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episode8.二度目のコミケ
8話-③
突然、私の悪口大会が始まった。もう…。二人して私をからかうのを楽しんじゃって…。
「でも、そんなところが可愛いのよね。ね?美咲くん」
どうやら、先輩はとっくに美咲くんの気持ちに気づいていたみたいだ。
もしかして、美咲くんの気持ちに気づいていなかったのって、私だけなの?
間抜けな自分に気づき、一気に気恥しさが込み上げてきた。
「…え?あの、ぶっ込みすぎです…」
「あら。ごめんね。…あれ?二人ってもしかして…」
「「まだ違います!!」」
「へぇ…。そうなの。ハモるなんて、息ぴったりで仲良しだね」
絶対、先輩は私達で遊んでる。畜生…。真さんが来たら、私も先輩のことを弄ってやる…。
そんな中、このタイミングで再び携帯が鳴った。
どうやら、今度は綾香から連絡が着たみたいだ…。
《綾香:ごめん。遅くなった。今から向かいます》
もうすく綾香がこちらへやって来るみたいだ。綾香と先輩が会うのは今回が初めましてになる…。
「先輩、もうすぐもう一人のお友達の綾香もやって来ます…」
「そうなのね。分かったわ。準備してくる…」
先輩はそう言い残して、準備をしに行ってしまった。
突然、私と美咲くんの二人っきりになってしまい、お互いに変な空気が流れた。
だってさっき先輩にからかわれたせいだ。全く。先輩のせいで、こんな気まずい空気になってしまったので、後で先輩に責任を取ってもらうことにしよう。
「まだ綾香に返事返してないから、返さなきゃ…」
この気まずい空気から逃れるために、私は一旦逃げた。
ごめん、美咲くん。こんな態度を取りたかったわけじゃない。もっと上手くやりたいのに…。
とりあえず、綾香に返事を返してから、この空気をどうするか考えることにした。
《茜:分かった。私と美咲くんは裏に居るんで、着いたら裏に直行してくれると助かる》
私が送信した後、すぐに既読がついた。
そして、すぐに返事が返ってきた。
《綾香:了解です。もうすぐ着くので、よろしくお願いしますと、先生にお伝えください》
綾香から返事が返ってきたタイミングで、先輩が戻ってきた。
「先輩、友達がもうすぐ着くから、よろしくお願いしますとお伝えくださいってメッセージが着たので一応、お伝えしました」
「あら。礼儀正しい子なのね。しっかりしてるわ…」
確かに綾香はしっかりしている。それでいて、精神的に自立しているので、大人である。
「うん。本当にしっかりしてる子だよ」
なんて綾香の話をしていたら、綾香が到着した。
ついに綾香と先輩の初対面…。なんだかこっちがドキドキしてきた。
「初めまして。茜の友達の綾香です。この度はお招き頂きまして、ありがとうございます」
「初めまして。こちらこそ、ありがとうございます。
私は茜の友達兼、大学時代の先輩でもある美幸です。
一応、プロの漫画家としても、お仕事させて頂いております」
「茜からお話は伺ってます。幸子先生ですよね…?」
「はい。私が幸子です」
美咲くんの時とは違い、事前に先輩が幸子先生だということを話していたため、綾香の反応はこんな感じだ。
ちなみに、綾香は先輩の漫画を買って、読んでいるみたいだ。
「あの、実は職場の先輩が、先生の大ファンみたいなので、事前に茜伝えで色々とお願いしてしまい、すみません…」
「大丈夫ですよ。その先輩によろしくお伝えください」
先輩のその言葉にどこか安心した様子の綾香に対して、先輩は大きな紙袋を二つ出してきた。
「こっちは先輩の分で、こっちは綾香ちゃんの分ね…」
「え?いいんですか?私の分まで…」
「もちろん。茜の友達だし、綾香ちゃんもBLが好きで、私の作品を読んでくれているみたいだから、綾香ちゃんさえよければ、是非、もらってくれると嬉しいな」
すると、綾香の表情が一気に笑顔になり、美幸先輩の手を取っていた。
「ありがとうございます!より先生のことが大好きになりました」
「そう言って頂けて、光栄です。今後も仲良くしてくれると嬉しいな」
「はい!是非!寧ろこちらからお願いしたいくらいです…」
先輩は人を好きにさせるのが上手い。こういうところが先輩の良さだなと、改めて実感させられた。
「あ、そうそう。もうすぐ真が来るから、もう少しだけ待ってもらってもいいかな?」
「真って、えっと…もしかして…」
「先輩の彼氏。綾香も夏コミで会ってるよ」
「もしかして、アイスマの社員さんの人…?」
「そう。その人。そういえば、あの時は大学時代の先輩の彼氏としか紹介してなかったもんね…」
一瞬だけしか顔合わせしていないため、覚えていなくても当然だ。
それにお目当ては真さんではなく、真さんが持ってくる物の方なので、真さんのことは最悪、覚えていなくても問題ない。
「そうだけど…。まさか繋がっていたとは思わなくて」
それもそうだ。知らなきゃ、分からないものである。
それにしても、綾香はよくすぐに気づいたなと感心させられた。
「そのまさかでした。先輩と真さん、めちゃくちゃ仲良しなんだよ」
「もう、茜止めてよ。真とはめちゃくちゃ仲良くさせて頂いております…」
先輩が惚気始めようとした瞬間、真さんがやって来た…。
「ごめんね。遅くなりました…」
「お疲れ様。そっちは企業ブースだから、大変よね」
美幸先輩が真さんを労っていた。企業ブースは同人ブースとは比べものにならないくらい人が多く、もっと過酷である。
「ありがとう、美幸。…あっ、ごめんね。ちゃんとお目当ての物は持ってきたからね」
真さんは到着早々、私達にアイスマグッズの紙袋を渡してくれた。
「はい、どうぞ…」
「「ありがとうございます……」」
「わざわざすみません、真さん。そして、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ。もう一人のお友達にも、うちのゲームにハマってもらえたみたいで、何よりです」
会社員らしい挨拶を済ませて、真さんは笑顔で対応していた。
「それじゃ、俺はそろそろ…。美幸も無理せずに、頑張ってね。では、ここで失礼します」
用事を済ませると、すぐに去ってしまった。まるで台風のように…。
「…全く。もう少しゆっくりしていけばいいのに」
美幸先輩は、もう少し一緒に居たい気持ちと、純粋に真さんの身体を心配しているのであろう。
そんな先輩達の姿を見て、微笑ましい気持ちになるのであった。
「ごめんね。来るだけ来て、すぐ去っちゃって…」
「いえ。こちらこそ、わざわざ足をお運び頂き、ありがとうございますとお伝えください」
「分かったわ。真にはそう伝えておくね」
それから少しの間、軽く先輩と談笑した。
ある程度、先輩と話すこともできたので、そろそろ三人で他にも色々回りたいなと思い、この場を去ることにした。
「それじゃ美幸先輩、そろそろ…」
「分かったわ。今回も来てくれてありがとうね」
「いえいえ。今回も先輩に呼んでもらえて、嬉しかったです。こちらこそ、ありがとうございました」
「いえいえ。茜も美咲くんも綾香ちゃんも、本当にありがとう」
「恐れ多いです。また先生にお会いすることができて、こちらこそありがとうございました」
「前回はお会いできず、すみません。今回はお会いすることができて、とても嬉しかったです。また先生さえよければ、よろしくお願いします」
お互いにお礼を言い合うことができたので、このまま立ち去ろうとした瞬間、先輩が先に口を開いた。
「茜、いつか茜のブースにも遊びに行かせてね」
そんなのいつになるかまだ分からない。
でももし、その日がやってきたら、先輩には遊びに来てほしいと思った。
「はい。是非、その時は遊びに来てくださいね」
「俺はその時、売り子として、茜の傍に居るので」
すると、綾香も対抗して宣言した。きっと、美咲くんに負けたくなかったのであろう。
「私も売り子兼、SNSの宣伝とか、色々茜を友達として支えるので」
「頼もしい仲間が増えたわね。羨ましいわ…」
先輩は微笑みながら、羨ましそうにこちらを見ていた。
もう今は一々先輩と比べることはなくなったけども、一つだけ先輩に勝てる部分があるとするならば、堂々と誇って言えることがある。それは…。
「でしょ?私の自慢の仲間です」
「そっか。それじゃ、またね」
「はい。また…」
次は私もサークルとして参加して、先輩に遊びに来てほしいなと、密かに心の中で願った。
先輩のサークルを去った後、三人で会場内を巡った。
コスプレイヤーさんを見たり、時には一緒に写真を撮ったり…。
ゆっくりできなかったジャンルのブースを回ったり、足を運ばなかった自分達の知らないジャンルのブースに行ってみたり。
戦場の後の企業ブースにも行ってみた。戦いの後の企業ブースはとても静かだった。
なんだかんだ終了時間ギリギリまでコミケ会場に居た。
「そろそろ…打ち上げにしますか」
「そうだね。そうしよう」
「さぁ、飲むぞ。お宝お披露目大会をするぞ」
「いいね。早速、急ぎましょ」
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、こうしてコミケは無事に終了した。
そして、私達は今夜の打ち上げ会場に移動した。
*
打ち上げ会場は今回、コミケの会場から近い旅館で行われることになった。
私と綾香が相部屋で、美咲くん一人だけ男性ということもあり、一人部屋となった。
何故、旅館になったかというと、お酒を飲みたいが、飲んだ後、疲れた身体で電車に揺られながら帰るのは体力的に厳しいということになり、お酒も飲めて、帰りも気にせずにゆっくりできるところが、この旅館だったのである。
「はぁ…。疲れた……」
「おっさんくさいわね、美咲」
「うるせー。俺はまだ二十代だから、おっさんではない」
「年齢はまだ若くても、発言が既におっさんくさいんだってば…」
「それマジで凹むわ。俺、そんなにおっさんくさいの?」
私からしてみたら、おっさんくさくは思えない。
寧ろ年齢より若く見える、素敵なお兄さんと言った印象である。
「美咲くん、そんなことないよ。充分、素敵な若者だよ」
「茜は誰かさんと違って、優しいよな」
「へぇー。それは誰のことかしら?今日のために色々やってあげたのに、感謝してもらえないのね…」
「ごめんね。心の中では何度も感謝してたんだけど、なかなか想いを伝えられなくて。
改めて綾香、色々と準備してくれてありがとう」
「いやいや、冗談だから真に受けなくて大丈夫だからね?!
それに茜に対して言ったわけじゃないから、茜は気にしなくて大丈夫よ」
恥ずかしい。空気が読めてなかったなんて…。穴があったら入りたいくらいだ。
「ご、ごめん。空気読めなくて…」
「大丈夫。ちゃんと茜の想いは伝わったから。
ありがとう。伝えてくれて嬉しかった」
「…綾香。私の方こそいつもありがとう」
「あの…。二人の世界に浸ってるところ申し訳ないんだけど、途中から俺の存在忘れてないですかね?!」
「あら、美咲いたの?ごめん。忘れてたわ」
「…お前、後で覚えてろよ。仕返ししてやるからな」
「美咲、怖い…。あんたこそ、恩人に恩を売らなかったこと、後悔させてやるからね」
…ってな感じで暫くの間、美咲くんと綾香による掛け合いが繰り広げられていた。
私はそれをただ黙って眺めていた。それだけでとても心が穏やかな気持ちで満ち溢れていた。
「二人共、本当に仲良しだよね。息ぴったり」
「そうか?全然、合わないと思うが…」
「それに関しては美咲に同感ね。茜、私達みたいなのを犬猿の仲っていうのよ」
「そうだな。意見も考えも全く合わない」
「そうかな?お互いに言いたいこと言い合えてると思う。
だって、厳しい言い方の冗談も言い合えるからさ。
見てる側としてはとても面白いし、癒されるよ」
「…え?癒されるの?それはおかしいよ、茜」
「うん、本当におかしいぞ…」
「ほら、やっぱり相性ぴったりじゃん。めちゃくちゃ意見も合うし」
すると、二人共とても嫌そうな顔をしていた。そんなに嫌なのだろうか。友達同士なのに…。
「なんだかごめんね。この話はここまでにして、そろそろお互いに買ったお宝を見せ合わない?」
このままだと空気が悪くなりそうなので、話題を切り替えた。
せっかくだし、皆で楽しく盛り上がることがしたい。だって、打ち上げだから。
「いいね。そうしましょ」
「だな。そうっすか」
こうして、各々買った同人誌の見せ合い大会が始まった…。
「よし、ジャンケンして、順番を決めよう」
「いいね。そうしよう」
ここは公平にジャンケンして決めることになった。
早速、ジャンケンをしてみたところ、順番は美咲くん、綾香、私の順になった。
「それじゃ、まずは俺から。…じゃん!俺の一冊目はこちらから…」
軽いジャブ程度に、まずは私達皆が共通で大好きなあのジャンル。
そう。アイスマの同人誌を美咲くんは出してきた。
「このサークルさん、まだ壁サークルじゃないんだけど、最近Twitterのフォロワー数が急増して、人気急上昇中の方なんだ。
何より絵が綺麗で。それでいて話もしっかりしていて。絡みのシーンもガッツリあって。
星三つどころか、星百個あげたいくらいのクオリティーなんだ。
オリジナルもたまにTwitterに上げてるんだけど、それもすげー良くて。
今回、オリジナルの同人誌を初めて出すらしいから、それも買ってみた。…はぁ。早く商業漫画デビューしてほしい」
「でも、そんなところが可愛いのよね。ね?美咲くん」
どうやら、先輩はとっくに美咲くんの気持ちに気づいていたみたいだ。
もしかして、美咲くんの気持ちに気づいていなかったのって、私だけなの?
間抜けな自分に気づき、一気に気恥しさが込み上げてきた。
「…え?あの、ぶっ込みすぎです…」
「あら。ごめんね。…あれ?二人ってもしかして…」
「「まだ違います!!」」
「へぇ…。そうなの。ハモるなんて、息ぴったりで仲良しだね」
絶対、先輩は私達で遊んでる。畜生…。真さんが来たら、私も先輩のことを弄ってやる…。
そんな中、このタイミングで再び携帯が鳴った。
どうやら、今度は綾香から連絡が着たみたいだ…。
《綾香:ごめん。遅くなった。今から向かいます》
もうすく綾香がこちらへやって来るみたいだ。綾香と先輩が会うのは今回が初めましてになる…。
「先輩、もうすぐもう一人のお友達の綾香もやって来ます…」
「そうなのね。分かったわ。準備してくる…」
先輩はそう言い残して、準備をしに行ってしまった。
突然、私と美咲くんの二人っきりになってしまい、お互いに変な空気が流れた。
だってさっき先輩にからかわれたせいだ。全く。先輩のせいで、こんな気まずい空気になってしまったので、後で先輩に責任を取ってもらうことにしよう。
「まだ綾香に返事返してないから、返さなきゃ…」
この気まずい空気から逃れるために、私は一旦逃げた。
ごめん、美咲くん。こんな態度を取りたかったわけじゃない。もっと上手くやりたいのに…。
とりあえず、綾香に返事を返してから、この空気をどうするか考えることにした。
《茜:分かった。私と美咲くんは裏に居るんで、着いたら裏に直行してくれると助かる》
私が送信した後、すぐに既読がついた。
そして、すぐに返事が返ってきた。
《綾香:了解です。もうすぐ着くので、よろしくお願いしますと、先生にお伝えください》
綾香から返事が返ってきたタイミングで、先輩が戻ってきた。
「先輩、友達がもうすぐ着くから、よろしくお願いしますとお伝えくださいってメッセージが着たので一応、お伝えしました」
「あら。礼儀正しい子なのね。しっかりしてるわ…」
確かに綾香はしっかりしている。それでいて、精神的に自立しているので、大人である。
「うん。本当にしっかりしてる子だよ」
なんて綾香の話をしていたら、綾香が到着した。
ついに綾香と先輩の初対面…。なんだかこっちがドキドキしてきた。
「初めまして。茜の友達の綾香です。この度はお招き頂きまして、ありがとうございます」
「初めまして。こちらこそ、ありがとうございます。
私は茜の友達兼、大学時代の先輩でもある美幸です。
一応、プロの漫画家としても、お仕事させて頂いております」
「茜からお話は伺ってます。幸子先生ですよね…?」
「はい。私が幸子です」
美咲くんの時とは違い、事前に先輩が幸子先生だということを話していたため、綾香の反応はこんな感じだ。
ちなみに、綾香は先輩の漫画を買って、読んでいるみたいだ。
「あの、実は職場の先輩が、先生の大ファンみたいなので、事前に茜伝えで色々とお願いしてしまい、すみません…」
「大丈夫ですよ。その先輩によろしくお伝えください」
先輩のその言葉にどこか安心した様子の綾香に対して、先輩は大きな紙袋を二つ出してきた。
「こっちは先輩の分で、こっちは綾香ちゃんの分ね…」
「え?いいんですか?私の分まで…」
「もちろん。茜の友達だし、綾香ちゃんもBLが好きで、私の作品を読んでくれているみたいだから、綾香ちゃんさえよければ、是非、もらってくれると嬉しいな」
すると、綾香の表情が一気に笑顔になり、美幸先輩の手を取っていた。
「ありがとうございます!より先生のことが大好きになりました」
「そう言って頂けて、光栄です。今後も仲良くしてくれると嬉しいな」
「はい!是非!寧ろこちらからお願いしたいくらいです…」
先輩は人を好きにさせるのが上手い。こういうところが先輩の良さだなと、改めて実感させられた。
「あ、そうそう。もうすぐ真が来るから、もう少しだけ待ってもらってもいいかな?」
「真って、えっと…もしかして…」
「先輩の彼氏。綾香も夏コミで会ってるよ」
「もしかして、アイスマの社員さんの人…?」
「そう。その人。そういえば、あの時は大学時代の先輩の彼氏としか紹介してなかったもんね…」
一瞬だけしか顔合わせしていないため、覚えていなくても当然だ。
それにお目当ては真さんではなく、真さんが持ってくる物の方なので、真さんのことは最悪、覚えていなくても問題ない。
「そうだけど…。まさか繋がっていたとは思わなくて」
それもそうだ。知らなきゃ、分からないものである。
それにしても、綾香はよくすぐに気づいたなと感心させられた。
「そのまさかでした。先輩と真さん、めちゃくちゃ仲良しなんだよ」
「もう、茜止めてよ。真とはめちゃくちゃ仲良くさせて頂いております…」
先輩が惚気始めようとした瞬間、真さんがやって来た…。
「ごめんね。遅くなりました…」
「お疲れ様。そっちは企業ブースだから、大変よね」
美幸先輩が真さんを労っていた。企業ブースは同人ブースとは比べものにならないくらい人が多く、もっと過酷である。
「ありがとう、美幸。…あっ、ごめんね。ちゃんとお目当ての物は持ってきたからね」
真さんは到着早々、私達にアイスマグッズの紙袋を渡してくれた。
「はい、どうぞ…」
「「ありがとうございます……」」
「わざわざすみません、真さん。そして、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ。もう一人のお友達にも、うちのゲームにハマってもらえたみたいで、何よりです」
会社員らしい挨拶を済ませて、真さんは笑顔で対応していた。
「それじゃ、俺はそろそろ…。美幸も無理せずに、頑張ってね。では、ここで失礼します」
用事を済ませると、すぐに去ってしまった。まるで台風のように…。
「…全く。もう少しゆっくりしていけばいいのに」
美幸先輩は、もう少し一緒に居たい気持ちと、純粋に真さんの身体を心配しているのであろう。
そんな先輩達の姿を見て、微笑ましい気持ちになるのであった。
「ごめんね。来るだけ来て、すぐ去っちゃって…」
「いえ。こちらこそ、わざわざ足をお運び頂き、ありがとうございますとお伝えください」
「分かったわ。真にはそう伝えておくね」
それから少しの間、軽く先輩と談笑した。
ある程度、先輩と話すこともできたので、そろそろ三人で他にも色々回りたいなと思い、この場を去ることにした。
「それじゃ美幸先輩、そろそろ…」
「分かったわ。今回も来てくれてありがとうね」
「いえいえ。今回も先輩に呼んでもらえて、嬉しかったです。こちらこそ、ありがとうございました」
「いえいえ。茜も美咲くんも綾香ちゃんも、本当にありがとう」
「恐れ多いです。また先生にお会いすることができて、こちらこそありがとうございました」
「前回はお会いできず、すみません。今回はお会いすることができて、とても嬉しかったです。また先生さえよければ、よろしくお願いします」
お互いにお礼を言い合うことができたので、このまま立ち去ろうとした瞬間、先輩が先に口を開いた。
「茜、いつか茜のブースにも遊びに行かせてね」
そんなのいつになるかまだ分からない。
でももし、その日がやってきたら、先輩には遊びに来てほしいと思った。
「はい。是非、その時は遊びに来てくださいね」
「俺はその時、売り子として、茜の傍に居るので」
すると、綾香も対抗して宣言した。きっと、美咲くんに負けたくなかったのであろう。
「私も売り子兼、SNSの宣伝とか、色々茜を友達として支えるので」
「頼もしい仲間が増えたわね。羨ましいわ…」
先輩は微笑みながら、羨ましそうにこちらを見ていた。
もう今は一々先輩と比べることはなくなったけども、一つだけ先輩に勝てる部分があるとするならば、堂々と誇って言えることがある。それは…。
「でしょ?私の自慢の仲間です」
「そっか。それじゃ、またね」
「はい。また…」
次は私もサークルとして参加して、先輩に遊びに来てほしいなと、密かに心の中で願った。
先輩のサークルを去った後、三人で会場内を巡った。
コスプレイヤーさんを見たり、時には一緒に写真を撮ったり…。
ゆっくりできなかったジャンルのブースを回ったり、足を運ばなかった自分達の知らないジャンルのブースに行ってみたり。
戦場の後の企業ブースにも行ってみた。戦いの後の企業ブースはとても静かだった。
なんだかんだ終了時間ギリギリまでコミケ会場に居た。
「そろそろ…打ち上げにしますか」
「そうだね。そうしよう」
「さぁ、飲むぞ。お宝お披露目大会をするぞ」
「いいね。早速、急ぎましょ」
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、こうしてコミケは無事に終了した。
そして、私達は今夜の打ち上げ会場に移動した。
*
打ち上げ会場は今回、コミケの会場から近い旅館で行われることになった。
私と綾香が相部屋で、美咲くん一人だけ男性ということもあり、一人部屋となった。
何故、旅館になったかというと、お酒を飲みたいが、飲んだ後、疲れた身体で電車に揺られながら帰るのは体力的に厳しいということになり、お酒も飲めて、帰りも気にせずにゆっくりできるところが、この旅館だったのである。
「はぁ…。疲れた……」
「おっさんくさいわね、美咲」
「うるせー。俺はまだ二十代だから、おっさんではない」
「年齢はまだ若くても、発言が既におっさんくさいんだってば…」
「それマジで凹むわ。俺、そんなにおっさんくさいの?」
私からしてみたら、おっさんくさくは思えない。
寧ろ年齢より若く見える、素敵なお兄さんと言った印象である。
「美咲くん、そんなことないよ。充分、素敵な若者だよ」
「茜は誰かさんと違って、優しいよな」
「へぇー。それは誰のことかしら?今日のために色々やってあげたのに、感謝してもらえないのね…」
「ごめんね。心の中では何度も感謝してたんだけど、なかなか想いを伝えられなくて。
改めて綾香、色々と準備してくれてありがとう」
「いやいや、冗談だから真に受けなくて大丈夫だからね?!
それに茜に対して言ったわけじゃないから、茜は気にしなくて大丈夫よ」
恥ずかしい。空気が読めてなかったなんて…。穴があったら入りたいくらいだ。
「ご、ごめん。空気読めなくて…」
「大丈夫。ちゃんと茜の想いは伝わったから。
ありがとう。伝えてくれて嬉しかった」
「…綾香。私の方こそいつもありがとう」
「あの…。二人の世界に浸ってるところ申し訳ないんだけど、途中から俺の存在忘れてないですかね?!」
「あら、美咲いたの?ごめん。忘れてたわ」
「…お前、後で覚えてろよ。仕返ししてやるからな」
「美咲、怖い…。あんたこそ、恩人に恩を売らなかったこと、後悔させてやるからね」
…ってな感じで暫くの間、美咲くんと綾香による掛け合いが繰り広げられていた。
私はそれをただ黙って眺めていた。それだけでとても心が穏やかな気持ちで満ち溢れていた。
「二人共、本当に仲良しだよね。息ぴったり」
「そうか?全然、合わないと思うが…」
「それに関しては美咲に同感ね。茜、私達みたいなのを犬猿の仲っていうのよ」
「そうだな。意見も考えも全く合わない」
「そうかな?お互いに言いたいこと言い合えてると思う。
だって、厳しい言い方の冗談も言い合えるからさ。
見てる側としてはとても面白いし、癒されるよ」
「…え?癒されるの?それはおかしいよ、茜」
「うん、本当におかしいぞ…」
「ほら、やっぱり相性ぴったりじゃん。めちゃくちゃ意見も合うし」
すると、二人共とても嫌そうな顔をしていた。そんなに嫌なのだろうか。友達同士なのに…。
「なんだかごめんね。この話はここまでにして、そろそろお互いに買ったお宝を見せ合わない?」
このままだと空気が悪くなりそうなので、話題を切り替えた。
せっかくだし、皆で楽しく盛り上がることがしたい。だって、打ち上げだから。
「いいね。そうしましょ」
「だな。そうっすか」
こうして、各々買った同人誌の見せ合い大会が始まった…。
「よし、ジャンケンして、順番を決めよう」
「いいね。そうしよう」
ここは公平にジャンケンして決めることになった。
早速、ジャンケンをしてみたところ、順番は美咲くん、綾香、私の順になった。
「それじゃ、まずは俺から。…じゃん!俺の一冊目はこちらから…」
軽いジャブ程度に、まずは私達皆が共通で大好きなあのジャンル。
そう。アイスマの同人誌を美咲くんは出してきた。
「このサークルさん、まだ壁サークルじゃないんだけど、最近Twitterのフォロワー数が急増して、人気急上昇中の方なんだ。
何より絵が綺麗で。それでいて話もしっかりしていて。絡みのシーンもガッツリあって。
星三つどころか、星百個あげたいくらいのクオリティーなんだ。
オリジナルもたまにTwitterに上げてるんだけど、それもすげー良くて。
今回、オリジナルの同人誌を初めて出すらしいから、それも買ってみた。…はぁ。早く商業漫画デビューしてほしい」
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