真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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執愛

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 クラレント公爵邸、地下。中央動力室。
 何本ものパイプが天井を埋め尽くし、部屋の中に置かれたポンプやタービンなどに複雑に配置されている。
 勝手知ったるなんとやら。
 ヴィクトルは鼻歌を歌いながら、機械の合間を縫って浮かれた足取りで歩を進める。
 目的の魔力配伝はいでん盤や制御盤のある一角に辿り着くと、無造作に焼け爛れた手袋を脱ぎポケットにねじ込んだ。
 そして怪我ひとつない綺麗な手で、一つ目の炉の魔力注入口に触れた。
 魔力がタンクに充填され、配管を通り屋敷の各部屋に行き渡る。
 アリスターにはああ言ったが、ヴィクトルは怪我など一つもしていない。
 先程のトラブルは彼に罪悪感を与えるための狂言に過ぎなかった。
 魔石が青く光り、燃料タンクの目盛が一つ上がる。
 三機ある炉全てに繰り返して息をつき、ヴィクトルはひとりごちた。
「次はゴーレムか。明日の午前中まで持てばいいかな」
 女性型のメイドゴーレムに魔力を注ぎ、起動の呪文を唱えた。
 すっと頭を下げたゴーレムにヴィクトルは口元だけの笑顔を作る。
「傷心のアリの面倒を見てあげて。まず温かい風呂に入れて、その間に汚れたベッドを綺麗にして、部屋を少し掃除して、食事はまあ……食べさせられたらでいいや。君のその顔でやさしくやさしくしてあげてよ」
 お行き、と命じるとメイドは無言で アリスターの元へと移動する。
 その背を眺めたヴィクトルの喉から意図せずにくふりと笑いがもれる。
 アリスターが無意識下でヴィクトルの事を劣ったアルファだと思っていることを知っている。
 これはアルファの本能的なものでアルファとしての優劣を嗅ぎ取るのだ。
 アリスターはアルファの中のアルファ、王にすら並び立つ強い個体だ。
 本来の彼はそうした本能が人一倍強い。
 だからこそ怪我人でアリスターよりも劣る個体である自分が頑張って起動させていったゴーレムに世話をされた彼は、ヴィクトルの手を灼いたという罪悪感に苛まれるのだ。
 まして彼女はアリスターの母親オメガの若い頃の姿を模したゴーレムだ。一見そうと分からないように色味を変えているし、女性型にしてあるが、彼がそちらも意識せず感じ取っているのを知っている。
「あー、本当にかわいいなぁ。アリスターは。ぜーんぶ僕のせいだって知らずに慕ってくれて、本当チョロくて可愛い」
 今日は少し加減を間違えて魔道具手袋を一つダメにしてしまったが、 思った以上にアリスターの罪悪感を膨らませられたので、安いものだ。
 あと少しで、アリスターは完全に自分の手に、そしてオメガに堕ちるだろう。
 そうしたらぐずぐずに甘やかして、依存させて、毎日毎日その胎に魔力を注いで、孕ませて……。
 めくるめく妄想と共に唇から執愛がこぼれ落ちる。
「ああ……愛しているよ。アリスター」
 うっとりと先程のアリスターの泣き顔を反芻して、ヴィクトルは宰相府の自室へ帰る魔法陣を起動した。
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