごめん。毎度ながら遅刻で…」
「…別に。もうお前の遅刻には慣れたわ」
少し機嫌が悪そうな態度の美咲くん。
余程、私と二人っきりがしんどかったみたいだ。
その事実に少し胸が痛んた。まさかアカウントを消した原因って私なんじゃ…。
それはないか。だとしたら、わざわざ新アカウントを教えるなんてバカのすることだ。
でも、どうして綾香が来た途端、安心した顔をしたのだろうか。
私のモヤモヤは消えてなんかいなくて、どんどん加速していった。
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