俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ

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入学編 ~特別試験~

第21話

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 俺たちはデパートから出ると、まずはバス停を目指すことにした。学園まで歩いて戻ることは不可能ではないかもしれないが時間に余裕が持てるかわからなかったからだ。幸いにしてバス停は近いため、移動に時間はかからなかったが、バスが来るまで10分程あった。少し前にバスは行ったばかりのようだった。
「タイミングが悪かったな、あと少し早ければ間に合ったかもしれなかったのによ。」
「仕方ないわ。先に時間を確かめていなかったのだし。」
「そうだけどよー、ここで待つのは時間がもったいないっていうか、集まったからあとは早くクリアしたかったっていうかさ~」
「うだうだ言ったところでバスは早く来ないわよ?」
「わーってるよ。」
「………待つことを覚えるべき。」
「榊にまで言われた?」
俺たち以外に待っている人がいなくてよかったと思った。白崎もいつもの調子を取り戻したのか余計なことを言う余裕ができていた。それにしても榊まで遠慮なく言うようになって俺たちの距離感が少しは近づいたのかもしれないと感じた。

少し待っていると、対向車線の方に学園側からのバスが来た。かなり多くの人が降りてきたと思えば俺たちのクラスの集団だった。まだ集団で行動していたのかと驚いた。
「よし、それじゃあデパートのスタンプを押しに行こうか。みんな揃っているかな?」
「れんく~ん、ちゃんとうちらいるよ~」
「そろっているはずだよ!」
「俺らもみんな降りたし、大丈夫なはずだぜ。」
「そろっていてよかったよ。それなら行こうか。」
そう言って彼らもデパートを目指しだしたが、君島は俺たちが待っているのに気づきクラスメイトに断りをいれて一人でこちら側に来た。
「新庄君たちじゃないか!君たちもここにいたんだね。」
「ああ。君島もスタンプのために?」
「そうだよ。僕たちはこことあとは映画館でそろうんだ。ここにいるってことはもう映画館には行ったんだよね?」
「もちろんだ、もう押してある。」
「そうか。早いんだね。僕たちも負けていられないね!」
「そちらも頑張ってくれ。」
「ああ、ありがとう!君たちも…っ!?どうしたんだい!彼女の首に包帯が巻いてあるようだけど…。」
「ああ、そのことか。これに関しては詳しくは言えないが暴漢に襲われてな。その際にな。」
俺がそう言うと君島は血相を変えて、
「なっ!何故守らなかったんだ!彼女にこんな怪我をさせてしまうなんて君たちは…っ」
と急に怒鳴ってきたが、途中で遮るかのように正悟が言い返した。
「なんだと!もう一度言ってみろ。俺たちが何もせずにいたと思うのか!部外者が後から知ったようなことを言うな!」
「正悟、落ち着け。悪いな。彼女に怪我を負わせてしまったのは俺たちの責任だ。だからこれ以上この話は蒸し返さないでくれ。」
俺は君島に謝罪をしてこれで話は終わりだという雰囲気を出すと、
「あ、ああ。僕もごめん。バ、バスも来たみたいだし僕は行くよ。怪我、お大事に。」
そう言って君島は俺たちから離れデパートへと駆けて行った。
「まったく、あいつは…。俺たちの気持ちも知らないで好きかって言いやがって。」
「落ち着け、正悟。気にするな。あいつは正義感が強いんだろう。だからクラスメイトがこんなけがをしてしまったことが許せないのだろうな。」
「けどよ…」
「いいから今はあいつのことは気にするな。気にしたところで彼女に怪我を負わせてしまったのは俺の責任だし、怪我を負ったという事実は変わらん。バスに乗るぞ。」
「ああ、わかった。」
正悟は渋々だが納得してくれたようでバスに乗り込んだ。俺もそれに続こうとしたが急に右手首をつかまれた。その掴んでいる手の主を見ると、白崎だった。
「どうした、白崎?」
「…ごめんなさい。何でもないわ。」
と言って俯いてしまった。ほうっておけないと思い榊に先に乗るように言った。
「先程のやり取りで思い出してしまったか?」
俺がそう聞くと白崎は頷いた。
「大丈夫だ、今は俺がついているから安心しろ。今度は躊躇うためらうつもりはないから怪我も負わせることがないようにしよう。」
「そうじゃないわ。あなたのせいじゃない…。私たちが捕まったばかりに…。」
「俺たちが油断していなければそうならなかったさ。さっきも言ったがたらればはいくら言っても仕方ない。とりあえずバスに乗らないか?待たせてしまっては迷惑になる。」
「…ごめんなさい。」
そう言うと白崎もバスに乗りこんだ。俺は運転手に待たせたことを謝り乗り込んだ。

バスに乗ったところ奥の席に正悟と榊が座っており、白崎が一人で座っていた。正悟は彼女の隣に座れと顔を振って伝えてくるのでそれに従うことにした。
「隣、座るぞ。」
「…。」
彼女は返事をしなかったが拒否はしなかったのでそのまま隣に座った。俺たちの間にはしばらく無言が続いたが、白崎が、
「………ごめんなさい。」
と再び謝ってきた。
「何がだ?白崎には落ち度なんてなかったと思うが。」
「そんなことないわ。私たちが捕まらなければ…」
そう言うと彼女はまた俯いてしまった。榊も気にしていたのかバツが悪そうにしていた。
「いくら言っても伝わらないかもしれないが、あれはだれのせいでもない。強いて言えばあんなことをしてきたあいつらが悪い。この中に責任があるとすれば力を出し惜しんだ俺のせいだ。」
「そんなこと…っ」
「バスの中だ、大きな声は出すな。」
「ごめんなさい。」
「いちいち謝らなくていい。それにと思わないか?」
俺がそう言うと彼女は顔を上げてこちらを見てきた。
「…ありがとう。」
そう彼女は言って俺の手を握り、顔をそらした。
「どういたしまして。」
「………わたしも、ありがとう。」
榊も俺に感謝を伝えてきた。
「ああ、どういたしまして。」

ようやく一段落したというところで正悟が、
「学園に着いたら用紙を提出して終わりだろ?思ったより時間がかかったっていうか、大変だったな。」
「…そうね。」
「そうだな。」
「これをに提出したらって言ってたよな?じゃあに出せば終わりだな。」
この正悟の発言を聞いて俺はハッとなった。俺が最初から気になっていたことはこのことだったのかと気づいた。メッセージはと言っていたが、は教師の誰も言っていなかった。自己紹介で明かされたのはどの教師がどの科目を担当しているかだけだった。まだどこかにこのことに気づかせるヒントはあったのかもしれない。そう思い何か手掛かりはないかと探し始めた。俺が急に何かを考え始めたのを見て三人は俺の様子をうかがっていた。そして、
「そうか、のか…。」
俺は気になっていたメッセージの本当の意味について理解することができた。
「こういう意味だったって何が…?」
「蒼、何に気がついたんだ?急に何かを考え始めたと思ったら用紙を取り出して眺めてっさ。」
榊も俺と目が合うと首をかしげてきた。
「ああ、俺たちはまだ解いていないことがあったようだ。うまくその問いは隠してあったともいえるし、ヒントも確かに出してくれていたとも今になって気づかされたよ。」
「え?解いていないことがあるですって…?」
「どういうことだ?もうスタンプは集め終わっただろ?」
「確かにスタンプは集め終わった。だが、まだは知らないだろ?」
俺がそう聞くと正悟は何を言っているんだ?という反応をし、榊は何か思い当たることがあるのかハッとした。隣にいる白崎も俺の言ったことを考えているようだった。


現在時刻14:40  18:00までおよそ3時間 現在集めたスタンプ8
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