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第1章:再起の矢印と霧晴れる迷宮
21. 屋台の灯と、青黒い業(ごう)
『灰塵の迷宮』を後にした3人は、福岡の夜の街へと戻ってきた。
地上へ出ると、ダンジョン内の澱んだ空気とは対照的な、潮風の混じった夜風が頬を打つ。
悠馬は近くの公園を見つけると、無言で水道へと向かった。
蛇口を捻り、冷たい水で両拳を洗う。
皮鎧の籠手から滴り落ちる返り血が、白いタイルを赤黒く染めて流れていく。
震えは、もう止まっていた。
掌に残る肉を砕いた感触が、夢ではない現実として、悠馬の内に「生」の実感を与えていた。
「悠馬お兄さん……」
アリスの声に、悠馬は顔を上げた。
待っていた2人の瞳には、心配と、それ以上の期待が入り混じっている。
悠馬は濡れた手を雑に拭うと、2人の前に歩み寄り、ポリポリと頭を掻きながら、不器用なほど低く呟いた。
「……さっきは助かった。ありがとな」
その言葉に、アリスは花が咲いたような笑顔を見せ、萎れていたアホ毛はピンと立つ。
そんな2人の姿を見て、ノーラは満足げに深く一礼した。
しんみりとした空気が流れるかと思いきや、2人の視線はすぐに悠馬の背後、街の灯りへと吸い寄せられる。
「ねえ、悠馬お兄さん。あっち、すごくいい匂いがします!」
「左様です、悠馬様。あの光の列は、噂に聞く福岡の『屋台』というものではございませんか?」
2人の指差す先、川沿いには色とりどりの屋台が並び、香ばしい醤油と豚骨の匂いが風に乗って漂ってきていた。
さっきまで死闘を演じていたとは思えない2人の切り替えの早さに、悠馬は呆れたよう頭をポリポリと掻く。
「……腹が減ってりゃ、戦はできねえか。一度ホテルに戻るぞ。その格好じゃ目立ちすぎる」
ホテルへ戻り、血に汚れた装備を脱ぎ捨てた3人は、「しま〇らルック」に着替えた。
アリスは淡いピンクのパーカーに、健康的で活発な印象を与えるデニムのショートパンツ。
ノーラは落ち着いたネイビーのカットソーに、清楚なロングスカート。
かつて、カレーの材料を買った時と同じ、どこにでもいる「少し目立つ美女2人と、冴えない保護者」の装いだ。
喧騒の中、一軒の屋台の椅子に腰を下ろす。
焼きラーメンの鉄板が跳ねる音を聞きながら、アリスが興味津々に悠馬の腰元を指差した。
そこには、しま〇らのスウェットにはおよそ不釣り合いな、1本の短剣が下げられていた。
「お兄さん、その短剣……。さっきのボス戦で使っていましたよね」
ノーラもまた、その短剣を注視する。
それは、鞘に収まっていてもなお、周囲の光を吸い込むような不気味な青黒さを放っていた。
呪われていると言われれば、誰もが納得するような禍々しい気配だ。
「……ああ。これは、俺の『業』みたいなもんだ、ちゃんと抜いたのは初めてだな……」
悠馬は焼きラーメンを口に運ぶ手を止め、短剣を軽く撫でた。
「かつて、特級ダンジョン『虚飾の揺り籠』主の間でドロップした一対の双剣だ、花が死んだ時のな。……俺は、それを捨てられなかった」
2本の特級装備品を、腕利きの職人に頼み、狂戦士時代の有り金をはたいて、無理やり1本の短剣へと圧縮、加工させたものだ。
その時に唯一つけた注文が『今まで使っていた短剣と、同じ見た目にしてほしい』だった。
2つの魂が混ざり合ったその刃は、極限まで高められた硬度と切れ味、そして――破壊不可能なほどの耐久性を備えている。
値段をつけることなど不可能な、『形見』のようでもであり、最強の『牙』。
「それより、これからの話をしよう」
話題は、攻略予定へと移る。
「A級踏破の実績はあと4回。今日の感じだと、1日で2回は回れる。……最短で2日だ。それで、特級への門が開く」
悠馬はコップの水を飲み干し、一息ついた。
本来なら、その実績を携えて、茜に気づかれないうちに福岡を去るつもりだった。
だが、「やり直す」と決めた悠馬の心は、もう別の答えを出していた。
「……明日、ダンジョン攻略の前に、管理局へ行く」
その言葉に、アリスとノーラの手が止まった。
「驚くことはねえ。……いつまでも逃げ回ってちゃ、本当の意味で『最短』は視えないからな。あいつに会って、けじめをつけてくる」
悠馬の瞳には、かつての気怠さはなかった。
過去という重石を抱えながらも、しっかりと前を見据える、1人の男の覚悟があった。
「了解です、悠馬お兄さん。私たちも一緒に行きます」
「当然ですね。悠馬様が進む道ならば、我らも共にあるべきでしょう」
アリスとノーラの力強い言葉。
屋台を包む焼きラーメンの濃厚な香りと、人々の笑い声が、決意を固めた3人の心を熱く奮い立たせる。
翌朝、晴天の博多の空。
かつての「人殺し」と呼ばれた男が、かつての「遺族」と向き合うための、1日が始まろうとしていた。
―――
激闘を終え、博多名物「屋台」の灯りに包まれる三人。
焼きラーメンの香ばしい匂いの中で明かされた、悠馬の腰に下がる短剣の正体――それは、失った魂を宿した、世界にたった一つの「牙」でした。
過去の重みを受け入れ、逃げることをやめた悠馬は、ついに因縁の相手・有村茜との対峙を決めます。
「逃げ回っていては、最短は視えない」。
美味しい食事を活力に、ついに三人が過去の亡霊と向き合うための朝がやってきます!
【毎日18時更新!】
緊迫の再会前夜。三人の絆が、福岡の夜を温かく照らします。
「悠馬の決意を応援したい!」という方は、ぜひ**「お気に入り(しおり)」**登録をお願いします!
地上へ出ると、ダンジョン内の澱んだ空気とは対照的な、潮風の混じった夜風が頬を打つ。
悠馬は近くの公園を見つけると、無言で水道へと向かった。
蛇口を捻り、冷たい水で両拳を洗う。
皮鎧の籠手から滴り落ちる返り血が、白いタイルを赤黒く染めて流れていく。
震えは、もう止まっていた。
掌に残る肉を砕いた感触が、夢ではない現実として、悠馬の内に「生」の実感を与えていた。
「悠馬お兄さん……」
アリスの声に、悠馬は顔を上げた。
待っていた2人の瞳には、心配と、それ以上の期待が入り混じっている。
悠馬は濡れた手を雑に拭うと、2人の前に歩み寄り、ポリポリと頭を掻きながら、不器用なほど低く呟いた。
「……さっきは助かった。ありがとな」
その言葉に、アリスは花が咲いたような笑顔を見せ、萎れていたアホ毛はピンと立つ。
そんな2人の姿を見て、ノーラは満足げに深く一礼した。
しんみりとした空気が流れるかと思いきや、2人の視線はすぐに悠馬の背後、街の灯りへと吸い寄せられる。
「ねえ、悠馬お兄さん。あっち、すごくいい匂いがします!」
「左様です、悠馬様。あの光の列は、噂に聞く福岡の『屋台』というものではございませんか?」
2人の指差す先、川沿いには色とりどりの屋台が並び、香ばしい醤油と豚骨の匂いが風に乗って漂ってきていた。
さっきまで死闘を演じていたとは思えない2人の切り替えの早さに、悠馬は呆れたよう頭をポリポリと掻く。
「……腹が減ってりゃ、戦はできねえか。一度ホテルに戻るぞ。その格好じゃ目立ちすぎる」
ホテルへ戻り、血に汚れた装備を脱ぎ捨てた3人は、「しま〇らルック」に着替えた。
アリスは淡いピンクのパーカーに、健康的で活発な印象を与えるデニムのショートパンツ。
ノーラは落ち着いたネイビーのカットソーに、清楚なロングスカート。
かつて、カレーの材料を買った時と同じ、どこにでもいる「少し目立つ美女2人と、冴えない保護者」の装いだ。
喧騒の中、一軒の屋台の椅子に腰を下ろす。
焼きラーメンの鉄板が跳ねる音を聞きながら、アリスが興味津々に悠馬の腰元を指差した。
そこには、しま〇らのスウェットにはおよそ不釣り合いな、1本の短剣が下げられていた。
「お兄さん、その短剣……。さっきのボス戦で使っていましたよね」
ノーラもまた、その短剣を注視する。
それは、鞘に収まっていてもなお、周囲の光を吸い込むような不気味な青黒さを放っていた。
呪われていると言われれば、誰もが納得するような禍々しい気配だ。
「……ああ。これは、俺の『業』みたいなもんだ、ちゃんと抜いたのは初めてだな……」
悠馬は焼きラーメンを口に運ぶ手を止め、短剣を軽く撫でた。
「かつて、特級ダンジョン『虚飾の揺り籠』主の間でドロップした一対の双剣だ、花が死んだ時のな。……俺は、それを捨てられなかった」
2本の特級装備品を、腕利きの職人に頼み、狂戦士時代の有り金をはたいて、無理やり1本の短剣へと圧縮、加工させたものだ。
その時に唯一つけた注文が『今まで使っていた短剣と、同じ見た目にしてほしい』だった。
2つの魂が混ざり合ったその刃は、極限まで高められた硬度と切れ味、そして――破壊不可能なほどの耐久性を備えている。
値段をつけることなど不可能な、『形見』のようでもであり、最強の『牙』。
「それより、これからの話をしよう」
話題は、攻略予定へと移る。
「A級踏破の実績はあと4回。今日の感じだと、1日で2回は回れる。……最短で2日だ。それで、特級への門が開く」
悠馬はコップの水を飲み干し、一息ついた。
本来なら、その実績を携えて、茜に気づかれないうちに福岡を去るつもりだった。
だが、「やり直す」と決めた悠馬の心は、もう別の答えを出していた。
「……明日、ダンジョン攻略の前に、管理局へ行く」
その言葉に、アリスとノーラの手が止まった。
「驚くことはねえ。……いつまでも逃げ回ってちゃ、本当の意味で『最短』は視えないからな。あいつに会って、けじめをつけてくる」
悠馬の瞳には、かつての気怠さはなかった。
過去という重石を抱えながらも、しっかりと前を見据える、1人の男の覚悟があった。
「了解です、悠馬お兄さん。私たちも一緒に行きます」
「当然ですね。悠馬様が進む道ならば、我らも共にあるべきでしょう」
アリスとノーラの力強い言葉。
屋台を包む焼きラーメンの濃厚な香りと、人々の笑い声が、決意を固めた3人の心を熱く奮い立たせる。
翌朝、晴天の博多の空。
かつての「人殺し」と呼ばれた男が、かつての「遺族」と向き合うための、1日が始まろうとしていた。
―――
激闘を終え、博多名物「屋台」の灯りに包まれる三人。
焼きラーメンの香ばしい匂いの中で明かされた、悠馬の腰に下がる短剣の正体――それは、失った魂を宿した、世界にたった一つの「牙」でした。
過去の重みを受け入れ、逃げることをやめた悠馬は、ついに因縁の相手・有村茜との対峙を決めます。
「逃げ回っていては、最短は視えない」。
美味しい食事を活力に、ついに三人が過去の亡霊と向き合うための朝がやってきます!
【毎日18時更新!】
緊迫の再会前夜。三人の絆が、福岡の夜を温かく照らします。
「悠馬の決意を応援したい!」という方は、ぜひ**「お気に入り(しおり)」**登録をお願いします!
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