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第5話 デートの誘いは突然に

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「その機械はなんだ? 声が聞こえたぞ?」
――ああ、またか。空太は頭を悩ませた。凜には説明したが、今度は焔だ。
 しかし、理解者を増やすにはいい機会だ。信じてもらえるか分からないが、焔にも説明してみよう。
「これは、スマートフォン。略してスマホと言います」
「スマートフォン・・・・・・だと? 聞いたことがないな」
「実はこれのお陰で、ジェヴォーダンの獣の急所が分かったんですよ」
「何? それは本当か?」
「はい、実はアンノウンってやつの案内で倒すことができたんですよ」
「なるほど、そうだったのか」
 空太は恐る恐る聞く。
「・・・・・・信じてもらえましたか?」
 すると焔は意外にもあっさりと答えた。
「ああ、信じよう」
――ああ、よかった。空太はホッとして胸をなでおろそうとした時。焔の口から予想外の一言がでる。
「ただし、条件がある」
「条件?」

「明日、私とデートしろ。拒否権はない」

「へ?」
 空太は間抜けな声を出してしまう。焔の口からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。

「明日の午前10時、東京駅に来い。そこで待っている」
 そう言い残すと焔は立ち去って行った。

 教室に一人残された空太は、焔の言葉を繰り返していた。
「デート・・・・・・デート、ねぇ・・・・・・」
 空太の声は誰もいない教室にむなしく響いた・・・・・・

――デートの誘いは突然に。

翌日。

「ねえねえ! どこに行くの?」
 凜が朝早く俺の家に訪ねてきて、聞いてくる。昨日帰りが遅かったものだから、心配して、様子を見に来たらしい。
「別に、東京駅に行くだけだよ」
 ちなみに今日は休日である。
「東京駅? なんで? 遠出?」
「違うよ、人に会うんだ」
「人に? 友達のいない空太が?」
 凜は痛い所をついてくる。確かに、高校に入学してまだ友達はできていないが、事情が変わることもある。
「早めに帰るから、心配しないでくれ」
「ん~、しょうがないな~、わかったよ」
 凜は渋々、出かけることを了承してくれた。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃ~い!」
 凜は玄関で手を振っている、ちなみに俺の家なんですけどね。まあいいや。

 東京駅へは、空太の家から遠くなく、10分程で東京駅に到着した。
 待ち合わせの時間は午前10時。現在時刻は9時50分だ。
 駅に着いて焔を探していると、すぐに見つけることができた。休日にもかかわらず、高校の制服を着ていたからだ。
「遅くなりました!」
 空太は先に来ていた焔に謝罪の言葉を言う。
「なに、私も今来たところだ、気にするな」
 意外にも、焔は怒っていないようだ。
「それじゃあ、行くぞ」
「どこにですか?」
「どこにって、決まっている、今日はデートだからな。水族館に行く」
 水族館。焔が考えてくれたのだろう。空太はおとなしく従う。
「水族館ですね、行きましょう」
 そう言って歩き出そうとした時。
「敬語禁止」
「えっ?」
 焔のほうを向く。
「私に対しては敬語禁止だ。同級生だからな」
「あっ、そう・・・・・・だね、分かった」
 焔は大人びているから忘れていたが、同じ高校一年生だった。
「よし、行くぞ」
 焔は歩き出した。その後を追い今日は何が起こるのか不安になる空太なのであった。

「着いたぞ、ここだ」
 焔が立ち止まる。空太は、入り口に書いてある看板を見た。焔が目指していた水族館は――

『すみだ水族館』

 東京ソラマチ内にある、ペンギンが見れることで有名な水族館だった。

 入館料を払い、中に入る。中は薄暗く幻想的な空間が広がっていた。様々な魚が展示されており、カップルの数も多い。
「ふむ、なかなか綺麗じゃないか」
 焔は水槽の中を泳ぐ魚たちを見ながら呟いた。
「水族館、好きなの?」
 空太はなんとなく聞いてみた。
「ああ、好きだぞ、静かで雰囲気もいい」
「そうなんだ」
 空太は焔の意外な一面を見ることができて、なんだか嬉しくなった。
「よし、次はペンギンを見に行くぞ」
 焔に促されて、空太達はペンギンコーナーに向かった。
 ペンギンコーナーへ向かうと、そこにはたくさんのマゼランペンギン達が、自由に過ごしていた。よちよち歩いていたり、水中の中を自由に泳ぎ回っていた。
「へ~、ペンギンって結構速く泳ぐんだね」
 空太は素直に思ったことを述べた。
「ああ、そうだな」
 焔も同意してくれたところで、空太は気になっていたことを焔に聞いてみた。
「どうして、僕なんかをデートに誘ってくれたんですか?」
 すると焔は少し照れた表情を浮かべた。
「ま、まあ、その、なんだ、私も一応女子高生だからな。デートの一つや二つくらい、経験してみたいと思ったからだ」
 空太は意外だな、と思った。焔は結構美人なので、男子からの人気も高いと思っていたからだ。
「まあ、私は生徒会長だからな、学校では毅然とした態度で振舞うよう心掛けている。そのせいで男子からは距離をおかれているのだろう」
 焔は少し顔色を曇らせたが、すぐに元に戻ると、空太にこう言った。
「だが、今日は楽しいぞ? 空太がデートに付き合ってくれたからな」
「僕で良ければいつでも付き合いますよ」
 空太は本心からそう思った。すると焔はオッドアイを輝かせながら。
「本当か!? またデートしてくれるのか?」
 幼い子供のように喜ぶ焔に少しドキッとしたが、空太はバレないように深呼吸をした後、焔にこう言った。 
「本当だよ、またデートしよう」
「よし、約束だからな、また必ずデートしよう」
 いつもの調子に戻った焔に、そろそろ次の展示スペースへ誘うとしよう。そう思って焔に声をかけようとした矢先――

 きゃあああああああっ!

 女性の叫ぶ声。声のした方向へ焔と向かうと。

「誰か! 誰か助けてください!」

 そこにいたのは若い女性だった。女性の傍に倒れている人を見た。恐らく彼氏だろう。

「どうした、何があった?」
 焔は冷静に若い女性に問いかけた。
 すると、返ってきたのは予想だにしない言葉だった。

「ニワトリが! ニワトリが、襲ってきたんです!」








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