【本編完結済】底辺αは箱庭で溺愛される

認認家族

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蛇足話8ー猪瀬

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メンターをやっている後輩と人事の平と俺の同期の人事部長が話していた。本来であれば目の前の会議室でインターンに入社するかの意思確認をしているはずの時間だ。揉めているようで、俺を見て人事部長が他を去らせた。
何かしら俺に相談があるようだ。
「どうした?なんか疲れているな。今年は粒揃いだって言ってて採用担当の鼻息が荒かったぞ?」
そう、かなり優秀なのがいて、それを採れるなら来年の採用を減らしても良いとまで言っていた。
確実に上にいくαだと。他の会社に奪われるのは勿体ないと。
実際、例年だとインターンの時期はサポートの為に仕事が増えて残業になる者も出る位なのに、今年はそれがない。寧ろ、インターンが様々な業務を熟してくれているらしく成績も例年より良いとまで聞いている。
気鬱になる理由が分からない。
「……」
同期が俺を見あげて言った
「本採用、したくないのがいる。」

ならば、不採用にすれば良いだけだが、それが不可能だからこその鬱だろう。

「実力は充分だし、アイツの採用を見送れば他のインターンがボイコットする位表面上リーダーシップがある。不採用ともなれば事情を知らない社員は会社に落胆するだろうし、本採用にしたら上位αどもに恨まれる。……ヤツに嵌められたな」

表面上、ね。
産業スパイ対策はそれなりにしている。データベースで管理しているから、書類審査の段階で排除出来ているはずだ。
会社に対する怨恨も事件データベースがあるから排除が可能だ。まぁ、謂れがなさすぎる逆恨みや難癖をつけてくるような輩まではデータベースにいれようがないが、そんなレベルの者が京極のインターンに採用されるはずもない。
となると、コイツの個人的事情だろう。
……情けは人の為ならず。
それなりの地位になっている同期には恩を売っておくか
「どんな事情なんだよ?」
同期が俺の顔を見つめて答えた
「……佐伯拓也」
思わず顔が歪む。知らないフルネームだが、拓也という名前だというだけで嫌悪感を催す。
拓也……、あの生意気なガキ
数年前までは数ヶ月に一度の面会に付き添った。
陸様は、ごめんね…と言いながらヤツの服をめくり痣がないか確認をしていた。
あの親にこんな上位αを害す気概なんてないと言っても聞いてくださらなかった
『ランクの問題だけではないんだよ。抵抗されないと分かっていれば、自分より強い者に暴力をふるえる、それが人間だ』
そんなふうに言われてしまえば黙るしかなかった。
それは貴方だったから。貴方の親が無知で愚鈍で、そして貴方の心は強すぎた。反撃して相手を傷つけるよりも耐えて家族を守ろうとした。守れると信じていた。ボロボロになってもなお……
他のαならば格下の輩が力を誇示してきたなら、親であろうとなんだろうと威嚇で思い知らせる。
陸様だからだ。あの小僧が家族を大切にする訳無いのに。
陸様の親は……駄目だ、名前につられて青島の腐敗物を思い出しそうになった。切り替えなければ

「で、その佐伯拓也とやらを採用するとどう不味いんだ?」
上位αに煙たがられる位優秀ならば、採用すべきだろう。名前が気に食わなくてもだ。
「……お前も知らないんだな。ヤツに謀られたな…」
物騒な物言いに眉がよった。
「佐伯拓也、旧姓を言えばわかるか?最近養子縁組したらしいぞ。」
「……まさか……」
あの小僧の外戚に佐伯という家があった。
「猪瀬ですら知らなかったなら、ウチの採用担当がインターンでいれてしまっても責められんよな」
「……その部屋にいるのか」
チラリと会議室を見た。
同期が頷く。
メンターと人事は採用したいと言い、コイツのみが反対をしたのだろう。
不採用の根拠など言えるはずがない。ヤツもそれを狙っていたのだ。外堀を埋めつくして。
「CEOはまだいい、番様だけだ。けれどヤツは違う。目的も手段も不明だが、上位αを次々とΩに変えている。そんなヤツの隣で仕事をしたがるαがいるか?」
「………」
『京極の者はたった一人だけビッチングする事ができる』。エビデンスは無いが、名家のαの間では信じられている。そう、今まで京極家が孤立しなかったのは、その対象がたった一人だけだったからだ。番う為、生涯をその人と過ごす為だけに行われていたから、他のα達は安心し京極と対立する事もなかった。己が執愛の対象になっているか否かなんて本能的にわかる。征服されるのを厭うαの本能がチリチリとうなじへと警告をしてくるから、京極の隣にいてそれを感じないなら安全だとわかる。ビッチングされる事はない、と。
………ちりちり、か。俺もここの所……

くすりと笑う声に目をやると、
「お前でも、やっぱり怖いんだな」
同僚が俺を見て言った。
………どうやら無意識のうちにうなじに手をやっていたらしい。Ωにさせられる恐怖でうなじを守った訳ではない。だが、αのうなじは危険への触覚だ。不便なのは、どのような危険が迫っているのかまでは分からない点だ。わざわざ言う必要もないので曖昧に笑った。
ヤツは、京極家への迷信を壊した。京極がビッチング出来るのは一人ではないと。今までは興味が無かったから一人で済んでいただけなのだと、知らしめた。名家、旧家だけではなく、ある程度のコネクションを持つαには京極家のビッチング能力が知れ渡った。……未だ半信半疑のαもいる。俺たちが火消しに回っているから証拠が乏しく都市伝説と思っている者もいる。それでも隣にいられれば気分は悪いだろう。

「うん、お前に任せよう」
同期が俺の背中を押しながら会議室に入る。そしてそこには余裕を漂わせて座っている拓也がいた。青年になった拓也がいた。



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