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第1章
幼馴染と部活見学
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ゴールデンウィーク明け。
部活動の体験入部期間に入り、学校全体が妙にそわそわしている。
授業が終わり、放課後になるや否や「部活どうするー?」という声がクラス中で飛び交っていた。
そんな声をあしらうようにイヤホンを付け、司は鞄に教科書を放り込み、せっせと帰る支度をしていた。
入学してたった一ヶ月でなぜそんなに友達ができるのか。
世のコミュ障高校生の永遠の議題な気がする。「友達になってください」と言いながら賄賂でもバラまいているのかと疑ってしまうレベルだ。
そんなことを、しかめ面で考えていた司にも二人友達がいた。一人は小学校からの幼馴染なのだが、そいつも同じ学校に入学したので、数に入れても罰は当たらないだろう。
「つっかさ!」
後ろから聞こえてきた声を認識すると同時に、椅子に座っていた司の後頭部に柔らかい感触が襲う。
「く、くび……しぬ」
幸せな感触を味わう暇もなく、司の首を突然現れた少女は後ろから強く締め上げた。
「あ、ごめんごめん」
抱きしめる力を弱めるも、依然と司を抱きしめ続ける少女。
「あのな、奏。その、あたってるんだが」
「あててるんだよ?」
耳元で囁く声と吐息で、変な気分になりそうだったので、少女の両手を振りほどいだ。周りの目も少しは気にしてほしい。気分は良いが。
「なんの用だよ。お前隣のクラスだろ」
司が振り返ると、想像通りの人物が立っていた。
篠原奏。
堺星高校一年生。
司の友達の一人。小学校からの幼馴染。
透き通るような外跳ねの髪。顔も整っていて程よい胸の出っ張り。街で見かけたら目で追ってしまう男は多いのではないだろうか。少なくともこの教室にいる男は全員奏を見ている。
「部活見学一緒に行こうよ!一人だと心細くてさ」
「誰かと連れションしないとトイレにも行けない女みたいなこと言うのな」
「私、一応女子なんだけど……司がミジンコみたいに惨めでちっぽけな高校生活を送らないように誘いに来てあげたんじゃない」
ぐいぐいと制服の裾を引っ張ってくる。どうやら心配して来てくれたようだ。
奏の面倒見の良さを、司は嫌というほど知っている。
高校受験当日、司が起きたら既に朝ごはん、もといカツ丼が用意されており、受験に使う鉛筆も全て綺麗に尖らせ、更に受験票も忘れないように鞄にしまわれていた。
合格発表の時も、司が合格しているのを知った途端に自分のことのように飛び跳ねながら喜び、そして嬉し涙を浮かばせていた。
篠原奏はいい奴なのだ。
こんないい奴のことを、音坂司は好きだったのかもしれない。
一年前の病院でも、司は同じことを思った。
「僕が部活なんか入ったところで、空気の如く扱われ、挙句の果てに、『あ、あの子、一ヶ月で部活辞めた子だよ~ダッサ(笑)』って陰口叩かれて、学校中が生きづらい魔空間へと化してしまうだろ」
「そんなアホなこと言ってるから、いつまで経っても友達が増えないのよ。部活でも入ってそのコミュ障治しなよ」
司の制服の裾をつかみながら、奏は頬を膨らませた。
「部活入ってコミュ障が治るなら、日本中のコミュ障は『俺たちの孤独で辛かった青春の日々は一体なんだったんだ』と、今頃血の涙を流しながら入部希望用紙を書いているだろうよ」
「日本中のコミュ障、闇深すぎない?」
的確なツッコミを入れ、奏は一歩退いた。
「そんなおふざけは置いておくにしても、僕は運動もなにもできないぞ」
「で、でも、文化系の部活だったら司にも出来るわよ!ほら……えっと」
「ないんかい」
あはは、とわざとらしく誤魔化す奏の目は泳ぎまくっている。
自分のスペックの低さは自分が一番よくわかっているので、奏を責めるのは野暮だと思い、この話題を終わらせることにした。
「奏はどうなんだよ。気になってる部活とかあるのか?」
一緒に見に行こうと誘ってきたくらいだ。どこか目星がついている部活があるのかもしれない。
「そうねえ、一応外でバンドやってるし、軽音楽部くらいは覗きたいかな」
奏は『サスティングロウ』という、巷で話題のガールズロックバンドのギターボーカルをしている。
司は一度だけ奏のバンドのライブを見に行ったことがある。
いつもの奏とは想像もつかないような透明感のある声、汗で湿った髪、オーバードライブで歪んだ、心臓に突き刺さるようなギターの音。
プロ顔負けの完璧な演奏に、度肝を抜かれた記憶がある。
「奏だったら、軽音楽部から直々にスカウトが来そうだな」
入ったら入ったで先輩方の威厳が無くなるのは確実だろう。南無三。
「私のことはいいの!はぁ、一人だと心細いから、司と一緒に行きたいのになぁ」
ぐいっと奏は顔を近づけ、上目遣いであざとい視線を司に向ける。
着崩した制服から谷間が見え隠れしている。
「その、奏さん、さっき押し付けられたものが見えそうなんだが……」
「見せてるんだけど」
「見せなくていいわ!」
悪戯な表情を浮かべる奏。拝みたい気持ちも山々だが、そろそろ周りの男子の殺気に耐えられない。余計に友達が出来なくなりそうだ。
部活動の体験入部期間に入り、学校全体が妙にそわそわしている。
授業が終わり、放課後になるや否や「部活どうするー?」という声がクラス中で飛び交っていた。
そんな声をあしらうようにイヤホンを付け、司は鞄に教科書を放り込み、せっせと帰る支度をしていた。
入学してたった一ヶ月でなぜそんなに友達ができるのか。
世のコミュ障高校生の永遠の議題な気がする。「友達になってください」と言いながら賄賂でもバラまいているのかと疑ってしまうレベルだ。
そんなことを、しかめ面で考えていた司にも二人友達がいた。一人は小学校からの幼馴染なのだが、そいつも同じ学校に入学したので、数に入れても罰は当たらないだろう。
「つっかさ!」
後ろから聞こえてきた声を認識すると同時に、椅子に座っていた司の後頭部に柔らかい感触が襲う。
「く、くび……しぬ」
幸せな感触を味わう暇もなく、司の首を突然現れた少女は後ろから強く締め上げた。
「あ、ごめんごめん」
抱きしめる力を弱めるも、依然と司を抱きしめ続ける少女。
「あのな、奏。その、あたってるんだが」
「あててるんだよ?」
耳元で囁く声と吐息で、変な気分になりそうだったので、少女の両手を振りほどいだ。周りの目も少しは気にしてほしい。気分は良いが。
「なんの用だよ。お前隣のクラスだろ」
司が振り返ると、想像通りの人物が立っていた。
篠原奏。
堺星高校一年生。
司の友達の一人。小学校からの幼馴染。
透き通るような外跳ねの髪。顔も整っていて程よい胸の出っ張り。街で見かけたら目で追ってしまう男は多いのではないだろうか。少なくともこの教室にいる男は全員奏を見ている。
「部活見学一緒に行こうよ!一人だと心細くてさ」
「誰かと連れションしないとトイレにも行けない女みたいなこと言うのな」
「私、一応女子なんだけど……司がミジンコみたいに惨めでちっぽけな高校生活を送らないように誘いに来てあげたんじゃない」
ぐいぐいと制服の裾を引っ張ってくる。どうやら心配して来てくれたようだ。
奏の面倒見の良さを、司は嫌というほど知っている。
高校受験当日、司が起きたら既に朝ごはん、もといカツ丼が用意されており、受験に使う鉛筆も全て綺麗に尖らせ、更に受験票も忘れないように鞄にしまわれていた。
合格発表の時も、司が合格しているのを知った途端に自分のことのように飛び跳ねながら喜び、そして嬉し涙を浮かばせていた。
篠原奏はいい奴なのだ。
こんないい奴のことを、音坂司は好きだったのかもしれない。
一年前の病院でも、司は同じことを思った。
「僕が部活なんか入ったところで、空気の如く扱われ、挙句の果てに、『あ、あの子、一ヶ月で部活辞めた子だよ~ダッサ(笑)』って陰口叩かれて、学校中が生きづらい魔空間へと化してしまうだろ」
「そんなアホなこと言ってるから、いつまで経っても友達が増えないのよ。部活でも入ってそのコミュ障治しなよ」
司の制服の裾をつかみながら、奏は頬を膨らませた。
「部活入ってコミュ障が治るなら、日本中のコミュ障は『俺たちの孤独で辛かった青春の日々は一体なんだったんだ』と、今頃血の涙を流しながら入部希望用紙を書いているだろうよ」
「日本中のコミュ障、闇深すぎない?」
的確なツッコミを入れ、奏は一歩退いた。
「そんなおふざけは置いておくにしても、僕は運動もなにもできないぞ」
「で、でも、文化系の部活だったら司にも出来るわよ!ほら……えっと」
「ないんかい」
あはは、とわざとらしく誤魔化す奏の目は泳ぎまくっている。
自分のスペックの低さは自分が一番よくわかっているので、奏を責めるのは野暮だと思い、この話題を終わらせることにした。
「奏はどうなんだよ。気になってる部活とかあるのか?」
一緒に見に行こうと誘ってきたくらいだ。どこか目星がついている部活があるのかもしれない。
「そうねえ、一応外でバンドやってるし、軽音楽部くらいは覗きたいかな」
奏は『サスティングロウ』という、巷で話題のガールズロックバンドのギターボーカルをしている。
司は一度だけ奏のバンドのライブを見に行ったことがある。
いつもの奏とは想像もつかないような透明感のある声、汗で湿った髪、オーバードライブで歪んだ、心臓に突き刺さるようなギターの音。
プロ顔負けの完璧な演奏に、度肝を抜かれた記憶がある。
「奏だったら、軽音楽部から直々にスカウトが来そうだな」
入ったら入ったで先輩方の威厳が無くなるのは確実だろう。南無三。
「私のことはいいの!はぁ、一人だと心細いから、司と一緒に行きたいのになぁ」
ぐいっと奏は顔を近づけ、上目遣いであざとい視線を司に向ける。
着崩した制服から谷間が見え隠れしている。
「その、奏さん、さっき押し付けられたものが見えそうなんだが……」
「見せてるんだけど」
「見せなくていいわ!」
悪戯な表情を浮かべる奏。拝みたい気持ちも山々だが、そろそろ周りの男子の殺気に耐えられない。余計に友達が出来なくなりそうだ。
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