ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「――ッ」と鬼は更に表情を歪めた。
 刹那、大量の砂が巻き上げられる。全力で蔵人へと距離を詰めてきたのだ。
 光芒一閃、剣の切っ先が消えた――そう思えるほど迅い一撃だった。
 だが、風に吹かれた柳の葉のように蔵人の体はその軌道から外れている。
 眼球、喉笛、腕、肩、鳩尾、どこを狙った剣尖も掠りさえせず空を切った。
 怒りに紅くなっていた鬼の顔が、血の気が引いて青くなっていく。化物の面が外れて、人としての地の部分が覗いた。
 鬼が焦燥を滲ませながらも、渾身の袈裟斬りを放つ――これも蔵人は易々と躱す。直後、蜻蛉が宙で軌道を変えるように急な角度で、その切っ先が跳ね上がった。手練であっても回避は叶わない神速の一撃だ――。
 対する蔵人は、剣先が変化する前に、すっと上段に刀を取った。その刀身が振り下ろされた先に、鬼の剣が予定調和の如き動きで飛び込む……澄んだ音を立てて、半ばからその刃が切断される。
 鬼が茫然となって瞠目した。
「ば、莫迦な……」
 台詞は途中で途切れる――銀の筋を引いた斬撃がその喉笛を裂いたのだ。
「きははは、死ねぇ!」とそれを受けて角隈石宗が動く。
 幻術を発動させ、脇差の驟雨を生み出した。
 ――蔵人は真っ向からそこへ突っ込んだ。まだ西江水の境地にある。尋常の心の在り様から外れているため、幻に惑わされることはない。
 何の感触もなく、幻覚の脇差は体を通り過ぎた。
 蚊に刺されたほどの痛痒も感じた様子もなく駆け寄る蔵人を見て、石宗が慄いた顔つきになる。
「きひ、きひひ? じゅ、術が破られた……?」
 ――真っ向唐竹割、頭頂部から股間まで斬り下ろされ、左右に別れて幻術遣いは倒れた。綺麗な傷口を晒し、苦痛を感じる暇もなく逝く。

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