月の雨 砂の海

草刈絢衣

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月の雨 砂の海

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 月の兎は、海の存在を知らない。

 ただ、空に浮かぶ地球に映った青い部分を見上げるだけ。

 今日も地球は青い。そう、青い。

 青いのにきっと、地球っていう場所はすごく暖かな場所なんだと思う。

 だって――。

 ポツリと、誰に言うともなく、それでも、誰かに聞いてほしそうな口調で、ソラが言った。

「お前、まだ月に兎がいるとか思ってるの?」

「いるよ、お月見のときにはいつもおモチを搗きながら人間を眺めてるんだよ」

「‥‥バカだなぁ、あれはクレーターの形が兎みたく映ってるだけだよ。

 重力も地球の1/6くらいしかないのにモチなんて搗けるわけがないだろ?」

「夢がないなぁ、砂月は。せっかくお月様の名前を貰っているのに」

「そんなこと言ってる場合かよ、ソラ。次にA判定取れなかったら、同じ大学に通えないだろ? どうせなら保育園からずーっと同じところに通おうって言ってたの、お前だぞ」

 そう吐き捨てるや否や、俺はソラの机にテキストを少しばかり乱暴に置いてみせた。
 いつもなら、きっとソラはすこし拗ねたような表情をして、「幼馴染だったらもっと労われ」なんて言うだろう。しかし俺の言葉に動じることもなく、テキストに一瞥をくれ窓の外に視線を移した。

「月にいる兎ってね、すごく心優しい兎だったんだって」

「‥‥ふうん」

 さして興味なさそうに相槌を打った。ソラの“御伽噺好き”は有名で、そのせいで暫く虐められていたこともある。
 昔から傍にいる俺にしてみればそれは至極普通の“ソラのクセ”なのだが、周りからすればそうではないのだろう。いつものように俺に一瞥をくれると、ソラが穏やかに微笑んだ。

「ずっと、ずっと、誰かのことばかり考えてたって、磯さんが」

「また、あの不思議なじーちゃんに聞いた話か?」

 そう尋ねると、ソラがまた、にっこりと微笑んだ。

 「磯」というのは、ソラと俺のマンションの近所に住む、独り暮らしの老人・磯二郎の愛称だ。

 共働きだったソラにとって、磯二郎は親代わりのようなもので、ソラの大切な“友達”だった。

 こういうと、ソラに感化されたような気分になってしまうので、俺が口に出したことはない。けれども、ソラが自分よりも“美しい”と、昔から思っていた。

 こちらまで笑みが零れてしまいそうになるほど、満面に湛えて笑う。その笑顔はまるで、人々が感嘆するお月様のようだった。

 幾千もの星があるなかで、変わらず自分を照らし続けてくれる、この世にたった一つしかない、大切なもの。

 今まで何度、ソラの純粋な笑顔に涙しただろうか? 格好悪くて言い出せもしなかったが、磯二郎ではなく自分を一番の友達だと言ってくれたことが、なにより、嬉しかった。

「月にいる兎は自分の身の危険も考えないで、ただ誰かを助けたい一心で人助けをしたんだ。
 結局その兎は死んでしまったけど、神様はそれを見ていたから‥‥優しさを忘れないように、みんなが見てくれるように月に上げてくれたんだって。
 ‥‥ねえ、僕達って、この世界に生まれてきて、幸せ?」

「え?」

「親は口を開けば受験の話、結局は数字だけで価値までも決められて、優しさなんて他人に評価されなかったらただの自己満足に過ぎなくなる。
 どんなに頑張っても、どんなに手を伸ばしても、僕たち子供には手が出せないもの。
 幸せって、なんなんだろう? 勉強が出来ることが、お金があることが、幸せなんだったら――僕は、そんなもの、要らない」

 その自棄に静かな口調が、言い知れぬ感情を抱かせた。

 ――次の日ソラは死んだ。自殺、だった。

 ボーダーライン上の人間。秀でたわけでも、普通以上でも以下でも、況してや劣っているわけでもない。極々普通の人間。けれど“特殊”ではあった。彼のアイレベルは常に人間の目線ではなかったのだ。

 印象的だったのは、車に轢かれ瀕死状態の猫を制服が汚れるのも構わずに抱き上げて病院に駆け込んだこと。

 あれは今でも忘れない。その時に彼が見せた涙は、とても、とても、俺たちが流せるような涙ではなかった。

 同じ場所で、同じ目線で、同じぬくもりを与えることの出来た彼が自殺をしただなんて――俺には考えられなかった。

 今思えば、腹を割って話せたのはソラだけだったのかもしれない。

 不思議な雰囲気を漂わせていた彼が教えてくれたのは、競うことの愚かさと、命の脆さ。

 彼がいなければ今の俺はいないだろう。常々、思う。

 清潔感のある白い壁に包まれた部屋の片隅に置かれたソラの写真が――、笑顔を引き出せなかった俺と、屈託の無い表情で笑うソラが映った写真が、夕日に照らされていた。

 あれから俺は、必死で勉強してスクールカウンセラーになった。一番大事な友達を救えなかった悔しさと、悩んでいることにさえ気付けなかった無力感に苛まれ、片時もソラの言葉を忘れたことがなかった。

 ――数字だけで、お金だけで、階級だけで、価値を決められてしまう。

 ――この世界に生まれてきて、幸せ?

 何度も、何度も反芻する。

 幸せかどうかは分からない。ただ、与えられた道を、与えられた命で進むだけ。

 満たされすぎた世の中に残るのは、虚無感。

 ああ……、だから人は死にたいと考えるようになるんだ。

 次から次へと与えられるものに慣れすぎて、自ら掴むことを恐れるのは、現代人ならではの思考だろう。

 ボーダーライン下の人間が卑下され、ボーダーラインを超えた人間が敬われる。価値観も、人生観も、なにもかもが異なる人間を、たった一片を見て決め付けてしまえるだなんて、なんて酷なことだろう。

 優しい心も、志も、評価されないのでは意味がない。人間が人間を裁くのも、人間が人間を評価するのも、言いようがないほど馬鹿げている。

 ソラのセリフは、正しくもなく、間違ってもいない。

 動物が持つ相対意識は拭い去ることが出来ないものなのだ。だからこそ人間は人間を嘲笑し、卑下し、敬うことが出来る。

 人間は‥‥? いや、動物は、だ。人間とて一種の動物に過ぎない。欲と本能を剥き出しにした、醜い生き物。生きる為に人を殺すのではなく、快楽の為に、憎悪の為に人を殺す。感情という恩恵を殺戮の道具として扱うことは、他でもない、冒涜だというのに。

 たった一人が足掻いても、なにひとつ変わらない。けれどもたった一人の感情で、何人もの人間の運命を変えてしまえる。

 ソラの言っていた月のウサギが本当にいて、もし、本当に人間を見上げて生きているのなら、一体――どんな風に思っているんだろう? あの日がくるのは、今年で十回目になる。あの日が近付くたびに、年々、その想いが、疑問が、俺の中で膨れ上がっていっていた。

「センセイ、人の話聞いてる?」

 ぼんやりと考えていた俺の耳に、少年の声が入った。自然と浮かんだ驚愕の表情を笑うその顔が、ソラに、似ている。

 人懐っこい笑顔に、くりくりとした大きな瞳。小柄で、華奢な身体つき。純粋な性格まで、よく似ている。時々、生まれ変わりなんじゃないかと思ってしまうほどだ。‥‥いや、生まれ変わりというのは、失礼だな。ソラは、ひとりしかいないのに。

 神鳥蒼は、クラスで浮いている少年だった。取り分けて勉強が出来るわけでもない。運動能力も人並み以下で、気も強いほうではないから、横着な同級生達にパシリ扱いにされていた。

 けれど、ひとつだけ、蒼が負けていないものがあった。――絵を描くことだ。

 絵画は、その人物の持つセンスも問われるが、なにより前面に押し出されるのは人の心だという。美しさの表れ、とでも言うべきか。

 同級生達がひがんでいるのはそのせいでもある。なにせ、蒼は将来を嘱望されているのだから。

「聞いてるよ、今度旅行に行く話だろ?」

 そう返したら、蒼が「そうだ」と言わんばかりに、首を縦に振った。

「僕ね、真っ青な空が見たいんだ。すっごーく広い野原に寝そべって、ホントに“蒼”って感じの空を」

「空? 東京じゃダメなのか? 井の頭公園とか、隅田川とか。森だって‥‥」

「ダメだよ、そんなんじゃ」

 言い終わらないうちに、蒼の“ストップ”が掛かる。「なにも分かっていない」と言いたそうな表情に、思わず笑みが零れた。

 まるで小鳥のように唇を尖らせて、ぴいぴいと小さな文句をつけてくる。

 蒼がこんなふうに表情を変えるのを見るのは、本当に、久しぶりだ。

「僕が見たいのは、屋久島の空なんだ」

「屋久島?」

「そう。他の空と違って、なかなか見られるものじゃないんだよ。雲のない、真っ青な空。地球の色だよ、ね、先生。地球って青いんだって、分かるんだ。空を見てると」

 早口で、素っ頓狂なことをいうところも、やっぱり似ている気がする。

 蒼が初めて受賞をしたのは、幼稚園の頃だそうだ。真っ青な空に、一羽の鳥が舞っている絵。大人でも、多分、斬新さを感じる世界だと思う。

 その頃の絵を、見せてもらったことがある。――ソラが死んだ日の空と、同じだった。

「行くか、屋久島」

「うん、行く。でも、先生不味くない? 僕はいいけど、ホラ、学校の目とかあるし‥‥」

「そんなもの気にしてたら、蒼と何回も旅行に行ったりはしないだろ?」

 そういうと、蒼は恥ずかしそうに、笑った。

 学校側には、俺の方針にクレームをつけないことを約束してもらっている。なにか大事になる事件が起きれば首を切る覚悟で望む、と啖呵を切ったからだ。

 ソラも、カウンセリングに通っていた。何度も自殺未遂をしていたそうだった。

 ――そういえば、ソラの成績は、寧ろ俺よりもよかったことをふと、思い出した。

 確かあれは、ソラの両親が離婚をした頃からだ。急にソラの成績が悪くなった。素行は変わらない。笑顔も、なにも、変わらなかった。ただ、成績だけが、どんどん、どんどん、落ちていった。

 授業中の態度が悪かったわけでもない。ただ、生きることに、意味を失っていたんだろうと、今なら分かる。

 だから、蒼のように、親の離婚で苦しんでいる子どもの苦しみに気付いてやりたいというのが俺の本音だった。

 ソラのことも、すべて、学校側に話して、校長の納得・了承を得た上で、この学校に入ることが出来た。マニュアルどおりにはいかない。なにもかもが、人間の想定内で済まされるわけではない。人間は個々であって、なにもかもが違う。考え方も、捉え方も、心も、感性も。一番大事なのは、建前でも、職でもなんでもなくて、今、目の前にいる子に、なにが必要かを見極めることだ。ソラの一件で、子どもながらに深く思った。

「あのね、先生。僕、先生のことが大好き。世界で一番」

「ありがとな、蒼。俺も好きだよ」

「先生の好きは“生徒として”。僕のそれは、“ひとりの人間として”。それでも、僕のことを好きだって言ってくれる?」

 随分、突飛なセリフだった。一線を越えるつもりはない。そう思っていた。今までも、ずっとそうしてきた。

 でも、――もしも、蒼が俺を、俺自身を求めているのなら、与えても、いいだろうか?

 本当に俺を必要としてくれる人になら、与えても、いいだろうか?

 目の前にいる少年は――蒼は、なによりも、抱きしめたくって、なによりも、大事で、なによりも、愛おしい。そんな存在になりつつあった。

 傍から聞けば他愛の無い話でも、蒼の話だと、胸がドキドキするような話に聞こえる。

 蒼が泣いていると、今すぐにでも飛んでいって、泣かせたヤツを怒鳴ってやりたくなる。

 となりに、いるだけでいい。笑ってくれれば、表情を、出してくれれば、それでいい。

 あのときのソラみたいに、眠っているみたいに穏やかで、なのに、涙がでるほど寂しそうな表情をされるのは、もう、嫌だ‥‥。

 間違いでもいい。職を失うことになってもいい。俺が蒼を三年間見続けてきたのは、カウンセラーとしての使命感なんかじゃなくて、自分の仕事だからじゃなくて、ただ、蒼を守りたいから。――それだけ、だった。

「心外だな」

 そう言ったら、蒼がきょとんとした顔になった。

「俺ははじめから、この部屋に来る生徒たちに“教師面”をした覚えはないんだけどな」

 少しでも、蒼が――この部屋を訪れる“よりどころのない子ども”が、俺を必要としてくれるなら。俺はひとりの人間として彼らを愛し、接していくだろう。恥も、外聞もない。これも立派な愛情だと思っている。なによりも、大事な。

 生徒である前に、人間だ。俺も、教師である前に、人間だ。人が人を欲してなにが悪い。愛を、心を欲してなにが悪い。それがなければ、死んでしまう人間だっている。もろくも、崩れ去ってしまう人間だっている。

 世界中の誰もが敵だろうと、俺だけは味方だと主張してなにが悪い。

 人は、一人では生きられない。愛しあうこと。支えあうこと。寄り添いあうこと。それが、人が生きるうえでの絶対条件だ。少なくとも俺は、そう思う。

 俺のセリフが、あまりにも、予想も付かないセリフだったからだろう。蒼は、満面の笑みを浮かべて抱き着いてきた。

 ――もしも、あのとき俺が、「ソラにとって必要なもの」に気付くことができていたら。もしも、自分の気持ちにもっと素直になって、「ソラといれることが幸せだ」と言っていたら。ソラはいま、どんな顔をして、笑っているのだろう?

 屈託のない笑顔の蒼と、ソラがまた、ダブって見えた。

 f i n .
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