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episode8.二度目のコミケ
8話-①
クリスマスデートから早くも数日が経過し、あっという間にコミケ当日を迎えた。
美咲くんとは買い物リストについて、事前に連絡を取り合った。
前回と同様、結構被っていたので、殆ど一緒に行動することになった。
もちろん、お互いに被っていないジャンルもあるため、そこから先は別行動となるが…。
あとは美幸先輩のサークルに一緒に行くぐらいである…。
今回もアイスマの制作会社が企業ブースに参加しているため、真さんがキープしてくれている。
キープというよりは、知り合い分として特別に確保してくれているといった方が正しい。
ちなみに今回は綾香の分もちゃんとある…。
その綾香は今回も一人で別行動をするみたいだ。
回るジャンルやサークルが違うというのもあるが、知り合いに会うのと、私達に気を使ってくれているのであろう。
前回もそうだったのもあるが、きっと美咲くんの気持ちを知っているからこそ、綾香なりに配慮してくれている。
つまり、私と美咲くんを二人っきりにさせたいという目論見である。
この間、デートをしてみて、美咲くんとの関係について前向きに考えてみようと思っていたところだったので、二人っきりにさせられるのは別に嫌じゃない。
それに今回は前回と違って、デートではなくヲタ活なので、同じ二人っきりでも緊張せずにリラックスした状態で一緒に居られる。
そう考えたら、今回の二人っきりは気持ち的に少し楽に感じた。
今回のコミケも前回同様、現地集合となった。今回は前回と違い、全員参加経験があるため、前回に比べたら気持ち的に余裕がある。
国際展示場の駅を出てて、すぐ傍にあるコンビニの前で待ち合わせすることになった。
実際、待ち合わせ場所へ向かうと、朝から店員さんがグッズを大体的に宣伝していた。
もちろん、コミケ前のヲタク達はスルーしているが、帰りになると様子が変わる。
これもコミケの風物詩といっても過言ではない。
待ち合わせ場所に着くと、先に一人居た。しかもその人物が意外な人物であった。
「おはよう、綾香。珍しいね。先に着いてるなんて…」
「おはよう、茜。朝から失礼ね。私だって早く来る時くらいあるわよ」
多分きっと私達のことが心配で、早めに来てくれたのかもしれない。
そういう細やかな気使いができるところが綾香らしくて、同時に見習いたいところだなと思った。
「そっか。さすが綾香様だね」
「そうよ。やる時はやる女なんで。いつまでも美咲にバカにされてばかりじゃないからね」
「俺がどうした?おはよう、茜、綾香」
背後から突然、タイミング良く美咲くんが現れた。
まるでタイミングを狙っていたかのように感じた。
「…あんた、わざとタイミング狙ったでしょ?」
「狙ってねーよ。今、着いたばかりだし。たまたまタイミングが合っただけだ」
どうやら偶然だったみたいだ。それにしてもタイミングが良すぎたような…。
持ってる人は違うんだなと思い知らされた。
「ふーん。そうだったのね…」
「本来なら、俺が一番遅いことが通常なんだよ。俺が一番遠いからな。
それなのにお前はいつも一番遅い。一番近いはずなのにな…」
「一々うるさい男ね。女の子は男と違って、支度が大変なの。それぐらい察しなさいよ」
「同じ女の子でも、茜はちゃんと間に合わせて支度ができてるぞ?」
「人によって、支度の時間はそれぞれなんです!
…てきぱきできるところは羨ましいし、見習いたいところだけど」
まさか綾香がそんな風に思っていたなんて知らなかった。
私の方が綾香から見習いたいところがたくさんあるので、そんな綾香にそう言ってもらえて嬉しかった。
「綾香にそう言ってもらえて嬉しい。
私もたくさん綾香から見習いたいところがあるよ」
「茜、それ以上、この話題を広げなくて大丈夫だから。とりあえず、会場の列に並びましょ」
そうだった…。今はまず、戦場へ赴こうとしている最中なので、無駄な時間は一分一秒でも惜しいくらいである。
「そうだよね。ごめん。とりあえず、急ごう」
三人で早足に会場へと向かうのであった。
*
会場に着くと、既に長蛇の列ができていた…。
私達もそれなりに朝早く出てきたつもりでいたが、上には上がいるということを、いつもコミケに来る度に思い知らされる。
「とりあえず、気長に待ちましょ」
「そうだな。気長に待つか」
二人は順応性が高いため、すぐその場に適応していた。
私ももうアニメのイベントや、これまでコミケに何度も参加しているので、こういった長蛇の列に並ぶことには慣れている。
でも、今までと違うのは一人じゃないこと。そういった意味では、待つことさえも楽しみに感じてしまうのであった。
「楽しみだね。今回は一冊でも多くお宝が手に入るといいな」
「そうだな。今回も頑張ろう」
「そうね。頑張りましょ」
コミケが開始されるまでの間、お互いに欲しい本の話や、今期のアニメの話、アイスマのストーリーの新章が配信された話など、とにかく色んな話で盛り上がった。
話が盛り上がりすぎて、話し足りなくなったタイミングで、時間が迫ってきた。
いよいよ冬コミが始まる…。一気に緊張感が込み上げてきた。
「いよいよだな…」
「どうしよう。急に緊張してきた…」
「その気持ちよく分かるわ。でも、緊張するのも勿体ないわ。一気に攻めるわよ」
「綾香の言う通りだな。よし。気持ち切り替えて、一気に攻めるぞ!」
なんてことを話していたら、列の動きが大きくなり、思ったよりも進むことができた。
談笑している時間さえもなく、気がついたら会場に入場していた。
「それじゃ、私はここで。二人は一緒に行動するんだっけ?」
「そうだよ。でも途中までだけどね…。
あっ、そうだ。綾香、用事が済んだら連絡して。例の物を渡したいから」
例の物とは、真さんからのアイスマグッズの受け渡しである。
もちろん、お金はちゃんと支払うことになっている。
「了解。待ち合わせ場所は?」
「幸子先生のサークルに集合ってことで、話がついてるから、そこまで来てもらえると助かる」
「それじゃ、諸々用事が済んだら、連絡してそっちへ向かうね」
来る前に連絡してもらえるのは有難い。それぞれ別行動するので、お互いの行動が少しでも分かる方が、お互いに行動しやすくなる。
「分かった。私達もそれぞれ別行動の用が済んだら直接、幸子先生のサークルへ向かうことにするね」
前回、美咲くんは初参加にも関わらず、すぐに順応していたので、今回は二度目の参加だし、大丈夫であろうという安心と信頼もある。
いざとなったら、私が美咲くんを探しに行けばいいので、なんとかなるであろう。
「そうだな。そうしよう。俺も二回目だから、前回に比べたら慣れてると思うし」
「そうね。それじゃ、そういうことでよろしく。
そろそろ行くわ。また後で…」
綾香はそのまま、すぐに去ってしまった。私と美咲くんはその場に置き去りにされた。
とりあえず、私達も動き出せねばと思い、声をかけようとしたら、美咲くんの方が先に口を開いた。
「茜はどのジャンルから回る予定?」
とりあえず、まずは事前に約束していたアイスマ関連のサークルを回るつもりだ。
その後は昔からハマっているジャンルや、最近ハマったばかりのジャンル、まだ気になって手を出せてはいないけど、軽く覗いてみたいジャンルを回る予定でいる。
「んー…まずは、アイスマ関連からかな。美咲くんと一緒に回る約束したからね」
「そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう」
顔を赤くしながら照れていた。そんな美咲くんを見て、なんだか思わず可愛いと思ってしまった。
「いえいえ。とりあえず、お目当てのサークルさんの列に一緒に並ぼっか」
「そうだな。並ぼう」
二人で同じサークルの列に一緒に並んだ。本当は二人で手分けした方が早いが、一人で並ぶと待ち時間が退屈なため、友達と一緒に並んだりする方が良かったりもする。
それに手分けしてやる場合、買う物を間違えてしまった時の対処が難しい…。
諸々考えた上で判断すると、一緒に並んだ方が利点である。
難点は時間をロスしてしまうので、そこはとても痛いが…。
「ここのサークルさん、売り子さんの人数が圧倒的に多いな…」
そう。私達が今、並んでいるサークルさんは、Twitterのフォロワー数が百万人を超えている、二次創作界隈ではカリスマ的存在で、ここ数年壁サークルをずっとキープしているサークルさんだ。
人気サークルということもあり、スタッフの人数が圧倒的に多い。
あの人気BL漫画家の美幸先輩ですら、ここまでの人数の売り子さんはいない。
コミケでは二次創作の同人誌が人気のため、ここまでの人気サークルともなると、これぐらいの人数の売り子さんがいないと捌くことができず、混雑を招いてしまうので、それをちゃんと避けるための対策なのであろう。
「そうだね。このサークルさん、ここ数年ずっと人気サークルさんだからね…」
「そうなのか。俺、同人誌自体は結構早い段階から手を出してたんだけど、コミケ自体は夏からの参加だから、どこが人気のサークルとか、いまいちよく分かってなくて。
でも、いざ目の前にしたら、このサークルさんの規模が大きいってことは分かった…」
他の壁サークルさんもそれなりにすごいが、このサークルさんだけ圧倒的にオーラが違う。
売り子さんの人数もそうだが、列に並んでいる買い手側の人数もすごい…。
「俺ら結構後ろの方だけどさ、俺らより後ろの人もいるんだよな…」
これだけの人数が並んでいると、本当に手に入れられるか不安になってしまう。
しかし、向こうもプロだ。これぐらいの人数は想定内であろう。
つまり、これ以上の数を用意しているはず…。逆にそれだけ売れる見込みがあるということでもある。
「他のサークルさんの本が買えるかどうか、心配になってきたな…」
それは一理ある。やっぱり、手分けした方がよかったのかもしれない。
色々言い訳ばかり並べてきたが、ここは効率を重視すべきであった。もう既に遅いが…。
「ごめんね。手分けした方が良かったかもしれないね…」
美咲くんより私の方がコミケ参加歴が長いため、このサークルの行列を予想することができた。
手分けする道を選択しなかったのは私のミスだ。コミケにおいて、判断ミスは致命的である。
これでもし、他のサークルさんの本が手に入らなかったら、私のせいだ。ごめんね、美咲くん…。
「まぁ、なんとかなるだろう。俺、このサークルさんの本が手に入るなら、他のサークルさんの本は手に入らなくても、仕方ないって割り切れるし」
美咲くんが気を使ってくれた。美咲くんに気を使わせてしまったことが、とても申し訳なく感じてしまった。
「本当?大丈夫…?」
「大丈夫だよ。最悪、帰りに池袋へ行けばいいし、今は通販もあるからな。
それに同人誌はまたいつでもたくさん出るだろ?」
確かにその通りだが、その時にしか手に入らない物もある。
その大事な本を一冊でも買い逃すことは、とても悔しい。
その悔しい思いを美咲くんにさせたくない。できれば、手に入れてほしい。
美咲くんはまだコミケ初心者だから、辛い思いをしてほしくはなかった。
「でも…、」
「茜、大事なのはその場を思いっきり楽しむことだと思う。
もちろん、戦利品を一つでも多く手に入れることも大事だけど、こういうのはお互いが楽しめる方が優先だと思うんだ、俺は」
私はとても大事なことを忘れていた。目の前のお宝に目が眩み、大事なことが見えていなかったのかもしれない。
「だから、茜が責任感を感じる必要なんてないからな。
俺は茜と一緒に居たいから、一緒に並ぶことを選んだ。
もし、本が優先なら、もう二度目のコミケだし、手分けして並ぶ方を選んでたと思う。
もう気にすんなよ。大丈夫だ。俺達なら欲しい本は全部、手に入れられるさ」
美咲くんにそう言ってもらえて、自分が勝手に責任感を感じていたことに気づかされた。
確かに美咲くんの言う通り、本当にそうしたいのであれば、そうしていたのかもしれない。
たられば話をしていても仕方ない。それを美咲くんから教わった。
だからもう、ネガティブなことは言わないし、考えない。
今日というこの日を思いっきり楽しむ。それが今日の醍醐味であるから。
「ごめん。あと、美咲くん。ありがとう。一番大事なことを忘れてたよ。
だから、もう気持ちを切り替えて、今から思いっきり楽しむ。
よし!絶対に手に入れるぞ!一冊だって取り逃さないんだからね」
「やっぱり茜は頼もしいな。それでこそ茜だよ」
そうかもしれない。私はヲタク関連のことについては、常に元気でパワフルに満ち溢れている。それが私。
そのことに気づかせてくれた美咲くんには、とても感謝している。
あともう少しでこの楽しい雰囲気を壊すところだった…。
美咲くんとは買い物リストについて、事前に連絡を取り合った。
前回と同様、結構被っていたので、殆ど一緒に行動することになった。
もちろん、お互いに被っていないジャンルもあるため、そこから先は別行動となるが…。
あとは美幸先輩のサークルに一緒に行くぐらいである…。
今回もアイスマの制作会社が企業ブースに参加しているため、真さんがキープしてくれている。
キープというよりは、知り合い分として特別に確保してくれているといった方が正しい。
ちなみに今回は綾香の分もちゃんとある…。
その綾香は今回も一人で別行動をするみたいだ。
回るジャンルやサークルが違うというのもあるが、知り合いに会うのと、私達に気を使ってくれているのであろう。
前回もそうだったのもあるが、きっと美咲くんの気持ちを知っているからこそ、綾香なりに配慮してくれている。
つまり、私と美咲くんを二人っきりにさせたいという目論見である。
この間、デートをしてみて、美咲くんとの関係について前向きに考えてみようと思っていたところだったので、二人っきりにさせられるのは別に嫌じゃない。
それに今回は前回と違って、デートではなくヲタ活なので、同じ二人っきりでも緊張せずにリラックスした状態で一緒に居られる。
そう考えたら、今回の二人っきりは気持ち的に少し楽に感じた。
今回のコミケも前回同様、現地集合となった。今回は前回と違い、全員参加経験があるため、前回に比べたら気持ち的に余裕がある。
国際展示場の駅を出てて、すぐ傍にあるコンビニの前で待ち合わせすることになった。
実際、待ち合わせ場所へ向かうと、朝から店員さんがグッズを大体的に宣伝していた。
もちろん、コミケ前のヲタク達はスルーしているが、帰りになると様子が変わる。
これもコミケの風物詩といっても過言ではない。
待ち合わせ場所に着くと、先に一人居た。しかもその人物が意外な人物であった。
「おはよう、綾香。珍しいね。先に着いてるなんて…」
「おはよう、茜。朝から失礼ね。私だって早く来る時くらいあるわよ」
多分きっと私達のことが心配で、早めに来てくれたのかもしれない。
そういう細やかな気使いができるところが綾香らしくて、同時に見習いたいところだなと思った。
「そっか。さすが綾香様だね」
「そうよ。やる時はやる女なんで。いつまでも美咲にバカにされてばかりじゃないからね」
「俺がどうした?おはよう、茜、綾香」
背後から突然、タイミング良く美咲くんが現れた。
まるでタイミングを狙っていたかのように感じた。
「…あんた、わざとタイミング狙ったでしょ?」
「狙ってねーよ。今、着いたばかりだし。たまたまタイミングが合っただけだ」
どうやら偶然だったみたいだ。それにしてもタイミングが良すぎたような…。
持ってる人は違うんだなと思い知らされた。
「ふーん。そうだったのね…」
「本来なら、俺が一番遅いことが通常なんだよ。俺が一番遠いからな。
それなのにお前はいつも一番遅い。一番近いはずなのにな…」
「一々うるさい男ね。女の子は男と違って、支度が大変なの。それぐらい察しなさいよ」
「同じ女の子でも、茜はちゃんと間に合わせて支度ができてるぞ?」
「人によって、支度の時間はそれぞれなんです!
…てきぱきできるところは羨ましいし、見習いたいところだけど」
まさか綾香がそんな風に思っていたなんて知らなかった。
私の方が綾香から見習いたいところがたくさんあるので、そんな綾香にそう言ってもらえて嬉しかった。
「綾香にそう言ってもらえて嬉しい。
私もたくさん綾香から見習いたいところがあるよ」
「茜、それ以上、この話題を広げなくて大丈夫だから。とりあえず、会場の列に並びましょ」
そうだった…。今はまず、戦場へ赴こうとしている最中なので、無駄な時間は一分一秒でも惜しいくらいである。
「そうだよね。ごめん。とりあえず、急ごう」
三人で早足に会場へと向かうのであった。
*
会場に着くと、既に長蛇の列ができていた…。
私達もそれなりに朝早く出てきたつもりでいたが、上には上がいるということを、いつもコミケに来る度に思い知らされる。
「とりあえず、気長に待ちましょ」
「そうだな。気長に待つか」
二人は順応性が高いため、すぐその場に適応していた。
私ももうアニメのイベントや、これまでコミケに何度も参加しているので、こういった長蛇の列に並ぶことには慣れている。
でも、今までと違うのは一人じゃないこと。そういった意味では、待つことさえも楽しみに感じてしまうのであった。
「楽しみだね。今回は一冊でも多くお宝が手に入るといいな」
「そうだな。今回も頑張ろう」
「そうね。頑張りましょ」
コミケが開始されるまでの間、お互いに欲しい本の話や、今期のアニメの話、アイスマのストーリーの新章が配信された話など、とにかく色んな話で盛り上がった。
話が盛り上がりすぎて、話し足りなくなったタイミングで、時間が迫ってきた。
いよいよ冬コミが始まる…。一気に緊張感が込み上げてきた。
「いよいよだな…」
「どうしよう。急に緊張してきた…」
「その気持ちよく分かるわ。でも、緊張するのも勿体ないわ。一気に攻めるわよ」
「綾香の言う通りだな。よし。気持ち切り替えて、一気に攻めるぞ!」
なんてことを話していたら、列の動きが大きくなり、思ったよりも進むことができた。
談笑している時間さえもなく、気がついたら会場に入場していた。
「それじゃ、私はここで。二人は一緒に行動するんだっけ?」
「そうだよ。でも途中までだけどね…。
あっ、そうだ。綾香、用事が済んだら連絡して。例の物を渡したいから」
例の物とは、真さんからのアイスマグッズの受け渡しである。
もちろん、お金はちゃんと支払うことになっている。
「了解。待ち合わせ場所は?」
「幸子先生のサークルに集合ってことで、話がついてるから、そこまで来てもらえると助かる」
「それじゃ、諸々用事が済んだら、連絡してそっちへ向かうね」
来る前に連絡してもらえるのは有難い。それぞれ別行動するので、お互いの行動が少しでも分かる方が、お互いに行動しやすくなる。
「分かった。私達もそれぞれ別行動の用が済んだら直接、幸子先生のサークルへ向かうことにするね」
前回、美咲くんは初参加にも関わらず、すぐに順応していたので、今回は二度目の参加だし、大丈夫であろうという安心と信頼もある。
いざとなったら、私が美咲くんを探しに行けばいいので、なんとかなるであろう。
「そうだな。そうしよう。俺も二回目だから、前回に比べたら慣れてると思うし」
「そうね。それじゃ、そういうことでよろしく。
そろそろ行くわ。また後で…」
綾香はそのまま、すぐに去ってしまった。私と美咲くんはその場に置き去りにされた。
とりあえず、私達も動き出せねばと思い、声をかけようとしたら、美咲くんの方が先に口を開いた。
「茜はどのジャンルから回る予定?」
とりあえず、まずは事前に約束していたアイスマ関連のサークルを回るつもりだ。
その後は昔からハマっているジャンルや、最近ハマったばかりのジャンル、まだ気になって手を出せてはいないけど、軽く覗いてみたいジャンルを回る予定でいる。
「んー…まずは、アイスマ関連からかな。美咲くんと一緒に回る約束したからね」
「そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう」
顔を赤くしながら照れていた。そんな美咲くんを見て、なんだか思わず可愛いと思ってしまった。
「いえいえ。とりあえず、お目当てのサークルさんの列に一緒に並ぼっか」
「そうだな。並ぼう」
二人で同じサークルの列に一緒に並んだ。本当は二人で手分けした方が早いが、一人で並ぶと待ち時間が退屈なため、友達と一緒に並んだりする方が良かったりもする。
それに手分けしてやる場合、買う物を間違えてしまった時の対処が難しい…。
諸々考えた上で判断すると、一緒に並んだ方が利点である。
難点は時間をロスしてしまうので、そこはとても痛いが…。
「ここのサークルさん、売り子さんの人数が圧倒的に多いな…」
そう。私達が今、並んでいるサークルさんは、Twitterのフォロワー数が百万人を超えている、二次創作界隈ではカリスマ的存在で、ここ数年壁サークルをずっとキープしているサークルさんだ。
人気サークルということもあり、スタッフの人数が圧倒的に多い。
あの人気BL漫画家の美幸先輩ですら、ここまでの人数の売り子さんはいない。
コミケでは二次創作の同人誌が人気のため、ここまでの人気サークルともなると、これぐらいの人数の売り子さんがいないと捌くことができず、混雑を招いてしまうので、それをちゃんと避けるための対策なのであろう。
「そうだね。このサークルさん、ここ数年ずっと人気サークルさんだからね…」
「そうなのか。俺、同人誌自体は結構早い段階から手を出してたんだけど、コミケ自体は夏からの参加だから、どこが人気のサークルとか、いまいちよく分かってなくて。
でも、いざ目の前にしたら、このサークルさんの規模が大きいってことは分かった…」
他の壁サークルさんもそれなりにすごいが、このサークルさんだけ圧倒的にオーラが違う。
売り子さんの人数もそうだが、列に並んでいる買い手側の人数もすごい…。
「俺ら結構後ろの方だけどさ、俺らより後ろの人もいるんだよな…」
これだけの人数が並んでいると、本当に手に入れられるか不安になってしまう。
しかし、向こうもプロだ。これぐらいの人数は想定内であろう。
つまり、これ以上の数を用意しているはず…。逆にそれだけ売れる見込みがあるということでもある。
「他のサークルさんの本が買えるかどうか、心配になってきたな…」
それは一理ある。やっぱり、手分けした方がよかったのかもしれない。
色々言い訳ばかり並べてきたが、ここは効率を重視すべきであった。もう既に遅いが…。
「ごめんね。手分けした方が良かったかもしれないね…」
美咲くんより私の方がコミケ参加歴が長いため、このサークルの行列を予想することができた。
手分けする道を選択しなかったのは私のミスだ。コミケにおいて、判断ミスは致命的である。
これでもし、他のサークルさんの本が手に入らなかったら、私のせいだ。ごめんね、美咲くん…。
「まぁ、なんとかなるだろう。俺、このサークルさんの本が手に入るなら、他のサークルさんの本は手に入らなくても、仕方ないって割り切れるし」
美咲くんが気を使ってくれた。美咲くんに気を使わせてしまったことが、とても申し訳なく感じてしまった。
「本当?大丈夫…?」
「大丈夫だよ。最悪、帰りに池袋へ行けばいいし、今は通販もあるからな。
それに同人誌はまたいつでもたくさん出るだろ?」
確かにその通りだが、その時にしか手に入らない物もある。
その大事な本を一冊でも買い逃すことは、とても悔しい。
その悔しい思いを美咲くんにさせたくない。できれば、手に入れてほしい。
美咲くんはまだコミケ初心者だから、辛い思いをしてほしくはなかった。
「でも…、」
「茜、大事なのはその場を思いっきり楽しむことだと思う。
もちろん、戦利品を一つでも多く手に入れることも大事だけど、こういうのはお互いが楽しめる方が優先だと思うんだ、俺は」
私はとても大事なことを忘れていた。目の前のお宝に目が眩み、大事なことが見えていなかったのかもしれない。
「だから、茜が責任感を感じる必要なんてないからな。
俺は茜と一緒に居たいから、一緒に並ぶことを選んだ。
もし、本が優先なら、もう二度目のコミケだし、手分けして並ぶ方を選んでたと思う。
もう気にすんなよ。大丈夫だ。俺達なら欲しい本は全部、手に入れられるさ」
美咲くんにそう言ってもらえて、自分が勝手に責任感を感じていたことに気づかされた。
確かに美咲くんの言う通り、本当にそうしたいのであれば、そうしていたのかもしれない。
たられば話をしていても仕方ない。それを美咲くんから教わった。
だからもう、ネガティブなことは言わないし、考えない。
今日というこの日を思いっきり楽しむ。それが今日の醍醐味であるから。
「ごめん。あと、美咲くん。ありがとう。一番大事なことを忘れてたよ。
だから、もう気持ちを切り替えて、今から思いっきり楽しむ。
よし!絶対に手に入れるぞ!一冊だって取り逃さないんだからね」
「やっぱり茜は頼もしいな。それでこそ茜だよ」
そうかもしれない。私はヲタク関連のことについては、常に元気でパワフルに満ち溢れている。それが私。
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