平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「水は少しずつ飲むの、一気に飲むとかえって体に悪いわ」
 そして、のふは理由を鼻息荒く明かした。
 この調子でのふの指図が山頂までつづくのか――そう思うと将門はうんざりした。
 だが、これまで指摘されたことを守っていなかったら山のどのあたりまで登れていたか怪しいのも確かだ。耐えるしかあるまい、将門は胸のうちでつぶやいた。

       ● ● ●

 子の刻、富士の斜面を登っている人影が複数、認められた。
 小癪な、と公庭を宿敵と定める菅家怨党のひとりは富士山(ふじやま)の斜面を登ってくる将門らを視界に収めながら胸のうちでつぶやいた。彼のいる場所は平地から五百丈近く高い場所にあった。ふつう、十丈を登るのに半刻はかかる、つまりは二刻と半刻ほどの時間をかけて連中はやって来たということだ。
 小癪、と評したのは将門らが富士山の巽の方角から登ってきたことだ。
 東海道から直線で北上せず、あえてすこし回り込んで山を登ってきたという小細工を嘲笑ったのだ。
 しかし、距離が縮まるのに時間がかかる。それは、山を登るのは小股で歩くほうが疲れにくいためだ。
 それでもやっと、距離が三〇丈ほどに縮まったところで、
「転がせ」
 この場の宰領は声を張り上げた。
 彼の左右には無数の男たちがいて斜面に岩を用意し、その下に丸太を差し込んでいる。
 彼らが一斉に岩を転がそうとしたその刹那、ふたつの何かが迅雷の速度でその一角へと飛来した。
 とたん、何が起こった宰領は理解する。なぜなら、同党の者ふたりの胸にそれぞれ矢が刺さっていたからだ。
「と、とにかく転がせ」
 宰領は一瞬で湧き出る恐怖をなんとか抑え叫ぶ。
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