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120・了
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――人吉に戻った蔵人は、故郷を他国の手から守るために死力を尽くした。
己の兵法を仕込んだ相良忍者群を結成し、彼の者たちは後にあの伊賀の忍びの嫉妬を買うほどの優秀さを示すことになる。嫉妬の余り、伊賀の忍び十数人が相良藩主の参勤交代の機を狙って暗殺を企て、相良忍者は逆にこれを全滅させるという事件まで起きる。
だが、人吉そのものは勢いに乗った薩摩に敗れ、領主たる相良家は被官の身へと転落することになる。それでも、蔵人は人吉の地を守るために、薩摩の手先となりながらも戦い続けた。
そうしている内に、徳川家康が天下統一を成し遂げる――。
蔵人が命を賭して戦う必要はなくなった。しばらく剣術指南を続けるも、晩年は隠居し兵法者であったことが嘘のような生活を送る。
「ふぅ」と一つため息をついて、隠居して徹斎と号した蔵人は、手拭いで額や首筋の汗を拭った。その装はどこからどう見ても百姓のものだ。顔には深い皺が幾重にも走り、縮んだ体はかつて、西国一と称されたことが嘘のような思いを、昔日の老人の姿を知る者には抱かせるだろう。
隠居の身となった蔵人は原野を黙々と開墾し、谷から水を引いて二町歩余の水田を一つ、三町歩余の水田をもう一つ、そして六反余の畑を作った。また、ある地には真竹を植え、杉、檜などの造林に励んだ。
非常に穏やかな日々を、晩年、蔵人は過ごしている。満足げな笑みがその口もとには浮かんでいた。
寛永六年(一六二九)二月七日、徹斎は享年九十歳で他界した。大往生だ。
法名、雲山春龍居士、墓地は一武村(現、錦町一武)の切原野宇堂山に今もある。
そして、彼の生んだタイ捨流の流派は現在(いま)も受け継がれ、今も人吉の地に根付き、その稽古に励む声が今日も響いている……
了
――人吉に戻った蔵人は、故郷を他国の手から守るために死力を尽くした。
己の兵法を仕込んだ相良忍者群を結成し、彼の者たちは後にあの伊賀の忍びの嫉妬を買うほどの優秀さを示すことになる。嫉妬の余り、伊賀の忍び十数人が相良藩主の参勤交代の機を狙って暗殺を企て、相良忍者は逆にこれを全滅させるという事件まで起きる。
だが、人吉そのものは勢いに乗った薩摩に敗れ、領主たる相良家は被官の身へと転落することになる。それでも、蔵人は人吉の地を守るために、薩摩の手先となりながらも戦い続けた。
そうしている内に、徳川家康が天下統一を成し遂げる――。
蔵人が命を賭して戦う必要はなくなった。しばらく剣術指南を続けるも、晩年は隠居し兵法者であったことが嘘のような生活を送る。
「ふぅ」と一つため息をついて、隠居して徹斎と号した蔵人は、手拭いで額や首筋の汗を拭った。その装はどこからどう見ても百姓のものだ。顔には深い皺が幾重にも走り、縮んだ体はかつて、西国一と称されたことが嘘のような思いを、昔日の老人の姿を知る者には抱かせるだろう。
隠居の身となった蔵人は原野を黙々と開墾し、谷から水を引いて二町歩余の水田を一つ、三町歩余の水田をもう一つ、そして六反余の畑を作った。また、ある地には真竹を植え、杉、檜などの造林に励んだ。
非常に穏やかな日々を、晩年、蔵人は過ごしている。満足げな笑みがその口もとには浮かんでいた。
寛永六年(一六二九)二月七日、徹斎は享年九十歳で他界した。大往生だ。
法名、雲山春龍居士、墓地は一武村(現、錦町一武)の切原野宇堂山に今もある。
そして、彼の生んだタイ捨流の流派は現在(いま)も受け継がれ、今も人吉の地に根付き、その稽古に励む声が今日も響いている……
了
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