ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「賊が侵入したので始末したのだよ」
 穏やかな声で船武長と呼ばれた男は告げた。さらに、
「盃を持ってきてくれないかな?」
 と聖人のような顔つきで頼む。
「は、盃ですか?」
 船員は狼狽(うろた)えた表情で聞き返した。
「そうだよ、勝利の美酒を頂くための器が欲しいんだ」
 船武長は答え、レイピアについた血を相手に見せつけるように舐め取る。
 その様子に、船員は肩を震わせた。
「た、ただいま――」
 顔を真っ青にして声を掠れさせ、背を向けるや逃げるようにその場から離れる。
「彼も、なかなか美味そうだ……」
 愉快そうに笑いながら、船武長は当人が聞いたなら卒倒しかねない怖気が走るような言葉を口にした――。

 ――南蛮船は帆や複数のマストのせいで死角が多い。
 その陰の一つに、息を殺して潜んでいる者たちがいた。船武長に殺された賊と同じ衣装に身を包んだ透波(すっぱ)だ。
 透波は気配を殺しながらも、表に滲み出しそうになる恐怖を必死に殺している。
 その視線の先では、殺した仲間の傷口から流れ出る血を銀の盃で船武長が受け止め、陶然とした顔つきで口もとに運んでいる。
 喉を動かし、さも美味そうに青岸白晳の南蛮人は血を飲んだ。
 その様は、まるで地獄の悪鬼……とても、人とは思えない。
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