元・狂戦士のオッサン案内人。〜俺の指す先を斬るだけで最強。最短の矢印に従う異世界女騎士とメイドが、特級ダンジョンを蹂躙する〜

くるまAB

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第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮

8. 西への遠征。――目標、九州

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 オグリ家騎士団は連日、上級ダンジョン『牙の回廊』を踏破。
 
 そして6回目の素材を管理局の窓口で、いつものようにカウンターに並べた。
 これでノルマの半分以上は消化したはずだ。
 特級への道がようやく見えてきた――そう確信していた悠馬に、望海は非情な宣告を突きつけた。

「悪いわね、悠馬。この素材、換金はできるけど『実績』としてはノーカウントよ」
「……あ?」
 悠馬の眉間に、深い皺が寄る。
 背後でドヤ顔を決めていたアリスと、冷静に控えていたノーラも同時に動きを止めた。

「前に説明したでしょ。特級への推薦条件は『多種多様な環境への適応能力』の証明。同じダンジョンで稼げる実績は、1箇所につき5回までなの。……つまり、あんたたちが『牙の回廊』をこれ以上何周しても、特級の門は開かないわよ」

 悠馬は大きく溜息をつき、ボリボリと頭を掻きむしった。
 役所仕事の面倒くささは、ダンジョンのギミックよりも性質が悪い。
 
「そうだったな、昔すぎて忘れてた……要するに、別の場所にある上級ダンジョンをあと5箇所、もしくは5回攻略してこいってことか」
「そういうこと。近場の上級は予約でいっぱいよ、実績を積むなら遠出してもらうしかないわね」
 望海が提示したリストを眺めながら答える。
 関東圏の上級はどこも予約待ちか、あるいは攻略難易度が極端に低い不人気スポットばかりだ。これでは特級ダンジョンへの肩慣らしにもならない。
 
「……よし、決めた。西へ行くぞ。九州だ」
「キュウシュウ……! 悠馬お兄さん、それはまた新たな戦場なのですか!?」
「ああ、戦場だ。……美味いもんが山ほどある、な」
 悠馬のその1言で、2人の瞳に火が灯った。

「悠馬様、それは戦略的にも妥当な判断かと存じます。各地の『調和』を食し、英気を養う……。これぞ騎士団の遠征の醍醐味です」
「ノーラ、お前……。ま、いい。どうせなら道中にある中級を潰しながら、連携の理詰めと金を稼いで進むぞ」

 
 翌朝、悠馬の愛車である年季の入った軽自動車は、かつてないほどの荷物で膨れ上がっていた。
 後部座席にはアリスリアとノーラ。
 膝の上には、例の『しまむら』で買い込んだ着替えと、車内食用のコンビニ袋が鎮座している。

「出発進行なのです! オグリ家騎士団、西への進軍を開始します!」
「アリスお嬢様、窓から身を乗り出さないでください。風圧でまた髪が……あ、見てください、あの看板の文字。……ア、イ、ス、ク、リ、ー、ム。悠馬様、止まってください」
「何言ってんだお前は……止まらねえよ。まずは静岡だ」

 高速道路を西へ走らせること数時間――。
 ビル群が途切れ、視界が開けた瞬間、窓の外に圧倒的な存在感が現れた。

「……っ!? 悠馬お兄さん、止まってください! 止まって……見てください、あの山を!」
 アリスリアが身を乗り出し、窓ガラスに顔を押し付ける。
 そこには、青空を切り裂くように聳え立つ、白銀の冠を頂いた巨大な稜線があった。

「富士山だ。……ま、この辺じゃ有名な山だ」
「有名なんてそんなもの陳腐なものではありません! なんという……なんという聖なる気配ですか……!」
 アリスリアの声が震えていた。
 彼女の瞳には、単なる巨大な岩塊ではなく、山全体から立ち昇る透き通った、神聖な魔力のようなものが映っているようだった。

「……アリスお嬢様の言う通りです。魔力とは違う、もっと根源的な……神の住まう土地のような静かな圧を感じます。この国にはこれほどまでの神域が存在していたのですね」
 ノーラもまた、眼鏡の奥の瞳を細め、畏敬の念を込めてその姿を見つめていた。

 かつての悠馬なら、こんな「遠征」は苦痛でしかなかっただろう。
 最短ルートを、血反吐を吐きながら、死に物狂いで駆け抜けていた狂戦士時代。
 その頃の彼なら、この聖なる気配すら「攻略の邪魔だ」と吐き捨て、景色など目にも留めず目的地へ急いでいたはずだ。
 
 ――だが、今は違う。
 バックミラー越しに、富士山の威容に圧倒され、目を見開いている2人の姿を見ながら、悠馬は微かに口角を上げた。

「……さて、見惚れるのはその辺にしとけ。さて、静岡に到着だ。まずは肩慣らしに中級を1つ落とす。……その後に、本命が待ってるからな」
「本命……。もしや、新たなるギュウドンの聖地ですか!?」
「惜しいな、その名もハンバーグだ。……この国で最も『拳』に近い形をした、暴力的な肉の塊がある」
「拳……! 望むところです!」

 白い軽自動車は、静岡県内にある中級ダンジョン『雷鳴の丘』の駐車場へと滑り込んだ。
 周囲の探索者たちが、ジャージ姿で車から降りてくる絶世の美女2人に目を丸くする。
 だが、今の彼女たちには、周囲の視線などどうでもよかった……富士山という「神域」を目の当たりにし、高まった戦意をぶつける場所が必要だったのだ。

 オグリ家騎士団の、壮大な実績稼ぎの旅が、ここ静岡から幕を開けた。

―――

かつては景色を見る余裕すらなく、最短・最速でダンジョンを駆け抜けていた悠馬。
そんな彼が、バックミラー越しに二人の笑顔を見て少しだけ口角を上げる……。
不器用なおじさん案内人と異世界少女たちの旅は、ただの実績稼ぎ以上の意味を持ち始めていました。
静岡の雷鳴を切り裂き、彼らはどこまで突き進むのか?

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