俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ

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1学期編 ~期末試験~

第9話

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 蒼雪たちによって減少のシステムが伝えられてから数日後、月宮先生から期末試験の実施について告知があった。

「さて、1学期の中間試験を終えてからもう1月経ったが、期末試験について説明する。」

 月宮先生は、生徒の顔を見渡してから説明を再開しようとした。この時に、ほとんどの生徒の顔には緊張が走っていた。中間試験を終えてまだ1月で皆の記憶にはまた通常とは異なった試験を行われるのではないかと不安を抱えているからだ。

「お前たちの表情を見るに前回の試験は相当厳しかったようだな。だが、今回の試験は安心していい、前回のような試験ではないからな。」

 その言葉に何人かの生徒は驚き、喜びを示していた。しかし、この学園のシステムから考えてそんな生易しい試験を用意するだろうかと考える生徒もいた。

「今回の試験では、各クラスに試験問題を作ってもらう。もちろん作成した問題を他クラスに公開することは許されない。」


(やはり普通の試験ではないようだ…。)

 蒼雪は内心でそう呟いていた。普通の試験ではないことは予想できていたが、今回は試験の解答方法は普通だとしても問題作成者が自分たちになったのだ。

「それでは細かい説明をしよう。試験日は、7月の25日と26日を予定している。つまり、今からちょうど3週間後だ。試験問題の作成は2週間後の放課後まで認められる。これは代表者を決めてその生徒に運んでもらう。それ以外の生徒が提出した問題は有効とは認められないから注意するように。
 次に、作成する問題についてだ。科目は前回と同様で、試験範囲は1学期の間に授業で扱った範囲なら何でもいい。ただし、中間試験以降の内容を7割以上の配点でないと認められない。また、全ての問題が教科書の隅をつついているだけのような問題も認められない。公平に解ける問題を作成するように。
 そしてここからが重要だが、試験問題及び解答用紙は当日までどこのクラスのものを引くかはわからない。試験当日に試験ごとに6枚の封筒からランダムに1つがクラスごとに割り当てられる。運が良ければ自分たちのクラスが作成した問題を解けるかもしれないし、他クラスが用意したものや我々が事前に用意していた問題を解くかもしれない。こればかりは、運の要素が大きいな。
 1度ここまでの説明で質問したいことはあるか?」


 月宮先生は説明を中断して質問がないか確認をした。

「はい。」
「白崎か。どうした?」

 1番最初に質問を始めたのは千春だった。

「はい、質問なのですが、今の説明を聞くとランダムで試験問題を解くということでよろしいのですよね?」
「そうだ。」
「それでは、試験問題を作成しても解かれないクラスの問題もあるということになる、という解釈でよろしいですか?」
「そうだな。だが、基本的には教員側の試験問題は採用しないつもりだ。あまりに不公正な問題を作るクラスがあった際の救済措置としてあるからな。教員が作る問題はランクを下げて作成してある。答案作成能力ではなく問題作成能力を見ている試験となるからな。」
「わかりました。ありがとうございます。」

「他に何かあるか?」
「それでは僕からもいいですか?」

 月宮先生が再び教室を見渡すと、続いて質問をしようと挙手をしたのは君島だった。


「いいぞ。」
「はい。今回の試験では問題作成能力を見ていると先ほど言っていましたが、これは1人の生徒に任せるのではなく、みんなで問題は作成しないといけないのでしょうか?」
「理想の形はそれだが、現実としては厳しいだろうから今回は作成さえできていればいい。1人の生徒がすべての科目を担当しても構わないし、複数人で手分けしても構わない。」
「わかりました。ちなみに、そうした場合の個人評価はどうなるのですか?」
「ふむ、いい質問だな。今回の試験では答案作成能力を見ている以上クラス単位での評価となる部分が大きい。試験ではもちろん回答できることが評価されるが、作成の段階でも評価はできる。
 例を挙げると、簡単すぎて平均点が90点以上の問題を作成するなら見通しが甘く、平均点が50点を下回るようなものを作成するなら相手のことを考えることができない等々だな。このように評価点は多数あるから細かい基準は説明できないが、貢献が大きいほどポイントはあるがクラスで均等に配分されるところもあると言っておこう。」
「わかりました、ありがとうございます。」

 君島も何かを考えている様子はあったが一先ず納得したようで質問を終えた。

「他に何かあるか?」


「ふむ、ないようだな。先程の質問で説明事項を少し話してしまったが、説明を続けよう。
先程も説明したが今回の評価点は多数あるから減少した生徒もここで貢献できれば十分挽回できるはずだ。しかし、今回は減点対象となる点もある。それが先程も説明した難易度についてだ。理想の幅としては平均点を70から80後半までに抑えられていればいいだろう。」

 その説明に問題を作ってやろうと意気込んでいた何人かの生徒は凍り付いていた。もしも自分の作成した問題を解かれて、その上で難易度調整を失敗していたとすればさらに評価が下がってしまうからだ。

「誰が問題を作成したかわかるように作成者は自分の名前を用紙に記入するように。ちなみに審査を通らなかった問題を作成した人はもちろん減点だ。気を付けるように。
…ふむ、話し過ぎたようだな。これまでの説明に疑問が残るやつは休み時間か放課後に聞きに来い。1時間目の授業に遅れないように。以上だ。」


 時計を見ると、授業開始5分前となっており、急いで教室を移動しなければならなくなっていた。実際は今日に限っては授業開始から5分は遅刻を見逃していてくれたようだ。どのクラスでも期末試験について説明をしているので質問事項があったりするとどうしても間に合わないの人たちが表れてしまうのだ。そう言ったことはどの学年にも説明していないことである。

 蒼雪たちももちろんそうした裏事情については知らないので、ホームルームが終わると、急いで1時間目の授業の用意をして教室を移動した。


「蒼はどうするつもりだ?」

 授業に遅刻することなく1時間目を終え、2時間目、3時間目も終えて昼休みとなり正悟たちは蒼雪に質問をしていた。

「どうするというのは?」
「試験問題の作成についてだよ。俺は作るのに全面的に協力ってのは難しいけど、蒼は頭もいいし作る側になるだろ?」
「そうね。蒼雪君ならそちら側になっていてもおかしくないと思うわ。」
「おいおい、他のクラスメイトに任せてもいいんじゃないか?」
「いや、できれば僕からもお願いしたいな。」

 教室を移動する前に正悟が話しかけていたので、君島からも声がかけられた。

「君島か。俺が問題を作成するにしてもクラスのやつらに相談をしなくていいのか?」
「ああ、最初は相談したんだけど、クラスで評価をある程度もらえるなら減点のリスクを追ってまでも貢献する必要はないって思う人が多くてね。それに問題を作って自分の勉強が疎かになっても本末転倒って人もいて…。」
「ちょっと待ってくれ。もしかして全ての科目を任せるとかいうのか?」
「そこまでは言わないけど、できれば君たちに任せたいなって。」
「…そういうことか。」

 蒼雪はそう呟くと、何やら考え込んで、

「わかった。問題の作成と提出は俺たちで引き受ける。」
「本当かい?」
「ああ。だが、俺たちで作成する以上文句は出させるな。何か言ってきたとしてもそれについてこちらで取り合うつもりはない。他の人にもそう言っておいてくれ。」
「全て任せっきりにしているんだ、それについては僕も言っておくけど、本当にいいのかい? 僕の方でも協力できることはするけど。」
「必要となれば協力は仰ぐつもりだ。そうでなければ、声はかけないから自分の勉強に集中してくれ。」
「…わかった。任せたよ。じゃあ、時間を取らせてごめんね。」

 君島はそう言って自分のグループの元へ移動をした。


「いいのか、蒼?」
「ああ、俺にも考えがあって引き受けている。文句も言わせないさ。」
「それならいいけどよ。」
「あなたの負担が大きくないかしら?」
「それに見合うリターンがあるなら構わないさ。それよりも彼女たちも待たせているから俺たちも移動をしよう。」

 蒼雪はそこで話を終えると、正悟と千春を連れて学食へと向かった。
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