俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ

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入学編 ~特別試験~

第11話

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 俺たちは、図書館を出ると教科棟きょうかとうを目指した。この学園では、教科棟、語学棟ごがくとう語学棟、本館に分かれており、科目によってどこの教室で授業を行うか指定されている。日によっては、教室はホームルームや昼食の時間しかいないということも大いにあり得る。なぜそんなことになっているか、というとこれは単純に教師の問題らしい。それなりの人数の教員はいるがこの島に来ることができる教師が多いわけではなく、複数の科目を担当している人が多い。それにより教師が時間割ごとに移動している方がかえって時間もかかるため、教師の研究室が近いところで授業を行えるように配慮した結果こうなったらしい。

 外はまだ暗いが、教科棟から出るころには明るくなり始めていそうだと思った。教科棟の入口から入り、適当なところで靴を脱いでから俺たちは探索をすることにした。
「さて、行くか。」
「おう!けど、もうこんな時間なんだな。時間内にはスタンプは集まりそうだが結構大変だったよな。まだ集め終わったわけじゃないんだけどさ。」
正悟はここまでを振り返ったのか急に懐古的な雰囲気を出してきた。
「まだ入学式から一夜が明けただけだ。むしろこれからじゃないか?」
「…確かにそうだな。」
正悟は自分の両頬を叩いて気合を入れなおして、
「よし、やってやろーじゃねぇか!」

そんなことを話しながら移動をしていると、俺たちは教科棟に着いた。
「そういえば、生物講義室は何階だ?」
「さぁ。俺も知らないな。」
「そうなのか?じゃあしらみつぶしに探すか~。」
「さすがにそれは効率的ではないな。普通は各階にフロア地図があるだろうからそれを探せばいいさ。」
「そうだな。じゃあ地図を探すか、そういうのは大抵階段付近にあるのが相場ってもんさ!」
そう言って俺たちは教科棟の中に入り階段を探すことにした。

教科棟の中は暗く、俺たち以外には誰もいなさそうだった。少しの間二人で廊下を歩いていると階段は建物の端にあった。確認はしていないがおそらく両端にあるのだろう。この配置で片方の端にしかなかったら移動がしにくいし、緊急時の避難経路として移動が不便な点で問題になってしまうだろう。教科棟は本館と二階と四階の渡廊下によって繋がっている。教科棟は五階建てになっていて、俺たちが探している生物講義室は一階の反対の位置にあることが分かった。俺たちは教室の位置を確認し終えると反対側に向かって歩き出した。
「まさか反対側にあるとは。」
「これは運がなかったな~。まぁこんなこともあるさ!早く押しに行こうぜ。」

生物講義室には鍵もかかっておらず開いていた。ただ、中に入ると少し驚いてしまうような状態だった。やはり勝手に中にあるものを触ってほしくはなかったのだろう、いろいろな資料が飾られている教室の後ろにある棚には“触るな!”と書かれた張り紙が貼ってあったり、教室の端の実験道具があると思われるような場所は黒い布で覆われていてその上に同じ張り紙があった。実験道具があると思われると考えたのは中を確認する術はないが、顕微鏡やその類の道具がこの部屋に置いてないということはないだろう、という推測からだった。もしかしたら理科系の部屋はどこも同じ状態になっているのかもしれないな。器具を他の立ち入り禁止部屋に移動させることができないため止むを得ずとった緊急措置のつもりなのかもしれない。そんなことを考えながら教室を見渡したがスタンプは見つからなかった。
「おかしいな~、見つからないぞ?本当にこの教室だよな?」
「おそらくそのはずだ。それに白崎はここにあったと言っていただろ?」
「まさかあいつが隠したとかないよな?」
「それはないだろう。第一そんなことをする道理もないしそんな性格じゃないだろ?」
「わかってるよ。言ってみただけだよ。」
「ならいい。おそらく一目見ただけじゃ見つからない場所なんだろう。」
「なるほど。」
そう言って俺たちは机の中とかも探し始めた。

「あったぞ。」
探し始めて数分、教室の前方にあった棚には張り紙がなかったが、後方の棚と同じように触るべきでないと最初は思った、しかし、張り紙もなく中に見えたのがレポート用紙だけだったので触っても問題ないと判断した。その棚の下にある中が見えない棚を開けると、そこにスタンプは鎮座されていた。おそらく後方の棚の張り紙はこちらの棚の捜索に意識を向きにくくさせるための役割も担っていたのかもしれない。
 俺は正悟を呼びスタンプを押した。今回のスタンプには、「よくできました」「社会のシステムが間違っていると思うならば」と書かれていた。メッセージは続けて読まなければ意味は分からなさそうだった。
 
 スタンプを押している問題の用紙は3×3のマスになっていて中央は真っ黒に塗られている。そのうちの、①、③、⑦、⑧の上段二つと下段二つが埋まっているのが現状だった。しかし、このメッセージには何か意味があるのだろうか?何かをにおわせるようなことを鮫島先生は言っていたが今はまだわからなかった。

「蒼!」
正悟は俺の顔を覗き込むような状態でこちらを見ていて、名前を呼ばれて俺はハッとなって正悟を見た。
「悪い、どうした?」
「いやさっきから話しかけてるのに反応がないからさ?どうかしたのかなって。」
「ああ。考え事をしていたんだ。」
「考え事?もう問題は全部解き終わってるのに何か引っかかるのか?」
「引っかかるというか、気になるというのが正解だ。このメッセージはただのメッセージなのかって考えてな。」
「ん~、俺には難しいことはわからないけど、何かしらの意味はありそうだよな。全部集めればわかるんじゃないのか?」
「……それもそうだな。」
俺は情報が少ない今の段階ではこれ以上なにも思いつかないと諦め考えることを保留した。


「これでスタンプは四つだな。白崎がスタンプを集めるのを待つ必要もあるし、少しここで休むか?それとも家を観に行くか?」
「それなら観に行こうぜ。休むのは一通り家を見てからでいいと思うんだ。まだあっちも時間はかかるだろうし、何よりどんな家や部屋があるのか気になってるんだ!」
「それなら行こうか。」
「おう!」
こんな時間で、しかも徹夜をしているのに元気な奴だと思った。俺もどんな場所があるのか少し楽しみだった。

 俺たちは入口に戻り教科棟を出ると、空が明るくなりつつあった。
「とうとう明るくなってきたか。」
俺がそう呟くと、
「そうだな~。いつもならこんな時間だしまだ寝ているけど、この時間にはもう日が昇るんだな。せっかくだし日出でも見ていくか?」
「わざわざ見える場所を探すのか?」
「言ってみただけだ、本気じゃねーよ。」
「それなら、東門の方へとりあえず向かおう。それに歩いていれば見えるだろ。」
「そりゃそうだな。」
俺たちは教科棟から出て移動を始めた。

東門は教科棟からそう遠いところではなかった。門を出て集合場所はこの辺りでいいだろうと確認をして、居住区に向かおうとすると、
「お前たち、こんな時間に校舎で何をしていた?」
明るくなりつつあるこの時間、早起きをしているのはランニングをしている人ぐらいしかいなかった。声をかけてきたのはそのうちの一人でフードを被っている男だった。
「特別試験のため校舎を探索していました。特に怪しいことをしていたわけではありません。」
「本当だな?」
疑っているのかそう聞いてくるので、正悟は何度も頷き、俺はスタンプを押している用紙を見せた。
「……本当のようだな。この学園の生徒としては不審な行動は見逃せなくてな、確認させてもらった。俺はこの相棒共生学園の生徒会長を務める3年の諸伏 学人もろふし がくとだ。」

どうやら俺たちに声をかけてきたのは生徒会長だったようだ。


現在時刻06:10  18:00までおよそあと12時間 現在集めたスタンプ4
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